殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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昨日も更新しましたので、未読の方はそちらからお読みください。

では、最新話をどうぞ。


097話 ただいま

 

 討伐軍が宮殿に侵入してから、未だ3分足らず。たったそれだけの時間で宮殿は随分と無残なことになっていた。

 ゼノの龍星群(ドラゴンダイヴ)によってどこもかしこも穴だらけになり、ユピーが容赦なく暴れているせいで中央大階段の辺りは建物としての体を成していない。それなのにモラウが監獄ロック(スモーキージェイル)で中央塔3階にある王の間を保護しているせいで、随分と歪な造形を作り出している。

 これをたった10人前後の念能力者が起こしたというのだから、その規格外さが際立つというもの。十分な年月をかけて作られたはずの豪奢な宮殿がたった3分でこの有り様であるし、そしてそれは終わっていない。

 ユピーを挑発してナックルが撤退戦に入ったせいで、ユピーの暴虐が外に広がっているのだ。建物を破壊しながら追うユピーによって、宮殿だったものからガレキに変わりつつある。

 そこから程よく離れた場所、中庭にてユアがトトに襲い掛かる。

 

 ここで改めて2人のスペックを見直してみよう。

 ユアは通常は操作系だが、現状は緋の目が顕れているため特質系。強化系とは真逆に位置する系統である。が、クルタ族特有の性質によって顕在オーラ量が爆発的に増大している。この効果により、通常時よりも遥かに強力な肉体を手に入れていることになる。

 対するトトは強化系。発現した発こそ放出系に寄ったが、それはトトが変化系よりも放出系の方に適性があっただけの話。そして己の肉体を強化する強化系は、ただ存在するだけでその肉体が凶器となる。

 更に言えば、トトはキメラアントであり階級は護衛軍。王の次に恵まれた素質と肉体を与えられており、昆虫の遺伝子が混じったソレは剛柔一体と呼ぶのになんの過不足なし。

 

「破っ!」

 李書文に仕込まれた中国拳法の動きで虚を混ぜながらトトに接近してローキックを繰り出すユア。

「っ!?」

 思ったよりも鋭い蹴りと、その幻惑するような体術にトトの意識も身体もついてこない。吸い込まれるようにトトの足に打撃が入る。

 だが。

(無傷……)

 心の中で舌打ちしながら、ユアはその事実を噛みしめる。一方的に攻撃できたとして、肉体と念の系統に隔たりがあり過ぎる。そもそもとしてユアはまだ10代前半の少女である。肉体的にも完成しているとは全く言えない。

 一方のトトも心の中で舌打ちする。確かに蹴りを喰らうまでは反応できなかった。幼い少女とはいえ、その鍛錬の結晶は本物であり、それはトトに届いたと言っていい。だが言うまでもなく、それで傷つくほど護衛軍は浅くない。強靭な肉体を盾に、攻撃後のユアの隙に反撃を加えることは可能であった。それが致命傷になるような選択もまた出来たであろう。

 チラリと斜め上にある迎賓の間の窓を見上げるトト。そこには冷徹な瞳をした銀髪の少年がこの戦いを見下ろしていた。

(ヤツが一番厄介であるなっ!!)

 監視がなければ即座にユアをボロ雑巾にして、人質にする手段も取れた。だがもしもトトがそれを選択しようとした時、銀髪の少年(キルア)は容赦なくコムギの命を獲るだろう。巻き込んでしまった一般人という認識であれ、仲間の命には代えられないはずだ。

 蛇行するユアの左拳がトトの腹を叩き、右手に握られたペン先を回避する。

(無念、何も出来ぬ)

 今もだ。今も、反撃はできた。だが、反撃はしてはいけない。緋の目の少女(ユア)を無駄に傷つければ、それはトトではなくコムギへの攻撃として返ってくる。これでは何もできない。

(しかし、これはこれで良し)

 反撃できずにユアに殴られるままのトトは、そのペンだけに注意を払いながら心の中でニヤリと笑う。

 能力を発動されなければ、ユアはトトにダメージを与えられないのは十分に理解した。コムギの代わりに殴られると思えば屈辱ですらない。むしろこうしてユアのウサ晴らしに付き合っているということは、その分コムギの安全を買えているということでもあるのだ。

 もしもコムギが害されれば、トトは容赦なくユアを殺す。それは相手側にも分かっているだろう。ならばあの銀髪の少年は激昂している黒髪の少年を絶対に止めなくてはならない。

 そうして時間が過ぎてくれれば御の字である。トトは敵よりも護衛軍の方が基本的に格上である、と見切った。ならば時間が経過すればユピーやプフが駆けつけてくれる。そうなれば詰みであり、キメラアントの勝ちだ。

 そんな思考が過ったトトの顔に向かってユアの左手が翳される。

蓄え続ける銃撃(クリティカルショット)

 あまりに想定外の強力な念弾がトトの顔面を襲う。その念弾はトトの鼻柱を叩き折り、ドクリと赤い鮮血をまき散らした。

「っ、っっ……!!」

「ふざけんな、なめんな」

 明確にトトに見下されたと感じたユアが手札の一枚を切る。グリードアイランドでニッケスから買い取った念能力であるそれを、ユアの悪戯仔猫(ミスティックキャット)で再現して放つ。

 蓄わえ続ける銃撃(クリティカルショット)の今まで練をしたオーラをため込むという性質上、同じ威力の攻撃はユアに放つことはもうできない。一回きりの切り札を使ってしまったのはユアである。

 だが、リターンは大きい。

(油断したっ!)

 フンと鼻息と共に血を捨てるトトは、己を戒める。ユアの能力は未知数であり十分に警戒しなくてはいけなかったのだ。

 だが真実は真逆。ユアは有効な手札は使ってしまった。トトに決定打を与えるにはペンで命令を書き込む存在命令(シン・フォ・ロウ)しか残されていない。

 しかしそれをトトは知らない、分からない。故にユアの全ての攻撃に注意を払わなくてはならない。

「続きだ、いくわよ」

 ゆらりとユアが揺らめき幻惑しながらトトに襲い掛かる。右の肘鉄、左の蹴り足。そのどれに致命の刃が隠されているか、トトには分からない。

「ぐ……」

 こうなればトトにオーラを温存する余裕なぞありはしない。全力を以って防御をするしかない。

 状況が許せば瞬く間に殺せる少女の稚拙な攻撃を、ただただ受け続けるしかない。

「獲った…!!」

「っ!」

 その状況がまたトトに隙を産み、顔の文字に更に1画が足される。『死』の文字が完成するまで、後2画。

(大丈夫である、問題ない)

 まだ2画もあるのだ。確かにユアの攻撃は惑わされるものばかりだが、2画の筆を許すまで大きな隙を晒すつもりはトトにもない。

 それにユアはその武術をトトに見せつけ過ぎた。未知の動きも数分見せられればそれは既知の動きへと近づいていく。見切る、という程に理解はしていないが。かわすことができる位にはユアの動きを解釈できる。

 重ねて言うなら、かわすことができるのならばユアの攻撃は全て無効。防御を気に掛けることなく、回避に神経を集中させればいい。

「くっ、くっ…くっっ!!」

 ユアの左拳が、鉄山靠が、踵落としが。もうトトには当たらない、全て虚しく空をきる。

 見切られた攻撃に意味はなく、時間だけが過ぎていく。

 

 そして、とうとうトトが待ち望んだ展開が来てしまった。

 

 遠くの中空で、キルアが雷を落とす姿がトトの瞳に移り込む。カメレオロンのキメラアントを抱えたキルアは一瞬で姿を現し、そして地面に着地するのが見えた。

 狙いの先はプフかユピーか。それは分からないが、敵の監視が外れたことをトトに伝えるには十分だった。

「吻っ!」

 今までの鬱憤を晴らすように、トトは右腕を振りぬく。今まで反撃してこなかったトトに油断していたユアはそれをまともに腹にくらい、吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がった。

 トトは間違ってユアを殺さないように注意していた。彼女はトトにとって大事な人質であり、コムギとの交換に必要な人員だからだ。それがユアに伝わっていない筈がなく、彼女はゆらぁと立ち上がりながら、緋の目を爛々と輝かせている。

 口に溢れた血をペと地面に吐き捨てながら、ユアは妖艶に笑う。

「あら、やる気になったの?」

「やれる状況になった、だ。お嬢ちゃん」

 ここでようやくトトがユアを攻め立てる。護衛軍のスペックをいかし、ただ速くただ強いその四肢を振るう。

 それを冷静に見るのは、ユア。

(全ての基本となるのは、(けん)

 (けん)。それは、見る事。観察する事。それはユアにも許された権利であり、むしろユアはトトよりも深く敵を観察していた。

 もしもトトから動くなら、どう攻めてくるか。どう害しようとしてくるか。それを考えないほどに、ユアは兄を奪ったキメラアントたちに心を許していない。

 トトの攻撃。右腕3発、左腕1発、右脚2発。その全ての攻撃を回避しきるユア。それを為した後、バク転で大きく背後へと跳躍して距離を取る。

「ぬぅ…」

 簡単にいくと思っていたトトは、自分の攻撃が全てユアに回避されたことに歯噛みする。幽鬼のように現実感なく妖艶に佇むユアに、警戒感を強くした。

 ユアが行っているのは隠である。自分の存在とオーラを限りなく薄めて隠し、相手に観察されることを防ごうとしているのだ。その現実感の無さが、ユアをどこか虚ろな存在として映させている。

 それなりに戦っているのに、どうにもユアの実態が掴めない。そう感じたトトの次の行動は、全力を尽くす事だった。

 この女はトトが全力を出したとして、おそらく多分きっと死なない。むしろ全力を出さなくては捕らえることもできない。最初の時から随分とユアの評価をあげたトトは全速力でユアに接敵。棒立ちのユアに、その右腕を叩き込んだ。

 バキボキゴキとユアの胴体から骨の砕ける音が聞こえる。硬質な昆虫の外殻がユアの腹を割き、血が噴出する。

 ユアはそのまま弾き飛ばされ、10メートル以上も離れた地面に叩きつけられた。

「――いかん」

 やり過ぎたか。そうトトが思ったのも束の間であり、ユアはよろよろと立ち上がる。

 そしてトトを指さして、一言。

「後、1画」

 言われてトトは気が付く。己の顔に書かれた文字の画数が増えていることを。

 『死』が刻まれる文字は6画。そのうち、5画までがトトの顔に刻み込まれていた。

 この女は、ユアは。己の死を顧みず、トトを殺す為に攻撃を無防備で受けた。そうまで代償を払い、ただ一本の線をトトの顔に書くことを優先した。

 ゾワリとした悪寒がトトの背中を奔る。

 それは自分の命が危険にさらされる危機感ではない。この女は、目的の為なら全てを捨て去ることができるという事実。もしも王の命を獲ることが目的ならば、世界を滅ぼしても成し遂げるだろうその精神性に危険を感じたのだ。

(コイツは……)

 ここで、殺す。それは自分の死が後一文字に迫ったからではない、この人間は王を殺しかねないからだ。それは奇しくもピトーがゴンに感じた感覚と同じであり、偉大なる王の現実的な危険という護衛軍にとって最悪の事象が目の前に現れたからに他ならない。

 しかしそれでも。いや、だからこそか。王の敵であるからこそ、護衛軍は敵に敬意を忘れない。

「女、名はなんという?」

「ユア」

「そうか。このトトルゥトゥトゥ、敵対者たるユアに最大の敬意を払おう」

 そうしてトトのスイッチが完全に入る。トト自身すら気が付いていない、敵対者の名前を聞くという行為がトトの心境にどんな変化を齎すのか。

 ググッと前傾姿勢になるトト。茫洋とそれを待ち構えるユア。いや、違う。ユアは集中力を維持する体力が殆ど残ってないのだ。

「オイコラ待てやぁぁぁ!!」

 そこに叫び声が混じった。ユピーから撤退してきたナックルがこの修羅場に気が付いて駆け寄ろうとしたのだ。

 ナックルが見るにトトはほとんどノーダメージでありながら、対照的にユアは死に体だ。体は血まみれで深く切れた腹の傷からは内臓がほんの少しだが見えてしまっている。

「オレが相手だ、こっち向けやトトォ!!」

 ユアはもう戦えない。そう感じたナックルは己を誇示しながらトトに挑みかかる。

 だが、遠い。

 距離にして50メートル以上離れているのに、そして何よりトトがユアを敵として認識したのに、その他の相手に意識を移す訳がない。トトにとってナックルは余りに遠すぎた。

 トトはそれを示すように、チラリとナックルを見たら興味をなくした。まずはユアを殺す事、話はそれからだと言わんばかり。もしかしたら彼の意識には守らなければならないコムギのことすら消えているかも知れなかった。トトは王の剣であり、その本質は守護ではなく撃滅なのだから。

 ナックルは間に合わない。そう判断した男が一人居た。潜み、潜み、潜み続けていたが、今このタイミングでその姿を現す。

俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)!!」

 トトの背後にあった建物の陰から無数の念弾が飛来し、その背中に突き刺さる。金髪片目のクルタ族、レントが援護の為に攻撃を開始した。

 それすらもトトの姿勢を少しだけずらすだけに終わる。背中にぶつかり続ける念弾を基本的に無視し、自分の間合いを整えることだけに集中するトト。

 この場にどれだけの数の敵がいても不思議ではないと、トトは分かっていた。だからこそ、ダメージにならない攻撃は全て無視するとトトはもう決めていた。いや、ダメージがあろう攻撃を喰らおうと、ユアの命さえ取れればそれでいいとさえ思っていた。

 まるで居合いのように右腕を腰に抱え込むトト。その硬質な外殻は刃として作用し、ユアの命を絶つだろう。

 その光景を見ながら、ユアの感情はどこまでも平坦だった。心にさざ波一つ立ちはしない。

(もう、体は動かない)

 けど、動かす。トトが接敵すれば、その最後の1画を顔に書きこんでトトを『死』なす。

 その為に右手に持ったペンに力を込める。

(冷静に考えれば――私は死ぬ。トトの方が早い、早く私を殺せる)

 それは純然たる事実。ここに至るまで、ユアは全てを出し尽くしてしまった。生命維持に残すオーラすら危うく、トトのトドメが要らない程。それほどに5画目を書く代償は大きすぎた。

(けど、負けない)

 負けは認めない。それはきっと、何より大事な兄を裏切ってしまう気がしたから。バハトが救ってくれたこの命を、最後まで最期まで輝かすことがユアの使命だと思ったから。

(――この戦いが、終わったら)

 ふとそんな事を思うユア。

(死ぬまで、生き抜こう)

 この人生を、最期まで輝かせよう。そうすればきっと、胸を張って兄に会いにいける。ただいまって、きっと笑顔で言える。

「会いたいよ、お兄ちゃん」

 透明で輝かしい微笑みを浮かべながら、ユアが言う。それが合図になったかのように、トトの足元の地面が爆発して彼がユアに向かう。

 それを遠くから見るナックル。やけに時間が遅く感じたのは今日二回目だ。ユアの笑みを見て、トトの決意を見て、それらが交錯するまで一瞬もないだろう。その僅か過ぎる間に、ナックルは涙を浮かべながら心の中で叫んでいた。

(やめろ、やめてくれ……!!)

 ナックルはユアの最期の笑みを見て分かった。ユアはガキなんだ、兄という家族を喪って路頭に迷っているガキなんだと。

 ユアの強さに目が眩んでこの場に彼女を連れて来てしまった自分をナックルは恥じた。こんな幼い少女がこんな鉄火場で死んでいい筈がない。もう少し運命が違えば、きっと満ち足りた人生がユアを待っていたはずだった。それを確信できるほど、ユアの浮かべた笑みは美しかった。

 それはトトに言わせればくだらない感傷に相違ないだろう。戦場に来ている以上、それらが持つ背景は殺し合いになんの役も立たない。むしろそんな甘いナックルよりも、覚悟が決まっているユアの方がトトにとって警戒に値した。

 トトが前進したことにより、背後から突き刺さるオーラが一瞬途切れる。それによってトトの目測が変わり、ほんの一歩分の猶予が産まれる。それもナックルが感じている圧縮したような時間の流れでの一歩だ。現実に換算される時間は刹那の時があるかどうか。

 それがユアに残された最後の時間。全く反応できないユアはまるで棒立ちで、そこに斬り込むトトは万全で。

 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。

 ゆっくり、ゆっくり。

 ゆっくり。

 まるで写真で切り取ったように、その直前の光景で、世界全ての動きが止まったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 止まった世界で、トトの心臓だけが弾けた。

 紅い臓物が胸から噴き出て、その余りの喪失感にトトの動きが完全に止まる。

 ユアは気が付かなかった。ナックルも気が付けなかった。トトも感知できなかった。気が付かないことが不思議なくらいに異常な物質がまるで当然のようにトトの胸に触れていた。それは黒い枯れ木が伸びたかのような、異形の右腕だった。

 その光景にユアが驚かない訳がない、ナックルが驚かない訳がない。だが、トトは驚かなかった。浮かんだのはどうでもいいかのような感想一つ。

(奇襲を許したか)

 しかも失ったのは心臓であり、いくら頑丈な護衛軍のキメラアントとはいえ長くは生きられないだろうことは理解できる。

 それは別にどうでもいいと言わんばかりに、トトは黒い腕の先を見れば。そこには闇に溶ける白髑髏の仮面が浮かんでいた。

(優先順位は低くはないが――)

 おそらくトトは数分で死ぬ。言い換えれば、数分は動ける。

 その時間を利用し、王の敵の首は獲らねばならぬと気炎があがった。まずはユア、次に白髑髏。奴らを殺さなければ王に申し訳が立たないと。

 そう思考していた頭脳にいきなり衝撃が走った。いったい唐突な衝撃を今日何度味わえばいいのかと、どこか他人事のようにトトは一瞬だけ呆れる。

 眼前には一人の男。金髪で片目であり、眼帯をしている。だが明確に背後の男と違い、ソイツは片腕だった。右腕がなく、ありったけのオーラを込めたと言わんばかりの左腕でトトの頭を殴っていた。

 奇襲。

 トトが他の誰かを殺しにかかった隙を突き、アサシンのサーヴァントである呪腕のハサンが宝具でその心臓を潰す。想像もできないその衝撃の隙を重ねてつき、廻天(リッパー・サイクロトロン)にて極限まで上げた攻撃力で脳にオーラを通す。

 この作戦の為に全てを犠牲にしたのだ。ゴンの慟哭も、ユアの絶望も。全て見て見ぬフリをして、このチャンスに全てを賭けたのだ。

 それが報われなくては、困るというもの。

悠久に続く残響(エターナルソング)ッッ!!」

 例え未来から来た者の念能力であっても、知れば使えぬ道理はない。それが彼が奪ったアサンの能力であり、そして確かにトトに通したオーラは彼の脳の時間を停止させた。それを証明するように、トトはその場に崩れ落ちる。

 神の不在証明(パーフェクトプラン)を解除した以上、その姿を隠す道理はない。クルタ族の証である緋の目と、金髪。右目にした眼帯の下の瞳は光を宿さず、NGLでピトーに千切られた腕はそのままだ。

 でも。

 それでも。

 彼が両の脚でそこに立っている以上、ユアは涙を流すことが止められなかった。そして動けなかったはずの体が軽やかに動き出す。

 過程なんてどうでもいい。理由なんてどうでもいい。

 飛びついたユアは、無邪気な笑みを浮かべて隻腕の兄に向かって話しかける。

 

「ただいま、お兄ちゃん」

「ああ、ただいま。ユア」

 

 血塗られて満身創痍で。だけれども満たされた兄妹はしっかりと抱き合って、帰還を言葉で祝ったのだった。

 




 斉天大聖(サルノギキョク) 分身の業(オノレワケミダマ)

 具現化系

 肉体の一部を媒介として、自分のコピーを作り出してそれを操作する能力。
 その能力や精度は代償にした肉体に依り、髪の毛程度の肉体であるのならば数分だけ稼働する出来の悪い(デコイ)にしかならない。
 だが四肢の一本や、重要な器官を媒介とすれば限りなく精巧な己自身をコピーできる。
 どこまで精巧さを求めるかにも左右されるが、それなり以上の実力を備えたコピーでいいのならば腕一本や目玉一つで半年はコピーとして機能するだろう。


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