あしからず。
翌日、父親にいってきますと久し振りに言ったことを反芻しながら登校した。あれ以来、転校生からのコンタクトはない。このまま順調に夜を迎えたら、今夜は魔女退治体験コースに突入するだろう。放課後はカフェにて軽く打ち合わせをするらしい。
まどかとカフェにて巴先輩を待つこと数分。巴先輩がやってきた。どうやら道すがら歳上の男性から告白されていたらしい。中学生に告白をするとはロリコン疑惑が沸くが、巴先輩は見た目は幼いがボディは大人っぽい。羨ましいパーツはあるが、それは追々考えることにする。考えたら負けだからだ。まだまだ未来のある中学生なのだから。
巴先輩の話は大変タメになった。
結論は魔法すげぇだが、さやかが野球部から拝借したバットも、アッという間に魔法の武器に早変わり。劇的ビフォーアフターである。まさに匠の技。
まどかは衣装を考えてきたらしく、スケッチした衣装を恥ずかしそうに見せていた。巴先輩曰く、どうやら衣装は選べないらしい。まどかは残念そうに顔を伏せていた。
夕方、それぞれの家にアリバイ電話を入れたあとに、魔女退治体験コース月々500円~じゃなくて、体験コースに着いていくことになった。
「基本的に魔女探しは足頼みよ」
どうやら、ソウルジェムという宝石を使って探すらしい。ソウルジェムは魔女の存在に反応するそうだ。ソウルジェムの光りの強さに応じて距離が解るらしい。ちなみに今は全く光ってない。ソウルジェムをマジマジと見てみると、200円のガチャガチャから出てきそうな感じに見える。そんな失礼なことを考えてたら、巴先輩の視線が突き刺さるので、慌てて顔を反らした。
歩くこと30分弱。ようやく光が少し点いてきた。夕暮れの河川敷をトボトボと歩く3人の中学生。何かのワンシーンのように見えなくもない。とある建築途中のマンションが見えてきた。ここ見滝原市は新興都市である。未だこういった建築物は多く見られる。巴先輩曰く、こういった特撮に使われそうな場所に魔女が多く見られるそうな。なんというご都合主義だろうか。
そんなことを考えながらマンションに近付いていくと、ふと屋上に人影が見えた。パッと見は女性っぽい。普通のOLさんのような格好をしている。但し、屋上でフラフラしていなければの話だ。
「巴先輩!あの人っ!」
「えぇ、わかってるわ!」
巴先輩は走りながら変身していた。初めて変身シーンを見たけど、どうやら合言葉やポーズを必要としないらしい。特殊な鉱物で作られた剣で円を描かなくてもいいらしい。願望があっただけに少しガッカリだ。
そんなどうでもいいことを考えてる間に、巴先輩の目の前で女性が飛び降りた。ギリギリ…いや、少し間に合わないか?そんなタイミングで落下し始めていく。
まどかは目を逸らし、さやかは小さく悲鳴を出すと口元を抑える。もうダメだと思ったその時である。落下予測地点から何やら黄色いリボンがシュルシュルと生えてくると、そのまま女性を包み込み受け止めるように支えていた。
「私がいるんだもの。助けるのは当たり前でしょ?」
さすが巴先輩、グッジョブである。
助け出された女性は意識を失っていたので、魔法を見られる心配もなかったらしい。まぁ見られても魔法でちょちょいらしいのだが。知らぬ間に自分も記憶の改竄をされているのではないだろうか?という恐ろしい考えを巡らせていると、巴先輩がまた新しい知識を授けてくれた。
女性の首筋を見てと言われたので見てみると、大きなキスマーク?みたいなのがあった。タトゥーかもしれない。一般商社の会社員でこんなタトゥーを入れてたら一発でクビなんじゃないだろうか?
まどかを見ると、キスマークと想像したらしく顔を真っ赤にしていた。そういえば保健体育の授業のあとも、まどかは真っ赤にしていたことを思い出した。
「これが魔女の口づけよ」
魔女は積極的に動くものではないらしい。普段は結界内にずっと居座っているそうだ。使い魔を派遣して、負の感情を抱えてる人間にマーキングを付ける。マーキングされた人間は、自ら魔女の元へと集まってくるらしい。なんとも恐ろしい話である。
とりあえず女性を保護すると、巴先輩はこのまま魔女退治をするらしい。遂に体験コースも本格的になってきた。マジカルなバットを用意し、まどかを後ろに配置するように前に出る。けど、巴先輩よりは後ろだ。まだまだ怖いものは怖いのである。
特に何もトラブル等もなく、魔女を退治した巴先輩は優雅に紅茶を飲んでいた。どこから出したのだろうか?やっぱ魔法マジぱねぇっす。
まどかと勝利の余韻を楽しんでいると(何もしてないけど)、巴先輩が暗がりに向かって何やら話し掛けていた。
するとまたまた出ました。例の転校生である。巴先輩は私たちの見ている前だからだろうか、転校生とバチバチの喧嘩売ってんのかトークを繰り広げていた。我々は一般人なので基本は観戦モードである。だが、さすがに同じクラスの仲間でもあるので、自分から仲裁に入ってみるべく頑張ってみる。
「あの~巴先輩、ちょっといいっすか?」
「あら、美樹さんどうしたの?」
「私が転校生と少しだけ話しちゃってもいいっすか?」
巴先輩に頼んでみたら快くOKを貰った。
危なそうなら参戦するらしい。参戦って私は戦わないからね?
意を決して転校生の前に出る。何故か杏子の姿が頭に浮かんだ。何かが似ているのだろうか?答えは解らない。
「や~転校生、ちょっとお話してもいいかな?」
「美樹さやか、貴女と話すことは私にはないわ」
とりつく島もない塩対応に若干顔が強張るが、そこは元気いっぱいレディーさやかちゃん。元気だして努めて明るい対応を心掛ける。
「まぁそう固いこと言わずにさぁ。巴先輩も私らのことを思って言ってんだしさ」
「…巴先輩?巴マミのことかしら。彼女は考えが甘すぎるのよ。こんな危険なことは止めて、魔法少女のことも忘れて貴女たちは日常へと帰りなさい」
(変ね、巴先輩という呼び方はしなかったと思うのだけれど)
転校生との対話は呆気なく終了。
若干の違和感を抱えるほむら。
次はないわよと意気込むマミ。
オロオロしっぱなしのまどか。
転校生ともう少し仲良くなれたらなと思うさやか。
なんだか変な空気のまま解散の流れとなってしまった。この場所からはまどかの家は遠いので、まどかは巴先輩に送ってもらう流れとなった。
帰り道、大通り沿いから少し裏にある道がある。そこを通るのが近道になるのだが、魔女の存在を知ってからというもの、通るのが少し怖くなっていた。恐る恐る脇目も振らずに足早に駆けていると、少し先の暗がりに誰かが倒れている。おっかなビックリ近付いてみると女の子が血だらけで倒れていた。
「ちょ!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ると、見覚えのある髪型に服装、まさかと思いながらも少女の上体を抱える。そこには間違いであってほしかった顔があった。
「きょ、杏子…!」
そこには血塗れの杏子の姿があったのである。