殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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本日2話目の投稿になります。
前の話を読んでいない方はそちらからお願いします。


072話 NGL・1

 

 NGLの検問所で許可が出たのは9人。原作組に加えて俺とユアにポンズ、それとロカリオ共和国で合流した体のエミヤがNGLに入国した形になる。

 そして俺たちに帯同する監視役が2人。合わせて11人の大所帯にもなれば動きもやや鈍くなるが、そこは馬に乗ってカバー。海岸線に沿って集落をチェックしていく。

 じりじりと日にちが経過していく中、監視役の隙を見つけていくつかの下準備を行う。

「書けそうか」

「うん。問題ないよ」

 そのうちの一つがユアのペンの整備だ。彼女の念の媒介となる母親の形見であるペン自体はNGLに持ち込むことができたのだが、インクに科学品が混ざっていたのでそれは持ち込めなかった。仕方なく、NGLの中で塗料を探して文字を書けるようにしたのである。

(これ、持っておけ)

(ありがとう、お兄ちゃん)

 それでもその場凌ぎには違いない。俺は念空間からインクを取り出しユアに握らせる。万が一動作不良を起こした時の保険である。

『ちょっといいか』

『なんだ』

(おっと、今度はエミヤが動いたな)

 念話で会話が筒抜けになっているが、エミヤがカイトに話しかけているらしい。

『オレの能力でこの周辺を捜索してくる。30分程、誤魔化してくれないか?』

『了解した』

 エミヤはカイトを特別に信頼し、周囲には内緒で探索能力を使っている。という体で霊体化してサーヴァントとしての能力を全開にして周囲の情報を集めている。

 何せ原作でカイトたちにキメラアントの情報を教えてくれたポンズが俺たちに同行しているのである。何らかのアクションを起こして情報を集めなくては後手後手だ。

 今現在が原作よりも早いのか遅いのかすら分からない。とはいえカイトとカキン国の契約が終わるタイミングは変わらないだろうから、勝負はNGLに入ってからどれほど時間が短縮できるかにかかっている。あまり期待していないが、場合によってはネフェルピトーが産まれるよりも早く蟻塚を強襲できるかもしれない。

 護衛軍がいない中でサーヴァントを突っ込ませることができれば流石に勝てると信じたい。っていうか、これで勝てないと本格的に勝機がない。

(問題はアサンの最後の手駒、ルナの動きだが……)

 キメラアントを強化し、アサンの死体をキメラアントに喰わせて転生を図る役目を負った女、ルナ。能力を奪った上でアサンの死体も俺が確保した今、俺が死んだ場合に備えて同じようにキメラアントを強化しているだろう彼女とは結局接触できずにこの時を迎えてしまっている。キメラアントが強化されているのはもはや諦めなくてはならないだろう。

 師団長が増えるならまだいい。だが、護衛軍が増えるとなればキメラアント編の難易度がケタ違いに跳ね上がる。

 それを抑える手が速攻しかない以上、できるだけ早く話を進めたい。

(でもゴンに異常な誓約をさせなくちゃいけないし、ここで完全にキメラアントを仕留めてもそれはそれで後々がヤバイはず)

 頭がこんがらがってきた。

 いや、大丈夫。要はここでネフェルピトーの円にカイトを触れさせて、彼を殿に撤退する。NGLでやることはそれのみ、それさえ気を付ければまずはいい。そうすれば東ゴルドーに場面を移す前にコルトから情報が入る筈である。

 既に原作から外れている以上、予断は禁物。IFの可能性は切り捨てて、それに集中すればいい。

(そう考えればエミヤを召喚したのも正解だ)

 アサシンではその場に向かわなくては状況が掴めないが、エミヤは千里眼がある。少し離れた場所で高い木にでも登れば相当先まで見通せる。広いNGLで近接戦闘もこなせる彼を呼び出したのはやはり間違いではない。

『マスター』

『エミヤか、どうした?』

『別のハンターグループを発見した。が、彼は……』

『彼?』

『おそらく、ポックルだ』

 

 ◇

 

(くそ、くそっ!!)

 ポックルは焦りながらも逃げる。逃げざるを得ない。

 仲間の一人は突如現れた巨大なバケモノに殺された。そのバケモノはすぐさま七色弓箭(レインボウ)で射殺したが、仲間を呼ぶ隙を与えてしまった。

 もう一人の仲間であるバルダと共に全力で後退しているが、どうにも逃げられている気がしない。

「ポックル、上だ!」

「上!?」

 バルダの声に反応して上に視線を向ければ、そこにはトンボの化け物が空中からこちらを見下ろしていた。

「なんだ、アイツは!?」

「知らねぇよ、知らねぇけど明らかにこっちの情報を仲間に伝えているのはアイツだろぉうぉお?」

 語尾が崩れたバルダの方を向けば、カマキリのバケモノに首を刎ねられたバルダの姿が。

(ッッッ!!)

「くそぉぉぉぉ!!」

 七色弓箭(レインボウ)、藍の矢。

 速度はやや遅いが、硬く重い矢だ。装甲が厚いこのバケモノを貫通せよと撃った矢はカマキリのバケモノの頭を潰す。

(リチャージが間に合わない! 残りの矢は5本……)

 ポックルの能力は7本の矢を選択して射出できるというものだが、制約としてそれぞれの矢を連続して撃てないというものがある。いや、回数としては連射はできるのだが、一回使ったとポックルが認識してから再使用に時間が必要なのである。

(足りない)

 冷静な思考がその結論を導き出す。もしも頭上にトンボのバケモノがいなければ逃げ切れる希望もあったかも知れない。

 だが確実に監視をされている現状、これから襲い来るバケモノの数は10やそこらで終わる筈がない。それを残り5本の矢では対処しきれない。

(クソ、クソクソクソォォォ!!)

 諦めるという選択肢はない。だが、助かる見込みもまたない。

 どうしろというのか。半ばヤケになりながらも逃げるポックル。

 だが、その逃走劇は長くは続かなかった。

 どういう理屈か、バケモノ共は絶を使えるらしい。オーラを感じ取れるポックルでも気が付かない隠術で忍び寄ったバケモノの一匹が、いつの間にかポックルの眼前でその脚を振り上げていた。

(あ、終わった)

 ポックルはそう考えた。そのままバケモノは鋭い爪をポックルに向かって振り下ろして――

小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)!!」

 その爪先が、乱入してきた女性が伸ばした手が持つ小瓶の中に吸い込まれた。

 バケモノの爪先は小瓶の中にいた念獣が受け止めて、逆に齧り付く。むしゃむしゃと喰われている爪先は非現実的ではあるが、その巨体に比べれば損失は僅か過ぎる。

 この女性も念能力者であるだろうが、このバケモノには勝てない。

「逃げろぉ!!」

 この期に及んでポックルは自分だけ逃げるという選択肢はなかった。むしろこの女性を逃がす為、ここでこのバケモノを引き受けようとさえ思った。

 その心に従い、バケモノに飛びかかろうとしたポックルだが。それよりも早く女性が動く。見慣れぬ体捌きでバケモノの懐に潜り込むと、その頭に向かって掌底を打ち込む。

薬毒の妙(アルケミーマスター)

 ポックルよりも柔なはずの一撃。それはバケモノの頭に当たると同時に、バケモノの頭を液化しながら振り抜かれて。そして頭部を失ったバケモノはその場に崩れ落ちる。

 その現実を受け止められないようにポックルは飛びかかろうとした体勢のままで固まっていた。

「あ、れ? い、今のは……?」

「私の能力。詳しくは秘密」

 茶目っ気たっぷりにウィンクをしたその女性に、思わずポックルは目を奪われた。顔が赤くなるのが自分でも分かる。

 ああ、今までの人生で味わったことがない訳がないのだが。まさかこの状況で――

「って本当にそんな場合じゃない! ここは上にいるトンボのバケモノに監視されていて……」

 ポックルは叫びながら空を見上げるが、そこにはさっきまでこちらを見下ろしていたトンボのバケモノの姿はなかった。

 いったいどこに行ったのか。ポックルが空を探せばその答えははすぐに見つかった。トンボのバケモノは慌てたようにNGLの奥へ向かって退却していたのだ。

 だがどうしてが分からない。混乱するポックルだが、そこに音もなく複数人の気配がすぐ傍にあることに気が付く。

「っ!!」

 すわバケモノに包囲されたかと身構えるが、現れたのは人間のみ。少年少女も多いが、成人男性も3人いる。

「上のキメラアントは撤退したな」

「オレたちが地上を制圧したから逃げたんだろ」

「能力を使ってないから得た情報もないし。ザコの数だけ損したわね」

「…………」

「ポンズ、何で視線を逸らすの?」

「……能力を使ったから」

「ハァ!? こんなザコに手の内晒したのかよ!?」

「うるさいわね! 具現化系だから能力使わなくちゃどうしようもなかったのよ! 察しなさい!!」

「私は能力使ってないよ?」

「ほら見ろ、ユアは使ってねーじゃねーか」

「っ~~!!」

 急にわちゃわちゃし始めた現状を把握したポックルは、ペタンと腰を下ろす。

 どうやら助かったらしいという実感が、ようやくじわじわと湧いて来た。

「よう、災難だったな。って、お前はポックル?」

 ポックルに近づいて手を差し出した男がそんなことを言う。何故自分の名前を知っているのかとポックルが手を差し出した男を見れば、そこにはプロハンター試験で見た顔が。

「お前はバハト……?」

「そ。シングルの情報ハンター、バハトだ。プロ試験ぶり」

 ふと見渡せばここに居るメンバーで見覚えもある顔もある。少年たちは両方とも最終試験に進んだゴンとキルア。そして自分を助けた女性をよくよく見れば。

「――ポンズ」

「名前を憶えていてくれたんだね。ありがとう、ポックル」

 満面の笑みで手を振ってくれる、一目惚れをした女性がそこにいた。

 

 ◇

 

 ポックルを救出し、戦闘現場となったそこから場所を移す。

(ポックルを襲ったのはハギャ隊か。

 既に原作との齟齬が出ているな)

 原作ではザザン隊が彼らを襲い、ポックルたちは全滅していた筈である。それがポックルだけでも助けられたのはエミヤのおかげと言うしかない。

 エミヤが偵察したところ、ポックルたち3人の姿を発見すると同時に彼らに接近するキメラアントの群れも発見。かなり離れた場所にいたが、エミヤが報告したそれを聞いたカイトは自分たちが援軍として向かう事を決定。

 念能力者ではないカイトの仲間たちと監視役をその場に置き、7人の精鋭で救出作戦を決行。ポンズはエミヤに任せて俺はユアと組み、ゴンとキルアが合わさって。カイトは単独でだが、その4組で接敵したキメラアントたちを殲滅した。

 そうしてなんとかポックルを生還させる。そして彼から持たされた情報は正しく値千金だった。

「いくつかのハンターたちと連絡を取っていたが、プロハンターである俺が手も足も出なかったんだ。

 ……おそらく他のメンバーは全滅しているだろう」

「私たちもプロハンターだし。一緒にしないでくれない?」

「ユア」

 キツイことを言うユアを窘めるのは兄である俺の役目だ。

 とはいえ力こそ正義が罷り通るこの修羅場ではユアの言う通りに実力が及ばなかったポックルに発言権がないのも事実。彼はうなだれるだけで反論の一つもできやしない。

 そんなポックルにカイトが話しかける。

「現状は把握した。思ったよりも事態は切迫していそうだ。

 俺たちよりも長くNGLにいたお前に話を聞きたい。キメラアントの巣がありそうな場所に心当たりはないか?」

「……確証はないが」

 ポックルはガリガリと地面に大雑把なNGLの地図を書いていく。

「連絡を取り合ったハンターたちが探索した範囲がこの辺りとこの辺り。俺たちが探索したのがこの辺り。そしてハンターたちが生きている間の情報が手に入ったのはこの辺り。

 潰していくとNGLの約70%にまだ奴らの手は伸びていない。そして放射状に縄張りを広げていったと仮定すると――」

 キメラアントの領域がNGLの30%程で、その中心部に巣がある。そう予想するのに不思議はない。

「周りに海もあるから丁寧にここだという訳ではないと思うが、参考にはなったか?」

「ああ。この情報があるだけでも大分違う。助かった」

「助かったのは俺の方だ。本当にありがとう」

 ポックルは俺たちに向かって深く頭を下げた。そして頭を上げると俺たちを改めて見直す。

「俺はこのままNGLから脱出してハンター協会に第一報を入れようと思う」

「ああ、それがいい。実際に接敵したお前の言葉は重みが違うはずだ」

「それで、だ」

 やや言いにくそうに、ちらちらと少しだけポンズに多く視線を向けながらポックルは言葉を続ける。

「相手の強さも分かったと思う。俺と一緒に戻る奴はいないか?」

 お互いがお互いを見て、全員が否という反応を返す。だがカイトだけはポンズを見て言葉を紡いだ。

「ポンズ、お前は戻った方がいいかも知れん」

「なぜ?」

「さっきの戦闘でお前だけ能力を使ったからだ。遠目だったとはいえ、それは目撃されたはずだ。

 それに奴らはおそらく階級が一番下と予想される」

「そんなことくらい分かっているわよ。私はインセクトハンターよ?

 キメラアントで一番外側を担当するのがレベルの低い戦闘兵だってことくらい分かっているわ。逃げたトンボは兵隊長かしらね?」

「そうだ。それを相手に能力を使わざるを得なかったお前はここで引くのが賢い選択かも知れないと言う助言だ」

 カイトの心配をポンズはにやりと笑うことで返事をする。

「ありがとう。けど、私の能力は明らかにキメラアントに有効だわ。タフネスを頼りに真っ直ぐ攻めてくるのは一番戦いやすい相手よ。

 それに昆虫の専門家を手放す選択肢はないんじゃない?」

「――お前がそう決めたのならいい」

 軽く息を吐きながら言うカイト。彼は彼なりに心配してくれているのだろうが、プロのハンターとして限界でもないのに引く選択肢はないようだ。

 それを聞いたポックルは残念そうに、本当に残念そうに首を振る。

「分かった。全員必ず生きて帰って来てくれ。戻ってきたらまた会おう。

 俺はハンター協会に連絡を入れたらNGL国境で待機をするつもりだ。何の役に立てるかも分からんが、もしもバケモノ共がNGLから溢れ出して来たら報告しなくてはいけないしな」

「警戒は必要だしな。気を付けて戻れよ」

「こっから先にキメラアントがいない保証はしない。十分に気を付けろよ」

 俺の言葉を聞き、名残惜しそうに去っていくポックル。それを見送って仕切り直すようにエミヤが口を開く。

「で、どうする?」

「……いったんここで休息を取ろう。実際にキメラアントを見たことも踏まえて情報を擦り合わせたい」

 カイトが全体の指揮を執るようになっていることに文句はなく。全員が野営の準備を始める。

 その中でポンズは手に小瓶を具現化してみせる。

「どうした?」

「多少は見せちゃったし、このくらいはね。小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)

 具現化した小瓶の中には先ほど齧り取ったキメラアントの肉片が残っていた。

「ハニー、解析して」

 ポンズの言葉に頷いたハニーはみょんみょんと何やら不思議な動きを始める。それと同時にポンズの目が虚ろになった。

「解析…神経毒…蛋白質…経口分解…解毒…可能」

 そして目に光が戻る。

薬毒の妙(アルケミーマスター)

 ハニーの口から見える牙、そこに液体が流れる。

「キメラアントから奪った肉体に残っていた毒を解析、解毒剤を作成したわ。全部のキメラアントが同じ毒を使っているとも限らないでしょうけど、汎用性の高い出来は保証するわよ」

 それを見てほぅと感嘆の息を吐くカイト。

「ま、オレは毒は効かないからいいけど。神経毒だろ? フォローできてる」

「…………」

 キルア、空気読め。

「ところでキメラアントの顔を溶かしたアレは?」

「以前解析したヤコロギグモの消化液を具現化したわ。一滴でカエルとか小動物の内臓を全部グズグズに溶かすやつ。

 それを手のひらいっぱいに叩きつけたの」

「思ったよりエグい攻撃してんな、お前」

「人間にはなかなか使えないわね」

 呆れた俺の言葉に首を竦めながら返事をするポンズ。

 そうこうしているうちに野営の支度が整い、今日が過ぎ去っていく。

 キメラアントに見つかる可能性が高いから火は使わず、風を遮った場所で身を寄せ合う簡素過ぎる陣地だが、ひとまずはこれでいい。

 見ればまだ夕日が残っている。完全に暗闇に包まれて見張りが必要になるその前に。俺たちは情報の擦り合わせを行うのだった。

 

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