最新話が完成しましたので、どうかお楽しみください。
崖に掘られた洞窟を発見。
「ここがキメラントの巣?」
「違うわね。キメラアントは地面に穴を掘って巣にするタイプじゃないわ。
糞や泥を使って築城する蟻塚タイプよ」
「っつってもよ、明らかに自然物じゃねーよあれ。ここはNGLだろ?」
「……これがスピンの言っていたNGLの裏の顔?」
ゴンとポンズにキルアが言い合い、ユアがポツリとこぼす。
カイトは表情を変えず、俺は顔を顰めてその光景を見る。
「行くぞ」
「調査の必要は、あるだろうな」
そう言って先導するカイトと俺。エミヤは周囲を警戒しながらついてくる。そしてやがて洞窟の中に入り、大型の機械類を発見。
「これは……」
「麻薬製造窯、大型のが幾つもあるな」
「逆に感心するよ。いったいどれほどの麻薬を製造してきたのか」
「最近巷で流行っている飲む麻薬ディーディー、製造拠点はここか。道理で情報が漏れない訳だ」
思い思いに言葉を吐いた。
誰も居ない麻薬製造拠点を、まるでどうでもいい観光スポットのように見て回る。
その途中でキルアが新たな異常を見つけた。
「オイ、これ」
彼が拾い上げたのはサブマシンガン。人類が誇る強力にして凶悪な兵器。念能力者ですら上澄みの者でしか太刀打ちできないその兵器が、無造作に大量に散らばっていた。
敵対者の武器は禁じておいて、自分たちはしっかりと武装している。呆れんばかりの人間の邪悪さである。
しかし一方でこの状況はもう一つの結果を一行に示していた。
「裏のNGLの重要拠点である麻薬製造拠点が空っぽで、重要な証拠でも武器でもあるサブマシンガンがそこらに無造作に捨てられているってことは……」
「奴らは完全にキメラアントに制圧されたってことだ。そこいらの人間が銃を持った程度じゃあ相手にならんって訳だな」
「ま、相性もあるしな。銃が効かない相手が念に弱いケースはままある」
「っていうか、裏のNGLの首魁たちは?」
「逃げたか喰われたか。どちらにせよ厄介だな」
「それって――」
どういう意味かと聞こうとしたキルアだが、カイトは口に指を当てて静かにとジェスチャーをする。
状況から見てここは既にキメラアントの領地。全員が一斉に黙る。
その中で適時の円を発動したカイトが奥に続く暗闇に満ちた洞窟を見据えていた。
「半径何メートルくらい?」
「45メートル程度だ。体調により増減するがな」
「はい、お兄ちゃんの勝ち~」
「…………」
「恥ずかしいしそれどころじゃないからやめれ、ユア」
そう言いつつ、ユアもエミヤの後ろに隠す。前衛は俺とカイト、ゴンとキルア。真ん中にエミヤが陣取り、その背後にユアとポンズが配置された。
そしてやがて姿を現す3体のキメラアントと、全裸で首に鎖が繋がれた人間が2人。
『!!』
これは流石にほぼ全員が瞠目した。この光景のインパクトは
「ん~~? お前ら、どこから入って来た?」
真ん中にいるケンタウロスのようなキメラアントが口を開く。
「た、たすけ、たすけて……」
「うっせーぞ、ポチ」
プチャリと涙を流しながら命乞いをしていた男の頭が踏みつぶされる。あっさりと、命の価値なく。
「あ、やっちった」
それを為したケンタウロスのキメラアントであるユンジュはどうでもよさそうに口を開いた。
「ま、いっか。そろそろコイツラにも飽きてきたし」
その言葉にビクリと反応したもう一人の男は人間としての尊厳をかなぐり捨てて、愛想のいいイヌの真似をする。
「く~ん、く~ん。きゃきゃ♡」
……見るに絶えない醜悪な見世物だ。最悪なのは本人が命懸けの大真面目なところだろう。
それを楽しそうに見届けたユンジュは、自分の脚をゆっくりとあげて飼いイヌの最期の反応を楽しむ。死が目前に迫ったその男は完全に硬直して、目も口も丸く大きく開く。そしてその口から漏れる息のような一声。
「ひ」
「目を逸らすな、何を飛ばされるか分からんぞ」
思わずその光景から目を逸らしたゴンとユアを叱責するカイト。
「ばいばーい」
ぎゃ、という短い断末魔と共にもう一人の男も地面に紅い華を咲かせた。
俺やエミヤがそれを止めなかった理由は幾つかある。ユンジュの前に2匹のキメラアントがいて隙が少なかったこと。薬漬けにされていて人間として終わっていたこと。助けてしまうと人手が必要になるが手を貸す余裕がないこと。
身も蓋もない言い方をすれば、生き地獄に落ちた人間を救うよりも自分の都合を優先させたということである。そしてそれは戦場という修羅場では珍しいことでもない。
人の尊厳というものをグズグズに壊したユンジュは満足そうに俺たちの方を見る。
「よーし、光栄に思え。お前らを新しいクスリイヌに任命する。
メスもいるなら情けねぇイヌ同士の乱交パーティでも開いてやるよ。
捕獲!!」
ユンジュの言葉に彼の前にいた蚊のキメラアントとムカデのキメラアントが襲い掛かってくる。ちなみにユンジュが最後に余計な事を言ったせいで、ポンズから怒りのオーラが漏れた。
ムカデのキメラアントにはゴンとキルアが対処し、カイトは少しずつ気配を消していく。
(奇襲の準備か)
ならば蚊のキメラアントを相手にするのは俺だろう。
「蚊蚊蚊! 新しい名前はポチかタマ、どちらがいい?」
「んー、クロ」
「ふざけんな、お前は黒くねーだろ!!」
どこにどう怒っているのかよく分からん叫び声をあげながら細長い腕を俺に伸ばしてくる。
遅すぎるそれを見切った俺は至極あっさりと掴み、捻り上げて関節技を極めながら投げ落とした。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
熟練者がこの技を受ければ関節が砕けないように自分から地面に転ぶしかないが、武術の心得がない蚊のキメラアントはその判断すらできない。ギチメキゴキと音を立てながら関節が再生不可能までに破壊され、しかも捻転もある為にその体も地面に叩きつけられる。
腕が壊される激痛、地面に顔から激突した苦悶。それに叫んだ蚊のキメラアント。
「なんてね」
が、次の瞬間にはニヤリと嗤い、尾から伸びた針が俺の背後に回り込み、突き刺してくる。
「蚊蚊蚊、おバカさん! これでヤク漬けにすれば人間イヌの一丁あが――」
「なんてね」
「な、なんで」
「なんでだろうな?」
呆然と言う蚊のキメラアントだが、彼女はまだ地面に倒れている。その頭に向かって脚を振り上げた。
「まっ――」
「尊厳が壊れるのが好きなんだろ? 最高の気分で逝けて羨ましい限りだよ」
命乞いを聞くまでもなく、その頭を踏み潰す。
気分は最悪だが、思ったより俺も頭にキていたらしい。戦いに意趣返しを込めるとはらしくもない。
ぐりぐりと念入りに蚊のキメラアントを踏みつけにして息の根を止めたことを確認した後、他の戦況を見る。ユンジュは忍び寄ったカイトに銃殺され、ムカデのキメラアントはゴンのチーで体を真っ二つに切り裂かれていた。
宙に切り上げられたムカデの上半身だが、その瞳はまだ死んでいない。ギラリと光りつつその牙を剥き出しにして。
カイトが射出した攻撃をその脳に受けて絶命した。
「胴を斬ったくらいで安心するな。頭が無事ならば半日くらいは生きていられる連中だ」
昆虫の生命力を説きつつ、己の能力をお披露目するカイト。
1から9の数字がランダムに選ばれ、番号に割り振られた武器を具現化する能力。一度具現化した武器はちゃんと使わないと消すことはできないし、取り換えることもできない。
使いにくい能力だ、と。そう愚痴るカイトにゴンとキルアはならば何故そんな能力にしたんだと呆れ顔。そして更に呆れ顔なのがユア。
「ってかさ、カイトって結構運が悪い方じゃなかった? カキンのキャンプでもメシのじゃんけんスゲー負けたとか言っていたし」
「ん? まあな。何故かここぞって時しか勝てないんだよな」
しかも運がない。本当になんでそんな能力にしたと、ポンズまでも呆れ顔になった。
逆に俺はこれこそがカイトに最も見合った念能力であると確信した。
これは未来の話になるが、ジンが言うには
更に出た目を考えると、今回では暗殺に向いた銃。この後に多数のキメラアントに囲まれた時は対多数の鎌。本人は外れたとは言っているが、実際には最適の武器を具現化できている。
つまり最強の能力がそう簡単に出ない代わりに、無意識にその場に適した武器が現れる仕様になっているのである。本人が気が付いているかどうかは知らないが、ランダムといいつつもイカサマで出目を操作しているようなものだ。
そしていざ当たりの目が出る場合はカイトが全力を出すべきだと本能的に悟っている時に他ならず、自由に使えないというフラストレーションをバネにした上で当たったという高揚も併せて戦闘に入れる。念の戦闘で全力を出すにはこれ以上ない精神状態だ。
本当に面倒そうな様子のカイトは自分の能力の本質に気が付いていないように思える。であるならば、カイトの能力を彼以上に詳しく知っているのは誰なのか。そして面倒な能力だと思いつつも、その能力にせざるを得なかったのは他人からの介入があったからに他ならない。それはいったい誰なのか。
(ジン=フリークス)
捻くれ者で面倒くさくて自分勝手な風来坊。その心には誰よりも深い情を持った、世界最高峰の念能力者でありハンター。
俺は偉大なる先人に敬意を表して、誰にも気が付かれないように目礼をした。
見事。その感嘆と共に。
洞窟を出た俺たちは更に進む。崖が続く地帯を抜けて森に入る。
警戒はしていたが、あまりに見通しが悪い。それ故か、いつの間にかごくあっさりと多数のキメラアントに囲まれてしまっていた。
完全に包囲したと確信したらしく、もはや隠れる気もなくなったキメラアントは続々と気配を露わにする。
その中で一匹、カエルのキメラアントが進み出て嗜虐の感情を見せながら口を開く。
「君たちを完全に包囲した。そして君たちには選択権がある。
我々と一対一で戦い、勝てば見逃そう。
逃げる選択肢はオススメしない。我々を怒らせ、結果長く苦しむことになる。
降参する選択肢はもっとオススメしない。我々の怒りを更に買い、更に長く苦しむことになる」
「よい選択肢だ。答えは決まっているがその前に少しだけ会話でもどうかな?」
ここで今まで出番がなかったエミヤが前に出ながら口を開く。
『マスター』
『分かった』
念話で軽く打ち合わせ。エミヤがキメラアントの注意を引いている間にさりげなくユアとポンズを仲間の内側に隠し、防衛体制を取る。
軽い様子のエミヤに、やや意外そうな顔をしながらカエルのキメラアントが応えた。
「時間稼ぎかね? 意味はないと思うが、まあよい。最期に何を話したい?」
「そうだな、殺し合う仲とはいえ会話ができるならば名乗りを上げるのが粋というもの。
私はエミヤという。あいにくと肩書なんてものには恵まれなかったが。そちらは?」
「ハギャ隊所属の兵隊長、フロップだ」
「先ほど洞窟で4本脚のキメラアントを倒したが、もしかして彼もかね?」
「ヤツもハギャ隊兵隊長のユンジュ。なんだ、何が聞きたい?」
「いやいや、我々が未だに師団長と戦えていないことが意外だ。師団長は強いのかい? 例えば君よりも」
「もちろんだ、ハギャ様は我々よりもずっと強い。こちらに向かっているが、君たちがその姿を見る事はないだろ――」
言葉が終わる前にフロップの首がずるりと傾き、落ちた。
「情報提供ありがとう。もう用はない。
害虫どもが、速やかに処分してやろう」
エミヤの両手にはいつの間にか武器が握られていた。陰陽剣、干将莫邪。武骨なそれは、だらりと腕が下げられたエミヤの姿に実に似合っていた。
フロップが奇襲で殺されたと気が付いたキメラアントたちは、怒りの咆哮をあげてエミヤに殺到する。俺やカイトたちはこの隙にこちらを狙ってくるキメラアントへ対処するつもりだったが、単純過ぎるのか俺たちには近づかずにエミヤにのみ襲い掛かっていた。
「エミヤ!」
数十のキメラアントの標的となったエミヤにゴンが大声を上げるが、それは杞憂というもの。
彼はキメラアントの嵐の中心で、淡々と両手に握られていた干将莫邪を冷徹に振るっていた。踊るようにではない、流れるようにではない。そんな美しい表現は彼には似合わない。地味に、堅実に、確実に。エミヤは襲い掛かるキメラアントたちの急所である頭を切り裂いて潰していく。それはもしも言葉で表すとするならば、質実剛健がよく似合う。
そして、瞬く間に全てのキメラアントを切り伏せるエミヤ。こちらに一匹も寄越さずに、1分もかからずに、数十のキメラアントを処理しきっていた。
「すげ」
思わずといった様子でキルアの口からそんな言葉が漏れる。
「いや、ミスをしたな。これは」
「何が?」
「向こうにいる3匹のキメラアントを警戒させてしまった。この場から去っていくな。
おそらく真ん中のライオン型キメラアントが師団長のハギャか? できればここで倒しておくべきだった」
エミヤが指す先には崖があり、どうやらその上にハギャたちがいるらしい。だが、明らかに1キロ以上も離れているその場所は俺も見えない。この距離で見えるのは千里眼を持つエミヤと、複眼を持ち視力に優れたフラッタくらいだ。
遠すぎる位置からでも俺たちは危険と判断されたらしい。踵を返すハギャを、俺たちは見る事さえできない。
だがこれはこれで収穫である。師団長でさえサーヴァントは容易に凌駕するらしい。つまり、残るのは最後にして最大の障害のみ。
(王直属護衛軍、ネフェルピトー)
蟻塚までの距離ももう間もない。
決戦の時はもう目の前まで迫っていた。