殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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093話 作戦準備・2

 

 夜が明ける、作戦決行まで後4日。

 暗闇の中、集まった面々は情報交換をしたり、またあるいは体を休めたりと作戦決行に向けてコンディションを整えていく。こういった下準備ができないモラウはやはり、作戦決行時に大きなデメリットになる。格上であろう護衛軍に対して十分な準備ができているとはとても言えないだろう。彼の割り当ても含めて考えるのが、この場にいる者たちの役割だ。

 彼らが根城にしている場所は廃墟。おそらくは東ゴルトー共和国が成立する以前に廃棄された建物だ。当然であるが、そういう廃墟の方が敵に察知されにくい。知られていない場所に雨風を凌げる建物があるというのは、戦争を知らない人々が思うよりもずっと大きなメリットなのである。

「まずは情報を整理するぜ」

 議題の中心になるのはキルア。冴えた頭を持っている上に、()()()()()作戦立案というものに慣れている。これはやはりゾルディックの英才教育の賜物だろう。

「こちらが得た成果の中で最大のものはやっぱりノヴのマンションの出口を宮殿内に設置できたことだな」

「ああ。これで3つある関門のうち、最初にして最大の難所をこえた訳だ」

 答えるナックルの顔も緩んでいる。

 

 それも当然、討伐軍はこの作戦を3つのフェーズに分けていた。

 まずはネフェルピトーの円を掻い潜り、懐に入る事。敵はネフェルピトーの円を信頼しきっていることはないだろうが、それでもあの円を引っ込めないことから重要視しているのはうかがえる。それに察知されずに敵陣のど真ん中に入り込めるというのは、あらゆる意味で大きなメリットだ。

 次の段階では王から護衛軍を引き離すこと。ネテロ会長と王を一騎打ちさせる形を作りたい討伐軍としては、身を挺しててでも王を守るであろう護衛軍は最悪の守護者(ガーディアン)である。王の傍に控えているヤツラを王から引きはがす作戦が必要になるのだ。

 そして最後、ネテロ会長が王を討伐するまで護衛軍を王の元に戻さずにいること。時間稼ぎ上等であり、仕留められれば最良の結果になる。何せ、王を討伐した後の護衛軍の動きが想定できないのだ。自らも王となろうとするのか、それとも王の仇を討つ為に人類を手当たり次第に殺していくのか。良い想像が浮かばない以上、駆除しておくに越した事はない。

 とはいえ最優先目標は王の討伐であり、護衛軍はあくまでオマケであるという体である。欲をかいて護衛軍を取り逃がし、王と合流されるようなことをするよりかは足止めの方がずっといい。これを聞かないのは、護衛軍自体に用があるゴンやユアだろう。

 

 ともかく、ノヴの決死の潜入により、最初の関門を潜り抜ける目途はついた。

 だが全員が知っている通り、犠牲無しでとはいかなかったが。

「そして代償としてノヴさんが脱落(リタイア)、か……」

 シュートが辛そうに呟く。心情として仲間が折れたのも辛いし、戦力として大きくアテにしていたノヴが壊れたのも辛い。

 そうは言っても他人がどうこう言って解決する問題ではない。こういう結果になったと呑み込むしかないのだ。

 一番分かっているキルアが仕切り直すように言葉を発する。

「それは置いておこう。もしかしたら4日の間に復活するかもしれない」

「あてにしない方がいいと思うけどね」

「まあ、ノヴは居ないものとして作戦を立てようぜ」

 ユアの軽薄な言葉に非難の視線が集まるが、ここもキルアが己の言葉でそれを散らす。仲間割れをしている場合ではない。

「そして次に有用なのはメレオロンの能力、神の共犯者だな」

「おうよ。頼りにしてくれていいぜ」

 議題にあがったメレオロンがニヤリと自信たっぷりな笑みを見せる。

 呼吸を止めている間のみ、己とその手が触れている相手を誰にも認識されないように操作する特質系。奇襲するというこの作戦においてこれほど有用な能力もそうそうないだろう。

 誰がその恩恵に与るか。それも重要な問題だが、それは後々ゆっくりと考えればいい。今はより吟味する議題がある。

「そしてユアがルーザーとかいう元師団長から得た、護衛軍の手足となるアリ側の兵隊の存在と数。そして大まかな動き」

「………」

 誰ともなしに沈黙が流れた。

 この情報には大きな大きな問題点がある。それは、信用していいのかという巨大な一点だ。

「ユア、直に接した感想はどう?」

 ゴンの言葉に顔を顰めたユアだが、結論はあっさり出た。

「信頼できない、する理由がない」

「…………」

 考え込む沈黙。それぞれが視線で語り合い、もしくは熟考する。

 着地点はこちら側に付いたキメラアント、すなわちメレオロンとイカルゴだ。

 真っ先に口を開いたのはイカルゴ。

「オレはルーザーとはほとんど面識ないし、会話したこともねー。たくさんいる師団長の一人だから噂くらいは聞いたかも知れないが、それも記憶に残っていない。

 オレから言えることは何もねーぜ」

 イカルゴの言葉に、全員の視線はメレオロンに向く。彼は元師団長の一人であり、同僚に関しての印象くらいは聞けるだろうという期待からだ。

「――結論を言うと、オレもユアに同意だ」

 口を開いたメレオロンは、そのまま理由を口にする。

「トカゲ野郎のルーザーは、あまり特徴のないキメラアントだった」

「特徴のない?」

「キメラアントらしいキメラアントってことさ」

 問い返すナックルに、あっさりとした口調で答えるメレオロン。

「快楽で人を殺生し、それを楽しむ。適当に喰って余ったらポイ。それに美学や信念は感じず、気ままに生きているタイプだ。

 巣を守る気はあったみたいだが、女王が死んでもその場に残らなかったことから、理性よりも本能が強い筈だ。

 そんなタイプが保身の為に裏切るとは思えねー。王と護衛軍を再度裏切るところまではあり得るが、その後に人間側に付くとは思いにくいな。せいぜいがそのまま出奔するくらいだろ」

 ルーザーの言葉を聞いたユアは否、ルーザーを知るメレオロンも否。

 ルーザーからの情報はこの中で大分キナ臭くなった。

「いちおう確認の為に、宮殿にいる他の師団長についても聞いていい?」

「ああ、いいぜ」

 ポンズの言葉に頷いた後、少しだけ過去に思いを馳せるメレオロン。

「仕留めたライオンのキメラアントはハギャって奴だな。とにかく上昇志向が強くて他人を見下す傾向にある男だった。アイツが他者を認めるなんて天地がひっくり返ってもないね。

 チーターのキメラアント、ヂートゥはえらく大雑把な奴だった。だが、実力はあるしスピードはピカイチ。それを鼻にかけて自分が楽しいようにしか動かねぇな。

 オオカミのキメラアントはウェルフィンだな。奴はとにかく疑い深くて、一度疑ったらその疑惑が晴れたとしても、かつて疑惑があったヤツとしか認識しない。ウェルフィンが誰かを信頼しているのなんて見た事ないね。

 ザリガニのキメラアントのブロヴーダはよく知らねぇ。あんまり個性的な奴じゃないんだろうな。ルーザーと同じ感じじゃねぇかな?」

 メレオロンから見たキメラアントの情報が開示されるが、確かにクセが強くて人間側に寝返りそうな要素がない。そもそも寝返る気があるタイプは女王が瀕死になった時点で己と引き換えに女王の助命を嘆願したコルトたちくらいなのだろう。メレオロンやイカルゴがかなりの例外と思うべきだ。

 そういう考えで見た時に。都合よく王と護衛軍の内側に入り、都合よく裏切りたいと考えるのはいくらなんでも出来過ぎである。確かに信じられないというユアの言葉が正しいと思える。

「だが、そうとは言えルーザーの情報が嘘であると思うのは早計だな」

「というと?」

 慎重に考え込むシュートの声にイカルゴが反応した。

「相手側として、できる限りオレたちを誘い込み、決定的な痛打を与えたいはずだ。こちらも疑う最初の情報からして嘘だとも思いにくい」

「なるほどな。疑い半分の最初に真実の情報を話して信頼を得て、その後に後ろから刺す訳か」

 理解を示したナックルの言葉に頷き、シュートが続ける。

「実際、ルーザーから得られた情報では、こちらが一番欲しい王と護衛軍の情報がほとんどない。せいぜいが2階以上にいるだろう、というレベルだ」

「まあな。役に立つか立たないかって言えば、立たねぇな」

 ナックルが首をすくめながら言う。ノヴのマンションの出口は1階中央階段脇に設置されており、ルーザーからもたらされたそこまでの話はほぼ考慮に値しない。あって困るものでもないが、なくてもなんとでもなる範疇である。

「じゃあルーザーは信用しないって方向でいいな」

 確認の為にキルアが声を出して宣言し、ほとんどの者が頷く。ただ一人、ユアを除いて。

「ユア?」

 最初にルーザーを信用しないと言ったユアが難しい顔をしているのを、他の面々は不思議そうな顔をして見ている。

(――どうする?)

 ユアの思考は既にルーザーのものではなかった。ルーザーは信用しない、それに異論はない。

 問題視したのはその接続詞、ルーザー()信用しないというもの。すなわち、ポンズの裏切りをぶちまけるならば不和と謀略の話をしている今が最高のタイミングである。

 ユアが監視した通り、ポンズが彼女の念能力である小瓶の精霊(ホムンクルス・ハニー)でクルタと連絡を取っているのならば、裏切りの証拠を見つけ出すことはとてつもなく難しい。あの時のハニーの隠形を見破るのは無理だと思っていいレベルだ。

 そしてポンズが裏切ったということを伝えないと、ユアはもちろん他の仲間にも害が及びかねない。ルーザーのように疑われているならば背後から刺されることに注意もするだろうが、その更に後ろにいる信頼しているポンズから繰り出す刃を避けることは難しい。

 裏切りの証拠を掴んで先にポンズを殺せれば問題がなかったが、どうやらそれは無理があるとユア自身が思っていた。実際に行動に移すのが作戦決行時だとしたらその時はトトルゥトゥトゥとの決戦時であり、ポンズに注意を払う余裕なんてある訳がない。

(潮時ね)

 ユアは諦めた、できないものはできないのだと。

「――果たして、この中にいる全員が信用できるのかしら?」

 その言葉に、全員が全員、一瞬だけ呆けた顔をした。

 そして全員の顔が厳しくなり、ユアのことを睨む。

「言葉には注意しろよ、ユア」

「何が言いたいのか、ハッキリ言えや。いまさらゴメンナサイとは聞かねぇぜ?」

 キルアの殺気のこもった声。ナックルの怒気のこもった声。

 それを聞いてなおユアは動じず、懐から手帳を取り出し、開く。

 書かれていた文字は先日のそのままに『ポンズ』『裏切った』というもの。

 ユアは同性ということもあって、ポンズとは最も仲が良かったと思っていた一同は意表を突かれた。特に驚いたポンズが視線を鋭くしてユアの事を睨みつける。

「ユアちゃん、冗談じゃすまないわよ」

「もちろん、冗談じゃない」

 ユアの発した言葉である『冗談じゃない』という文字が手帳の余白に書かれていく。それを見た一同はユアの能力を把握していく。

 もはや隠す気がないユアは、己自身の口を開いてその想像に補足を入れた。

「見ての通りに私の能力である宣誓記録(ノゥ・ツゥ・オゥ)は声を文字として残すことができるわ」

「……で?」

「問題は、これが書かれた状況よ」

 ユアは説明する。

 東ゴルトー共和国に侵入した後、道を走っていた時に唐突に記憶が切れたこと。

 唯一残っていた記憶は、後ろから誰かに羽交い絞めにされて口を塞がれていた上に自分の頭を掴んでいるクルタの姿。

 気が付いた先では廃墟で横になって自分であり、懐に忍ばせた手帳に書かれたポンズが裏切る警告。

「状況から見て、私は記憶を奪われた。その時間を利用してポンズさんは――ポンズはクルタと繋がっていた。

 そう考えるのは不自然かしら」

 ユアの言葉に、ポンズはやや顔を青褪めさせた。更にそれを見て周りの者は理解する、ポンズは潔白ではないのだと。

「――そうか」

 敵を見る目でポンズを見るキルアはそれでも冷静だった、少なくともポンズに真意を問いかけるくらいは。

「ポンズ、何か言う事はあるか? いちおう、本物の裏切り者はユアでポンズは陥れられているだけって反論の余地はあるぜ?」

 今までその情報を開示しなかったユアに瑕疵があるのもまた事実。そういう意味を込めてキルアが言うが、ポンズは辛そうに唇を噛むだけだった。

(――言えない。嘘でも、ユアちゃんが裏切り者だなんて)

 ポンズにとってユアは可愛い義妹であるし、今回の話としては誰にも話を通さなかったポンズの方が悪い。

 それを自覚しているポンズは黙るしかないのだ。

 そんなポンズを見て、ゴンが黒い眼差しをハンター試験以来の仲間に向ける。

「ポンズ、裏切ったの?」

「違う!!」

 金切り声をあげるポンズ。

「私はあなたたちを、誰も裏切ってなんかいない! お願い、信じて!!」

 追い詰められたポンズの声を聞いて、しかしそれを信じない視線の数々。

 この状況を見てユアは昏い愉悦に浸る。ポンズを裏切り者として直接殺せなかったことは悔しいが、それはそれとして彼女が針の筵に座らされている現状はユアにとって十分満足のいくものだった。

(ざまあみろ)

 心の中でユアがそう思ったのと同時、ゴンが口を開いた。

「うん、信じる。ポンズがオレたちを裏切っていないって」

 ポンズを含めた全員がゴンを見る、信じられないという意味を込めて。

 その視線を浴びたゴンはしかし、なぜそんな視線を浴びるのか分からないとでも言わんばかりに、当たり前のように言った。

「だってポンズは嘘を言っていないじゃん」

「――まあ、確かに」

 イカルゴは思い出す。嘘を言いたくないない場面でポンズは沈黙を選んだ。ユアに罪を着せられるかも知れないのにも関わらず、だ。

 本当に討伐軍を裏切っているならば、あそこで簡単な嘘を言わない理由はない。すなわち、そこでの嘘はポンズにとってあまりに重かったのだ。口が開けなくなる位には。

「じゃあポンズはクルタと繋がっていない、ユアが嘘ついたって言うのか?」

 ナックルの言葉に、しかし首を横に振るゴン。

「そこも嘘じゃないと思う。ポンズはクルタと繋がっている、けれどもオレたちを裏切っていない。

 これは両立するじゃん」

「――確かに。クルタがユアを狙っているという話はポンズの情報だ。そこだけ嘘をついていたのなら、ポンズは裏切ってはいないな」

「それは裏切りじゃねーのかよ?」

 己の生命線を話したメレオロンの言葉は強いものだったが、キルアは静かに首を振る。

「多分だが、クルタはオレたちを信じていないんだ。だが、何かしらの理由でポンズだけは信じられた。

 そしてクルタの目的はオレたちと同じく王や護衛軍の討伐。だからポンズは隠れながらクルタと繋がり続けた。

 ――ポンズ、違うか?」

 キルアの洞察に、ポンズは溜息混じりに感嘆の言葉を口にする。

「お見事よ、キルア。正解」

 やや弛緩した空気の中、しかし緊張感は残っている。

 ポンズが裏切った訳ではないとしたところで、正体不明の他勢力と繋がっていたのもまた事実。

 ならばポンズをどうするか。その問題は依然として残ったままだ。

「もしもオレたちを仲間と思うならば――」

 未だに疑心を捨てきれないシュートがポンズを睨みながら問いかける。

「――クルタについて、色々と説明して貰わなければならんな」

「当然だな。オレとしても収まりがつかねぇ」

 そのシュートの言葉にメレオロンが乗る。他の面々も表情の差異はあれ、確かにポンズに説明を求めていた。

 どうすればいいのか、どこまで話せばいいのか。一瞬だけ悩んだポンズだったが、その悩みが報われることはなく。

「いいだろう」

 廃墟と化した建物の窓の側から声が響く。

 いつの間にかその場にいた、金髪隻眼の男が口を開いていた。

「っっっ!!」

 ポンズはその青年の名前を口にしないように必死に抑える。他の仲間達はいつの間にか侵入されていた事実に瞠目すると同時、瞬時に戦闘態勢を整えていた。

 それらを無視し、悠然とした態度でクルタは言葉を紡ぐ。

「ポンズにボクの情報を流さないように頼んだのはボクだ。

 聞きたいことがあるならボクに直接聞けばいい。

 だから、ポンズを責めるのはやめろ」

 強く真っ直ぐな瞳でゴンたちを見渡すクルタ。

 情報が漏れたという危機感が生まれたその場は、新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

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