殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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みなさま、新年あけましておめでとうございます。
ちょっとばかりリアルが大変でしたが、少しずつ落ち着いてきました。

今年は小説執筆を頑張るのと、体重を10Kg減らすのを目標にしていきたいと思います。
では、最新話をお楽しみください。


094話 作戦準備・3

 

 クルタが現れたその場は、重い緊張が溢れていた。

 それもむべなるかな、討伐軍としては安全地帯と思っていた陣地なのだ。そこに第三者が現れただけでも十分に警戒に値する。それがポンズと繋がっていたと思わしき存在ならば尚更だ。仮にポンズが裏切っていたとしたら、どこまで情報が漏れているのか分かったものではない。

 討伐軍の全員が練を行い、その体に膨大なオーラを漲らせる。能力に時間制限のあるメレオロンなどは、息を止めるタイミングを見計らっていた。

 それを見るクルタはただただ静か。纏はしつつ、練はしていない。そのまま、じっくりと全員を見渡して。

「あひゃ」

 嗤った。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 狂笑をまき散らすクルタに、討伐軍は一層警戒を深める。

 それを横目に見つつ、呆れた声を出すのはポンズ。

「クルタ、あなた、その笑い方はやめなさいって言ったでしょ?」

「あひゃ、あひゃひゃ。やめろと言われて直るモンじゃないな。誰に言われても直らなかったモンだ」

「そもそも、なんでこの状況でバカ笑い?」

「いや、重苦しい空気がおかしくて。

 ない? 笑っちゃいけないと思うと、妙に笑いたくなるあの現象」

「あるけど! あるけどっ!」

 あるけど笑うな。そう言いたそうなポンズは、痒いところに手が届かないような滑稽さを醸し出していた。

 それを見る討伐軍はどこか毒気を抜かれる。油断はしないが、警戒レベルをひとつ下げる人間も出始めていた。

「……えっと、クルタでいいんだな?」

「あひゃ…こほん。

 そうだ、ボクがクルタだ」

「本名は?」

「言うか」

 クルタ族の名前がクルタだと思うバカはそうそういない。それ故に尋ねた問いであったが、至極あっさりとクルタに透かされる。

 まあ、本名くらい名乗る気があったらとっとと名乗るだろう。ここまで名乗らないということは、その本名がよほど重要な意味を持つと考えていい。

 例えば、念能力に関するとかが考えられる。

(…………)

 その考えに至ったキルアやシュートは表に出さないように思考を深める。もしもクルタの本名を導き出すことができたのならば、それはクルタに対して優位に立てるのではないかという思考からだ。

 もっとも、だからと言って。

 クルタがそう簡単に本名を割るとは思えないが。

(カギになるのは、ポンズだな)

 2人のうち、更に深い思考に至るのはキルア。彼はゾルディックの麒麟児であり、それはつまり才能と教育では人類最高峰と言っても過言ではない。与えられた前提で論理を組み立てるのは知性を持つ生き物の専売特許。知性の代表ともいえる人間の、その最高峰の少年の思考回路は留まることを知らない。

(クルタにとってオレたちが平等に信用ならないとして、その中で何故ポンズのみが例外になった? それはなんだと考えれば、ポンズはおそらくクルタの本名に辿り着いた。

 つまり名前を知られることはクルタにとって信頼に値するに等しいことなんだ。もしくは名前を言い当てられたら信用せざるを得ないカラクリがある)

 多少の的外れはあるが、キルアが想像したそれは遠からずといったところ。

 実際、信頼うんぬんは置いておいて、クルタの真名がレントだと把握すればクルタの支配権を得ることになる。信頼を無視し、自分に従属させることが可能になるのだから。

 しかし、話はここで詰まる。詰まらざるを得ない。

(ポンズが知った、ポンズが知れた。クルタの、本名……)

 それが分かれば苦労はしない。ポンズは己の念能力でレントの遺伝情報を得たからこそ、半信半疑ながらもレントという名前に辿り着けた。それを持たないキルアが、つい先日見たばかりの赤ん坊と目の前にいる二十歳そこそこの青年の名前をイコールで結び付けられる方が無理な話というもの。

 ポンズに相談を受けたノヴだけは可能性はあるが、彼は彼で憔悴しきっている。おそらくあり得ないと切り捨てたクルタの真名まで思考を巡らせる余裕はない。

 つまるところ、討伐軍にとってクルタの真名が重要であるところまでは行きつけても、その先の答えまで飛躍することは不可能と言ってよかった。

 

 緊迫した空間の中、それでも一番余裕があるのはクルタだった。

 彼は手の中で小石を弄びながら、ニヤニヤと討伐軍たちを見渡している。

「こうやってお見合いをしていても仕方ないだろう。時間は有限で、タイムリミットは決まっている。

 全部話す、とは言わないがポンズに沈黙を強いたのはボクだ。代価を払う準備はある」

 そう言っていったん区切り、その顔から笑みを消したクルタは厳かな口調で語り掛ける。

「ボクに聞きたいことがあるなら、聞いてみろ」

 一瞬、時間の空白。

 討伐軍の中でも誰がなんと問うかのやりとりが無言で為される。

 それでも真っ先に動いたのは、そんな駆け引きは知らないとばかりに問いかけたゴンだった。

「クルタ、お前の目的はなんだ?」

「王の抹殺。付随し、その障害となる護衛軍の排除」

 淀みなく問われた言葉。淀みなく答える言葉。

 嘘は言っていないと、信じていいのか?

 それを測る為にシュートが続けて口を開く。

「ならばオレたちと目的は一緒だ。共に行動すればいい」

「無理だ、お前達を信じられない」

 そのシュートの言葉を、一切の妥協はしないとばかりに切り捨てるクルタ。

 それを聞きつつ、全く動揺なくメレオロンが続ける。

「それは、何故?」

「疑似的な未来予知、と言っておこうか」

 そう言って、クルタは手で弄んでいた小石を宙に放り投げる。

悠久に続く残響(エターナルソング)

 地面に向かう小石は、不自然にピタリと中空で止まる。

「多少はボクの能力を開示しなくては話が進まないだろう? ボクは特質系で、能力は時間操作。

 ボクのオーラは時に干渉し、その流れを捻じ曲げる」

 それを話半分に聞く討伐軍。味方でない相手がその能力を開示したからといって、それを真実と思うのはバカのすること。当然ながら疑ってかかる。

 全く意に介さないのは、核心を突くことに長けた黒髪の少年のみだった。

「ポンズ、今クルタが言ったことは本当?」

「え、ええ。クルタの念能力は時間操作。私が知っている情報と相違ないわ」

「そう。なら信じるよ」

 あっさりとクルタの言葉を信じるゴンに、内心舌打ちをするのはクルタ。

 ゴンにはどんな搦め手も通じないだろう。ポンズがクルタとゴンたち討伐軍の両方を信じているという信じ難い事実を、間違いないと決め打って、そしてそれが正答だったからこそのアドバンテージ。

 ポンズは討伐軍を裏切れない以上、クルタの嘘を真実と言い張ることはしない。そしてクルタも味方だと信じたからこそ、ポンズにはほとんど全てを明かしている。むやみやたらに真実を語りはしないだろうが、この場で言うクルタの嘘を見逃しはしないだろう。

 ゴンという揺るぎない存在が、討伐軍が思うよりもずっとクルタのことを追い詰めている。

「で。時間を操作できるから、なに?」

 不機嫌そうに言うのはユア。クルタはなるべく憔悴を気取られないように、余裕を持った風を装って口を開く。

「時間を操作する、ってことは分かるだろ? 断片的ながら未来予知もボクには可能なのさ」

 そのクルタの言葉に、ゴンを除く全員の緊張が爆発的に高まった。未来を知れる、ということは。4日後に迫った作戦の成否ももしかしたら分かる、ということかも知れない。

 そこでキルアは気が付く。もしも作戦が成功するならばクルタが横やりを入れる必要はない。

 と、いうことは。

「お前達、討伐軍の作戦は失敗する。王を打倒できず、護衛軍を半分取りこぼす結果に終わる」

 討伐軍の半分は、それをクルタの戯言と切って捨てた。討伐軍の半分は、それはもしかしたらあり得る未来だと受け入れた。

 そしてただ一人、ゴンだけが愚直にポンズに問う。

「ポンズ」

「――ええ、クルタの言うことは真実よ。少なくとも、私は真実と受け入れた。

 だから私はクルタに協力している。みんなが死ななくていい未来を勝ち取る為に」

「全員、死ぬの?」

「シュートとノヴだけは生き残る。キルアとポンズはそれ以前の問題だ」

 クルタの言葉にキルアは瞠目する。そしてポンズは辛そうに瞼を閉じた。

「それは、どういう……?」

「ボクがキルアの呪縛を解かなかったら、単独行動した時に命を落としていたってことだよ。イカルゴも仲間にならず、この場にキルアもイカルゴもいなかった。

 ポンズも同じ。時間を節約する為に大通りを通ったが、そこでレオルたちと不意の接敵をする。数で劣るポンズはユアだけを逃がし、その命運は尽きるって筋書きだ」

 それは十分に有り得た可能性だった。キルアが呪縛から解き放たれなければ、オロソ兄妹の死亡遊戯(ダツDEダーツ)に嵌まった時、逆転の発想が出たか怪しい。死に瀕したキルアが呪縛によってパニックに陥るというのはあり得る話。

 ポンズも、あのまま大通りを通っていたらキルアを討伐するレオル軍と鉢合わせていた。直前にクルタが割り込んだからこそ進路を変更したのであって、具現化系と操作系があの数のキメラアントに出会っていたら命はなかっただろう。

 既に討伐軍はクルタの機転によって少なくない数の命を拾っている。

「――つまりお前がオレの呪縛を解いたのは、オレを操作する為じゃなく」

「そう。この場までキルアを生かし、護衛軍にぶつける為さ」

 偽善的に取り繕うこともせず、クルタは冷笑を浮かべながら言い捨てる。クルタにとってキルアの価値はそれしかないのだと言い切る。

「ポンズ」

「違うわ。クルタは討伐軍の被害をできるだけ避けようとしているし、キルアのことも善意で助けたと私は思っている」

「ポンズ、お前ちょっと黙れ」

 ゴンの確認、ポンズの返答。

 思わずといった風情で、素の様相で。クルタはポンズを窘めた。その間の抜けたやりとりに、フと笑みを浮かべたのはナックル。

「オーケイだ。とりあえず、テメェの言い分やなんやかんやはなんとなく分かった。

 それで、だ。つまりオメーはオレたち討伐軍の行動を補完する為に動いている、って認識でいいんだな?」

「……まあ、そうなるな」

 憮然とした表情で答えるクルタ。やや弛緩した空気を引き締めるように、ナックルは腹に力を入れた言葉を紡ぐ。

「で、だ。オレたちが失敗するのはどういった理由でだ?」

「それは――」

 苦虫を嚙み潰したような顔のまま、クルタはその答えを口にする。

「厳密には、分からない」

「は? お前、ここまできてそれはないだろ?」

 イカルゴの呆れた声を聞きつつ、しかしクルタは頭を振る。

「ネテロ会長の策は必殺だった、アレで死なない筈は殆どない」

「そう言うあんたの中じゃ死んでないんでしょ? 死なない筈は殆どないのに」

 呆れた声を出すのはユア。死なない筈は殆どないにも関わらず、生き延びたという王。この時点でクルタの事を信じろという方が難しくなっている。

 が、ここで折れるほどクルタも軟ではない。これで引く程度の覚悟でクルタもここに立っている訳ではない。

「殆ど、といった。つまり、奇跡的な幸運が王に舞い降りたと考えれば不自然はない。

 ボクはその王の幸運を潰す為に、今この国で暗躍している」

 冷静に整理した時、王が薔薇の毒を浴びながら生き残る手段は3つ存在した。

 その内の1つがネフェルピトーの治療を受けること。彼女の能力である玩具修理者(ドクターブライス)ならば解毒できる可能性は十分にある。

 また、トトルゥトゥトゥが王を癒す能力を持っている可能性も十分に存在する。完全なる未知であるトトルゥトゥトゥは、クルタ側にとって無限の可能性があるのだ。

 そういう意味でクルタが目指すのはこの2体の討伐である。そしてその際に絶対に守らなけらばならない条件が1つある。

(ポンズをこれ以上キメラアントに近づけない、絶対に)

 パターンの3つ目。ポンズの薬毒の妙(アルケミーマスター)により、薔薇の解毒剤が作られること。

 実際、ポンズはキメラアントが持つ麻痺毒を解析し、その解毒剤を具現化することに成功していた。薔薇の毒を解毒することが可能かどうかは分からないが、もしもポンズが王に喰われた場合、王がポンズの能力で窮地を脱する可能性はあるといえた。

 これはクルタたちが話し合った結果判明した事実であり、王の能力を知らないポンズでは危機感すら持てなかっただろう。ポンズの能力を深く知らなかった側も然りであり、ここにきてポンズの重要性がぐんと高まった。

 喰われるのは論外であるし、未来の情報を知った以上は捕まれば拷問でその全てを吐かされる。その上でポンズ自体の戦闘力は高くない。ここまでくるとポンズを討伐軍として送り出すのはデメリットしかないと言える。

 故にクルタはここに来たのだ。ポンズを討伐軍から引き離す良い頃合いと判断して。

「「…………」」

 クルタとポンズは一瞬だけ視線を交わす。ポンズも自身の危うさは重々承知済みである。役に立てるならともかく、ほぼ足を引っ張るだけというなら討伐に参加する意味もない。

 そしてクルタの元へ行けば、彼女にも大きな役割がある。ポンズはそれを果たす為に全力を注ぐつもりでいた。

「で、だ。よく分からん予言をするお前さんは、結局何をしてくれるんだ?」

 場と話を引っ掻き回しただけに思えるクルタに、メレオロンはめんどくさそうに問いかける。

 クルタを信じるならば彼は彼で頑張っているらしいが、今のところ討伐軍がその恩恵に与れそうな様子はない。未来が云々と言われても、実感が出来ない以上は詐欺師の戯言と変わらない。もう少しまともな事を言えと思うメレオロンは間違ってはいないだろう。

 それに応えるように、クルタはニヤリと笑って核心的な事を口にする。

「そうだな、作戦決行時に護衛軍がどこにいるかを教える、ってのはどうだ?」

「…………それを今この時点で信じろと?」

「まずはシャウアプフ。奴は宮殿の上空に陣取り、集まる東ゴルトー国民に向かって鱗粉を撒く。

 蝶のキメラアントである奴の鱗粉には催眠作用があり、集まった国民の意識は喪失する」

 シュートが呆れた言葉を口にしたが、その表情は即座に引き締まった。クルタが言った事が真実だとして、それは遠目から確認できる範疇である。

 もしもクルタが本当の事を言っていた場合、これからの情報は値千金のそれだ。パームとの連絡が取れていないが、彼女の役割がポンと寄越されたに等しい。

「ポンズ」

「今のところ、嘘ではないわ」

「今のところ?」

「未来は揺らぐらしいの。クルタが私やキルアを救ったように、絶対の未来はない。今現在、クルタが知る範囲において嘘はないのは私が保証するわ」

 ポンズの断言に、しかしゴンは疑いの視線を彼女に向ける。

「ポンズ」

「――なに?」

「クルタしか知りえないハズなのに、クルタが嘘を言っていないとよく断言できるね?」

「――……」

「それは信頼じゃない、盲信でもない。確信だ」

「…、…」

「隠していること、あるでしょ?」

 ゴンの鋭い言葉に、ポンズは薄っすらと笑みを浮かべて両手を上げる。

「末、恐ろしいわね、ゴン。答えはYESよ。私はまだ隠していることがある」

「そう。それはいいや」

 そして見抜いた上でゴンはそれはどうでもいいと捨て去る。

 問題とするのはただ一点。

「まだポンズの口から聞いていないから聞くよ。

 ポンズはオレたちみんなの仲間だよね?」

「ええ。私はみんなの仲間。

 ユアちゃん、ゴン、キルア、ナックル、シュート、モラウさん、ノヴさん、パームさん、メレオロン、イカルゴ。

 みんなが私の事をどう思っているかは知らない。けれど、私はみんなを仲間だと信じているわ」

「分かった、信じる」

 ゴンはその黒曜石のような瞳をクルタに向けた。

「クルタ、続きを」

 クルタはゴンの瞳を覗き込み、その果てしない黒色に、ゴクリと誰にも気が付かれないように生唾を呑み込んだ。

(ひるんでいる場合じゃない)

 別に討伐軍に弱みを見せたところで作戦に支障はない。しかしながら、念を覚えて3年足らずの少年に気圧されているという事実こそをクルタは認めることができなかった。

 むしろそれを認めたら心に疵ができ、念が弱くなる。そう本能的に理解したからこその対抗。クルタは討伐軍の中で注意すべき者として、ゴンをその筆頭に置く。

「続きだな、じゃあ次はネフェルピトーの話をしようか」

 クルタの話がやや回りくどくなったのは、彼がひるんだ証拠だった。少しだけ余分な言葉を入れて遊びの時間を作り、心を立て直す。

 僅か過ぎるクルタの隙は誰にも咎められることはなく、彼は次なる情報を開示するべく口を開くのだった。

 




ちょっと中途半端かも知れませんが、ここまでで一区切りとさせて下さい。
次回もなるはやで執筆いたしますので、少々お待ちいただければ幸いです。
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