殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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077話 再起・1

 

 ロカリオ共和国のNGLにほど近いとある都市。

 そこにユアとポンズ、ゴンとキルアが辿り着いてネテロ会長の試練を受けていた。

 預けられたのは2枚の割符。それだけだったが、これを揃えろという意味に間違いはあるまい。

 2種類の割符を揃える。となれば、敵は2人以上か。もしもこの町に隠れられれば見つけることから始めねばなるまい。ただ念の戦闘だけを求められているわけではない。ハンターとして、キメラアント討伐隊の資質を求められているのだ。バカに務まる役目ではない、ということだろう。

「オレの名はァ! ナックル=バイン!! ビーストハンターだァ!!

 討伐隊候補者にィィ! 決闘を申し込ォーーーむ!!」

 ただのバカを横目で見ながらキルアとユアが悠然と町を歩いていた。

 

 ちなみにルールの説明はきちんと為されていた。駅のホームに備え付けられた伝言板、そこに参加の意思を書き込んだ後、現れた女性はパームといった。

 つまるところノヴの弟子である彼女と、モラウの弟子であるナックルとシュートが討伐隊の補欠の位置にいたらしい。パームだけでは戦闘能力に難があるとみなされたのか、ゴンたち4人が彼女と共に行動することになった。1ヶ月の期間内にナックルとシュートを倒せば合格、その証拠に割符を揃えろということらしい。

「罠としちゃお粗末だったけど、とりあえず敵の顔を一人分知れたのは収穫ね」

「監視を前提に動いたからもう一人までは見つけられなかったけどな」

 ユアとキルアがそう言って、ゴンとポンズに話をする。

 相手はこちらより格上で、結局は地力をあげなければ話にならない。

 そこまでは話は合ったが、次が合わない。

「敵の能力を知らなくていいと思う」

「同感ね。NGLで敵の能力が分からないから戦えませんなんて言ってられないわ」

「それはNGLに行ってから悩めばいいさ。まずは当面の敵に勝てなきゃNGLもクソもねーんだぜ?」

「ここで相手の能力を知れる方法を考えるっていうのも有効だと思うわ」

 ゴンとユアが敵を探らなくていいと言い、キルアとポンズが敵は探るべきだと言う。しかもそれぞれで微妙にスタンスが違う。話がまとまらない流れになってきた時だが、乱入者がそれを収めた。

「はいはーい。ガタガタ言うのはあとあと。

 ネテロ会長(あのジジイ)は人が悪いので有名なんだわさ。1ヶ月でやれって言うなら、1年でも達成困難だったりするのよ。

 まずは基礎能力をあげなければお話にならないわさ」

「「「「ビスケ!?」」」」

 なんの脈絡もなく現れたビスケに全員の目が丸くなる。いや、本当に何故彼女がパームが用意したこのアジトにいるのか謎だ。

 全員がマジマジとビスケを見るが、彼女は後ろにいたパームを指さす。

「呼ばれた」

「ノリが友達だな。知り合いか?」

「初対面よ」

「面識がない人に呼ばれて来るビスケは暇なの?」

 生意気を言ったユアはビスケにスパンと叩かれた。

 そしてパームが能力でビスケを調べ、呼び出したこと。ビスケはユアたちの名前を出されてとりあえず顔を出したらしいことを聞く。

 今度は5人からロクに話を聞いていなかったビスケに現状を説明する。

「NGLにキメラアントのバケモノが出現、殿を請け負ったバハトが生死不明ねぇ…」

「カイトもだよ」

 ゴンが訂正するように言うが、ビスケは話を聞いちゃいない。

 彼女が思い出すのはグリードアイランドで見た、バハトが『敵』と戦ったというその跡。あれほどの破壊を起こしたバハトが生死不明とは何事だと思う。

(ま、あたしにゃ関係ないか)

 とりあえずゴンたち4人を鍛えればお役御免だ。そう割り切ったビスケは思考を切り替える。

「んじゃま、もう少し念のレベルをあげようかしら。全員、練」

 ビスケに言われた通りに4人は練をする。

「そのまま維持、3時間ね」

「「え」」

 ゴンとキルアから思わず声が漏れた。何故なら、提示された時間は彼らが練を維持できる最大時間を大幅に超えていたから。

「キルア、最高記録はどのくらい?」

「……85分」

「練は10分延ばすのに1ヶ月の修行が必要、だったかしら」

 現在は半分にも満ちていない時間だ。倍に延ばすのにかつて言われた通りならば9ヶ月もかかる計算になる。これを1ヶ月でどうしろというのか。

 訝しそうにビスケを見るポンズだが、既に彼女は興味を示していない。女性用のエロ本を開いて楽しそうに眺めている。

「ビスケを信じよう」

「他に信じる奴もいねーしな」

 力強く言うゴンに、仕方なく同意するキルア。できればバハトがいて欲しかったと思う彼だが、そのバハトが生死不明という事実は頭から追い払う。

 ビスケの言う通りに、練を維持。

 結果。

「ゴンが82分、キルアが84分、ポンズが91分ね。

 まあボチボチかしら」

「誕生覚醒者ってオーラ量が多いって聞いたけど、ポンズさんでも90分しか持たないのね」

「ポンズを責めるよか、ゴンとキルアのバケモノぶりに呆れたいわさ。念を覚えてどんだけだっけ?」

 それでも辛うじてポンズが目標の半分を超えたが、ビスケの要望からは程遠い。オーラを底まで使い切った3人は疲労困憊したまま床に倒れ込んでいる。

 それを立ったまま見る、ビスケとユア。

「で、ユア。あんたの堅の持続時間は?」

「3時間は楽勝」

「ふーん。スタートが早いだけはあるわね。いいわ、あんたは顕在オーラ量(AOP)を増やす修業にしましょう」

 ビスケはユアが足切りをクリアしたことを認めた。それと同時に頭を悩ませるのはポンズだ。

(具現化系は強化系から遠い。操作系のユアも遠いけど、こいつはオーラ量が比較的潤沢だからいい。

 だけどポンズはどうするか)

 具現化系や操作系は真正面から戦うのは苦手な傾向にある。それよりもトリッキーな戦い方や搦め手を利用した方が強い場合が多い。だが、そういうのは本人のセンスの問題であり、ビスケにはどうしようもできない話でもある。

(せっかく子供が産まれたし、バハトが生死不明ならなおさら死んでほしくない。

 なら、実戦あるのみね)

 討伐隊のイスを争うナックルとシュート、彼らの性格を把握すればポンズも実戦の機会に恵まれるかも知れない。

 そこに思い至ったビスケはけろりと堅を続けるユアを見る。

「ユア、あんたに仕事をあげるわ」

 

 ◇

 

「臆したか、腰抜けがァー!!」

 真夜中の公園で独りで怒りの咆哮をあげるナックル(バカ)

 ちなみに彼は町を練り歩いて決闘を申し込んでいた時に場所を言うのを忘れており、関係ない人々から心のツッコミを受けていたことを知らない。

「近所迷惑だから黙りなさい」

 が、プロのハンターは伊達ではない。やろうと思えば不審者一人の情報を洗うなんて朝飯前だ。

 悠然と歩み寄るユアに、ナックルは呆然とした声をあげる。

「まさか、お前が……?」

「そ、私が」

 ナックルと敵対する討伐隊候補。それを理解したナックルは唖然としているが、ユアはどこを吹く風。

「とりあえずこれはやらなくちゃ、ね!」

 ユアは円を発動。半径20メートル程を範囲として捉える索敵の念は、少し離れたところに居た不審者を捕捉した。

 彼女はそちらを見るが、円で捕捉されたと理解した不審者は素早くその場を離脱していた。ナックルも眼前にいる現在、追うのは現実的ではない。

「やっぱり罠だったわね」

「シュートか?」

「名前は知らない」

 ユアと同じ方向を見たナックルは同じ男に師事する片割れの名前を口にするが、ユアはもう一人の名前は知らないし、不審者の詳細を知った訳でもない。シュートとやらのことなんて何も知らないのに、返事のしようもない。

 とりあえずもう一人の敵を追っ払ったユアはナックルに向き直ったが、彼はピシっとした動作でユアに頭を下げていた。思わず目を丸くしてしまうユア。

「何よ?」

「すまなかった! 一人で来る、罠はないと確かにオレは言った。その言葉が嘘になっちまった。

 この通り、謝罪をする!」

 愚直過ぎるナックルに好感を覚える人間もいるだろう。だが、ユアはそうではない。

 ナックルに見えないようにニヤリと笑ったユアは口を開く。

「罠にハメておいて、ごめんなさいで済ませようとは思わないわよね」

「もちろんだ、償いはする。割符は渡さねーが」

「割符はいらないわよ、実力で奪い取るわ。私の要求は一つだけ」

 少しだけためて、ユアはこう言った。

「話をしましょう」

 顔を上げたナックルはきょとんとした顔で年下の女の子の顔を見る。何か企んでいるように感じたが、敵とも分かり合いたいと考えているナックルにとって、交流の機会があって困ることはない。

 近くの自販機で飲み物を買い、公園に備え付けられたベンチに腰掛けて話をするユアとナックル。ちなみに飲み物代はナックル持ちだ。

「とりあえず自己紹介からか。俺の名前はナックル。ビーストハンターだ」

「私の名前はユア。情報ハンター志望よ」

「プロか?」

「ええ、プロ」

「そうか、いい円だった。オメーはきっといい情報ハンターになるぜ」

 ごく自然に褒めるナックル。この辺りはやはり人柄が出るのだろう。裏なく褒められれば悪い気はしない。

 少しだけ機嫌をよくしながらユアは応対する。

「ありがとう。あれが私の全力なんだけど、褒められて嬉しいわ」

 嘘である。ユアの全力の円は倍近い35メートル級だ。

 それに気が付かないまま、ナックルは満足そうに頷く。

「だがしかしだ。キメラントの討伐に情報ハンターが出向くのはどういった訳だ?

 そりゃ不明な情報があれば仕入れるって理屈は分かるが、今回の件はシャレにならねーぞ。何せシングルのハンターも消息を絶っているらしい」

「もちろん知っているわ、消息を絶ったシングルハンターは私の実兄だもの。

 その現場にも立ち会ったわ」

 ユアの言葉に目を丸くするナックル。彼は横を向いてユアの顔を見る。

 先ほどまでと違い、その瞳は緋色に染まっていた。

「私のお兄ちゃんは弱くない。私よりもずっと強い。そのお兄ちゃんが、私たちを逃がす囮になったわ。そして生死不明。

 ……情報ハンターとして生死を確認する、なんて取り繕うつもりはないわ。私は私自身の為に、お兄ちゃんを助けなくちゃならないの」

「そう、か」

 今をもって帰還していないとなると無事であることは絶望的。それはユアも分かっているのだろう。だがしかし、未だ確認されていないという一点を以ってユアは希望を捨てていない。

 ナックルはそれを察せない程に愚かではなく、わざわざ現実を突きつけるようなことはしなかった。それになんて言おうとも、ナックルがユアの兄の死を確認した訳ではない。ならばこそ、ナックルの言葉に説得力がないのも事実。ユアの方が多く情報を持っているであろう現状、彼が何を言っても無駄なのだ。

 話を変えてナックルはユアの瞳について聞く。

「ところでユア。お前の瞳がすげー綺麗な赤色になっているが、それは? お前の念か?」

「違うわ。私はクルタ族の生き残りなの」

「クルタ族?」

 めくれば出てくる情報ではあるが、ここにパソコンはない。それに辞書のような説明に比べて当事者の口から語られるというのは文字通りに重みが違う。

 そうしてユアは語る。クルタ族の持つ緋の目が世界7大美色の一つであること。その為に幻影旅団に狙われて極少数名の生き残りしかいなくなったこと。ユアと彼女の兄であるバハトはその生き残りであること。

「……そうか」

 人生は様々であり、気軽に易く寄り添うことが正解とは限らない。それを知っているナックルはそう言うだけに留めた。明らかにユアはその過去に対して特別な感情を抱いていた。大切なそれに触れるべきではない、そういった判断だった。

 それに気が付いたユアはナックルの気遣いにふんわりと笑う。

「ありがとう」

「……おーう」

 照れたようにぶっきらぼうなナックルにユアの笑みがもう少しだけ深くなった。

 だが次の瞬間、ユアの顔は真剣なそれに変わる。

「私がキメラアント討伐に参加するのはそれが理由、私のたった一人の兄の安否を確かめて助けること。それで、ナックルは何でキメラアント討伐隊に参加するの?」

「簡単に言えば、討伐させねー為だな」

 ユアの話を聞いた上で、ナックルは堂々と言い放つ。

「そもそもはぐれモンを切るってやり方が気に喰わねぇ。真っ向からぶつかって分かり合えれば共存の道も見つかるかも知れねぇ。その可能性を、オレ自身が潰したくねぇ」

「――つまり、キメラアントを救う為?」

「そりゃ傲慢ってモンだ。救うなんて上から目線のやり方は嫌いだな。オレは分かり合いてぇだけだ」

 会話が通じない種族でさえ理解は可能。ビーストハンターであるナックルはそれをよく知っている。だからこそ、会話まで可能なキメラアントと理解し合える可能性は高いとナックルは踏んでいた。少なくともその努力は怠るべきではないと。

 そしてその言い分に、ユアは黙るしかない。ありえないと言うことはできる。だが、状況を鑑みればありえないバハトが無事であることを、ナックルは否定しなかった。だからこそ一般的にはありえないナックルの主張を、ユアだけは否定することができなかった。

「――そう」

「ああ、そうだ」

「引けないね」

「お互いにな」

 ユアはバハトを傷つけたキメラアントを許さない。ナックルはキメラアントとの共存の道を探したい。

 スタンスの違いは明確になった。しかし、歩み寄る余地がない訳ではない。

 バハトと戦ったあの2匹のキメラアント、トトと呼ばれたヤツと猫のキメラアントにユアに交渉の余地はないが、他のキメラアントについては話が別だ。妥協し、バハトを害していないキメラアントを見逃すくらいの融通を利かせることはできる。

 一方でナックルもユアの主張に付き合う必要はない。要救助者を助けるのは当然だが、その上で特異な存在であるキメラアントをどうするかには判断の余地がある。ナックルとしては出来る限り自分の意見を押し通す為に実績を重ねたいし、その為には討伐隊に名乗りをあげたい。

 だがまあ、出会ったばかりなのにこれ以上深い話をするもの違うだろう。ユアは立ち上がり、公園に備え付けられたゴミ箱に空になったジュース缶をいれる。

「今日はここまでにしておきましょう。また明日、話をしましょうね」

「おう、気を付けて帰れよ。オレは少しやることができた」

 そういうナックルの視線の先には首輪をつけた犬がブリブリと脱糞していた。見逃すのは公衆衛生的にも犬の為にも良くない。

「優しいのね」

「やめろ、ムズがゆくなるだろーが」

 多少からかいの色がのったユアの声を聞き、ナックルは心底嫌そうに返事をするのだった。

 

 ◇

 

「ふぅ」

 オーラが尽きるまで練をさせられ、30分の回復時間を挟んで解放された3人。自由時間になった為にポンズは家の外に行き、夜の空気を吸っていた。

(バハト……)

 NGLを脱出して数日が経過した。未だにバハトが帰還していないということは、絶望的な想像をするのに十分である。ゴンなどは体力を回復する為に隠れているとポジティブに信じているが、ポンズとしてはそこまで楽観的になれない。どうしても最悪の可能性が頭によぎってしまう。

(良くないのは分かっているのだけどもね)

 こんな精神状態では念の修行にも影響がある。ビスケにそう言われたが、じゃあ切り替えようと簡単にいかないのが人間というものだ。

 それでもできるだけ気分を変えようと、時間を見つけては溜まった不安を吐き出しているポンズ。歳が近い女性であるパームも気を遣ってくれているが、既婚者と未婚者の違いは少しだけ大きかった。彼女もポンズに寄り添えているとは言えないだろう。

 独りの時間を過ごしていたが、ぴくりと家に近づく誰かの気配を感じて身構える。

「……誰?」

「俺だよ、ポックルだ」

「ああ、ポックル」

 NGLで命を拾ったポンズと同期のプロハンター、ポックル。キメラアントを相手には役に立たないと自分で判断した彼は実質リタイアし、ハンター協会への伝令をネテロ会長に任された。現場を知る者の言葉はまた貴重なのである。

 ここに居るということは報告が終わったのだろう。だが、仕事が終われば彼はお役御免である。ここにはどのような理由でいるのか。ポンズが訝しげにポックルを見るが、彼は苦笑するだけである。

「そりゃ、俺が戦力として当てにならないことは分かっているさ。それでも一度始めた仕事だ、雑用でも何でも手伝えることがあるかと思っている」

「プロハンターは権限も大きいしね」

「そういうこと。例えばキメラアントがNGLから溢れ出したとして、プロハンターが一人いるだけでも避難の助けになるかも知れない」

 それに、とポックルは続ける。

「俺も仲間を失った。これは弔い合戦でもある」

「――バハトは死んだと決まっていないわ」

「そうだな、すまない。カイトとエミヤも死んだと決まった訳じゃないよな」

「……エミヤは、死んだけど」

 彼だけは確定だ。全員の前でバハトを庇って首を切られた。あれで生きていられるとはとても思えない。光の粒子となって消えたのは、あのトトと呼ばれるキメラアントの念能力だろうと想像できる。どんな能力かまでは分からないが。

 詳しくは聞いていないポックルも、ポンズの強い口調に特にバハトと親しいと気が付く。

「バハトとポンズは、その、恋人なのかい?」

「いいえ」

「そう、か?」

 それにしては執着が単なる仲間のそれではなかったように思ったポックルの感想は正しい。

「夫婦よ」

「ふうっ!?」

「この前、子供が産まれたばかり」

「…………」

 ちょっと衝撃的過ぎる言葉にポックルが絶句する。一目惚れした相手が既婚者であり、子供まで作っていたとなれば仕方がないといえば仕方がない。

 だがしかし、だ。バハトは子供が産まれたばかりなのに、生死不明となっている。

「子供が産まれたばかり、なのに……」

 不吉だとは分かっているが、溢れた感情は抑えられない。ポンズの瞳から涙が流れた。

 それを見たポックルは、ポンズが悲しく美しいと思ってしまった。

 だからその言葉を抑えることができなかった。

「――もしもの話、子供に父親が必要なら俺がなろう」

「え?」

「今の君に呑み込めと言っても酷だと思う。だから、忘れないでくれればそれでいい」

 そう言ってポックルはその場から離れる。突然の言葉にポンズが混乱している今だからこそ、彼女はポックルを止めることができない。

 あっという間にいなくなってしまうポックル。それを見送る形となったポンズは、呆然としながら誰ともなく呟く。

「そんな。私はバハト以外の人なんて――」

 心底そう思う。だからこそ、ポックルは今はいいと言ったのだとポンズは理解した。

 もしも未来の話、バハトを失って新しく伴侶を探すならば自分を選んでくれと、そういうポックルの告白だった。

 心が乱れているポンズにとって、不謹慎だとポックルに怒る気力も湧かず。ただただ現状を理解するだけで精一杯になっていた。

(はぁ)

 落ち着かなくてはいけないのに、心に重荷ばかりが増えていく。

 それを自覚したポンズは心の中で疲れた溜息を吐くのだった。

 

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