殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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この話より三人称視点になります。ご了承下さい。


3章 緋の目 深く、昏く
076話 敗走


 ゼイゼイハァハァと息を乱しながら、キルアとポンズはNGLの国境に向けて必死に駆けていた。

 ただでさえ数日かけて踏破した距離である上に、ここはキメラアントの陣地である。奇襲されても全くおかしくない。

 そんなありきたりな心配なんて2人は全くしていなかった。バハトとカイトが足止めをしているであろうあの2匹のキメラアントから感じた悪意のイメージ。それから逃れるようにただただ足を動かしていた。

 背に抱えた親友と義妹を捨てなかったのは、二人に残った人間性か。それともその動作でさえ隙になると嫌ったのか。まあ、あの二匹に遭った時に見捨てなかったから人間性なのだろう、きっと。

 効率的な休憩を取る事もなく、お互いに会話を交わすこともなく。そして幸いにも他のキメラアントに出会うこともなく。キルアとポンズはNGLの国境に辿り着いた。意識を失ったままのゴンとユアを抱きかかえたまま。

 誰も褒めてはくれないだろうが、護衛軍の二匹と遭遇して生還したのだ。これだけでも誇るべき偉業である。

「! オイ、大丈夫かっ!?」

 声をかけてきたのはポックルだ。以前彼が自分で言った通りにNGLの国境で待機していた為、逃げ帰ってきた4人を見つけて駆け寄ってきたのだ。

 キメラアントの戦闘兵を顔色一つ変えずに掃討した彼ら彼女らの表情は蒼白だ。半分は意識を失っている。

 それよりなにより、他の3人の姿が見えない。

「ぅ」

 それが導きだした結論に、ポックルは生唾を呑み込んだ。負けたのだ、彼らも。自分が死にかけたキメラアントをあっさりと屠った強者が、見栄も恥も捨てて逃げ出すようなバケモノがきっといたのだ。

 文字通りポックルにとって次元が違う話だが、だからこそ遠い現実を見ずに身近なところの世話をする。NGLの国境で金を払って部屋を取り、食事と水の手配。それからNGLを退去する手続きと共に、ここに預けた文明の利器を回収してキルアたちに戻す。

 しかしNGLの実態を見たキルアとポンズは世話になることを拒否した。何が仕込まれているか分かったものじゃないという判断だ。

「ありがとう、ポックル」

「あ、ああ。俺ができるのはこれくらいしかないからな」

 疲れ切った笑みを見せるポンズに、ポックルは顔を赤らめながら視線を逸らす。

 NGLから出たところで、キルアとポンズはのろのろとケータイの電話番号を押す。気は滅入るが、しない訳にはいくまい。キルアはカイトの仲間に電話をかけ、ポンズはマチへと電話をかけた。

 数コールが鳴った後、ポンズの電話が通話状態になる。

『ポンズかい。どうした』

「…………」

『?』

「バハトが」

『バハトが?』

「バハト、が……」

『…………』

「生死、不明よ」

『……そうかい。詳しい話を聞いていいかい?』

 優しく続きを促すマチ。

 彼女はバハトが奪った指揮者のタクトはその両手(ルーラーコンダクター)によって操作されていたが、バハトは常に自分が死ぬ可能性というものを見据えていた。例え一つの能力が切れたとしても、ユアの能力である絶対規律(ロウ・アンド・レイ)とクラピカの能力である律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)で縛られている。まだマチが死んでいないということは、少なくとも律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)が発動する段階にはないということだ。

 つまり、マチは少なくともバハトの血族の味方にされているのである。その一員のレントの母であるポンズにも優しいのは当然だった。

 そんなマチはポンズの心の澱を吐き出させるように話を聞いていく。

 何があったのか。何が起こったのか。そして、何をしてしまったのか。

『……そうかい。ポンズ、自分を責めるんじゃないよ』

「え?」

『バハトはアンタに生きて欲しいと思っていたんだ。その思い、アンタが無下にしちゃいけないよって言ってるんだ』

「…………」

『災害で生き残った人間は、自分が生き残ってしまったことを責めちまうらしい。だから誰かが言ってやらなくちゃいけないんだ。

 アンタは悪くない、ってな』

「っ!!」

 ポンズは口をへの字に曲げて、キツく瞼を閉じる。その目尻からボロボロボロボロと涙がこぼれ落ちていく。

 とめどなく、とめどなく。

『泣けばいい。泣いて泣いて、そしてどうするかは自分で決めな。

 アンタはプロハンターだろ?』

「っぃく、ぅっく……」

『レントのことは心配いらない。アタシがいる』

「っっっ!!」

『……今は存分に、独りで泣きな。じゃあね』

 マチはそう言って通話を切った。ポンズの近くには数人居たが、電話の向こうにいた彼女にそれは察せなかったらしい。もしくは察した上で気を遣ったか。

 電話の向こうから温かい声をかけられたポンズとは対照的に、キルアはカイトの仲間から罵声と冷静な事務連絡を受けた。

 間もなく討伐隊が到着するというが、それを聞いたキルアは全く動く気力が湧かなかった。討伐隊にキメラアントの情報を渡すという任務もあっただろうが、敗北感に打ちひしがれていたのだ。

 やがて到着した討伐隊はネテロ会長と、その他に2人。グラサンをかけた大男と、スーツ姿の男。

 嘲笑や慰めや戦闘の心構えなどを聞くキルア。対して彼が言えたことは、ネフェルピトーやトトルゥトゥトゥを見た時の恐怖のみ。それにポンズは補足をする。

「バハトとカイトは、強かったわ。あなたたちと同じくらい。そしてエミヤはそんなバハトよりも強かった。

 けれども、エミヤは一瞬で殺されて、カイトは片腕を奪われたわ。

 ……気を付けなさい」

「カカカ、ねぇちゃん。さては話を聞いてねーな? 見かけ上の強さなんて気休めにもなんねーってよ」

「ご忠告は感謝して受け取りましょう。返答はご心配なく、ですが」

 しかしやはりというか。グラサンの大男であるモラウとスーツの男であるノヴはまともに取り合わず、笑って受け流すだけである。今まで潜った修羅場の数がその自信の根拠になっているのだろう。過信と紙一重とはいえ、自信も念を強化する一要素だ。少なくとも逃走したキルアやポンズが彼らを笑う事はできない。

 話すことは話したと言わんばかりにモラウとノヴはNGLの国境へと向かう。一歩遅れてそれを追うネテロ会長は打ちひしがれている4人に割符を放った。

 強くなれれば帰って来い、と。そんな激励の言葉を置いて。

 

 間もなく、ゴンとユアが目を覚ます。

 ゴンはキルアに、ユアはポンズにその後のことを聞いていく。

「バハトは私たちを逃がす為にあのバケモノの前に立ったわ。私が確認したのはそこまでよ」

「……そう」

 表情をなくしてユアはそう呟いた。そしてほんの少し、ちょっとだけ、空白の時間が流れる。

「バハトもカイトも生きている! あんな奴らに殺される訳がないよ!」

 ゴンが力強く言い切ったのが聞こえて来る。

 それを聞いたユアは瞳を閉じて、数秒だけ空を向いた。

 次にポンズの方を向いた時、その瞳は緋色に染まっていて。

「ありがとう、ポンズさん」

「え?」

「私がした行動が最悪だったわ。お兄ちゃんに向かうだけなんて、あの場面ではなんの意味もない。

 死ぬだけだった私を助けてくれたのはポンズさん。だから、ありがとう」

「ど、どういたしまして?」

 やった事の負い目を感じているポンズとしてはお礼を言われるのはどうにも腑に落ちないのだが、だからといってユアの話に筋が通っていない訳でもない。

 釈然としないままに感謝の言葉を受け取るしかないのだった。

 そうしてその後、ユアは瞳の色を変えないまま、平坦な口調でポツリと言葉をこぼす。

 

「強く、ならなくちゃね」

 




 まずは読んでいただけたことに感謝を。
 いくつものご意見をいただき、3章を執筆することを決めました。
 どうかよろしくお願いします。

 ちょっと私事で言いたいことがありますので、興味がありましたら活動報告をご覧ください。この小説に直接は関わらないのでリンクは張りません。

 そして前回の感想でいくつか出た意見ですが、百万回生きた猫(ネコノナマエ)について持論を展開させていただきます。
 結論から言いますと、バハトは百万回生きた猫(ネコノナマエ)を発動できません。その根拠は百万回生きた猫(ネコノナマエ)が死者の念を前提に使用される点です。もちろん能力自体は所有しているので、絶対に発動できないとは言いませんが、高確率で不発します。生きている間に条件を満たせば発動する訳ではなく、死の瞬間にどれだけ強い想いを残せるかが死者の念の強さの秘密だと思います。そういう意味で、百万回生きた猫(ネコノナマエ)は自分を殺すなんて許せないと強く想うカミーラ専用の能力といえるでしょう。
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