俺の集めたプレートはトミーの122番と、エリリの5番。この2つはそれぞれ俺とゴンのターゲットであるため、俺自身のプレートと合わせて9点分の得点を抱えていることになる。
問題は俺をターゲットとする者が誰か分からないことだが、これはまあ仕方ない。絶を追える者など念能力者でもそうそういない。1週間遭わなければいいと考えて、それ以上の思考を放棄した。
『マスター、こちらでも受験生を発見しました』
『助かる』
そして百貌のハサンのこの便利さよ。エリリを文字通りに狩って初日は休むことにしたが、俺の身辺警護に3体、他はゼビル島中に放って索敵させたが、ヒソカを始めほとんどの受験生を発見しているのだから恐れ入る。発見した受験生に憑けて、俺や仲間たちに接近したら知らせることにしていた。
こうした諜報活動には向いた百貌のハサンだが、その代償として分裂した後の個体は全く強くない。試しに俺が戦ってみたが、百貌のハサンの攻撃は俺の堅を全く貫けず、勝負にならなかったのだ。
攻撃が通じないと理解した百貌のハサンは影に隠れ、四方八方から攻撃をして、しかも気配遮断のスキルで位置を悟らせない。10分程度かけてようやく1体を制圧した段階で、俺がギブアップした。勝負にならず、俺の完敗である。あの数の暗殺者に24時間狙われて、場合によっては毒も使われるとなるとぞっとする。正面突破には念能力者と相性が悪かろうが、それで終わらないのが暗殺者の恐ろしいところである。っていうか堅の使用可能な時間を考えると、持久戦に徹すれば百貌のハサンの勝ちだ。数は力とはよく言ったものである。
とまあ、そんな話はさておいて、百貌のハサンは真正面から単体で戦えばヒソカやイルミに勝てる道理はないのは理解して貰ったかと思う。下手すれば受験生にも負けかねない。百貌のハサンにも個体差があるから、弱い奴は本当に弱いのだ。なので基本的に情報を集めるのに使い、戦闘はさせない。
そして休みながら集めた情報を統合すると、受験生の多くは敵に捕捉されないことを目的に動いているようだった。何人か倒された受験生も見つかっており、ハントを成功させた受験生もチラホラいるらしい。狩る気がある受験生とプレートを守りに入っている受験生の区別はつくらしいので、2枚のプレートを持っている受験生を選んで襲うことも可能そうだ。
明日にはクラピカたちに合流するように動くつもりだが、手土産ついでに少し得点を集めてもいいかも知れない。
『マスター、キルアを見つけました』
お、キルア見っけ。これで全員見つけた。っていうかキルア凄いな、見つけたのは結局最後かよ。これは俺が場所を見つけられると楽に言ったのがムカついたのだろうな、本気で姿を隠しやがった。この分だとイルミが本気で姿を隠したら更に手間だっただろう。絶を使われたら見つからないかも知れない。
とにかく島にいる受験生を全部把握した。サーヴァントを警戒に当たらせているし、とりあえずは安心していいだろう。
俺はゆっくりと休むのだった。
明けて翌日、朝日を浴びて大きく伸びをする。
百貌のハサンは常時発動型の宝具を使用しているとはいえ、霊体化している今ならば俺に負担はそこまでかからない。俺だって成長しているし、少なくとも1週間ならば余裕である。
集めた情報によるとヒソカは動きを見せる様子はない。トリックタワーで受けた傷を回復させるのに専念しているようで、動くのは後半になりそうな雰囲気である。
ゴンは釣り竿の素振り中に、背後から襲ってきた受験生と戦いになった。だから何やってんだ、ゴン。襲われる可能性を想定しておけ。
結果を聞けば受験生はゲレタではなく、ゴンが勝ってそのまま相手を見逃した。だ・か・ら! 何をやっているんだゴン!! 仲間にプレートが必要なのは分かっているだろうに、何故プレートを回収しない。しかも五体満足で返すとか、また襲ってくるに決まっているだろ。案の定その受験生はゴンの近くで回復を図りつつ、再びゴンを襲う隙をうかがっているらしい。強化系バカの悪いところが全面に出てしまっている、おそらくゴンにはヒソカのプレートを取る事しか頭にないのだろう。
1回痛い目を見るべきだと判断した俺はひとまずゴンを無視し、適当な受験生に目星をつけてそのプレートを手土産にするべく島を駆ける。クラピカたちとの間にちょうどいい位置にいた受験生を標的にして、絶を利用した奇襲をかけた。
「がっ!」
奇襲なのに声をかけるなど、そんな無駄なことはしない。一撃で意識を刈り取り、プレートを漁って奪う。っていうかこいつ……。
「やっぱりアモリか」
でてきたナンバーは200。図らずもレオリオのターゲットゲットである。ついでに79のナンバープレートもゲット。狩りが終わった受験生は、1点が欲しい俺にとって美味しいカモである。
……俺1人で仲間の得点を10点も稼いでしまったんだが、これプレートを受け取る方は評価的にどうなんだろう。まあ、手に入れたプレートを守る必要もあるし、そこで評価してもらうしかないか。
楽になるのはいい事だと思い、俺は3人の仲間たちの元へ駆けるのだった。
クラピカ、レオリオ、ポンズは順番に警戒しつつ、夜を過ごして朝食をとっていた。
ここでも仲間で組むメリットがある。独りならば一週間、昼も夜もなく警戒しなくてはいけないが、数がいれば完全な休養時間が取れる。これは長丁場では無視できないメリットであった。
「誰も襲ってこねーし、誰も見つからねーな」
レオリオがぽつりと呟く。
「こちらは数がいるからね、当然よ」
「この中でレオリオは私のターゲットだ。それが重複するはずはないから、必然襲いくる相手の狙いは私かポンズになる。もしくは1点狙いか」
「……そうか、俺たちは3人で行動している。つまり俺たちを襲えば一気に3点手に入る、ターゲットであるかどうかは関係ない」
数が多すぎるデメリットの1つである。自分に絶対の自信がある強者などは彼らは狙い目になってしまう。それを返り討ちにしようが、得られる得点は1点なので旨味もない。
そして他にも襲われる可能性は存在した。
「後は試験後半、プレートを失った受験生が襲ってくる可能性は高い。3人もいればそれなりにプレートを持っていると相手は考えるだろう。
我々は後半まで戦い抜くマラソンマッチを強いられているのだ」
「かぁ~、マジか。やっぱり簡単な攻略法なんてないって事かよ」
「当り前じゃない。だからここまで、私たちの痕跡があるところにはトラップを仕掛けているわ」
考えられる可能性をあげていくクラピカに、げんなりするレオリオ。更にそこに考えが至ってなかったのかと、呆れながらポンズが補足する。
「ここまでしても、合格に足らない点数しか集まらなかったら仲間うちで争いが発生するのよ。
この共同戦線で一番秀逸なのは6日目に設定された決闘システムね。少なくともそれまでは仲間同士で争いが起きる可能性は最小限に抑えられるわ」
「そうならないように、我々は試験の前半から中盤にかけてなるべく多くのプレートを集めなくてはならない。この中で最も決闘する可能性が高いのが誰かくらい、分かるだろう」
そういってレオリオを見るクラピカ。クラピカのターゲットがレオリオである以上、クラピカがレオリオに決闘を挑むのは至極当然である。
それを真正面から受けて睨み返すレオリオ。彼とて合格を諦める気は毛頭ない。チリと空気が張り詰めた。
「そうならないようにプレートを集めないとね。私のプレート3枚に、クラピカのプレート3枚、それからレオリオのターゲットのアモリ。計7枚も集めなくちゃなんだから、無駄にしてる時間なんてないわよ」
ポンズが呆れたようにそう言って緊迫した空気を霧散させる。まだ、同士討ちを始めるには早い時期だ。
「それ、ゴンには期待してないよな」
彼らの後ろから俺が言った言葉に全員が驚いて戦闘態勢を取る。
警戒はしていたのだろうが、それを抜けてきた俺に反射的に武器を向けたのだろう。声をかけたのが俺だと分かると、安心した様子で武器を下した。
「バハトか、驚かさないでくれ」
「油断する方が悪い」
『マスターは人のこと言えませんよね』
『やかましい、俺はサーヴァントがいるからいいんだよ』
クラピカの安堵の言葉を聞きながら、警護に当たらせている百貌のハサンの茶々を受け流した。
とりあえず俺も話し合いの場に加わる。
「戦果は?」
「良しだ。見てくれ」
奪ってきたプレートを広げる。5番、79番、122番、200番。4枚のプレートに全員の目が丸くなる。
「俺のターゲット! 回収できたのか!」
「ああ、アモリは79番のプレートも持っていた。他の2人はいなかったから、おそらくは別れてそれぞれのターゲットを狙っていたところだったんだろう。
ちなみに122番は俺のターゲットだ。ついでにゴンのターゲットも集めておいた」
っていうかどちらかというと他がついでで、エリリを仕留めるのが本命である。
「……一応聞いておくけど、ゴンがヒソカに返り討ちに遭ったら5番のプレートは他の5人で分けていいのよね」
「ああ、そうなるな」
ポンズが薄情なことを言うが、責める視線を送るのはレオリオのみ。クラピカは考えても仕方のない事だと思っているみたいだし、俺は原作を知っているから殺されることはないと思っている。
まあ、そこまで話が進むのにも6日目を待たなくてはいけない。その話は今掘り下げなくていいだろう。
俺は200番のプレートをレオリオに渡しながら話を続ける。
「アモリは行動不能にしていない。おそらくは次にこちらを兄弟全員で襲ってくるだろう」
「こっちにプレートが渡っていると知らないのに、こちらが狙われるのか?」
「姿を見せてないからな。誰が奪ったのかわからないとなれば、1点のプレートを6枚集める作戦に出る。
そこを返り討ちにして、あの兄弟のプレートを全部巻き上げてやれ」
黒く笑う俺にクラピカはなるほど頷くが、レオリオとポンズは少し引き気味である。
「だが、後がない奴らは万全の状態で襲うだろう。また、こちらがプレートをため込まなくては意味がないから、襲ってくるとしたら終盤か」
「なら罠を仕掛けるのには絶好の機会ね。私は拠点防御に全力を注ぐわ」
クラピカの言葉にポンズがやる気を出す。襲ってくると分かっているのならば、罠を得意とする彼女の専門分野だ。
「まだ得点が足りないから、俺はもう少し島を巡って受験生を狩って来よう。本当にアモリたちが来るかも分からないしな」
言って、クラピカに79番のプレートを。ポンズに5番のプレートを渡す。
「もしもゴンが首尾よくヒソカからプレートを回収したらポンズが交換してやってくれ。上手くいけば後2点で全員合格だ」
「キルアの心配はしなくていいの?」
「あいつは心配するだけ無駄だと思うが」
話題に出なかったキルアに対しての疑問をポンズがあげるが、トリックタワーでの一幕を思い出してレオリオが青い顔で答える。
人情味がある彼には珍しい語調だが、あの光景を見せられては仕方がないというもの。俺とクラピカは苦笑する。
「まあ、見つけたら様子を見ておこう。俺が6日目までに何回戻るかは不明だが、そっちでも点数は確保しておけよ。ゴンがヒソカからプレートを奪えないと思っているなら尚更な」
そういって俺は立ち上がる。百貌のハサンがいる以上、その場に留まるメリットは俺にはない。常時全ての受験生が監視できている現状、点数が足らなくなったら適当な受験生を襲えばいいだけである。
そのまま3人から離れ、誰にも見つからない位置まで移動して経過観察に移るのだった。
その後の流れは原作と大きく変わらない。
キルアは既にバーボンを仕留めていたようで、試験の目的が俺に見つからないことにシフトしていた。バーボンの蛇は毒を最大の武器としているが、それはゾルディックとあまりに相性が悪い。なんなく奪えたのだろう。
俺に見つからないようにする為に本気で動いたせいでキルアを追う受験生も彼を見失ったらしく、ほぼキルアは安泰と思っていい。っていうか、俺もサーヴァントがいなかったら発見できる気がしない。さすがはゾルディックの寵児だ、絶も使わずに念能力者から逃げ切るとか普通じゃない。
次いでゴンだが、ヒソカが哀れな被害者を襲うのに合わせてプレートを奪うことに成功。そして逃げ出した直後、一度見逃した受験生から奇襲を受けてマウントを取られてしまう。
だがまあ、なんというか。ヒソカの近くでそんな暇なことをすんなと言いたい。本人たちは十分離れたつもりなのだろうが、ヒソカには普通に捕捉されていた。そもそも戦闘音はもちろんとして、戦いで発せられる殺気に酷く敏感な男である。
あっさり追いついたヒソカが投擲したトランプによってゴンを襲撃した受験生を殺し、ついでに助けられてプレートも渡すという情けをかけられたゴンが襲い掛かるも顔面ワンパンで撃沈させる。ゴンに自分という存在を強く意識させてその場から立ち去っていった。
この時点でのヒソカは4点。あと2点集めなくてはならないが、適当に島を巡っていたうちに見つけたのがなんとクラピカたち3人。ちょっと焦ったが、ポンズが加わったとはいえここはもしかして例のシーンではないかと思い、傍観に徹する。
彼らが持つプレートの中で、ヒソカのターゲットの可能性があるのはクラピカかポンズのプレートのみ。それを隠していけしゃあしゃあと、『誰のターゲットかわからないプレート』として79番を取引に使うクラピカは流石の一言だった。ヒソカはその嘘に気が付いているのかいないのか、あっさりと取引を呑んで79番のプレートと引き換えにクラピカたちを見逃した。その場所は拠点としてそれなりに罠を設置していたが、ヒソカから離れる方が重要なのは言うまでもない。より見つかりにくく、罠を仕掛けやすい場所を探して移動を始める3人。
ゴンといい、クラピカといい。目をかけた獲物が瑞々しく成長する様を見たヒソカは、まあ、表現するのがアレな表情になって更なるプレートを探す。誰が見つかるかは知らないが、ご愁傷様としか言いようがない。
一方、得点的に一歩後退したクラピカたち3人だが、ここでポンズが自分たちの足跡をより残すことを提案。現状、張り付かれている可能性は低く、ならば痕跡を残してそれを追ってくる相手を仕留める方がいいという作戦に出たのだ。ヒソカには罠が通じなかったが、あれはヒソカがヒソカだからである。他の受験生になら通用すると主張し、その作戦を採用。
結果、アモリの失ったプレートを補完するべく動いていたウモリと、キルアを見失って3点分のプレートを探していた受験生、ついでにプレートを失った受験生2人を仕留めた。ウモリはターゲットを仕留めていた為にこれで3点が集まり、クラピカかポンズは合格点に到達。この時点では彼らに知る由もないが、ゴンもヒソカのプレートを持っているので全員が合格ラインに達することができた。
ボッー!!
汽笛の音がなり、試験終了のアナウンスが流される。
集合場所には続々と合格点を集めた受験生たちが集まってきた。
「…………」
「いい加減、機嫌直せよキルア。俺が持つ情報ハンターの意地が勝っただけだろ?」
「だからムカつくんだろーが!」
「っていうか、バハトはキルアを落ち着かせる気があるのかな?」
「……落ち着かせる風を装って、キルアをからかっている感じはするな」
ちなみに6日目にはしっかりキルアと対面して、全員の元に彼を連れて行ったのだ。百貌のハサン万歳。
そして全員が集まった6日目には、おおよそ敵対者といえる者はいなくなっていた。この時点で合格ラインに届いた者か、脱落して他人を襲う余裕がなくなっている者しかいなくなっていたのだ。
とはいえそれを知るのは俺1人であるし、警戒は必要だと認識しているクラピカやポンズから6人での団体行動が提案された。もう点数を集める必要がないなら機動力は必要なく、この切羽詰まった状況で点数の足らない者同士が何人も手を組むとは考えにくい。ならば数の優位を生かすべきだと結論がなされたのだ。
そうして円満に期限を迎え、四次試験合格者が決定。
バハト、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ポンズ。
ヒソカ、ギタラクル、ハンゾー、ポックル、イモリ、ゲレタ。
以上の12名、最終試験への参加権を得る。