書けるだけ書いて、投稿していきます。
感想とか高評価とか、やる気が出ます。いつも本当にありがとうございます。
それから前回は誤字が多かったみたいでゴメンナサイ。訂正、いつも助かっています。
レントからの情報は間違いなく有用だった。
『宮殿の中にいる師団長級のキメラアントは5匹。
オオカミのキメラアント、ウェルフィン。ザリガニのキメラアント、ブロヴーダ。チーターのキメラアント、ヂートゥ。ライオンのキメラアント、レオル。そしてトカゲのキメラアント、ルーザー。
このうち、トカゲのキメラアントであるルーザーがボクの操作下にある』
『王が師団長級以下の前に顔を出す事はなく、師団長級以下との対応は全て護衛軍がやっている。これには既に主従関係が存在しないことと、そして王がそんな些事の対応をする気がないことが原因だろうね。
主に師団長級とコミュニケーションを取るのはネフェルピトーとシャウアプフ。トトルゥトゥトゥとモントゥトゥユピーは話が出来ない訳ではないみたいだが、話す事がないから会話がないらしい。
師団長級は王と護衛軍に屈服している体だから、不思議ではないけど。目下が目上に気軽に声をかける訳にもいかないだろうし』
『師団長級以下のキメラアントは護衛軍の命令には絶対服従だが、命令自体がほとんど出ない。それに出るとしても大したことない仕事ばかりだ。師団長級のキメラアントでも雑用兵程度にしか思っていない。
王や護衛軍でないキメラアントたちは宮殿の1階を思い思いに過ごしているだけみたいだ』
レントの言う通り、彼は支配下にあるキメラアントを1体宮殿に潜り込ませることに成功している。それによって師団長級以下の行動は完全に割り出せたと言っていい。
だが、それは護衛軍も織り込み済の話だろう。操作されているか否かに関わらず、師団長級以下のキメラアントは味方とも仲間とも思っていない。故に核心的な情報には一切近づけない。
このケースで言えば、2階以上を王と護衛軍のパーソナルスペースとして、そこには全く触れさせることがない。
ポンズは知る由もなかったが、この時点で王は暇つぶしにボードゲームに興じている。その情報すら師団長級以下にほとんど降りてこない。囲碁や将棋などの東ゴルトー共和国の国内王者と対戦し、蹴散らして無聊を慰めているという情報さえ統率しているのだから念の入れようは筋金入りだ。それはともかく、その暇つぶしだけで王の才能が研磨されていくのだから、やはり彼の才能は珠玉という言葉では足りないのだろう。
王の情報は完全に隠し通す辺り、護衛軍が王に対する気遣いはいっそ病的だとも言えた。
(…………)
『それで、討伐軍の侵入方法だったっけ。
レントの言葉にピクリと体を動かすポンズ。現状、最大の難関とも言えるその問題を解決する糸口を掴めたのだ。
言うまでもないことだが、レントはバハトの緋の目を継承し、知りえた全ての発を扱うことができる。そして操作しているキメラアントを宮殿に送り込めている以上、取れる手段はある。
例えば
だがしかし、レントが討伐隊に参加することはない。
『もちろんその手段を取るつもりはないのは分かっていると思うけど。
ボクは討伐隊と協力するつもりは一切ない。史実上失敗した相手と組むなんて絶対にゴメンだ。全員が全員、ボクの命令を聞いてくれればいいけどさ』
それは無理だろう、とポンズは思う。ゴンやキルアにユアだけならともかく、他の面々はプロハンターとして実力とプライドを兼ね揃えている。突如出てきた馬の骨の言う事を、ハイそうですかと聞く訳がない。
せめて未来からきたレントの事を説明できればいいが、レントの名前を呼ばれてたら致命的な以上、やはりそれも難しい。名前さえも明かせないのならば、未来の情報を取られるだけ取られて信用されないのが関の山だ。ポンズはともかく、レントは心底そう思っている。レントの事を未来から来た息子だと確信しているポンズがむしろ例外である。
『けれどもまあ、心配は要らないけどね。ネフェルピトーの円が解かれるチャンスは恐らくやってくる。
ノヴが潜入し、出口の設置もやり遂げるだろう。
ま、できなくてもそれはそれでいいけどさ』
既に知りえた未来は、起こるかも知れない未来にすり替わっている。ボタンを一つ掛け違えただけでどう転ぶか分からない。
例で言えば、護衛軍にはトトルゥトゥトゥという不確定要素もいる。ノヴが侵入できたとして、トトルゥトゥトゥと鉢合わせて殺される可能性は皆無とは言えない。
それは明日以降に悩めばいいだろう。今は今に集中しなくて、明日まで命があるとも限らない。
『ボクの方で戦場も確認している。
キメラアント側は、ライオンのレオルとチーターのヂートゥが出陣して、ヂートゥと共にモラウが姿を消した。ただし
レオルは様子を窺っているけど、動く気配はない。ケイタイで誰かと連絡を取り合っている。アリ同士ならテレパシーが使える範囲だし、相手は護衛軍だろうね』
これで影から情報を集めているという最低限のアリバイがポンズにできた。戦場を監視できる能力というのは貴重であり、これからはその方向で立ち回ることもできるだろう。
「……もう少し様子見、かな」
『了解。母さんは討伐軍の中で実績を積み上げてくれ。ボクがフォローをする』
ぽつりとポンズが呟き、それはユアとレントへ届く。レントはポンズの代わりに情報を集め、ユアをこの場に繋ぎとめる。
討伐軍の最大目標は、ネテロ会長が王との一騎打ちをする場面を整えることである。それには情報と戦力の両方が必要不可欠となり、その意味でポンズは骨身を惜しむつもりは毛頭なかった。必要とあれば、レントの能力で得た情報をあたかも自分で得たかのように討伐軍に流すことさえも。
一方でユア。彼女は動きのないポンズをひたすらに見張っている。
(
表に出したハニーがどのような能力を持つのかはユアには分からない。仮にハニーが意思の疎通を可能とするならば、ユアには知られないようにクルタと情報交換をしていても不思議ではない。そうだとしたら、ポンズ本体を見張る意味はない。
(ちっ)
ユアは心の中で舌打ちをする。裏切り者が慎重になるのは当然であるが、この調子ならばポンズから情報を抜くことは難しいかも知れない。ユアの能力で真実を吐かせることは可能かもしれないが、それはユア自身の能力も多く暴露してしまう。
情報を抜き出した直後にポンズを殺せるならば話は違うかも知れないが、場合によっては討伐軍やクルタにユアの能力がバレかねない。それはユアとしてもゴメンであった。
となれば、次に目指すはクルタの方。ポンズの言い訳として、クルタはユアの肉体を狙っているという事になっている。その言い訳を続けるつもりならば、クルタの方からユアに接触してくるだろう。
それにこのまま何もしないというのも討伐軍としての体面が悪い。ポンズの裏切りを察知できれば話は別だったが、それもできないとなればユアは討伐軍として仕事をしなくてはならない。
(仕方がないか……)
モラウの煙は剥いでしまったが、言い訳はなんとでも利く。ユアはポンズに察知されないようにこの場を離れ、戦場へと足を向ける。
そして当然の如く、ユアの行動を把握するレント。
『母さん、ユアさんが母さんの傍から離れて戦場へ向かったみたいだ。もう声を出しても大丈夫だと思う』
「了解」
囁くように言葉を紡ぐポンズ。彼女が動くつもりはない。ポンズは今現在、斥候に出しているハニー以外の念能力が使えない状態だ。それで目標とされていた師団長級のキメラアントの相手をするには分が悪すぎる。
今回は情報収集を専門にするしかないだろう。ポンズは遠くからの
『ノヴが蜻蛉のキメラアント、フラッタを発見して強襲を仕掛けた。そして即座に敵を撃破。
フラッタの能力である
――それから、トカゲのルーザーに動きあり。護衛軍からの指令でレオルの補助に向かうみたいだ。
師団長級3体が増援』
レントの情報を聞いた瞬間に、ポンズはケイタイを取り出してノヴをコールする。
『ノヴです』
「ポンズよ。伝達、宮殿からキメラアント3体の増援を確認。注意して」
数秒してから通話状態になったノヴに警告を発するポンズ。
『ほう……』
「私の能力を応用して、今回は情報収集をしてみたの。できることはできたんだけど、身を守る能力が使えなくなったから、今は隠遁しているわ。
ノヴさんがトンボを仕留めたからかは分からないけど、キメラアント側も戦力を増強してきたみたい」
『そういう行動をするなら前もって相談して欲しかったですが、まあ小言は止めにしておきましょうか』
話を区切り、ノヴは強く宣言する。
『可能ならば仕留めます。ポンズは監視を強化して、できる限り敵の情報を暴いて下さい。もしも私が仕留めきらなかった場合、敵の情報は極めて有用ですから』
「了解よ。武運を祈るわ」
『お気遣い、確かに受け取りました。では』
そう言って通話が切れる。そしてまた無言になるポンズ。
今は仲間の無事を祈る事しかポンズにはできなかった。
◇
モラウはヂートゥの能力から解放され、更にフラッタがノヴに仕留められたことによって、ペイジンにおける監視システムも崩壊。キメラアント側はほぼ完全にペイジンで影響力を失っていた。
更に援軍として寄越されたキメラアント3体全員もやる気がない。彼らはネフェルピトーにレオルを援護するように言われてきただけなので、レオルが失敗すればそれはそれで終わる話なのだ。ここは忠誠心の無さが露呈したと言っていいだろう。
これに焦ったのは功名を欲しているレオルであり、秘密裏に己の能力を発動してフラッタの能力を奪う。それによって再度敷いた監視網にてノヴとモラウを捕らえにかかった。
「ん……?」
そこでレオルが把握するのは幼い少女。フラッタの報告になかった以上、今までいなかったのは間違いない。
(増援か?)
増援にしては頼りないように見えるが、レオルはそう考える。
状況は変異しつつあり、ひとまず現状を再考。
(ヂートゥは失敗してキセル野郎が解放され、更には女のガキが増えた。
白装束の軍団がいることを考えると、やはり敵を孤立させるにはコイツラに手伝って貰わねーと無理だな)
できれば敵を全滅させたいが、一気に事を進めるのは無理がある。
キセル野郎を仕留め損なったのはヂートゥの責任であり、レオルに責任はない。キセル野郎か黒メガネのどちらかを仕留めれば、ネフェルピトーも文句は言わないだろうという予想はあった。
「敵に増援だ。女のガキが一人増えた」
「へー」
「どうでもいいな」
「いいからどう動けばいいのか言えよ」
かつての同僚たちによる適当な返事で内心イラつきつつも、レオルは適確に指示を出す。
「――フラッタから連絡が来た。黒メガネとキセル野郎が都合よく分かれたな。
ブロヴーダ、お前はその場に残った黒メガネの動きを止めてくれ。ポイントは4―32。
ウェルフィンは白装束をオレに近づけないようにしてくれ。
ルーザーは女のガキを殺してくれればそれでいい。6―13」
指示を出されたキメラアントたちはそれぞれやる気が無さそうに動き出す。それを見つつ、レオルもキセル野郎ことモラウを仕留める為に動き出した。
それぞれを孤立させて戦うのは、レオルに自信があるからだろう。それと元師団長同士で連携の練習もしていないので、敵同士が協力するほうが厄介になるという判断か。
(どうでもいいや)
トカゲのキメラアントであるルーザーはレオルの事を完全に意識の外に出す。
いや。他の元師団長たちも、王も護衛軍も、もっと言うなら己の命さえルーザーにとってはどうでもいい。彼にとっての至上命題はただ一つ、緋の目を持った隻眼の主に利益をもたらす事のみ。その為にキメラアントという立場を利用して宮殿の中まで入り込んだのだ。
「さて、女のガキを仕留めに行きますか」
『ルーザー、命令する。向かっている少女に傷一つつけるな』
「承知しました」
主に報告をすればそんな返事が返ってくる。もちろんルーザーはそれを拒否するつもりは毛頭ない。
足取り軽く、目標である少女の元まで向かっていく。
「ようお嬢ちゃん。厳戒令が敷かれているペイジンの外で何をしているんだい?」
「…………」
そしてルーザーの事を確認した少女、ユアと会話ができる距離で止まる。ユアは右手にペンを持ち、油断なくルーザーを見やっていた。
警戒を剥き出しにして、そして異形であるキメラアントを見ても動揺がないこの少女が明確にキメラアントの敵であると認識したルーザーは、それでも気さくに話しかける。
「そう殺気立ちなさんなって。キメラアントも人間も、死んだらお終いだろ? 戦わなくていい戦いはしない方がいいんじゃんか」
「…………」
「こちらの要望としてはそうだな、1時間くらいここで話をしてくれればそれでいいや。そちらが興味がありそうな宮殿内の話とかもするし。
今回はそれで手を打たないかい? お嬢ちゃん。
あ、俺っちの名前はルーザーね。よろしくな」
「――ユアよ」
とりあえず自己紹介を拒否しない程度は許してくれるらしい。
戦闘という選択肢が取れないルーザーとしては胸を撫でおろす思いだ。
「先にこちらから問うけど、1時間も私を足止めして何を企んでいるのかしら?」
「ん? ああ、俺っちの同僚がデカいキセルを持った男を仕留める任務を課されたのよ。
俺っちはそのフォロー、アンタを援軍として向かわさなければ仕事は成功さ」
隠すこともないのでシシシと笑いながらユアに情報を渡すルーザー。
それを聞いたユアはぴくりと反応するが、モラウはユアに助けられるほど弱くはないだろう。目の前の情報源からキメラアント側の方法を引き出す為に話しかける。
「まずは、そちらの構成員は?」
「王が1人、護衛軍が4人。元師団長が5人に、それぞれが抱えるお気に入りってとこだな。宮殿に出入りしているのはウェルフィンが3人、レオルも3人か」
「それだけ?」
「それだけ。人間の護衛は全く無し。色々な意味で信頼してないんだろうね、護衛軍も」
どこか含んだ様子を見せるルーザーに、ユアは眉を顰める。意味が通じたかの確認をせず、ルーザーはシシシと歯を見せて笑う。
「他に聞きたいことは?」
「――王と護衛軍の情報をちょうだい。あんたが渡していいと思った情報だけでいいわ」
「了解。って言っても、俺っちが知っていることは殆どないぜ。王は1階に降りてこないし、護衛軍もそう。
ネフェルピトーだけは宮殿の外縁に陣取っていることが多いし、たまにレオルに指示を出しているところを見たけど、それも数多くって訳じゃないし」
そう、ルーザーが持つ護衛軍以上の情報は本当に少ないのだ。主に申し訳がないくらいに。
それでもユアとしては十分有用な情報だ。護衛軍が1階に居る事があまりないという事と、ネフェルピトーが外縁に長く居るというのは新しい情報である。
もちろん、ルーザーを信じればの話ではあるのだが。
「…………」
「他に聞きたいことは?」
「そちら側の念能力とか教えなさい」
その言葉にルーザーは肩を竦めて返事をする。
「流石に念能力まで教えてくれる奴はいないよ。俺っちの能力を開示するのも拒否するし」
「…………」
「あ、だけどネフェルピトーは特質系だったはず。水見式を多くのキメラアントの前でやったから間違いない」
それは聞いてなかった情報だ。バハトやカイト、それから多くの人形を操っていたことから、討伐隊は勝手に操作系だと思い込んでいた。コルトも聞かれていないネフェルピトーの系統までは言及していなかった。
何が変わる訳ではないが、これはこれで重要な話である。情報それ自体ではなく、ルーザーに対する理解という意味で。
「分かったわ。それでいちおう聞いてあげる。
そちらから言いたいことはないの?」
ユアのその言葉を聞いて、ルーザーは歯を剥き出しにしてシシシと笑う。
「流石にカンがいいね。聞いてくれなきゃどうしようかと思っていたよ」
それから一拍だけ時間を置き、真剣な瞳でルーザーはユアに語り掛ける。
「――俺っちはキメラアントを裏切りたい。そちらで受け入れる準備はないかい?」
「理由を聞いてもいいかしら?」
「王も護衛軍も、俺っちを守ってくれる気がないからだよ。捨て石か、死んでも替えが利く雑用兵としか思ってくれていない。
ヤツラについて行ったら、早晩死地に追いやられることがよく理解できたんでね」
「つまり、この戦いが終わった後も安息の地で過ごしたいという意見でいいかしら?」
ユアの言葉に頷くルーザー。
それを確認したユアは、真剣な目でルーザーを見る。
「この戦いの結果と、あなたの働き次第ね。
少なくとも王と護衛軍の全滅は最低条件。それでいいかしら?」
「いいとも。今はヤツラの元に戻り、適時に俺っちが裏切る。その評価で俺っちの命を助けてくれ」
合意は為された。もちろんルーザーが信用された訳でもないし、ルーザー側から見てもユアが約束を守ってくれるとは限らないだろう。
だがそれでも一応の口約束は結ばれた。その成果を持ってルーザーは良しとする。
(――そして)
場合によっては主の為にこいつらを更に裏切る。ルーザーはその決意を固めていた。
「じゃあ話の続きだけど」
直前の合意がどうでもいいかのようにユアは話しかける。
そして時間いっぱいまで、ユアはルーザーから搾り取れるだけの情報を受け取るのであった。