最新話が書きあがりましたので、どうかお楽しみ下さい。
時計の針は進む。
NGLでは師団長以下の蟻は討伐隊に狩られ、数を減らしていく。有効な策が出せなかったキメラアント側はその場凌ぎの籠城を選択。
もしも討伐隊が攻めてきたら全力を以って撃破する誘い込み作戦だったが、残念なことに見を選んだ討伐隊にすかされてしまう。居なくなった人間の数まで把握していた討伐隊によって、貯蔵されている
時間にも余裕がある討伐隊は増援である討伐候補の到着を待つことにしていた。
一方の、討伐候補者たち。
期限まで後2日と迫った時点で、ようやくナックルとまともに戦えるだろうというビスケの判断が下った。
今までは疲弊した状態でナックルと戦い経験を積んでいたが、今回は全力で挑み、戦う。
そして結果は敗北。ゴンとポンズが返り討ちに遭い、キルアとユアによって回収された。
その後の未明、格上に挑めないというキルアの悪癖を見破ったビスケによって、キルアも個別に指導を受ける。これにより、キルアも背水の陣へと追い込まれる。
「あんたはいつかゴンを見殺しにする。今回の戦い、もしも勝てなかったらゴンの元から去りなさい」
それはキルアが薄々気が付いていたことで、そして直視したくなかった現実。それを突きつけられたキルアだが、はいそうですかとゴンと別れたくはない。怯える心を叱咤して、彼も決戦に挑む。
期限前日。いつもの公園で6人のプロハンターたちが集う。いつもよりも1人多く、影に闇に隠れていたシュートも姿を現していた。
「勝負!」
「負けた方が――」
「割符を渡す!」
お互いにそれを確認しあい、2手に分かれる。ゴンとポンズはナックルと戦い、キルアとユアはシュートと戦う。
「私も大分鬱憤が溜まっているからね。悪いけど、手加減しないわ」
顔と体を強張らせるシュートとキルアに対し、ユアは自然体。やる気とオーラを漲らせ、シュートを見やっている。潜んでいた敵対者が姿を見せた以上、ユアが控える理由は何もない。全力でシュートを倒すのみだ。
やる気に溢れるユアを見つつ、シュートは迷いながらも覚悟を決め、その左半身を覆っていた衣を脱ぎ捨てた。果たしてそこには肩から少し先で途切れた腕と、宙に浮いた手首から先が3つと、やはり宙に浮いた謎の籠。
それを目撃したユアとキルアは即座に凝。人間にしてはあまりに異様なその様相をオーラを込めた瞳で射抜き、確認する。
「隠は使ってねーな」
「己の左腕を操作・分割して左手を作り出し、飛ばして攻撃する能力かしらね」
「でもそれじゃあ籠の意味がない」
「操作系なら不思議な話じゃないわ」
「……どんな能力かはお前らの身で確認してみろ」
シュートの能力を考察していたキルアとユアだが、浅い部分を推察するのが精いっぱい。すぐにシュートが攻撃に転じ、浮いた3つの左手が襲い掛かってくる。
(あの手と籠に触れるのは危険!!)
操作系能力ならば、攻撃を起点にオーラを注がれればこちらが操作されかねない。タイマンはもちろんだが、今回のケースでも片方が操られれば数の優位が逆転する。
そう判断したキルアはヨーヨーを両手に構え、迎撃の体勢を取る。
「シッ!!」
襲い掛かる3つの手を、ヨーヨーを巧みに素早く操り撃ち落としていくキルア。
(素晴らしいヨーヨー捌き。そして――)
大きく下に沈み込み、飛来した手を回避したユアは愚直に前進。左腕がないシュートへと襲い掛かる。
(ユアも見事!)
シュートは素直な称賛をユアに贈った。彼が攻撃の為に3つの手を飛ばしたのと同時にユアは地面ギリギリまで沈み込み、そして隠。己の気配を隠しきった少女を見失ったシュートは
もしもシュートが手を一つでも戻せばユアは前後から挟み撃ちを喰らう形になる。それを無視した突進は、キルアへの信頼か、はたまた自分自身の持つ自信か。
ユアとシュートの視線が交わる。
「中国拳法八極拳・弾」
シュートは腕が一本しかない。その右腕を無力化すれば丸裸だ。ユアはそれを目的として自分の左腕を捻じり、回転させてシュートの右腕に当てに行く。捻転されたユアの左腕は外へ向かう流れを作り、防御した相手の体勢を崩す効果を持つ。
そしてたった一本の腕で受けるシュート。その右腕は、弾かれない。
「!」
「強い、な。そして惜しい」
ユアが弱い訳ではない。ただ、シュートの方が強かった。それだけの話である。もしくはユアが操作系でなければ、肉体強化に優れていればまた話が違ったかも知れない。だが現実にユアもシュートも操作系。地力の違いが出たというしかない。
そのままシュートは右腕で目の前にいるユアを殴りつける。上から降りかかる拳を、ユアは更にシュートの懐に入るようにして回避。シュートは小柄な少女が自分に密着するように近づいたせいで、有効打を放つことはできない。
「破っ!」
そしてそれはシュートのみ。懐に潜り込んだユアはシュートに向かって背を向け、鉄山靠を打ち込む。肩に近い背中にオーラを集め、密着位置からの奇襲に等しい攻撃。
手応えは、ない。
「!?」
(危なかった……)
シュートはその攻撃を予知した訳ではない。近づいてきたユアを嫌って離れただけだ。しかも後ろに下がるのではなく、右腕で殴りつけた勢いを利用して前へ。
結果、シュートは懐に潜り込んで体当たりをしてきたユアを尻目に見ながら、3つの左手に対処するので手がふさがっているキルアに向かって突進する。
「キルア!」
声をかけつつユアが戻るが、間に合わない。素早くキルアに接近したシュートは右腕でキルアの左顔面を殴り飛ばした。
あまりにも無防備に殴られたキルアにシュートは疑問を持ちつつも、ユアの接近を感じ取って2人から距離を取る。
「キルア、大丈夫……じゃ、なさそうね」
「右が、見えない…?」
「左顔面が消えているわね。相手の体を奪う能力かしら」
キルアの左顔面がモヤにかかったように不鮮明になり、失われていた。自分で自分の顔を触るキルアはやや呆然としていたが、すぐに切り替える。なぜならシュートは待ってくれないから。
3つの左手を飛ばして攻撃を仕掛けるシュート。さっきと違うのは、シュート自身も接近していること。戦闘開始と比べてキルアは左顔面を失い、その分シュートが有利になった。たかが一撃が大きな価値を持つのがこの手の能力者の特徴である。連撃を叩き込み、勝負を決めるつもりだろう。
襲い掛かる格上にキルアは一瞬たじろぐが、すぐに自分を奮起させるように雄叫びをあげながら前進。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヨーヨーを操り、飛来する左手を何度も何度も弾き飛ばす。だがしかし、彼の左側の視覚は失われている。見えないそこからの攻撃は防ぎようがない。
キルアの左脇にシュートの一撃が重く入り、苦痛に顔を歪める。追撃を入れる為にシュートは至近距離まで入り込み、キルアを守るようにユアが立ちふさがる。
(問題はない……)
シュートはそう判断する。キルアの反応速度は素晴らしいが、見えていないならば脅威ではない。喰らってしまっても破れかぶれの一撃だ。
ユアも弱くないが、スピードも力もシュートの方が上。隠を使っての奇襲ならばともかく、真っ向勝負なら負けはしない。
そう判断したシュートの顔に文字が書かれていた。
『絶』と。たった一文字だけ。
「
書いた文字の通りに対象を操作するユアの能力が発動する。オーラを失って
忘我した彼の腹部に、ほんの僅かにオーラを纏ったユアの拳が突き刺さる。
「がっ……?」
何が起こったのか分からないまま、シュートは悶絶して意識を失った。
それを見届けたユアは、袖で隠していた自分の右腕に書いてある文字を擦って消す。
『絶と書け』
己の右腕をそうやって操作したユアは、絶という文字を書くことのみブーストがかかる。直前まで自分の全開を見せつけた上で、さらに倍化した速度でシュートを無力化したのだ。
たかが一撃に大きな価値があるのがこの手の能力者の特徴である。
「キルア、顔はどう?」
「大丈夫、治った。シュートが絶になったタイミングでな」
「オーラも無しに能力を発動されちゃたまったものじゃないもの」
シュートの意識を断ったことを確認した後でユアがキルアの身を案じ、キルアはそれに応える。失ったキルアの顔面は戻り、そして足元には気絶したシュートの姿。
「勝った、んだよな?」
「もちろん。私たちの勝ちよ」
胸を張ってそう言うユアに、キルアは大きな大きなため息を吐く。
そしてじわじわと上がってきた実感に、ぐっとガッツポーズを取った。
(勝った、勝った……!! これでゴンと一緒に居られる……!!)
自分が呪縛を克服していないと、キルアが気が付くことはない。
気を失ったシュートをキルアが担ぎ、ゴンとポンズの元に戻る2人。勝利を期待した2人が目にしたものは、地面に倒れ伏すゴンとポンズ、そして両の脚で立つナックルの姿だった。
「シュートが負けたか」
「悪いわね、割符は回収させて貰ったわ」
ユアがその手で弄んでいるのは『角』と刻まれた木片。シュートが持っていた割符だ。
臨戦態勢に入るナックルに、キルアもシュートを地面に転がして体を自由にする。ユアはすでに堅を維持している。
しかしナックルはどこか困惑した様子だった。
「困ったことになったな。これはどうすんだ、コラ」
「? オレたちとアンタが戦っての勝ち上がりでいいだろ?」
「残念だがそうは行かねぇ。オレの能力、
例えオレが負けても、ゴンはNGLには行けねぇよ」
「!!」
驚いてキルアがゴンを見れば、そこには悪魔のような姿をした念獣がゴンの傍に居た。ナックルの言葉を信じるに、アレがある限りゴンは念能力が使えない。
ナックルは困った様子のまま、言葉を続ける。
「そしてオレたちに下された指示も『一ヶ月割符を手放すな』だ。
シュートが割符を奪われた以上、オレたちの勝ち目も消えた。
両者負け落ちか?」
両方の勝利条件を満たせない以上、どちらもNGLには行けない。そう解釈してもいいだろう。
強いて言うならばユアがナックルから割符を譲り受ければ彼女だけはNGLに行ける。ゴンが行かなければキルアも行かないだろうが、ユアとポンズはそれに縛られることはない。
その可能性に気が付きつつ、ユアはナックルに問いかける。
「確認するわ。ナックルたちへの指示は『一ヶ月割符を手放すな』よね?」
「そうだ。それがどうかしたかコラ」
「私たちへの指示はナックルとシュートを倒し、割符を集めること。
つまり――」
そう言ってユアはナックルへと近づき、手を差し出した。
「組めばいいんじゃないかしら、私たちが」
「は? そんな都合いい話が――」
「私たちが一組になれば、ナックルたちは割符を手放していない。私たちはシュートを倒して割符を集めた。両方とも勝ち上がりよ。
スジは通るでしょ?」
「…、……。
いや、しかし……」
ブツブツと言いながら考えるナックル。だがすぐに頭を振ってユアの提案を拒絶する。
「悪くない話だが、結局ゴンが念を使えないことに変わりはねぇ。
ゴンが割りを食うならこの話はなしだ。当然、オレも割符は渡さねぇ。お前だけでもNGLに行きたいんなら、オレから力づくで奪うんだな」
そう言ったナックルに向かって意地の悪そうな笑みを浮かべるユア。
「あら、簡単な解決方法があるわ」
「言ってみろ、オラ」
「ゴンに憑いた念獣を除念すればいいじゃない」
気を失っているポンズを指さすユアに、呆気に取られるナックルだった。
◇
「…………、……!!」
もう、息が続かない。
バハトは
「プハァ!」
息を乱しながらバハトは足元にある小石を蹴りつける。進めた距離は100メートルもない。
「クソ!」
ガシガシと髪を掻きながらバハトは悪態を吐いた。
キメラアントが籠城を始めた今が好機。
だが足りない。時間とオーラが圧倒的に足りない。高度な念を使う為に消費されるオーラは多く、ピトーの円を半分も攻略していない。なのに王が産まれる日はもう間近である。このままではとても間に合わない。
王を産む前に女王を始末するのが理想。だがしかし、護衛軍が女王の傍に最低1体は控えている現状、警戒を抜いて奇襲を成功させるにはバハト自身が
「あの時のチャンスをボクがモノにできていれば……」
悔いても仕方のないことではあるが、どうしても頭によぎるのはピトーとトトの奇襲の場面。あの時に女王の元に辿り着いていれば一番可能性が高かった。だがしかし、逃げるのに精いっぱいだったのも事実。あそこで反撃に出られる余裕は全くなかった。
思考を回す。王の誕生はもはや確定的。産まれた時から護衛軍よりも強い王。それだけでも絶望的だというのに、喰えば喰う程強くなる能力のせいで時間が経つほど可能性はゼロに近づいていく。
「諦める選択肢は、ない」
そこだけは改めて口にする。今更何も惜しくはない、せいぜい最期まであがくしかない。
ふと、バハトは東を見た。見えない遥か先には東ゴルドー共和国がある。その可能性を考えて、バハトは嫌そうに、そして不安そうに顔を歪める。
「くそぅ……」
力なく呟くことしか、彼にはできなかった。