殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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078話 再起・2

 

 NGL

 

 ネフェルピトーが展開した円と、彼女自身の姿を見て簡単にはいかない相手だと認識するネテロ。

 しかしながら余裕は全く失われず、同行したノヴとモラウとふざけた会話を楽しむ始末。そこには戦っても負けないだろうという自負と自信が見え隠れする。

 想定外に相手が強いということは分かったが、かといってその程度は織り込み済みの話。フォローをするために呼んだモラウとノヴの能力でまずはキメラアントを探っていく。

 文明の利器を持ちこめないNGLだが、ノヴの持つ念空間ならば容易に持ち込み禁止のモノも持ち込める。その手段で以って持ち込んだモラウの巨大なキセルは彼の念能力を発揮する媒体となる。オーラを煙で包んだもの、それをウサギの形にして数多(あまた)創り出し、ネフェルピトーの円の中へと侵入させていく。

 まずは探る、そして削る。ハンターとしての基本的戦術を繰り出す討伐隊。

 

 

 一方、キメラアントの巣。4体のキメラアントが女王の間の前に集まっていた。

「生物じゃない、変なのがたくさん入り込んできたにゃ」

 挨拶もそこそこに、円を展開しているネフェルピトーが口にする。

 そこに居るのは直属護衛軍が4体。個体名はそれぞれネフェルピトー、トトルゥトゥトゥ、シャウアプフ、モントゥトゥユピー。ネテロ会長に自分よりも強いと言わせたピトーと、同格の3体である。

「外の埃まで気にしてもしょうがねぇ。女王様の命令があるわけでもないんだろ?」

 ユピーがやる気無さそうに言う。彼らが仕えるべき王、ひいてはその王を身籠っている女王に害があるのならばともかく、ピトーの言い方からして雑魚である『変なの』に労力を割く気はないらしい。

「囮、その可能性があるからして我々は動かない。それだけのこと……」

 この中では最も思慮深いプフも動くのに賛成はしないらしい。動くなら敵が巣まで辿り着いてから。他の雑魚蟻を蹴散らして、ピトーの円を潜り抜けたら相手をするのもやぶさかではない。そんな態度だ。

「まー、ボクもやる気はないかな。楽しくなさそうだし」

 ピトーもそんなことを言う。気分屋な彼女は気が乗らないと本当に動かない。こういうタイプは本当に必要な時にやる気を出すので、力の入れ抜きを本能的にこなせると言ってもいいだろう。

「じゃ、なんでオレたちを集めたんだよ?」

「ボクは行かないけど、遊びに行くならどう? っていう報告」

「そうか」

 ユピーが問いかけるが、ピトーの言葉にあっさりと頷いてひっこむ。

 多分、ユピーは何も考えていない。

「トトはどうするのです?」

()()()()()。故に我は動かぬ」

 プフの言葉に返答するトト。ここにいる全員は今回の件に関してはスルーするらしい。

「他の奴らがどうとでもするだろ」

「それだけのこと……」

「あ、そうそう。トトに聞きたかったんだけどさ」

「言ってみろ」

 話が終わったところで改めてピトーがトトに問いかける。この時点で既にプフとユピーはこの会合に興味をなくし、この場から離れていた。

玩具(オモチャ)を回収したあの時には()()したんだよね?」

「その通りだ」

「一番強い奴をスルーしてなかった? 結果的にアレから仕留めたからいいけど、どういう基準で反応するワケ?」

「強ければ脅威であるとは限らないのだろう」

 トトの能力は瞬間移動。主の元に馳せ参じることと、主に害為すモノへと辿り着くこと。バハトを襲撃した時は後者が発動し、ピトーよりも一瞬早く奇襲を成功させた。

 しかしピトーが遠目に見たところ、バハトよりもエミヤの方が()()()()()気がしたが故の質問だった。

「詳しくは我にも分からぬ」

「ふーん」

 自分の能力が自分でも分からないというのもピトーにとっては不思議な話だったが、とりあえず聞きたい事は聞いた。これでピトーの興味もトトから外れ、彼女はお気に入りの玩具(オモチャ)と遊ぶために歩き出す。

 それを見送ったトトはプフの後を追い、女王の間に入り込んだ。

 王が産まれるその時まで、女王の傍に控える。護衛軍としての忠誠心が万が一に備えての場所に彼を置き続けるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 堅の維持時間が2時間45分を上回る。

 ゴンとキルア、ポンズの修行は一つの区切りを迎えようとしていた。ビスケが目標にした3時間まで後一歩である。

「今日はここまでにしておきましょうか。30分休憩したら自由時間ね」

 そう言ってビスケは魔法美容師(マジカルエステ)のクッキィちゃんを具現化し、桃色吐息(ピアノマッサージ)を3人に施す。30分で8時間の熟睡に匹敵する休息効果を与えるその能力により、みるみるうちにオーラが回復していく3人。

 多少の余裕はあるため、少しだけでも自由時間を与えているビスケ。メリハリをつけた方が修行効率も良いという判断だ。

(もっとへっぽこだったらスケジュールがキツキツだったわね)

 余裕がある訳ではないが、尻に火が付いている訳でもない。ほんの少しの休憩を入れる余裕はあった。

「ただいま」

 そこにユアが帰ってくる。彼女は今日も今日とてナックルと会話をしていた。

「お帰り。そろそろ結論を聞きたいわさ。

 ナックルはどう?」

「愚直、正直、善人ってところね。スパーリングパートナーとしてはかなりの優良物件よ」

「男としては?」

「論外」

 ユアの話を聞き、ふむと考えるビスケ。どうやらポンズの実戦の相手としては悪くないらしい。

 ならば利用しない手はない。

「んじゃま、宣戦布告ね。ユア、明日会う時にそろそろ他の3人の準備ができるから戦うと言っておきなさい」

「必要ある?」

「真っ直ぐなバカには誠意を尽くしているように見せるのが転がすコツよ」

 おほほのほーと笑うビスケに、クスクスと笑うユア。案外この2人は似た者同士で気が合うのかも知れない。

 外からその会話を聞いていたパームは、嫌いなナックルがバカにされているのが楽しいらしく不気味な笑みを浮かべていた。

 女性三人が黒くて怖い話と笑いを浮かべている間にゴンたち3人が起き上がり始める。

「メシ……」

「腹減った……」

「あ、ごめんなさい。準備できているわ」

 少年2人がそんな言葉を口にして、それを聞いたパームはいそいそと食事を運んでくる。

 ビスケとユアはご相伴に預かろうとするが、ポンズだけは首を振りながら出口へと向かう。

「ポンズ?」

「私はいいわ。ちょっとやることがあるの」

 そう言うポンズに、ビスケが真剣な顔をして問いかける。

「いいの?」

「もちろん」

「そ。行ってらっしゃい」

 手をひらひらさせながらポンズを送り出すビスケ。

 何事かよく分かっていない他の面々を置き去りにして、ポンズはその部屋から立ち去った。

 そして家を出て少し離れたところに行き、ケイタイを操作する。通話の相手はポックル。

 ほんのワンコールでポックルは電話に出た。

『やあ、ポンズ。どうしたんだい?』

「ポックルと話がしたくてね」

 ポンズの言葉に、電話の向こうで嬉しそうに息を呑む音がする。

「あなたからのお誘いを断らなくちゃいけないから」

 そしてそれはすぐに消え去った。

『い、いや。別にそんな急に結論を出さなくてもさ。落ち着いてから、バハトの安否が分かってからで――』

「結論は変わらないわ。バハトがどうであれ、私の想いは変わらない」

 ポックルが慌ててまくしたてるが、ポンズはそれを切り捨てた。

 ほんの少しだけ、沈黙が流れる。

『オレが…ダメなのか?』

「分からない。ダメというほどあなたを知らないから」

『だったら……だった、ら』

 知ってからでもいいじゃないか。そう言いたくなるポックルだったが、電話から感じられるポンズの雰囲気に言葉が続かない。

 どうあがいても、彼女はバハト以外を受け入れないのだろうと。

『――羨ましいよ、バハトが。

 そこまで想われているなんて』

「…………」

『じゃあ、さよなら、だな』

「ええ、さようなら」

 そう言って、至極あっさりと通話を切るポンズ。向こう側でどんな表情をポックルが浮かべているか分からない。興味もない。

 彼女がその心に浮かべるのはバハトのことだった。

 

 プロハンター試験に向かう飛行船で一緒になった男、バハト。情報ハンターであった彼と同盟を組むことになったが、ほんの僅かな期間でポンズはそれを後悔した。

 一言で言えばモノが違ったのだ。武力は言わずもがな、ナビゲーターを見つける手腕も、認められるまでの試験をクリアした時も。

 バハトの才能に嫉妬し、そして自分の無能に絶望した。地下百階まで降りるエレベーターの中で諦観したポンズは、そのまま試験をリタイアしようとさえ思った。自分がプロハンターに為れる訳がない、そう見限ったのだ。

 そんな自分で自分を見捨てたポンズ自身を、他ならぬバハトが救ってくれた。今の実力よりも何よりも、ポンズ自身を信用してくれた。

(あれがどれほどの救いになったのか、あなたはきっと分からないのでしょうね)

 ふ、と笑みを浮かべるポンズ。あの時、バハトにポンズに対する特別な感情があったとは思えない。バハトにとってポンズは路傍の花に等しかったはずだ。

 その路傍の花を慈しんでくれたバハトに、ポンズは心惹かれたのだ。

 最初は友愛だったようにも思う。けれども、ハンター試験をクリアし、念を教えてくれる中で。それは確実に恋愛へと変化していった。

 やがて結ばれた後も、ポンズの心には枯れない花が咲いていた。それをずっと大事にしたいと、そう思っていたのに。

(ごめんなさい、バハト。私、揺れちゃった)

 愛した人が生死不明になる衝撃。それは確かにポンズの平常を乱し、見失ってはいけないものを見失っていた。

 だけどそれでも。ポックルの言葉に向かう気が一切起きなかったのは、やはりポンズは見失った自分の心を探し続けていたのだろう。時間が経って落ち着いた今、彼女はもう迷わない。

 

 ふと、向こうに花屋が見えた。

 なんとなく足を向けたポンズは花を買う。

 これは部屋の片隅に白いカーネーションが飾られたという、そんなお話である。

 

 

 ◇

 

 

 キメラアント達は対応に困っていた。

 数日前からニンゲン狩りに出た部隊が消えていた。キメラアントの性質上、脱走兵などはありえない。となれば恐らくは。

「人間の反撃かの?」

「まあ、そうだろう」

 参謀であるペンギンのキメラアントであるペギーが口にして、忠誠心が厚いコルトが頷く。

 どうするべきか話し合い、出た結論は。言う事を聞かない隊を囮にして統率の取れた部隊で敵を叩くというものだった。

 

「まあ、効かねーが」

 キメラアントの部隊を複数、煙のオーラで覆って視界を塞ぐモラウ。

 設置した罠にかかった相手を自身の念空間である四次元マンション(ハイドアンドシーク)に送るノヴ。

 そしてそこで待ち構え、送られたキメラアントを全て殲滅するネテロ。

 キメラアントがこの布陣を破るには、何もかもが足りていなかった。念に対する対応やネテロを倒す力、果ては戦術戦略まで全てがである。

 いいようにキメラアントを翻弄し、その数を減らしていく。

「とはいえこれは序章に過ぎないでしょう。あの円を展開しているキメラアントと戦う時が本番です」

「ま、そりゃそーだが」

 ノヴが戒めるように言うが、モラウの返答は気が抜けたものだった。

 その理由をノヴがずばりと言い当てる。

「ヒマですか」

「ヒマだな」

 モラウは煙で敵を覆うだけ。ノヴはネテロの元に敵を送るだけ。確かに暇にもなろう仕事の少なさだった。

「ザコ蟻は何体か潰したけどよ、所詮はザコだったしな」

「周囲を探索していなくなった人間の数を数える仕事も終わりましたしね」

「あまり気持ちのいい仕事じゃなかったがな」

「しかし必要なことです」

 淡々というノヴに肩を竦めて返すモラウ。と、そこでモラウはキメラアントがいる方向を見た。

「どうしました?」

「異物が入り込んだ」

「また愚かなキメラアントが入り込んだのですか?」

「いや、違う。煙の中のキメラアントを殺して回っているな」

 モラウの言葉に、ノヴはピクリと表情を動かす。今、NGLに討伐隊といえるのは彼ら3人だけの筈だ。

 正体不明の存在。それにモラウは楽しそうに笑い、ノヴは気を引き締める。

「面白れぇ、いっちょ見て来るか」

「そうですね。不確定要素は排除した方がいい」

 意見を一致させて2人は隠にて気配を消し、入り込んだ異物へと向かう。そしてその先には1人の男がいた、キメラアントを相手に立ち回る眼帯を付けた金髪の男が。

「くそくそくそくそぉぉぉ!!」

 言葉を流暢に喋る兵隊長であろうキメラアントは叫びながら腕を振るう。オーラを纏ったその姿が念を習得したと雄弁に伝えていた。

 対する男は回避すらしない。キメラアントの腕がぶつかった箇所はまるで霧のように現実感をなくし、素通りしていく。そこだけ見れば男が幻のようだが、もちろん現実はそんな甘くない。キメラアントの傍まで辿り着いた男は、拳にオーラを込めてキメラアントの外殻を殴りつける。幻であれば効果はないだろうが、しかしその拳はキメラアントに確かな衝撃を与えていた。

 一瞬だけ苦悶の表情を浮かべるキメラアントだが、次の瞬間にそれは絶叫に変わった。

「あががががあああ!?」

悠久に続く残響(エターナルソング)

 そして苦痛に喘ぐしかできないキメラアントの顔を掴み、言葉を続ける。

空気醸造法(エアライズ)

 ガクンと力が抜けた様子のキメラアントだったが、すぐに周囲を見渡すと他のキメラアントに向かっていく。そしてその先にいるキメラアントを手当たり次第に殺し始めた。

 それを確認した男は、自分の髪の毛を幾つか抜いて宙に散らす。

斉天大聖(サルノギキョク) 分身の業(オノレワケミダマ)

 吹き散らされた髪の毛は一気に膨れ上がり、男と同じ姿形を取る。そしてそれらは四方八方へと散り、キメラアント達に攻撃を始めた。

 そこで落ち着いた男は隠で気配を絶ったモラウとノヴの方を向く。

「で、お前らはなんだ?」

「よく気が付いたな」

 バレてしまったら気配を絶つ意味もないとモラウとノヴは隠を解いて男の前に姿を現す。

 話に聞いた風体だった。片目を眼帯で隠し、もう片方の瞳は茶色で金髪。クルタ族のそれと一致する。

「オレはモラウ。ネテロ会長に連れて来られたキメラアント討伐隊だ」

「私はノヴと申します。以後、お見知りおきを」

 自己紹介する2人に、金髪の男は感慨深そうに息を吐いた。

「そうか、お前らがか」

「私たちのことをご存じで?」

「情報ハンターだからな」

 そう言って男は薄く笑う。

「で、お前さんは誰だい? 想像はつくが、自己紹介をしちゃくれねぇか?」

 モラウの言葉にニヤリと笑った金髪の男は、眼帯で隠していない方の瞳を緋色に染め上げていく。

 その上でパキパキと音を立てながら右腕から流れるオーラを氷に変えて、棍状にした上で手に持った。

「シングルハンター、そしてクルタ族の生き残り」

 薄く笑いながらその名を告げる。

「情報ハンターのバハト、それがボクの名前だ」

 

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