殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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心が戻ってきたので、活動を再開します。
ってか081話とか文章ひどいな。
今度直しておきます。

ではでは、久しぶりの投稿です。
楽しんでいただけたら幸いです。


082話 驚愕

 

 モラウの張った煙の結界が晴れていく。内部にクルタが居ないと判断した上での監獄ロック(スモーキージェイル)の解除であった。

 彼の仲間であるノヴはもちろん、弟子でもあるナックルとシュートはその判断に否はない。モラウの能力の事を知っているからだ。しかしゴンたちといった新たに加わった仲間には意味が通じない。どうしてここにもはやクルタが居ないとモラウに分かったのか、その理由が。

 それを理解しているモラウは口を開く。

「オレの監獄ロック(スモーキージェイル)は脱出不能の煙の檻だ。が、もちろん完璧な念能力なんてありゃしねぇ。

 脱出不能なのは物理的な能力でな、3つ脱出可能なルートがある」

「なんでわざわざ脱出経路を作ったの?」

 ゴンの素朴な疑問に嫌な顔をせずに答えるモラウ。

「念の強度を強める為だ、誓約と制約っつうやつだな。こちらが想定した方法以外では脱出できない、それによって物理的に脱出不能の能力にしてんだ。

 続けるぞ。まず1つめ、オレの意識を断つこと。これにはもちろん殺す事も含まれる。監獄ロック(スモーキージェイル)はオレが内部にいなければ発動しない能力だ。その内部にいるオレを排除すれば監獄ロック(スモーキージェイル)は解除される」

「モラウさんが死んで、死者の念になって永遠に対象を拘束する可能性はないの?」

「ねえ。オレが死んだら解除されるという納得の上で発動する能力だからな。監獄ロック(スモーキージェイル)で死者の念が発生することはない」

 最悪のもしもを言うユアだが、顔色を変えずにモラウは答えた。

「続けるぞ。次に除念、監獄ロック(スモーキージェイル)という念能力を無効化されちゃお手上げだ。これは正規ルートじゃねぇが、想定するべき事柄だ。

 ま、監獄ロック(スモーキージェイル)の内部はオレの煙で満ち満ちている。円の役割も果たす全ての煙を除念するっていうのも現実的じゃねぇ」

 そう言ってポンズをみやるモラウ。彼女は肩をすくめて答える。

「そうね、私の小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)では効果範囲の時点で除念は無理だわ」

 そう言うポンズだが、力業である監獄ロック(スモーキージェイル)とは小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)では相性が悪い。効果範囲に収まったとしても除念にどれだけ時間がかかるか分かったものではない。最悪、除念された端から煙を再構成される可能性すらある。ポンズの除念能力は再生能力がある念相手にも相性が悪い。除念が専門ではないとはいえ、穴が多い能力でもあるのだ。

 それらの確認を終えたモラウは最後の1つの可能性を口にする。

「3つ目、オレの監獄ロック(スモーキージェイル)は空間転移する能力を捕捉することはできねぇ。物理に特化した弊害ってヤツだな」

 そう言ってちらりとノヴを見る。その穴の検証を手伝ったのは他ならぬノヴであるからだ。

 締めくくったモラウの言葉を総括するキルア。

「要するにこの煙の檻から脱出するには、オッサンを倒す正攻法と檻自体を念能力で壊す別方法、そして無理矢理抜け気だす裏ワザの3つがあるってことだろ。

 あのクルタってヤツはどうやって脱出したんだ?」

 疑問形にしたのはキルアなりの礼儀だろう。モラウが健在で、煙の檻が解除されていない以上、答えは1つしかない。

 忌々しそうに口を開くモラウ。

「空間跳躍だな。監獄ロック(スモーキージェイル)の内部に満ちた煙のオーラは円の働きもするって言ったろ。ヤツの周囲の煙も同時に()()()。空間ごと居なくなったに違いねぇ」

「能力の相性が悪かった、とは言いたくありませんがね」

 そこで口を挟むノヴ。

「分身する能力、空間転移能力、キメラアントを操作する能力。あの男が所有する能力は数多く、そして節操がない」

 ノヴが口をした能力だけでも系統がバラバラである。そもそも分身する能力は具現化系で、空間転移の能力は放出系に多い。系統からして滅茶苦茶である。

 このような能力者のパターンなど限られている。

「答えは1つ、特質系で他者の発を利用するパターン。それしか考えられません」

「……バハトに聞いた、クロロと同系統の能力か」

 キルアの声にぴくりとナックルが眉を動かした。

「ちなみにそのクロロってヤツとクルタが同一人物って可能性はねーのか?」

「ないわね。クロロは幻影旅団のリーダーでゴンとキルアは顔を合わせたし、私も遠目で見たわ。根本的に違う男よ」

「幻影旅団のリーダーの能力も把握していたとは、バハトとやらは本当に優秀だったのだな」

 感心したように言うシュートに、ふんすと自慢げに息を荒げるユア。

(幻影旅団の団員を捕らえ、情報を全て引き出し、始末したとかいう話でしたね。シングルの称号に不足なしと思ったものです)

 ノヴは心の中で思う。もっとも、その偉業を為した男は現在、生死不明なのであるが。

 そして真近に聳え立つキメラアントの巣を見上げる。もしもバハトの情報があるならばここだろうとも思う。逆にここでバハトの情報が手に入らなけらば、おそらく彼は永遠に行方不明だろうとも。

 無事であることを祈らないほど、ノヴは無神経な人間ではない。だが、その可能性を否定してしまえる彼の頭脳の明晰さが今だけは疎ましかった。

「無駄な時間を使ってしまいましたね。女王は瀕死らしいですし、早く救命措置に入りましょう」

 そう言ってキメラアントの巣に足を向けるノヴ。彼を守るようについていく一同。

 女王の救命チームはノヴの念能力で移送する手筈だ。他の面々の仕事はノヴの護衛が第一となる。

 その中でポンズだけがキメラアントの巣に入っていかない。少しだけやることがあるのだ。

「え…っと。あったわね」

 見つけたのはクルタの髪の毛。彼が分身を作る際に利用し、打ち捨てられたそれをポンズが回収する。

小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)

 掌に小瓶を具現化し、その内部に髪の毛を投入。そしてそれをハニーに解析させる。

 クルタは数多の念能力を持つらしい。ならば、こちらの姿形を真似られる可能性もあるだろう。そうされた時も、遺伝情報さえ解析しておけば敵に気づかれないうちに仲間内への侵入を察知できる。

 ポンズとしてはその程度のつもりでクルタの遺伝情報を入手したつもりだった。

『遺伝情報、合致しました』

 驚きで絶句し、ポンズの目が大きく見開かれる。

(ありえない)

 それがポンズの感想だった。ポンズが念能力に目覚めてから経過した時は1年ちょっと。その間、遺伝情報を解析した相手は百にも満たない。故にポンズは誰の遺伝情報を入手したのか、間違いなく覚えている。

 だから本来はありえないのだ、既にポンズが見ず知らずのクルタの遺伝情報を持っているなんてことは。

 しかし、だが。ポンズの収集した遺伝情報とクルタが合致した。一卵性双生児であればありえる程度の分析情報だが、合致した相手もありえない。

(あなたは――)

 固まったまま、ポンズは大声で叫びたかった。

 何故だ、と。

 何があった、と。

 何でなのよ、と。

 どんな過程があったか、それはポンズには分からない。けれども分かる事もある。

(緋の目に為った時、クルタ族は強力な特質系になる)

 バハトから聞いた話である。どんな代償を払ったのかは分からないが、クルタと名乗った青年は己の全てを懸けてその能力を開花させたに違いない。命程度はもちろん、それ以上の代価を払っている、そう考えるのが妥当だ。

『遺伝情報一致率、98%以上。この遺伝情報の持ち主は レント です。

 年齢・20歳 性別・男性 オーラを分析・特質系』

 未来から時間を逆行する。そんなとんでもない能力を発露するなんて、どれほどの代償が必要なのか。

 今のレントが赤子である以上、クルタの正体は未来から来たポンズの息子であるレントである。そう結論付けざるを得ない。SFでよく見る陳腐な設定だ、未来から悲劇を回避する為に過去に跳ぶなんて話は。しかしそれが現実に表れた時、あまりの展開に頭がついていかない。

(いや、待って。落ち着きなさい、私)

 常識的に考えれば未来から一人の人間から過去に現れるなんてありえない。クルタが未来から来たレントであるという結論に達するよりも、クルタが何らかの方法でレントの遺伝情報を擬態しているという方がありえる話である。シングルハンターであるバハトの防御網をすり抜けてレントに接触する方が、まだ現実味がある話だと云えた。

(だけど――)

 そう、だけれども。クルタを見た時に感じた、あの他人とは思えない感覚。産んだばかりのレントが急に大人になって目の前に現れたと考えればしっくりきてしまう。

 理屈ではクルタはレントの皮を被った敵対者。感覚ではクルタは大きくなったレント本人。自己感覚の矛盾にポンズは大きな眩暈に襲われる。

「ポンズさん?」

 びくりとポンズが震えた。かけられた声の方を向けば、そこにはひょっこりとキメラアントの巣から顔を出したユアの姿が。

「どしたの?」

「な、何でもないわ」

 動揺しつつ、しかしまだ知った情報を表に出す段階でもない。ポンズは何かあったと言わんばかりの動揺を表に出しつつ、ユアに向かって歩き出す。

 それを見たユアは訝しそうな表情を浮かべたが、すぐに感情をフラットに戻して先へ進む。

 良いか悪いかは別にして、ここにバハトの情報がある可能性が高いのだから。

 

 ◇

 

 女王が死んだ。

 最期まで息子を愛し続けた母親であった女王は、希望の名を息子に遺して逝く。その巨大で無垢な愛情に、その場にいたハンターたちは打ちのめされていた。

 確かに女王はヒトを喰らう敵対者であった。だがしかし、血も涙もない悪魔ではなかったのだ。生物として当たり前の母親でしかなかったのだ。

 ハンターとなれば、なおその理屈には納得がいった。ヒトに害為す生物はキメラアントだけではない。むしろシーハンターやビーストハンターなんてやっていると、人間を捕食する生物なんて普通である。そういう意味で、女王に同情して感涙に咽ぶ彼らは確かにハンターとして甘いといえた。そしてその甘さが心地よいのも、また事実。

(…………)

 女王に黙祷を捧げるポンズの心境は他者に比べて複雑である。一児の母でありながら、もしかしたらその息子がその人生全てを代償にする念を発動した可能性すらあるのだから。母の愛を第三者的に見た今だからこそ、複雑としか言いようがない心境であった。

「ねえ、ノヴさん」

「?」

 少しだけ落ち着き、そしてそれ以上に心揺さぶられたポンズは念の先達に問いかける。

 果たして未来から過去へ時間逆行をすることは可能なのか。もしも可能なら、代償は如何ほどになるのか。

「聞きたいのだけど、過去の改竄なんて念能力はあると思う?」

「…」

 ぴくりと反応するノヴ。そしてポンズのただならない雰囲気を感じ取り、周囲からさりげなく距離を取るように指示を出した。モラウたちが女王の胎から取り出されたもう一人の子に注目されている隙に部屋の隅に行く。2人は部屋の中に居て、なおかつ周囲に話し声も届かない絶妙な場所を得る。

「まずは、その唐突な疑問はどこから出ましたか?」

「…………」

「それを聞かなければ、貴女の納得できる答えを出せるとは思いませんが」

 ノヴの至極真っ当な言葉に、ポンズは意を決して口を開く。

「私の念能力、小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)は解析の能力よ」

「…………」

「クルタの遺伝情報を解析した結果、そのDNA情報が私の息子であるレントのものと一致したの」

「……なるほど」

 ノヴの頭の回転は早い。確かにレントの遺伝情報を擬態するというのは考えにくい。NGLからヨークシンは遠く離れている上に、そもそも赤子の遺伝情報を擬態する意味も薄い。ならば唐突に現れた男が未来から来たポンズの息子だと疑いたくなる気持ちも分かる。

 だがしかし、その上でノヴは首を振る。

「残念ですが、時間跳躍を可能とする念能力の存在は私も聞いたことはありません。しかもクルタの歳を考えれば10年以上の未来から来ている計算になりますね?」

「解析した結果、肉体年齢は二十歳だったわ」

「そんな超長時間の時間跳躍は現実的ではありませんね」

 そう言い、しかし続けてノヴは口を開く。

「ですが、有り得ないとは言えません。時間に干渉する能力の話は聞いたことがあります。

 最近ですと、マフィアのノストラードファミリーに未来予知を可能とする念能力者が居たとか」

「! ネオンちゃん!」

「……お知り合いで?」

「ええ。その念能力を失って父親に虐待を受けるところをバハトが保護したと聞いたわ」

「まあ、いいでしょう」

 何か言いたそうな表情をしたノヴだが、すぐに切り替える。

「ここで重要なのは、念能力ならばおそらく過去に回帰することも不可能ではないという推論が成り立つというものです。おそらくは特質系に限定されるとは思いますが……」

「クルタ族は、緋の目が発現した時に特質系になる。そしてレントはクルタ族よ」

「最低限の条件は整っている、とは言えますね。狙って特質系に為れるとは出来過ぎた話だとも思いますが。

 しかし問題はその代償」

 ノヴの言葉にポンズの瞳が鋭くなる。

「何を捧げればいいと思いますか?」

「最低限、自分の存在の否定」

 レントが、自分の息子が己の存在を否定した。可能性だけとはいえ、それを突きつけられてポンズはふらりとよろける。

「当然です。数秒という時間や、現在から見た未来の変革ではない。既に過ぎ去った過去を変えようとするとは、それを構築する己自身をも否定することと同義です。

 念は、発は。云わば我の現実化。『こんな自分は要らなかった』と心から思わなければ過去へ戻る資格すらない」

「そ、んな……」

「更に歴史を変革する程の代償をその身一つで支払う必要がある。世界全ての否定も同時に行わなくてはならない。理論上ありえないと思う所以です」

 聞けば聞くほど絶望的な話だ。ポンズはへたり込みそうになるのは必死になってこらえる。

 もしもそうだとするならば、過去に回帰する者の絶望は如何ほどだろう。どうすればそこまで壊れた上で丈夫にならざるを得ないのだろう。

 心が千切れかけたポンズ。そんな彼女の肩に軽く手を置くノヴ。

「だから、心配しなくていいでしょう。クルタはレントの遺伝情報を擬態しただけの敵である可能性が高いのですから」

「…………」

 ノヴの軽口に、しかし曇った表情を見せるポンズ。そんな彼女を見てノヴは自分の言葉がほとんど役に立たなかったと悟る。

(まあ、口から出まかせですからね)

 ノヴは、クルタが未来から来たレントであるとほぼほぼ確信していた。根拠は2つ、タイミングと存在の不可思議さである。

 タイミングとしては、どうして()なのかという素朴な疑問だ。クルタが二十歳だとして、二十年の時を無視して()である理由。

(おそらくは、バハトとポンズの死)

 NGLで両親が死んだとしても、ヨークシンにいるレントが死ぬことはない。そのレントが過去を改竄したいと思うならば両親の死が最も可能性が高そうに思える。

 もちろん両親の死程度で過去を改竄するだろうと思う程、ノヴは感傷的ではない。両親を失った人間なんて飽きるほどいる。そんなありふれた悲劇だけでは世界を否定するような気概が持てるはずもないというのがノヴの見解だ。そして今という世界にはもう一つターニングポイントがある。

(そしてそれによるキメラアントの種としての確立。人間の隷属化)

 おそらく。人間はキメラアントに敗北するのだ。

 クルタはその世界線からやってきたと考えれば『世界の否定』にも納得がいく。餌と成り果てた人類の尊厳の回復、それを旗印に掲げれば何千万何億という人間が命を捧げるだろう。

(自ら命を差し出した他者の命を搾取して、オーラに変換する能力ならどうだ? 何億という人間のオーラを使えば一人の人間を過去に飛ばすことも可能ではないのか?)

 考えるが、スケールの大きすぎる話である。ノヴの考えも想像の範疇を出ない。可能な気もするし、有り得ない気もする。こういう場合は両方の可能性を捨てないことが大切だ。

(そうと仮定すると、我々は王と護衛軍に敗れることになる。クルタの持つ情報とその存在自体の重要性は上がる一方だな)

 そう、もう1つの根拠はクルタの存在だ。このNGLに何の脈絡もなくクルタ族が現れるというのは普通ではない。そもそもNGLとクルタ族に何の関わりもないのだから。

 だが、バハトとポンズの子が現れたと考えれば理屈は通る。2人の子がたまたまクルタ族だっただけであり、クルタ族であるという意味はそれ以上ではない。

(となれば、バハトはクルタに保護されていると考えるのが道理か?)

 

「じゃあ、お兄ちゃんはここにいるのね!?」

「カイトも無事なんだよね!?」

「無事、とは言えないかもしれないな。ネフェルピトーによって操られている男が2人いるが、アレを無事と呼んでいいものか……」

 

 聞こえてきた声がノヴの予想を裏切ることに、彼は舌打ちを隠せない。クルタがレントだったら、父を見捨てはしないだろうという予想が当たらなかった。護衛軍2体を相手に助ける余地がなかったのかも知れないが、無事と呼べない状態を看過したことは事実。

 クルタがレントでなかったとしたら、その存在は完全なるアンノウン。目的も何もかも全く見えない。

(どちらにせよ、厄介なことに変わりはありませんね……)

 両方の可能性を捨てずに、ノヴはひとまずバハトの様子を確認するべく走り出したユアとゴンの後を追うのだった。

 

 

 

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