◇
その日、その時、日にちが変わる10秒前。
トトルゥトゥトゥは宮殿の1階を当てもなく歩いていた。
モントゥトゥユピーが王の盾だとするのならば、トトルゥトゥトゥは王の剣。王を守る仕事も重要であるが、彼が自認する仕事は露払い。王の敵こそを排除するという使命感を持っている。
王に向かう刃を防ぐ剣でもあり、王に歯向かう愚者を処断する剣でもある。2階に至る階段にモントゥトゥユピーという王の盾が配置されている現状、トトルゥトゥトゥは来るかどうかも分からない王の敵を警戒していた。
ここで一つ明記しておくが、護衛軍は頭を使うのが苦手なモントゥトゥユピーを除いてネフェルピトーの円をそこまで当てにしていない。もちろん最初に敵を感知する能力としては秀逸だと思っているが、例えば敵が多段攻撃を仕掛けてきたり飽和攻撃を仕掛けてきたりしたらネフェルピトー単独では対処できないのが道理。
更に言えば、ネフェルピトーが臨戦態勢に入れば円を維持する余裕もないし、外敵に対処すれば円が王や護衛軍から離れることもやはりあり得る。
護衛軍の現状でいえば、2階以上の様子は敵対者に知られていない自信があるが、1階の様子までは師団長級のキメラアントが裏切っていれば情報が漏れていてもおかしくない。故に、手が空いている現状は1階をフリーにしないようにトトルゥトゥトゥが歩き回って隙を潰しているのだ。現在のトトルゥトゥトゥの行動は、散策ルートも含めて完全なランダムであり、計画的に宮殿を攻めてこようとする相手には嫌なノイズとなって緻密な作戦を狂わすだろう。
そんなトトルゥトゥトゥに向かって一人のキメラアントが駆けてくる。そのトカゲのキメラアントの名前はルーザー。
「トトルゥトゥトゥ殿、」
焦ったルーザーの声に呼応するように、宮殿からネフェルピトーの円が消失する。僅かに目を見開いたトトルゥトゥトゥの耳に2つの音が同時に届く。
「敵襲です!」
それはルーザーの声と、宮殿が上から龍のオーラによって貫かれる轟音。
トトルゥトゥトゥにとって僅かに不運だったのは、その降り注ぐオーラの1つが彼に直撃コースだったことだ。攻撃をあえてくらう意味もなく、咄嗟に
硬によってけた違いに攻撃力を増した、師団長でもあり強化系のルーザーの一撃。それはトトルゥトゥトゥの腹に深く突き刺さる。
「トトルゥトゥトゥ殿、敵襲です」
引きつった顔でそう言うルーザー。彼の視線は挙動不審に揺れ動きながらトトルゥトゥトゥの表情を見る。
全く痛痒を感じていない護衛軍の、その表情を。
「そうか」
トトルゥトゥトゥは腕を振るう。ほとんど人間の様な外見の中で、僅かに昆虫の要素があるトトルゥトゥトゥは、腕に張り付いた鋭利な刃でルーザーを切り刻む。
まずは首。胴と首を切り離し、更に頭を4分割。縦と横に切り分ける。
トトルゥトゥトゥの攻撃はそこで終わらない。残った胴体のうち、心臓にあたる部分に貫き手で穴をあけ、ついでと言わんばかりに四肢をその根元から切り落とす。いくら生命力があるキメラアントとはいえどもこれでは即死であるし、敵に操作されていても動かしようがないだろう。
そこまでルーザーを壊した直後、ネフェルピトーの円が復活する。
現状でトトルゥトゥトゥが認知できる範囲は少ない。強いて言うならばネフェルピトーの生存と上空から敵が襲来したくらいである。後は、たった今聞こえてきた大階段が崩れ落ちたような音もか。1階からもなんらかの方法で敵が侵入してきた可能性がある。
空から敵襲があったということは、1階と2階を繋ぐ大階段で待機しているモントゥトゥユピーの盾がすり抜けられたことに他ならない。敵の数も多数であることを危惧するべきだし、円を出している以上はネフェルピトーは王の傍にいない可能性もある。
王の傍に護衛軍がいる数は最悪で0であり、シャウアプフとネフェルピトーの2人がついているのが理想的。
(それはさておき)
ここまで場が荒らされた以上、王に刺客が迫っていると覚悟した方がいいし、護衛軍としてはその覚悟を持つべきだ。故にトトルゥトゥトゥは一歩を踏み出し、瞬間にその姿を搔き消えさせる。
トトルゥトゥトゥが最初から持っていた念能力であり、『王自身』か『王の最大の敵』かを選んで、一歩踏み出せばその者の元に瞬間移動できる能力である。かつてNGLではこの能力を使い、王の敵であるバハトの元まで跳び、結果としてサーヴァントであるエミヤを何もさせずに切り殺したほどに強力な能力。
彼はそれを使い、今度は王の元に跳ぶ。惨劇があったその場に残るのは、ルーザーの無残な肉片だけ。
「プハァ!!」
と、いきなりそこに人間が現れる。厳密にいえば最初からそこにいたのだが、息を止めているだけ誰にも認知されない能力である
姿を現したレントは荒い息を吐きながら動揺を抑える。
(やっぱりキツイな、護衛軍クラスは!)
レントは特質系能力者であり、その肉体強化率は全系統の中で最低である。彼の能力である
それを加味して冷静に計った結果、トトルゥトゥトゥの隙だらけの頭に硬で威力を高めた一撃を叩き込んでも効果はないと判断した。
知りえた全ての発を扱える彼は討伐軍と同じように
(大丈夫、落ち着け……)
絶で気配を隠しながら、レントは深呼吸して心を鎮める。
現状、護衛軍共は王に夢中であろうことは想像に難くない。また、降った師団長たちの忠誠心も厚くない。ほんの少しだけ落ち着ける時間は彼には存在しているはずなのだ。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫……)
ゆっくりとした深呼吸をするレントは、やがてその呼吸を止める。メレオロンの能力である
目指すは西棟2階、迎賓の間。
ルーザーの命を使い、不確定要素であったトトルゥトゥトゥの初動を完全に停止させることができた。これならばアカズの少女であるコムギは致命傷を負い、王はネフェルピトーにその治療を命じるはずである。つまり、厄介な護衛軍のうち1人の動きを完全に縛れる。
目指すはその間にトトルゥトゥトゥの命を奪うこと。その作戦は立案してある。勝算は高いと信じている。
(大丈夫!!)
レントは駆ける。王と護衛軍を仕留める為に。
未来を人類の手に取り戻す為に。
◇
時間は少しだけ遡る。
「10、9、8、7、6――」
ノヴのマンションに集った討伐軍たちは、モラウのカウントに合わせて神経と集中とオーラを
対モントゥトゥユピーは。ナックルとシュート、そしてメレオロン。
対トトルゥトゥトゥは。ユアただ独り。
対ネフェルピトーは。ゴンとキルア。
対シャウアプフは。モラウに任された。
最も死亡率が高い者はおそらくモラウだろう。連日の戦いによって調子は不調と呼べるものだし、それで護衛軍1人を相手取ろうというのだ。本人がシャウアプフの足止めに専念するつもりとはいえ、相手が殺しにこない訳がない。
そして次に死ぬ確率が高いのはユアだ。彼女のフォローをすべきポンズが離脱し、他のメンバーも危ういユアをフォローすればお互いに不測の事態が発生しかねないと判断を下した為である。
ちなみにこれはユアにとって文句は全くない。ユアはむしろ何かの間違いで一緒に行動する仲間がトトルゥトゥトゥの命を獲ってしまうことを危惧していた。
ユア自身がトトルゥトゥトゥを殺す。その殺意の鋭さに異議を唱える者は誰もなく、しかしもしも自分の
「5、4、3、2、1――」
ゴンの瞳が、深く暗く静かに、冷たく沈んでいく。
ユアの瞳が、緋色に激しく燃え盛り、己すら焦がしていく。
「
モラウの一喝により、雪崩れ込むように宮殿1階の大階段横に討伐軍たちが侵入していく。
その時の宮殿の状況は。
果たして、レントの予言通りだった。
ネフェルピトーの円は感じられず、1階と2階を繋ぐ大階段の途中にユピーがいる。更に直後、天井から無数の攻撃的なオーラが降り注いだ。
(これは爺ちゃんの
レントが予言した攻撃的なオーラの正体を看破したキルアの思考にノイズが混じるが、それも一瞬だけ。今はそんなことを考えている場合ではない。
予め想像されていた状況ということで、討伐軍は淀みなく動く。ユピーを相手にする面々は敵が眼前にいるのだ、探す手間が省けたというもの。
そしてゴンとキルア、そしてユアは一目散に外へ駆け出す。ユピーを相手に横をすり抜けるという危険を冒すよりも、ナックルやシュートがユピーをその場に釘付けにすると信じて2階から王の間へ飛び移った方が危険が少ないという判断からだ。
対してその場に留まったのはモラウ。予言を信じ切る訳ではないが、突入直後の状況は完全にその通りだった。つまり、眼前にプフが居ない以上、彼がどこにいるのか分からない。だがしかし常識的な判断をすれば王の間に居て、予言を信じるならば空から王の間に向かうと思われる。結局は王の間にプフがいる可能性は極めて高い。
しかしここで予測で動かないのがモラウの老獪さだった。初手でユピーの相手をして、その戦いで巻き上がる煙に己のオーラを乗せて疑似的な円と為す。その上で正確に現状を把握し、プフを足止めする。奇襲した最初の数秒という貴重な時間を捨ててまで情報収集に努めるという慎重さ。それは裏を返せば、プフ以外に労力を割く余裕がモラウには一切ない程に調子が悪いということである。もちろん、それに気が付いているのはモラウ本人のみであるが。
ユピーを相手取る者たちと、その場から離れる者たち。
ユピーは離れる者たちがそのまま王の元に到達してしまうことを危惧するが、かといってどうしようもない。自分に向かってくる
故にユピーは即座に自分の元に登ってくる者たちを叩き潰そうとした。それは自然な対応であり、目の前の脅威を潰せば去る敵を追えるのだ。手前から順番にプチプチ潰していけばいいという話である。
「ッ!!」
それに気が付いたシュートは距離を取りつつ、頭上から降り注ぐオーラを避けつつ、しかし攻撃能力を持つ己の3つの拳を操作して遠方からユピーをその場に縫い留めようとする。モラウも煙を吐き出し、既に1階どころか2階までそのオーラを届かせようとしていた。
瞬間。
ピトーの円が復活。
その凶悪さに侵入者たちが一瞬だけ硬直した隙をユピーは見逃さない。
巨大な拳撃が、大階段に振り下ろされた。
◇
西棟2階、迎賓の間。
腹から血を流して倒れ伏すコムギ。それを搔き抱く王の表情は、見えない。
刺客の存在を感知し、窓から入り込んだピトー。そして王の元に瞬間移動したトトは硬直する。王が発するあまりに空虚なオーラに気圧されて、身動ぎ一つできない。
侵入者であるネテロとゼノも入り口から動けない。否、動かない。1個の生命が失われる深い絶望は、反転すれば対象への同様に深い愛情が必要だからだ。
それを証明するように、王は愛おしく慈しみながら、コムギの身体を丁寧に横たえる。
「ピトー」
「はっ」
「コムギを治せ、頼んだぞ」
「はっ」
「トト」
「はっ」
「コムギを守り抜け、任せた」
「はっ」
王っ。
王っっ!
王っっっ!!!!!
ピトーとトトは、己が主のあまりの偉大さに知らずのうちに涙を流していた。
王がどこまでも深く他者を愛せたこと。愛した者が血に伏したとしてもなお、偉大であり続けたこと。そしてなにより、その愛した者を託すに己たちを指名したこと。
全てが誇らしく、全てが嬉しい。その対象が人間の小娘であることなど些末な問題である。
ピトーはコムギの側に近寄り、生体操作を可能とする
王はそれを確認するまでもない、己の臣下を信じているからだ。信の一文字を持って配下を意識から外し、侵入者たちに語り掛ける。
このまま戦えばお互いに不都合であるだろうこと。侵入者からすれば更なる護衛軍が来るやも知れず、王からすればコムギに流れ弾が当たりかねない。
それを見切った王の対話に、先手を取られたと感じつつも応じざるを得ないネテロ。合理的に、それが最善であると理解せざるを得ないからだ。
会話が終わり、迎賓の間から立ち去る3人。それを不動の姿勢で見送ったトトと、コムギを治すことを優先したピトー。護衛軍たちは分かっていた、今守るべきは王の命や体よりも心であり魂であると。それがコムギと同義であると。
そしてその判断は正しかった。ほんの数秒後、この場に次なる侵入者が現れたのだから。
3人の少年少女。ゴンとキルア、そしてユア。
一歩引いたような態度を見せるキルアを除いた2人は、ピトーとトトに対する敵意を隠そうともしていない。
「ピトー、トト。お前らを倒す! 倒して、バハトとカイトを治してもらうぞ!!」
「それにはピトーだけで十分。トト、お前は死ね。私が殺す」
オーラを爆発させるゴンと、オーラを研ぎ澄ませるユア。それを見つつ、キルアは違和感を持つ。
(この2体、何か変だぞ……?)
トトはまあいい。侵入者に対して一切の油断なくオーラを纏っている。が、それは敵を撃滅せん為ではなく、明らかに守りに入っている。
ピトーに関しては更に異常。オーラを纏う様子さえなく、威嚇するように足元に横たわる少女を守らんと身体を張っている。
2体が2体とも、どう見ても少女を庇った動きをしているのだ。
だが、それは冷静なキルアだからこそ。落ち着いていられない2人は
ゴンはピトーによって少女が壊されていると認識し、ユアはこの場において相手にされていないと感じた。必然、怒りを爆発させる事しか出来ない。
「女の子から――そのバケモノを離せ! その上でオレと勝負しろっ!!」
「どこまでも、人を、私を、舐めたヤツらっ!!」
ゴンとユアの沸点は既に超えている。が、ピトーとトトにしても現状は極めて悩ましかった。
コムギの状態は即死一歩手前であり、ピトーの
故に。
プライドを捨て、トトはオーラを全て消し、ガレキが残る床にその頭をつけた。
ピトーはその両手を天に向けて、敵意の無さを示した。
「――頼む」
「少しだけ」
「「待ってくれ」」
倒すべき護衛軍たちの不戦の意。それを見てゴンは動揺し、ユアは好機と見て間を詰める。
隙を晒したのはトトが悪い。そう言わんばかりの速度で接近し、その顔に3本の線を書く。『死』という6画のうち、半分を書き終えた時に即座に後ろに跳ぶユア。
苦渋の表情を浮かべながら、トトがその腕を振るったからだ。
「待たないと、そういう返事であるのだな?」
「フー、フー!」
無念そうに言うトトに比べてユアは完全な興奮状態だ。怒り狂ったネコのように息を荒げている。
「オイ待てユア、少しだけ落ち着け!!」
この状況は流石に見逃せず、キルアがユアの肩を捕まえてその動きを制止させる。
ユアをこのまま突っ込ますことも自殺行為に思えるし、そもそも現状が極めて不可解だ。それを解決しなくては話がどう転がるか分からない。
そしてキルアは推理する。討伐軍が、ネテロやゼノさえもこの少女のことを看破できなかったということを。そこまで重要なこの少女は王に大切にされた、いわば『妃』であろうことを。
もちろん『妃』を害することを王が許すとは思えない。ならばこの少女が死にかけているのはこちら側が原因、言い方からしてゼノの
つまり、この少女はピトーによって壊されているのでなく、癒されている。
それがゴンにもユアにもプラスに働かないだろうことはキルアには想像できた。ゴンは少女だけ助けられることが許せないだろうし、ユアはそれを護衛軍の隙としか見ることができない。
確かにこれは護衛軍の隙だろう。だが、ここを突くことは外道に過ぎる。しかし、ユアが聞くとも思えない。
(どうする、どうする、どうする……?)
「へぇ。つまり、あんたたちはその女の子を助けたいんだ?」
ユアの声に、身構えていた護衛軍たちは不揃いに頷く。コムギは王が王である為に必要な少女だ。何が何でも助けなくてはならない。
それを見てユアは、ギリと歯を食いしばる。
「――チキショウ」
悔しそうに、そう絞り出す。あまりに意外に思ったキルアがユアを見れば、彼女はポロポロポロと涙を零していた。
「ズルイぞ、ズルイぞズルイぞ!! バハトとカイトにはあんな酷いことをしたのに、なんでその女の子だけっっっ!!」
ゴンも慟哭をあげる。己の大事な者たちは踏みにじられたのに、他人の少女が大事にされる理不尽さ。
それが逆にユアの心を突いた。バハトは、ユアの兄は世界全てを敵だと思うようなことはあっても、ユアだけは大切にしてきた。世界に愛されたと感じた事のないユアだったが、兄に愛されたとは感じていた。
その愛を、今、いくら憎んでも足りない敵から感じてしまっている。このキメラアントたちにとって王や少女は、バハトにとってのユアと同じ。たとえ自分が死んだ後でも愛するという決意を感じてしまっている。
兄を喪ったユアにとって、その愛はあまりに辛い。それを壊さなければいけないのは、あまりに苦痛だった。
故に、血反吐を吐くような想いと共に、ユアは次の言葉を言わなくてはならない。
「いいよ、トト。下に降りろ」
「…………」
「ここで暴れるのだけは勘弁してやるわ。下に、中庭に降りろ。そこでお前を殺してやる」
「…………」
逡巡するトト。ここでユアの提案に従ってしまうと、残されるのは念の使えないピトー独り。それでコムギを守れるのかどうか。
「早く、しろ」
だが時間はあまりない。そもそもユアにとってこの提案ですら業腹なのだ、全てを無視してトトを殺しにかかりたいという感情をギリギリで抑えているに過ぎない。
理性を捨てて獣と化し、自身の愛の鏡であるコムギを壊す選択肢さえ取りかねない。ユアはNGLから数えて、もう限界を超えている。水が溢れそうなコップだが、それでも表面張力でギリギリこらえているような危険な兆候が表れているのだ。
既に護衛軍たちに選択権はない。それを感じ取ったピトーは額に冷や汗を流しながらトトを見て、頷くしかない。
「――分かった」
ピトーの覚悟を見て、トトもそう言わざるを得ない。ユアは自分の言葉が同意されたと見るや否や、目の前の光景から逃れるように窓に向かう。
それを追うトトの背中に、ゴンが声をかける。
「もしもお前がユアを殺すなら――オレはあの少女を壊すぞ」
当然といえば当然の宣告。それを聞いてトトは更に苦虫を噛み潰したような表情になった。
殺しにくる相手を殺すことができない、これは相当に厳しい枷である。特にユア程に吹っ切れた者を相手にするならば、敵の自爆さえ許容してはならないのだから。
更に言えば現状、トトの顔に書かれた3画の線も不気味である。どう考えても『死』と書く気としか思えないのだが、下手にこれを消してしまい少年少女に激昂されても困る。だが、文字が完成してはおそらくトトは『死』ぬ。そうしたらコムギを守る者が念を使えないピトーのみになる。
『あの光景』を見ていないプフやユピーは、少女よりも王自身を優先するだろう。それは護衛軍として当然の判断である。
つまり。トトは死ねないし、殺せない。
(だが、これも我の役目なれば――)
トトはそれでも揺らがない。中庭に降り立った彼は、ペンと緋の目を持つ少女と対峙する。
「いざ、尋常に……」
「尋常なんぞ要らない。私は、お前を殺す。ただそれだけ」
「――勝負」
護衛軍の一角と、復讐に燃えるクルタ族の少女。
その2人が対峙し、そして戦いが始まった。