殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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久しぶりに、昔のような文字数を書けた気がします。
それでも8000文字に達してないのか…。

ともかく最新話が描きあがりました。
ご賞味下さい。

そしていつも感想・高評価。誤字報告をありがとうございます。


081話 バハト・2

 

 バハトは知っていた。キメラアントの王が人間の予想よりも遥かに早く産まれる事を。

 だからこそ、それまでの猶予で女王を暗殺しようとしたのだ。

 だがしかし足りなかった、時間が足りなかった。ネフェルピトーの円を8割踏破した時点で彼女の円が喪失。それを確認した瞬間に彼は安全地帯まで()()()

「…………」

 無言でキメラアントの蟻塚を遥か遠くから見やる。やがて、ボクンという粉塵がその側面からあがった。バハトは中空から望遠鏡を取り出し、そこに焦点を合わせる。

 出てくるのはキメラアントの王と、それに追従する4匹の護衛軍。屋上に飛ぶ怨敵を、バハトはただただ無感情に見る事しかできない。

「……間に合わなかった」

 ぽつりとこぼす。

 結果が伴わない努力を評価されるような段階でないことは、彼自身がよく知っていた。だからこそ、がくりと力が抜けてその場にへたり込んでしまう。

「ボクは、いったい、なんの為に……」

 目を閉じて僅かな時間が経過する。

 そして彼の瞳が開かれた時、そこには力が戻っていた。

「――まだだ、まだボクには時間がある」

 ゆっくりと立ち上がる。そして見るのは東の方向。まだ何事も起きていない独裁国、東ゴル卜ー共和国。

「行くか、東ゴル卜ーへ」

 そう言って動き出そうとして、しかしピタリと動きを止めた。

「そうだった。やらなきゃいけない事があったね、忘れていたよ」

 誰もいないその場所で、彼は独り言葉を紡ぐ。

 改めて見やるのはキメラアントの蟻塚。今は異常は起きていないが、もう間もなくしたら師団長以下のキメラアント共が溢れかえる筈だ。

 それを見逃す選択肢は彼には存在しないのだから。

 

 ◇

 

「オイオイオイオイ」

 まさかの光景にモラウが呆れた声を出していた。

 弟子たちのNGL行きを懸けた勝負、選ばれるのはただ1組。

 その筈だった。

「どういうことだよ、こりゃぁよ」

「組んだだけよ、私達とナックル達が」

 ごくあっさりと言うのはユア。彼女に並んでいるのは総勢7人。戦いそして認め合った者たちがNGLへと辿り着き、そして討伐隊に合流したのだ。パームだけはモラウの弟子と同列にされたことに不服そうだが、他の面々は覚悟を決めた表情をしている。

「選ばれるのは1組のハズだが……」

「お言葉ですがモラウさん、オレたちに出された指令は割符を一ヶ月手放さない事です」

「そしてオレたちへの指示は割符を集めること。両方条件は満たしているぜ」

 ナックルとキルアがそう言い、手に持った割符を見せる。半分に分かたれたままのそれだったが、胸を張った態度にモラウも二の句を告げられない。

 その様子を見ていたノヴがくくくと笑った。

「道理であると認めるしかないですね」

「そりゃ、まあ、なぁ…」

 二人で秘密の賭けをしていたので、この結果には唖然とするしかないモラウ。7人全員が来るが的中したノヴはご満悦で、有り得ないと一笑に伏したモラウはポリポリと頭を掻くしかない。

 しかしそれはあくまで余興である。これから行われるのはプロハンターとしての狩り(ハント)。譲れない一線はあるのだ。

「まあいいだろう、オレの問いに嘘偽りなく答えられたらな」

 ピリリとしたオーラを流すモラウ。それにノヴを除く全員の表情が引き締まる。

「いくらなんでもナックルが話し合いだけで納得する訳がねぇのは師匠であるオレが一番分かっている。

 お前ら、()っただろ。結果はどうだった?」

「オレがゴンとポンズを下し――」

「私とキルアがシュートを倒しました」

 ナックルとユアがそう宣言する。負けた側の3人はやや気まずそうだ。

 それを無視して、モラウがナックルを鋭い雰囲気のまま見やる。

「それでナックル、お前は天上不知唯我独損(ハコワレ)を使わなかったのか?」

「……使いました」

「それにしちゃあゴンにもポンズにもトリタテンが憑いていないみたいだが?」

「…………」

「答えろ」

 モラウの追及に、しかしナックルは口を閉ざす。

 師匠の命とは言えども口にできないことはある。

「……言えません」

「ふ~~ん。そうかい」

 不機嫌そうに言い捨てて、ナックルから視線を外すモラウ。そして残りの6人を威嚇するように視線で嬲る。

「テメェラ、何か言う事は?」

 モラウの問いに手を上げたのはポンズ。それをつまらなそうに見るモラウは聞く。

「なんだ?」

「私の能力を開示するわ」

「――ほぉ」

「能力名は小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)。具現化した小瓶の中にハニーと呼ばれる念獣を作り出す能力よ」

 ブンと音を立てながら、右手に()()を具現化するポンズ。

 ハチミツを入れるようなそのビンの中に、デフォルメされた蜂のような念獣が存在していた。

「ハニーは小瓶の中にいる限り絶大な力を発揮するわ。主には捕食と解析、そして再構成。それは物体も、そしてオーラも含める」

 核心を語るポンズに、モラウとノヴはピクリと眉を動かす。

 そしてポンズは決定的な言葉を口にする。

「ゴンについたトリタテンは私が除念したわ。私は除念師なの。専門家ではないけどね」

 それを聞いたモラウは疲れたような溜息をハァーと吐いて、言葉を続ける。

「合格だ」

「え?」

 パームが驚いた声を上げたのにもモラウは反応しない。

「オレの問いに仲間の情報を売らなかったナックルも、そして仲間の為に己の能力を売ったポンズも、両方とも合格だ。

 オレには文句は付けられねぇ」

 ここまで見事なモノを見せられては、モラウも全員に合格を言い渡さない訳にはいかなかった。

 それを満足そうに見たノヴが言葉を添える。

「会長には我々から口添えしましょう。この仕組みを考えた会長が反対するとは思いにくいですが」

「だよなぁ。クソ、見抜けなかったぜ」

 その言葉を聞いて、ようやく実感がわいた7人の表情にじわじわと喜びがあふれてくる。

 それを加速させるようにノヴが更に口を開く。

「討伐隊になったのならばこの情報も開示しましょう。バハトの無事が確認されました」

「え?」

 それは流石に予想外だったユアとポンズの表情が固まる。

「我々が到着した数日後、キメラアントを討伐する金髪片眼で緋の目を持つ男を確認しました。

 氷の念能力を使った事といい、あなた方が言うバハトに間違いはないでしょう」

「今も元気に暴れているみたいだぜ」

 そう言ってキメラアントの蟻塚の方を見るのはモラウ。そこから少し離れた森の中から砂煙が上がっている。

 場所を確認したノヴが地面に向かって手をかざすと、そこに念空間の出入り口を作り出す。

「とりあえず行きましょうか。どちらにせよ、巣に近づかねば始まりません。女王の延命治療も必要ですしね」

 

 ◇

 

空気醸造法(エアライズ)、解除」

 バハトは纏った空気のパワードスーツから身を解き放つ。そしてキメラアントの残骸だらけである、地獄絵図のようなその場所で一息入れる。

(さて)

 いつもならこれが主目的であるが、今この時に限ってはおまけである。

 ふとそちらを見れば、ノヴの四次元マンション(ハイドアンドシーク)から現れただろう2桁近い人間がすぐ傍にすでに存在していた。

 呆然とキメラアントを残骸に変えた男を見る、バハトの仲間たち5人。それを無視して先頭に立つモラウとノヴに声をかけた。

「何の用だ? 今はキメラアントの掃討が優先だと思うが」

「ハ。残念だが違うね、こちらに接触してきたキメラアントの保護と情報収集が最優先だ」

「おや? 我々の元にはキメラアントの使者が来ましたが、まさかあなたの所には来なかったのですか?」

 厭味ったらしく言うノヴ。それを鼻で笑うバハト。

「そいつらから得られる程度の情報なんてもう持っているから要らないね」

「おやおや、これはまた強く出たものです。流石シングルの情報ハンター、カマも上手におかけになる」

「そうだな、例えば護衛軍の名前か。先日、そいつらを強襲した2体の護衛軍の他にシャウアプフとモントゥトゥユピーがいるとか?」

 その言葉に顔を強張らせるモラウとノヴ。

 ありえない情報がそこに含まれていた。

「この際、護衛軍の名前はどうでもいい。テメェ――」

「――今、なんとおっしゃいましたか?」

 一気に剣呑な雰囲気を纏う2人。その原因となる言葉を、ノヴが繰り返す。

()()()()()()()()()?」

 そのニュアンスではまるで、自分は襲われていないようではないか。

 その言葉ではまるで、強襲したそいつらに興味がないようではないか。

 ハッと気が付いたナックルとシュート、そしてパームがバハトの仲間である5人を見る。そこに浮かんでいた表情は、不信のみ。

「――お前は」

 ユアが、呆然としながら、口を開く。

「ん?」

「お前は、誰だ……?」

「お前らには名乗って無かったか? ボクの名前はバハトという。以後、お見知りおきを」

 真面目くさってそう言う『バハト』に、ユアが一瞬で沸点に達する。

 顔に青筋を浮かべながら激怒のオーラをまき散らすユア。

「ざ、けん、なぁぁぁぁぁ!!

 それは!! バハトは!! 私のお兄ちゃんの名前だ!!」

 ギトギトとした怒りが周囲を満たす。戦闘タイプではないパームなどは既にユアの雰囲気に呑まれている。

 その怒りを一身に受けた『バハト』はほんの少しだけ真面目な表情のまま。

「あひゃ」

 やがて顔をくしゃりと歪めて、笑う。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。

 その異様さに包まれつつも、討伐隊は冷静だった。このバカ笑いをする『バハト』はバハトではない。それは分かる。

 だが、だからと言ってその正体は依然として掴めない。特に数多の念能力を扱うところを見たモラウとノヴはこの男を強く警戒していた。

 それを知らないナックルは、一気に距離を詰める。

「あひゃひゃひゃひゃひゃ……」

「笑い過ぎだ、テメーはよ」

 隙だらけのその顔にオーラを込めた拳を叩きつける。

 同時、『バハト』の背後にポットクリンが現れる。

天上不知唯我独損(ハコワレ)、発動」

「オーラを強制的に貸し付ける能力。利息は10秒1割。潜在オーラを超える量を貸し付ければ破産させて絶にさせる、か?」

 あまりに唐突に己の能力が暴かれたナックルは、驚きに硬直する。その隙に『バハト』はオーラを込めた拳でナックルを殴りつけた。

 その衝撃で唇から血を流すナックル。

「!!」

(しまった!)

 ナックルがダメージを受けたということは、貸し付けたオーラ以上のダメージを喰らったということ。折角の一撃が無効化されてしまった。

 だが、驚きはそれで終わらない。『バハト』は更に踏み込み、ナックルを殴りつける。

 それに衝撃は、来ない。

天上不知唯我独損(ハコワレ)、発動」

「!!??」

 ズ、と。ナックルの背後にポットクリンが出現する。

 驚き、『バハト』を見るも。彼は素早く後ろに下がっていた。そして10秒が経過する。

『時間です。利息が付きます』

 信じられないようなものを見た表情で、ナックルは『バハト』を見る。

 それを確認した『バハト』はまたも心底可笑しそうに笑い声をあげる。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

『時間です。りそ――』

「もういい。消えろ」

 ポットクリンの声が聞こえた瞬間に真顔に戻り、消滅させる『バハト』。

 それを見届けたナックルは、ふつふつふつと顔とオーラに怒りを込め始める。

「テメェ……オレの、能力を――」

「ああ、いい能力だ。少しだけのんびりとはしているけどね」

 余裕たっぷりに言う『バハト』に、ナックルは怒りを込めているが攻撃は仕掛けられない。

 自分の能力が暴かれたのも謎。奪われたのも謎。いや、奪われてはいない。体感でそれは分かった。だが、それならばどうして天上不知唯我独損(ハコワレ)を『バハト』が使えたのか分からない。

 あまりにも不可解な能力発動に、ナックルは攻撃に移ることができない。それはモラウもノヴもシュートも同じだ。

 それらを無視して、ユアが殺意を込めた瞳で『バハト』を睨む。

「もう一度だけ聞くわ。お前の名前は何?」

「ああ? バハトって名前が気に入らないかい?

 じゃあクルタでいいや。クルタ族のクルタ、分かりやすい名前だろ?」

 そう言いつつ、クルタは眼帯をしていない方の瞳を緋に染める。それはクルタ族特有の緋の目に間違いはなく。クルタは間違いなくクルタ族だった。

 だが、謎は何一つ解けてはいない。百歩譲ってここに生き残りのクルタ族が現れたのはいいとして、ソイツがバハトを名乗ったことや、念能力の不可思議さは何一つ解明されていないのだ。もちろんクルタというのが本名だと思うバカはいない。警戒を下げる要因は何一つとして提示されていない。一歩、踏み込むことができない。

 奇妙な静寂が流れた。

「どうして」

 ポツリと呟くのはポンズ。

「どうしてそう笑えるのよ、あなたは?」

「可笑しいからだよ。それ以外にないだろ。

 あひゃ」

 そう笑いを零すクルタに、ポンズは悲痛な顔を向ける。

「可笑しいって……そんなに辛そうに笑うのは、なんでよ」

「―――――」

 今度はクルタの顔から色が抜けた。まっさらな表情で、ポンズを見るクルタ。

「あなたは――貴方は、なに?」

「煩い」

「何を見て、何がそんなに辛いのよ。見ているこっちが痛々しいわ」

「煩いっ! 貴女に何が分かるっ!?」

 己の心を唐突に暴かれたクルタには、先ほどまでの余裕はなかった。憎悪さえこもった顔をポンズに向ける。

 そしてそれはクルタの底をさらけ出していた。それを見逃す程、一流ハンターは甘くない。

「シィ!!」

 一足飛びに上空に跳んだモラウは脳天に巨大なパイプを振り落とす。

「……」

 隠で気配を消したノヴが側面から襲い掛かる。

「!」

 余裕をなくしたクルタは回避することは出来ない。

 パイプの一撃を頭に受けて、側面からの打撃を腹に受ける。

「邪魔」

 そして、冷徹な目で襲撃した2人を見やって言葉を吐いた。

 ダメージは、ない。

 そして脳天に攻撃を受けたせいで数本散った髪の毛が、一気に膨れ上がってクルタと同じ姿形をとった。

斉天大聖(サルノギキョク) 分身の業(オノレワケミダマ)

 モラウとノヴに1体ずつ。ナックルにシュート、パームにも1体。ユアとポンズにも1体。

 そしてクルタ本体と共にゴンとキルアに襲い掛かる分身が1体。

「!!」

 クルタは1人だったという理由で、存在していた余裕が崩された討伐軍は面食らう。モラウとノヴは既にこの能力を見ていたから驚きは少ないが、そうでない面々は驚愕から受け手に回ってしまう。

(隙、作った)

 心の中でクルタはあひゃと笑う。分身の業(オノレワケミダマ)に込められたオーラは多くない上に数でも劣る。機先を制したとはいえ、数秒の足止めが精一杯だろう。

 そうして彼自身が向かうのはキルアの元。オーラを爆発的に解放したクルタに、キルアは一瞬だが確実に硬直した。

「キルア!」

 その様子を間近で見たゴンが叫ぶが、どうしようもない。クルタの分身が捨て身でゴンを足止めしているのだ、どうしようもない。

 襲い掛かるクルタ本体を、目を見開いて見る事しかできないキルア。そしてクルタは、キルアの額にその指を突っ込んだ。

(狙いはこれだよ。イルミ=ゾルディック!!)

「あひゃひゃ」

 笑いながらキルアの額に指を突っ込み、そこに埋め込まれた針を摘出するクルタ。

 ぞるりと引き抜かれた針を持ったまま、クルタは素早く下がって近場にあった太い枝に飛び乗る。

「キルア!」

「キルア、大丈夫っ!?」

 キルアの額からナニカを抜かれたのを見たユアとゴンが声をかけるも、キルアはきょとんとしている。

 いや、それどころか先ほどよりも明らかに爽快な表情をしていた。額からの流血が気にならない程に、キルアは解放されていた。

「なんか――すげー気持ちいい……」

「っ!!」

「クルタ、お前はキルアに何をしたっ!!」

 それを異常ととったゴンとユアは上に陣取るクルタを怒鳴りつける。

 ニタニタとした表情のまま、クルタは己の所業を説明した。

「キルアの呪縛を解いたのさ」

「なっ!?」

「キルアの兄、イルミ=ゾルディックは操作系念能力者だ。針を刺した相手を操作する能力を持つ。

 針をキルアに埋め込み、自分の命令を聞かせていた。例えば強敵と遭ったら逃げろ、とかな」

「!!」

 ポンズに心当たりは、ある。彼女が合格したハンター試験の最終関門、そこでイルミは戦いの後でキルアの頭をポンポンと叩いていた。キルアが豹変して参加者であるゲレタを殺したのはその直後。物証であるその針を見せられれば説得力は確かにあった。

 だが、それは次なる謎を生み出す事となる。

「――お前は」

「ん?」

「お前は、どうしてオレに埋め込まれた針を知っていた? オレもそれを知らなかったのに。

 それにどうしてオレを呪縛から解放させた? お前にどんな利がある?」

「情報ハンター、バハトをなめんなってとこかな?」

「オイ」

「あひゃ」

 ユアの怒りの声を聞き、笑って誤魔化すクルタ。

「それと、利益? そんなものないさ。ただの善意だよ。ぜーんーいー」

「…………」

 信じさせる気の無い胡散臭さに閉口する一同だが、そこで口を開いたのはノヴ。

「操作系は早い者勝ち。つまりキルアが他者に操作されている状態では、完全にキルアを操作することはできないということ。

 お前の目的はキルアの完全操作。違いますか?」

「あひゃ」

 答えず、笑うだけのクルタ。それを見て薄っすらと笑うノヴ。

「答え合わせは後でゆっくりと致しましょう。あなたはもうここから逃げられないのだから」

 自信たっぷりに言うノヴ。それを裏付けるのは周囲を囲む煙。モラウの能力の1つである監獄ロック(スモーキージェイル)。物理的方法での脱出を不可能とする煙の包囲網。

 だがしかし、クルタの笑みは崩れない。

「残念だけど、ひとまずの目的は達した。

 逃げさせてもらうよ」

「出来るモンならやってみな」

「では遠慮なく」

 自信満々に言うモラウに、自信満々に言うクルタ。次の瞬間、クルタはその場から姿を消す。文字通り、まるで存在がなかったかのようにその姿が掻き消えたのだ。

 周囲を警戒する9人だが、やがてぽつりと言葉を零したのはモラウ。

「逃がした、か」

 引っ搔き回すだけ引っ掻き回して、逃げたクルタ。

 全く見えなかった彼の目的に、後味の悪さだけが残るのだった。

 

 ◇

 

「ふぅ……」

 安全地帯まで逃避したクルタは溜息を吐きながら、9人の討伐隊と向き合った重圧から解放されていた。

 自分の謎を全面に出し、相手を躊躇させる。それで隙を作り出し、逃げる。頭が回る人間だから有効な方法であり、キメラアントを相手にはあまり使えない方法だ。

(それになぁ)

 余裕があった訳ではないし、無傷という訳でも決してない。憂鬱になりながら、しかしやらない訳にもいかないのでクルタはポツリと呟く。

悠久に続く残響(エターナルソング)、解除」

 瞬間、襲い来る痛み。脳天がカチ割られるように痛み、腹が抉られるように痛む。

「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 あまりの痛みにクルタはその場でのた打ち回り、悶絶する。

 それは先ほどモラウとノヴから受けた攻撃だった。その場では能力で影響を停止させただけであり、いつか受けなくてはならない痛みだった。

 この能力によって即死する以外のダメージは無視できるが、そのツケはいつか払わなくてならないのである。クルタは痛みで悶絶し、頭を振り回す。

 その衝撃で彼の眼帯がぱさりと落ちた。そこにあったのは、緋の目。しかしそれは彼の緋の目ではない。視力をなくしたその瞳はバハトのそれ。

 瞳に秘めた簒奪者(シークレット・グリード・アイ)転生に備わる贈り物(リバースデイプレゼント)を奪ったバハトの瞳を、クルタが己の眼窩に移植していた。彼が知りえたあらゆる念能力を使えるのはこれが原因である。

 今は苦しむだけの彼。

 その片方の瞳は、どこを見るでもなく虚空に焦点を合わせていた。

 




さて、ここまでお読みいただいてありがとうございます。
私、117は6月よりオリジナル小説に全力を出したいと思います。
つきましては二次創作の方の更新に影響が出るかと思いますが、必ず完結させる気概は捨てておりません。
どうか、気長にお待ちください。
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