殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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075話 直属護衛軍

 

 ◇

 

「さらに戦闘には顕在オーラ量(AOP)を増やすことも重要だ。表に出せるオーラの総量が、あっ、増えれば単純に戦闘が有利になあっ。

 あっ、あっ、あっ

 あっ」

 頭皮を剃り、頭蓋を割り、脳を空気に晒す。剥き出しになった脳に針を刺してぐちゅぐちゅとかきまわしていたネフェルピトーだったが、おおよそ聞きたいことは聞き出した。このニンゲンはもう用済みだ。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」

「あれはもういらにゃい。今すぐ女王様へ献上して」

「はっ!」

 ブタのキメラアントであるその雑務兵はネフェルピトーの言葉に従い、捕らえられた念能力者の頭に肉斬り包丁を振り落とす。

「あ」

 それだけを言い残し、その念能力者は息絶えた。もちろんキメラアントたちがエサに思うことな何もない。ぐちゃぐちゃとミンチにしたその肉を丸め、女王に差し出す為にその場から運び出される。

 そんな些末なことを無視してネフェルピトーはキメラアントたちに念を習得させる為の指示を出す。

 それが終わる頃、ふと声を出した。

「ん~、発かぁ、自分に最も見合った特異現象が発生するとか面白いよね。トトのそれも発なのかな?」

「おそらくは」

 いつの間にか。そう表現するべき唐突さでネフェルピトーの横から声を出すキメラアントがいた。ぱっと見はモデルでもしていそうな優男。だが、その体にはほんの少しだけ昆虫の特徴が顕れており、彼がキメラアントであることは確実だった。

 そして何よりネフェルピトーと対等に話をする。その時点で彼の位は推し測れるというもの。

 直属護衛軍。トトと呼ばれたキメラアントは間違いなくその次元の存在に産まれついていた。

「いったいなんでそんな能力になったのかにゃ?」

「心当たりはあるが、ピトーにそれを言う義理もないだろう。この身はただ王の為に存在するが故に」

「ふ~ん」

 興味があるのかどうでもいいのか、ネフェルピトーの反応は微妙だ。だが少なくとも、ネフェルピトーはトトと呼ばれるキメラアントに命令することが出来ないのは確かだろう。

 だがそこでネフェルピトーはピクリと何かに反応し、好戦的な笑みを浮かべた。それを察知したトトと呼ばれたキメラアントは問いかける。

「どうした?」

「確かめてくる。ボクがどれだけ強いのか」

 それを言い終わった時には、ネフェルピトーは既にその部屋の出入り口にいた。そこから出なかったのは、もう一言残しておく言葉があったから。

「トト、君は来るなよ。アレらボクの玩具(オモチャ)だ」

 言葉が響くよりも先にその場からいなくなるネフェルピトー。

 それを聞いたトトと呼ばれたキメラアントは。しかし首を横に振る。

 先ほどネフェルピトーが思った通り、命令を聞く筋合いはないのだから。

「全ては王の為に」

 

 ◇

 

 ハギャが戦闘を回避し、約一日が経過した。

 そろそろ蟻塚が見えるだろうと予測していたのもあって、重苦しい沈黙の中で足を進めていたが、やがて誰ともなしに止まる。

 見えたのだ、高層ビルのようにそびえたつ土色の摩天楼が。

 そして。

(冗っ、談)

 それを覆うように広がるアメーバのような円。もちろん知識としては知っていた。が、知ると見るとは大違いだと人生で一番強く思い知らされた。

 いや、思い知らされたというよりも叩きつけられたといった方が正しい。己の貧弱さと貧相さを。

『エ、ミヤ』

『……これほどとは』

 エミヤでさえこの威圧に驚いている。一縷の望みは彼は気圧されていないことか。彼はこれを絶望とは捉えていない。今はそれだけが縋る寄る辺だった。

 カイトもだらだらと冷や汗を流して立ち尽くしている。俺と同じような感想を抱いたらしい。なまじ強いとレベルの違いを理解して絶望すると言ったのは誰であったか。現実逃避気味に考えてしまう。

 この異常に気が付いていないユアにゴン、キルアとポンズは普通に警戒している。ここはキメラアントの蟻塚のすぐ傍であるとなれば、いつ襲われてもおかしくない。おかしくはないのだが、そんな心配をしていることがまずおかしい。あの円はそういうレベルじゃない、そんな次元ではないのに。

 一種の混乱状態に陥った俺とカイトを不思議そうに見る4人。

 退避、その一言が言えない。ああそうだ、ここでカイトを見捨てないと先々に不安が残るなんてことも忘れていた。そんな未来の保身なぞ後回しだ。今は一刻も早くここから離れるべきで――

 

 ぞるりと動いたアメーバのようなネフェルピトーの円。その先端が先頭にいる俺とカイトに触れた。

 

 円が消失する。

 俺たちが何かをした訳ではない。ネフェルピトーが敵対者、いや獲物に気が付いてオーラを自分に収納したに過ぎない。

 10秒あれば御の字。それ以下の時間で来襲してもなんの不思議もない。

 ようやく我に返ったカイトは振り向いて現状を理解していない4人に叫ぶ。

「逃げろぉぉぉ!!」

「え?」

「カイト?」

「なに?」

「どったの?」

 絶叫するカイトに4人は疑問符を浮かべるばかり。すくりと立ち上がって前に進んだのはエミヤ。揺るぎない鷹の目で蟻塚の一点を睨む。感覚を共有してみれば、彼の瞳は蟻塚から這い出したネコのキメラアントであるネフェルピトーを見据えていた。

 ニィと嗤うネフェルピトーが脚に力を込めた。

「来るぞ!!」

「俺から、俺たちから一刻も早く離れるんだ!!」

 理解を求めずに命令をするカイト。俺は我に返り、後ろに下がる。少し予定とは違うが、4人を連れて退却する。そうすればここに残るのはエミヤとカイト、そしてネフェルピトーだけだ。思惑通りの流れになる。

「マスタァァァー-!!」

 そんな自分に都合のいい未来予想図は瞬間で砕け散った。

 耳に届いたのはエミヤの絶叫。後ろから肩を思いっきり押される感覚。勢い余って後ろに向かいながら回転し、背後で何が起こっているのかを見る。

 そこにいたのは一人の男。一見すれば人間であるが、体の所々に昆虫の特徴が僅かながら存在する優男。そいつが、手を伸ばして俺を押し出した体勢のエミヤの首を刎ねていた。

「は?」

(ありえない)

 心に去来したのはそんな言葉。別にサーヴァントが最強だと思っている訳でもなく、ただただ単純に位置がありえない。

 エミヤはネフェルピトーを迎撃する為に先頭に立った。その警戒は蟻塚に向いていたとはいえ、別方向からの攻撃を警戒しないほどサーヴァントという存在はぬるくない。間違いなくエミヤは強襲奇襲を警戒していたはずだ。前方からだけでなく、後方や横に上空地中まで。

 その警戒を抜いていきなり俺の横にキメラアントが現れることがおかしい。

(あ)

 一瞬が圧縮された俺の頭によぎったのはモラウの言葉。念能力者の戦いは何が起きるか分からない、オーラ量の多寡なんて気休めにもならない。

 そして現実に返ってくれば、確かに切断されたエミヤの首。

(ッッッ、ヤバイ!!)

 首を切断されてエミヤが現界できる道理はない。魔力の霧となって消えていく。

 それを見る俺の視界の隅で、文字通り飛来したネフェルピトーによってカイトの右腕が切断されていた。

 間が空く。間が、空く。

 宙を飛んだカイトの右腕がやけにゆっくりと地面に向かい、ドンと重い音を立てて地面にぶつかる。

 時が動いた。

「トトォ!! ボクの見つけた玩具(オモチャ)だぞ!」

「我らは王の手駒であろう。優先すべきは王の安寧のはず」

 激昂して叫ぶネフェルピトーと冷静な口調で答えるトトと呼ばれたキメラアント。間違いなく護衛軍の一人。俺の知らない護衛軍。

(っ、っっっ!!)

 最悪だ。最悪のタイミングで未知の護衛軍が襲来しやがった。仰け反りながら後ろに下がる俺。

 次の瞬間に響いたのはゴンの咆哮とユアの悲鳴。ゴンはカイトの右腕が切り落とされたことに激怒しながらオーラを爆発させ、ユアは眦に涙を浮かべながら死にかけた俺に向かって手を伸ばしている。

 この期に及んで撤退をしない仲間たちに顔が強張るが。キルアが気炎をあげたゴンの後頭部を思いっきり殴って意識を飛ばし、ポンズがユアを抱き留めてその掌でユアの口と鼻を覆う。すぐさまユアは瞳を揺らし、瞼を閉じた。薬毒の妙(アルケミーマスター)で眠り薬でも嗅がせたのだろう。

 ネフェルピトーはそんな4人をチラリと見て興味をなくし、改めて俺とカイトを眺めてくる。

「良い判断だ、キルアにポンズ。ここは俺たちが時間を稼ぐ。

 できるだけ遠くに逃げろ」

 カイトは残った左腕で気狂いピエロ(クレイジースロット)を発動し、得物を具現化。

 だが。

「王の安寧のために害あるものは全て排除するのが道理」

 ネフェルピトーはともかく、トトは4人を見逃さない。ゴンを担いだキルアとユアを抱いたポンズに向かって追撃の姿勢を取る。

(もしも、今)

 神の不在証明(パーフェクトプラン)を発動すれば、俺だけは逃げ切れる。護衛軍2体の意識の外にいる俺は絶対に逃げ切れる。

 運が良ければゴンとキルア、ユアとポンズ。どちらか一方も逃げ切れる。二手に分かれて片方だけはもしかしたら。

 どこか他人事のようにそう考えながら、俺はトトの前に立ちふさがる。背後には、妹と妻。そして念の愛弟子。

「邪魔である」

煌々とした氷塊(ブライトブロック)!!」

 無造作にトトの右腕が払われ、クロスアームブロックをした上で氷の盾を前面に展開。

 瞬間、盾は粉々に砕け、それでも勢いが止まらなかったトトの右腕は俺の両手にブチ当たり、何メートルも後退させられる。

 だが、一撃は防ぎ切った。

「ふぅぅぅっ」

「それなりに力は入れたつもりであったが」

 俺という邪魔者を払えなかったトトが意外そうな表情で俺を見る。彼は今、初めて俺という個を見た。

 が、それも束の間だった。すっと視線を外すと、俺の背後を眺めた。

「む、いかん。思ったよりも逃げ足が速い」

 それは逆に俺にとって朗報だ。もう僅かな間、トトから時間を稼げば俺も撤退できる。それも厳しいといえば厳しいが、不可能ではない。

(できればサーヴァントを召喚したいが)

 それは流石に無理なようだ。サーヴァント召喚の為に意識を聖杯に移せば、その瞬間に俺が死ぬ。

 大丈夫、防御はできる。大丈夫、時間を稼ぐことはできる。大丈夫、発を組み合わせれば逃げ切れる。

 トトにとって時間は余り残っていない。真面目くさった表情をしたトトが俺に一歩を踏み出した、その時だった。

「ぐぉ!」

「ぉぅ!」

 吹き飛ばされたカイトがトトの背中にぶつかった。慌ててカイトはトトから離れて武器を構える。

 一方でそれを為したのはネフェルピトー。カイトを蹴りだした体勢のまま、にこにこと笑みを浮かべていた。

「片腕を失ってもここまで戦えるのは意外だし楽しいけどさー、それなら両腕がある方と戦った方が楽しいにゃ。

 トト、今度はボクがこっちと遊ぶからもう片方よろしく。ちゃんとこっちの玩具(オモチャ)も楽しいよ」

「はぁ。我は遊びにきた訳ではないというのに」

 疲れたように溜息を吐くトト。そしてネフェルピトーと話をしても無駄だと悟ったのか、ここにいる全員を無視してキルアとポンズを追おうと随分と遠くなったその影を見た。

 それを把握したカイトがさせじとトトに突っ込んでいく。

「おおおおおおおおぉぉぉ!!」

「ああ、もう。本当に邪魔である!」

 カイトの決死の突撃を蠅でも払うかのように雑にいなしていくトト。

 一方、自分の目論見通りになったネフェルピトーは満面の笑みを浮かべて俺のことを眺める。

「じゃあ今度はボクと遊ぼうよ」

 素直にありがたいと思った。

 トトは俺を庇ったエミヤを一撃で殺す攻撃力を備えているのは分かったが、その他多くの情報が謎に包まれている。

 一方でネフェルピトーは性格はもちろん、いずれ持つ能力でさえ把握済みだ。今現在、発を持っていないことまで知っている。トトと比べてどちらがやりやすいのかは論じるまでもない。

 ついでに少しでも会話ができれば、時間を稼げて情報も手に入れられればより良い。

「お前はネフェルピトーで、あっちはトトか。急に次元の違うバケモノが出てきたな」

「君はそこらの凡夫よりも強そうだから楽しみだにゃ。言った通り、ボクの名前はネフェルピトー。あっちはトトルゥトゥトゥ。4人いる護衛軍さ」

 トトルゥトゥトゥ。それがイレギュラーの護衛軍。そして数は4。しっかりと頭に叩き込む。

 そんな俺を見てにっこりと笑うネフェルピトー。

「少しでも時間は稼げたかな? 情報も仕入れられた? じゃあ、もういいかにゃ?」

「……後少しだけ待ってくれ」

 どうやら完全にネフェルピトーの掌の上だったらしい。少しだけ絶望しながら、俺は腰に下げた水筒を口に運ぶ。そして中に蓄えられた清廉なる雫(クリアドロップ)を一息で飲み干した。

 癒しの力を持つ清廉なる雫(クリアドロップ)だが、最大具現化量を一息に飲み干すと全く別の効果を及ぼす。それは一時的なブースト、顕在オーラ量(AOP)を倍化させることを強制する能力。

 これにはデメリットもある。潜在オーラ量(POP)は変わらない上に、発するオーラは常に最大量に固定される。つまりあっという間にガス欠を起こしてしまうのだ。今の俺であれば5分とオーラは持つまい。

(だが今はこれで十分!)

 5分どころか1分も時間を稼げれば撤退できる現状であり、撤退できればサーヴァントを召喚して護衛させられる。撤退するにも発を使う為のオーラが多いに越したことはない。この状況でこの切り札を切らない理由が全くもって存在しなかった。

 更に無言で空気醸造法(エアライズ)を発動。空気のパワーアーマーを全身に纏わせる。

「待たせたな、これが俺の全力だ!」

 全力を超えた練によるオーラをネフェルピトーに叩きつける。そんな俺を見てネフェルピトーは無邪気に笑う。

「ああ、本当に待ったかいがあった、にゃ!」

 予備動作なしで飛び膝蹴りを仕掛けてくるネフェルピトー。それを両手で受け止め、握り、力任せにネフェルピトーを地面に叩きつける。

 爆発したかのように土が飛散し、お互いに視界が遮られた。掴んだ脚を頼りにネフェルピトーの位置を把握。倒れ込むような肘撃ちを叩き込む。

 その攻撃は片手で受け止められ、逆に土煙の奥から拳が飛んでくる。回避が不可能だと悟った俺は、即座に煌々とした氷塊(ブライトブロック)を発動。顔に命中する前に氷の兜を創り出し、更に空気醸造法(エアライズ)によるクッションもあわせて威力を軽減する。それでもネフェルピトーの拳は俺の首を後ろに仰け反らせた。倍化したオーラで全力の防御をしてこれであり、清廉なる雫(クリアドロップ)でオーラを増やしていなかったらこれだけで死んでいる。

(あぶねぇ!!)

 トトに遊びはなかった。ただ、本気でもなかった。一方でネフェルピトーは遊んでいる。その分だけ本気だ。十分に厳しい。

 後ろへと向かうベクトルの力に逆らわず、空中でバク転を決めながら着地。薄くなった土煙の奥から瞳を爛々と輝かせたネフェルピトーが見える。簡単に壊れない玩具(オモチャ)が面白くて楽しくて仕方がないと、その表情が語っていた。

「はっ!」

「にゃ!」

 中国拳法、偽円の運び。外から回り込むような虚の動きを見せて、そこから鋭く内に入り込む技法。それに釣られたネフェルピトーは外に大きく攻撃を外し、その間隙を縫って発勁を彼女の腹部に叩き込む。

「ご…」

 オーラを倍化させた上での内臓への衝撃は流石に効いたらしい。初めてネフェルピトーが苦悶の声を漏らした。

 それを機と見た俺は動きをボクシングのそれに変えてネフェルピトーのボディを執拗に叩く。攻撃箇所を変えればコンマ何秒か発生する隙を嫌ったのだ。

 ドグドグドグと3発、腹部に攻撃を受けたネフェルピトーはお返しのように頭突きを繰り出した。攻撃に意識を傾けていた俺はそれをまともに喰らう。氷の兜も空気の緩衝材もなかったその一撃で俺の脳は揺れ、視界が回る。

 すぐに意識を戻すが、遅い。ネフェルピトーの尻尾が足首に絡みついて払われ、バランスを崩して尻もちをつく。その俺の体の位置がちょうどいいと言わんばかりにネフェルピトーの蹴りが胸に突き刺さる。

「ご、ぇ」

 空気を吐き出しながら後ろに吹っ飛ばされる。転がりながら衝撃をいなし、吹き飛ばされた流れの中でなんとか両足で地面を掴む。起き上がる動作なぞネフェルピトーの前でさらしていられない。ロスはできるだけ少なくしなくてはならない。

 そうして前を睨む俺。

「ピトー、遊びすぎだ」

 後ろから発される声。咄嗟に横に動き、先ほどまでの前と後ろを同時に視界に入れる。前にはネフェルピトー、後ろにはトト。

「トト、終わったんだ。残りの玩具(オモチャ)を追わなくていいの?」

「見失った。お前が遊び過ぎたせいだぞ、ピトー」

「少しくらい逃がしたっていいじゃにゃい。ってか、まだあっちの方から僅かに足音が聞こえるよ?」

「お前と同じ聴力を期待するな」

「ま、いいや。ボクの邪魔はしないでね」

「せん。だからさっさと終わらせろ」

 気軽な会話をするネフェルピトーとトト。話をするトトの傍らには胸に大穴を開けて取り返しのつかない大流血をしているカイトの姿があった。仰向けに倒れた彼の目の焦点はどこにも合っていなくて、カイトはすでにあの世を見ている。

 そしてトトはネフェルピトーに加勢するよりも、何かの紛れで俺を逃がすことを警戒しているらしい。襲い掛かってくる気配こそないが、やはり微塵も油断がない。

「は、はは…」

 ここまで警戒されてしまえば、もはやどんな発も使用できない。その発動の予兆を感じた瞬間に潰される。

 可能性があるとすれば、トトが警戒を解かざるを得ない状況に追い込むこと。

 俺がネフェルピトーを撃破し、トトを戦闘の場に引きずりだす。警戒の感覚を切り替える刹那こそ、脱出する為の発を使うに最適の隙ができる。

 とどのつまり、ネフェルピトーを撃破しなくてはならない。護衛軍の一人を、俺が撃破しなくてはならない。

 なんだそれは。なんだその結論は。なんてことだ。その結論に達した時に感じたこの感覚は自分でも極めて意外だ。

「最っ高に滾るじゃねぇか……!!」

 人生で味わったことのないこの高揚は一体なんなんだ!!

 顔がにやける。今まで取り繕ってきた生き続ける為の小賢しさが表情から抜け落ちていくのが分かる。代わりに浮かんでくるのは獰猛な笑み。

 殺す、殺す、殺す、殺す。生きる為に殺す、強者を逆にひき潰す。それを想像した瞬間に一気に俺が発するオーラが増え、更にそれが清廉なる雫(クリアドロップ)の効果で倍化される。

 にたにたと哂う表情を抑えられないまま、俺は発したオーラを右腕に集め、更に煌々とした氷塊(ブライトブロック)で氷による補強。前に前にと体重をかけ、最高の一撃をブチ込む準備を整えた。

 そんな俺を見たネフェルピトーは。ケラケラと嗤いながら同じようにオーラを右腕に集めて、やはり同じように前傾姿勢を取った。見ただけでここまで高いレベルの凝を習得するとかこれだから天才は。

「楽しいにゃあ」

「ああ、楽しいな」

 目と目を合わせ、ふと目尻を下げるだけの一瞬。それが合図。

 ネフェルピトーへと向かって突進する俺。俺に向かって突進してくるネフェルピトー。

 お互いにお互いが最高の一撃を放てる間合いに入った瞬間、右腕の拳と右腕の掌がカチ合った。拮抗は一瞬だと本能が理解する。この一瞬が過ぎ去ればより勢いの弱い方の腕が弾かれる。そしてこの威力を一点に受けた腕は肩から千切れ飛ぶだろうと。

 片腕を失えばネフェルピトーとはいえども戦闘力は激減する。そうなればトトも戦闘に割り込んでくる。問題は何もない。

 そして次の瞬間が訪れて。

 右腕が肩から千切れ飛んで。

 眼前に見えたネフェルピトーの顔が、驚きから微笑みに変わり。

 そして。

 そして。

(嗚呼…)

 そして。

 

 

 

 ♥

 

 

 

 うんっ

 ボク、ちょっと強いかも♪

 

 

 




 今回の件で追記をさせて頂きました。
 御一読いただけたら幸いです。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=278674&uid=2330

 3章を執筆するにあたり、以前書いたあとがきを移しました。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=278732&uid=2330

 そして恥ずべきこととは思いますが、以後執筆が出来なる可能性がでてきましたので、万が一に備えて今回の作品のテーマや裏側などを書けるうちに書いておきました。
 興味のある方はご覧ください。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=278733&uid=2330
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