殺し合いで始まる異世界転生   作:117

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お待たせいたしました。
これから完結に向けて邁進していきたいと思います。
拙作にどうかお付き合いをよろしくお願いします。

誤字報告、感想、評価。
本当に励みになっています。
この場を借りて感謝を。


098話 バハト・3

 

 ◇

 ◆

 

 世界が崩れる。

 時間が解れる。

 時代が、砕ける。

 

 レントの能力である異世界からの侵略者(インベイダー・ジ・アナザー)がナニカによって強化された結果、その時代は完膚なきまでに破壊された。

 未来から過去に戻る際に常に論議される一つの命題、タイムパラドックスについての一つの回答。それは、残される世界線は常に一つであるという考え方。

 今回の例で言うならば、レントは20年前の時代へ跳躍することを可能としたが、それを為すならば改変される前の世界は存在してはならない。故に矛盾なく世界を運営する為にはどちらかの世界が壊れなくてならない。未来から過去への跳躍をナニカが良しとした以上、失われるのは20年前に遡って新しく作られる世界線よりも、レントによって要らないと判断された未来の世界線だった。

 呆気に取られたままのゾルディック夫人であるキキョウが時の狭間に呑まれていく。

 やり遂げた笑顔を浮かべたレントのもう一人の母であるマチが世界と共に沈んでいく。

 それを見たのもレントの体感で一瞬であり、彼は20もの年月を過去へと遡っていく。

 そして。

 

「え?」

 

 あまりに呆気なく、レントはその場に姿を現した。

 レントが現れたのはゾルディック一族の住処であるククルーマウンテンのお膝元、デントラ地区の町の一つにある高級ホテル。

 マチがゾルディックとコンタクトを取った際、顔合わせに使われたのがこのホテルであった。

 ゾルディックとしても直系の血筋はもはやミルキのみという有り様であり、彼が狙われるという危険性を極力排除した結果、キキョウはナニカを連れてここまで来たのだった。

 ただ、先程とは違ってこのホテルには年季というものが入っていない。20年もの時間を逆行したのが本当ならば、その時間だけ趣きというのものが失われるのは道理であった。

「っ!」

 ほんの少しだけ忘我していたレントだが、しかしすぐに正気に戻ると彼は絶を行う。

 異世界からの侵略者(インベイダー・ジ・アナザー)は時間逆行を可能とする念能力であるが、その有効時間は発動者のオーラが切れない限りである。

 一つの例外を除いて時間逆行中にレントのオーラは回復しない。それを体で感じ取ったレントはオーラ消費を限りなく少なくする為に絶をしたのだ。

 余分なオーラを断ったレントは、それでも冷たい汗がその頬を伝う。

(間に合うか……?)

 思考回路は既に切り替わっており、喪ってしまった義母であるマチの最期の表情を思い出すのは今ではないと割り切っている。

 20年前であることはおおよそ多分間違いはないが、具体的な月日は分からない。今からNGLに向かったとして、実父であるバハトを死の運命から掬い上げられるタイミングなのかも分からない。

 それ以前に絶状態とはいえ、オーラが回復しない以上は、NGLまでレントのオーラが持つかどうかも不明。総合的に考えて何も安心できる材料がないのだ。

 既に賽が投げられた以上、最善を尽くすしかないのは当然ではある。が、最善を尽くしたとしても報われると限らないのが世の常である。

 絶をすることで気配さえも断ったレントはそのままホテルを脱出し、空港に向かう。NGLへ向かうには隣国であるロカリオ共和国に向かう必要がある。

 ハンターライセンスとそれなりの現金はあるが、使わずに飛行船に密航することを選択。未来のハンターライセンスや現金が20年前の時点で有効であるかどうか分からない上に、それを確かめる時間があるならば密航した方が早いという判断だった。

 

 そうしてレントは空を往く。

 じりじりと失っていくオーラと時間に焦りながら、しかし密航した船で休むことも忘れない。失敬した食事で英気を養いつつ、電脳ページで出来る限りの情報を集める。

 有用な情報は集まらなかったが、しかし飛行船は確実にレントをNGLに近づけていった。

 そして降り立ったロカリオ共和国。偶然か必然か、状況はレントに味方していた。今更ながらにNGLの異変を嗅ぎ付けたアマのハンターが、NGLに向かう車をチャーターする場面に居合わせたのだ。

 そのアマのハンターは念を使えないことも幸いした。オーラの消費を抑えるべく絶をしたままでレントはNGLまでの足を手に入れることに成功したのだから。

 最も、上手くいったのはそこまでだった。NGLの国境は絶をした程度では潜り抜けられない。

(急げ、急げ、急げ、急げ……!!)

 時間とオーラ、その両方の消費を少なくしたいレントにとって、それらのどちらがより有用かは彼自身にも分からない。しかし彼の勘がここで時間を消費することを選択させなかった。

 使うのはかつて師団長級キメラアントであるメレオロンの開発した念である神の不在証明(パーフェクトプラン)

 意外、というか。当然、というか。この発は極めて燃費が悪い。メレオロン自身が理解していたかは不明だが、実は師団長級のキメラアントのポテンシャルを全てこの発を扱うことのみに特化させたようなものなのだ。その証拠に、というべきか。メレオロンの肉体は酷くか弱い。本人が自己申告する通り、その肉体強度は雑務兵以下である。

 キメラアントとしての肉体のポテンシャルを対価に捧げ、更に他の念能力を殆ど使わない上で編み出した発である。燃費というものを考える筈もないし、意味もない。メレオロンが師団長であるからこそ、そして顕在オーラ量(AOP)を無視して潜在オーラ量(POP)のみに全力を傾けたメレオロンだからこそ十全に扱える発なのである。

 結果、NGLの国境を通過するたかだか1分ほどの時間でさえ、回復することのないオーラには痛手だった。

(くそっ!!)

 そうして悪態を吐きながらNGLに侵入したレントは、その時点でオーラの6割を切っていた。存在することのみに数日費やしただけで使用したオーラは約半分。

 最後の最後、父であるバハトを救う為に発を幾つも使わなくてはいけないと考えると、雑魚アリと戦うことを忌避した上で1日か2日程度の余裕しか彼は持っていなかった。

(かつては来る意味があるのか分からなかったが、ここにきてその無駄足がボクを救うとはね)

 自嘲の笑みを浮かべながらレントは思う。彼の体感にして約3年前、この時代から数えて17年も後の話。レントはマチに連れられてNGLにあったキメラアントの巣の廃墟に訪れていた。

 バハトの遺骸が見つかった場所であり、キメラアントに対して学習するという意味を込めた、しかし実際は戦いの日々に疲れたレントやマチにとって一種の旅行であったことは確か。

 その経験によって、レントはこの時代で最も探るのが困難なキメラアントの本拠地の場所を既に()っていた。

 運にも恵まれたそのアドバンテージによって、レントは無駄なくその場所に己の身を運ぶ。

 

 そして、本当に時間ギリギリであることを理解した。

 

 彼がキメラアントの蟻塚を視認できる位置についた時、蟻塚を覆っていたネフェルピトーの円が消失したのだ。

「っ!!」

 マチから話を聞いていたレントは、それが護衛軍の襲撃の前兆であることにいち早く気が付く。

 彼が居る場所は蟻塚から2~3キロメートル程度。半径1キロに及ぶネフェルピトーの円の、感知の更に外。逃げる場所としては絶好だった。

4次元マンション(ハイドアンドシーク)

 ノヴの能力であるそれの出口をそこに設置。虫食いだらけの世界地図(ワールドマップ・トリガー)では発動場所まで念空間を繋げなくていけない為、オーラが嵩む。瞬間的な消費には目をつむり、レントはこの能力を選択した。

 退却方法が確保できたのならば、前へ。前へ。前へ。

 絶を使い、更に咄嗟の時に神の不在証明(パーフェクトプラン)を使う準備をしつつ、この距離でなお聞こえて来る轟音の発信源へと、死地へと向かう。

 その最中、2組の人間を見る。銀髪の少年が黒髪の少年を背負い、帽子を被った女性が金髪の少女を抱いて轟音から逃れるように駆けていくのを見送る。

(…………)

 見ただけで帽子の女性が亡き母であるポンズである事を識る。ポンズに抱きかかえられた少女が無残に散る血縁者であるユアであることに気が付く。

 できれば声をかけたかった。会話がしたかった。

(そんな時間はないけれども)

 彼女たちが逃げている最中ということは、殿を務めているバハトがいつ死んでもおかしくないという意味でもある。

 血縁者である母やユアと会話がしたくて過去に跳んだという側面は少なからずあるのに、キメラアントによる人間社会への攻撃を防ぐ為にその自己満足を捨て去らなくてならないという矛盾。

 それを呑み込んでこそ、大人であるのだろう。そしてレントは子供というには修羅場を潜り過ぎていた。

 己の未練を捨てて、更に前へ。逃げる4人を背後に置いて、バハトの元へ。

「っ」

 ある一瞬でヤバイと感じ、息を止める。神の不在証明(パーフェクトプラン)を発動し、誰にも感知されないよう己自身を操作する。

 その勘は正しく、2匹のキメラアントが視界に入ったのはそれからすぐだった。見るだけで敗北を予感させるその2匹は間違いなく護衛軍のキメラアントであり、レントはこの時点で敵の殲滅を放棄。絶対に勝てないと確信した以上、退避するのが当然である。

 もちろん達成目標はバハトを連れて、である。特質系であるレントは一撃を喰らうだけでコナゴナになりそうな攻撃力を持つ護衛軍と、ドツキ合っているバハトは流石と言えた。

 息を止め、その上で木々に触れて音を出さないように注意しながら近づくレント。その彼の眼前で、楽しそうに笑いながらネフェルピトーとバハトが右腕をぶつけ合い。

 そして拮抗に負けたバハトの右腕がその肩から千切れ飛んだ。

(ここっ!!)

 勝算が見えたレントは、宙を舞うバハトの右腕に向かって駆け、そして触れる。

斉天大聖(サルノギキョク) 分身の業(オノレワケミダマ)!!)

 肉体の一部を素として、その全身を具現化させる能力を発動。ほんの一瞬後、バハトの右腕はバハトの(デコイ)として機能する。

 その一瞬の時間を使い、レントはバハトに寄ってその身体を掴む。これで神の不在証明(パーフェクトプラン)を連動させる神の共犯者の発動条件は揃った。

「なっ!?」

「にゃ!?」

「む?」

 その瞬間、バハトと護衛軍2人が驚きの声を上げた。しかしバハトの声は護衛軍には届かない。

 護衛軍としては、後は仕留めるだけの獲物が目の前から掻き消えたに等しい。当然驚くのだが、見渡すまでもなくバハトの姿はそこにあった。先ほど右腕が吹っ飛んだ先で、五体満足のバハトが背中を見せて逃げ出している。

「どんな手品を使ったか知らぬが――」

 トトルゥトゥトゥが憐れむようにそう言った時にはネフェルピトーが(デコイ)の背中に飛びかかり、神の共犯者で感知されなくなったレントとバハトは4次元マンション(ハイドアンドシーク)でその場から姿を消していた。

 後は語るまでもないだろう。バハトの(デコイ)を仕留めたネフェルピトーは、それとカイトの遺体を戦利品として巣に持ち帰るのだった。

 

 ◇

 

「「はぁ! はぁ! はぁ!!」」

 激戦区から離れた場所に瞬間移動したレントとバハトは、息を切らせながらへたり込んでいる。

 特にバハトは右腕が根元から千切れ飛んでいる。放っておけばそのまま失血死だ。

 それを理解していたレントは中空から水筒を取り出す。それは父であるバハトの遺品であり、彼の念能力を使う為の道具だった。

「! それは俺の……」

清廉なる雫(クリアドロップ)

 水筒を傾けて、その中身を惜しげなくバハトの傷口へと降り注ぐ。腕を生やす効果はないが、しかし傷を塞いで血を止めるくらいことは期待していい。

 瞬く間に出血を止めたレントだが、彼のオーラはもう尽きかけていた。この時代にはもう1分も居られないだろう。

「助かった、本当に助かったよ。しかし、お前はいったい……?」

「時間が、ない」

 言葉を交わす猶予がない。だからこそ、一瞬で全てを伝える手段にレントが頼ったのは不思議ではない。

 記憶弾(メモリーボム)。銃を具現化し、記憶を打ち込むその能力を発動する。

 実の父に向けて銃口を向けたレントは、それでもかつてその能力者であるパクノダがしたように微笑む。

「信じて、受け止めてくれる?」

 その言葉の意味を察せないバハトではない。混乱の極みにありながら、バハトは右腕を失って消耗してその身体のまま、力強く頷いた。

 パン、と乾いた銃声が響き、レントの記憶全てがバハトに流れ込む。

(ああ、これで――)

 為すべきことを全て為せた。その充足感がレントを覆う。バハトに全てを託せた、この後の事はバハトが上手くやってくれると信じている。

 何せ、バハトはレントの義母であるマチが信じて愛した男なのだから。

 そしてレントのオーラが切れる数秒前、全てを理解したバハトがたった一言を叫ぶのは十分に時間があった。

 レントは過去を改竄する異世界からの侵略者(インベイダー・ジ・アナザー)によって時間を超越した。己のオーラが切れるまでという条件下で、彼は極限までうまくやったと言っていい。

 そしてそのレントの情報も全てバハトに伝わったが故に、このままレントが消えるのを良しとしないバハトが動くのは当然であった。

「消えるな、『レント』!!」

 瞬間、バハトのオーラが根こそぎレントに流れ、その消失を食い止めた。

 異世界からの侵略者(インベイダー・ジ・アナザー)で過去に留まり続ける方法は、実はある。正確には明確に過去を改竄したと確信できるまで、だが。

 過去の存在に己の名前を呼ばれること。それにより、過去の世界での自分の存在権―支配権と言い換えてもいいが―を譲り渡し、レントが生産できないオーラを他者からの供給に依存して存在し続けることが可能となる。

 その代わりにレントはその相手に絶対服従の身になる訳だが、名前を教えるということはそのリスクを負っていいとレントが判断することと同意である。

 今回は記憶弾(メモリーボム)により、それらの情報を隠す余裕もなくバハトに伝えてしまったことが原因となった。レントの消滅を望まないバハトが息子の名前を呼ぶことによってその場凌ぎ的に消失を拒否。共に存続する事が可能となった。

 だがしかし、代償がなくとはいかないのが世の道理である。

 

 ◇

 

「目、覚ました……?」

「……ああ」

 丸2日。バハトは寝込んだ期間である。対護衛軍戦で限界ギリギリまでオーラを消費し、残ったオーラもレントに捧げたバハトはオーラ切れによって昏倒。

 そして昏倒している間に溜まるオーラもレントに流れ込む始末で、バハトが虚弱によって死ななかったのは一重にレントの献身的な看護のおかげであった。

 レントが持つオーラも、バハトが有するオーラも。両者共に全快時と比較すればあまりにか細い。現在はネテロ達3人はキメラアントに攻撃を仕掛けているからこそ、その間隙を縫って休めているが、もしもキメラアントに見つかったら相当に危ない2日間だった。

「とりあえず、俺はもう一度礼を言うべきかな、レント。

 全てを理解した後だからこそ、改めてな。

 ありがとう、未来から助けに来てくれて」

「ありがとうはボクもだよ、父さん。

 生き残ってくれて、ありがとう。

 そしてボクをこの世界に繋ぎとめてくれて、本当にありがとう」

 笑い合い、お礼を言い合う同い年の親子。

 それが一段落した時点で、レントの顔が曇る。

「だけど、現状はあまりよくない。父さんはボクの維持に相当のオーラを使うハメになっている。

 ボクも父さんのオーラを介する以上、燃費は余り良くない。父さんがオーラを十全に使えない以上、ボクも父さんを守るように戦わなくちゃならない。

 キメラアントを相手にする以上、これは大きなディスアドバンテージだよ」

 このまま過ごせばバハトを喪った世界と変わらない未来が訪れてしまう、何せ盤面は何も変わっていないのだから。せめてバハトを復帰させるか、レントが介入しなくては話が元に戻るだけなのだ。

 しかし、それを何とかできるからこそ、未来でマチはバハトに信頼を置いていたのだ。

 サーヴァントは不意を打たれなくては、そう簡単に負ける存在ではないと。

「何とかしようか」

 そう笑い、バハトは詠唱を始める。

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公――」

 優に数十秒にもわたる大詠唱。訝しそうにそれを聞いていたレントだが、バハトが言葉を紡ぐごとにその場に濃密な『何か』が満ち満ちていき、その顔はやがて驚きが溢れて来る。

「――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 詠唱が終わり、光柱が出現し、そこから姿を現す抑止の具現。人が業せない筈の英霊を、一側面のみとはいえ律する奇跡の御業。

「サーヴァント、アーチャー。真名をエミヤ。

 召喚に応じ、参上した」

「…………」

 おそらく、いや明らかに。バハト本人よりも強いそのヒトガタ。その男がバハトに頭をたれるのをレントは絶句して見るしかない。

「まずはマスター、謝罪を。オレはマスターを守ることができなかった」

「いや、あれは油断した俺が悪い。エミヤは命を繋いでくれた、それに文句を言うつもりはない」

「フ。マスターがそう言うならこれ以上は言わないでおこう。

 確かにあの時のマスターは油断が過ぎたからな」

 笑い合うバハトとエミヤに、レントは驚きながらも口を開く。

「父さん、えっと…彼は、誰?」

「――記憶弾(メモリーボム)

 説明が大変だと痛感したバハトは記憶を打ち込む銃を具現化する。実際、英霊やサーヴァントシステムを一から説明するとなると一日仕事だ。情報を一瞬で伝えられるならばそれに越したことはない。

「信じて、受け止めてくれる?」

「……」

 茶目っ気を込めてニヤリと笑う父に、レントは笑えばいいのか呆れればいいのか。

 しかしもちろん頷かない選択肢はなく、レントの記憶にサーヴァントのそれが撃ち込まれるのだった。

「なるほど、これは凄いね」

 全てを理解したレントの開口一番がそれだった。

「だろ?」

「この能力を手にしながらあっさりと敗退できる父さんは本当に凄い」

 バハトのドヤ顔が一瞬で引っ込んだ。そしてレントの視線と表情は明らかに呆れ果てていた。

 それを見つつ、やれやれと肩を竦めるエミヤ。

「マスター、もう一度言うが君は油断し過ぎだ。

 せめてある程度まで仲間に能力の説明をすればここまで追い込まれなかっただろうに。

 ユアに秘密主義が過ぎると君は言うが、我々から言わせれば君こそ仲間に秘密主義が過ぎる」

「ぐ……」

 実際にそれで盛大に失敗した身として、バハトは呻くことしかできない。

 更にエミヤはレントに向き直り、真剣な目で告げる。

「それからレント。我々英霊は最強であるという自負はあるが、決して無敵でも万能でもない。

 護衛軍とは単体で我々に匹敵する強敵だ。それが4体も密集しているのであれば、単体での勝機は極めて薄い。

 ない、とは言わないがね」

「それはまあ、分かるよ」

 護衛軍を直に見たレントはそれに頷かざるを得ない。ヤツラはバケモノと言っていいし、それは全く過言ではない。

 その認識を正しく為したと理解したエミヤは、満足そうに頷きながら言葉を続ける。

「故に私はこの作戦を提示しよう。バハトとレント、そしてサーヴァントを1匹の護衛軍にぶつけ、各個撃破する作戦だ。

 決行はそれぞれの護衛軍が分断される上に味方の数も多くなる討伐軍の攻撃時、東ゴルトー共和国における建国記念大会の深夜0時だ。その時間に我々も同時に強襲をかける」

「――悪いが、ボクは失敗者である討伐軍を信頼できない。ヤツラと合流する気は、全くない」

 鋭い口調のレントに、しかしエミヤは飄々と笑う。

「問題ない。我々が討伐軍を利用するだけだ。

 もしも問題があるとしたら彼らの仲間であるバハトだけだが、まさか実の息子を捨て置いてあちらに合流はすまいな?」

「この、性悪サーヴァントが」

 思わず悪態を吐くバハトだが、時間を超えてまで自分を助けに来てくれた息子を見捨てる訳にはいかない。エミヤの言う通りである。

 残った左手で自身の顔を覆い、深いため息をつくバハト。

「ユアやポンズ、ゴンやキルアには全力で謝るしかないなぁ……」

 ぼやいたその言葉はエミヤの作戦の有用性を認めたもの。それは、奇襲を仕掛けるには味方から騙す方が効果的だと理解した発言。

 この後じっくりと作戦を煮詰めることになるのだが、作戦決行までバハトが姿を隠すことが決定した瞬間であった。

 更にバハトはレントにオーラを供給することに専念し、レントが表立って場を搔き乱す係になり。オーラが不足しがちなバハトの護衛にサーヴァントが当たることになるのは自然な流れといえるだろう。

 

 ◆

 ◇

 

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