普通の高校生は普通に普通-α   作:那由多 ユラ

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前話の地の文は安心院なじみが語ったようだが、今回は私、黒神めだかが語る!


第2箱 「デビルかっけー!」

 

まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。

 

よくよく周囲を見てみると、どうやら善吉達は巨大な広間にいるらしいということを理解した。

 

素材は大理石か? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。

 

善吉達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

善吉はチラリと背後を振り返った。そこには、やはり呆然としてへたり込む江迎怒江の姿があった。怪我はないようで、善吉はホッと胸を撫で下ろす。

 

「無事か? 江迎」

 

「うん、平気よ」

 

江迎は善吉の差し出した手をとって立ち上がると、人吉の腕に軽く抱きつく。

 

「……江迎?」

 

「~♡」

 

……この広間にいるのは善吉達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で、善吉達の乗っている台座の前にいたのだ。

 

その内の一人、烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした胡散臭い微笑を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

善吉達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってきた。

 

こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。

 

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 

長かったから要約するとこうだ。

 

まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

 

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

 

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

それが、魔人族による魔物の使役だ。

 

今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのだ。

 

これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということで、つまりは人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。

エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

ぷりぷりと怒る畑山愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくなかった。

 

「ああ、お母さんと同じ人種か」と、イシュタルに食ってかかる畑山先生を呆れたような目で眺めていた善吉だった。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

畑山先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

イシュタルはニヤニヤと卑しい笑みを浮かべながら語る。

 

畑山先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

パニックになる生徒達。

 

未だパニックが収まらない中、クラスのリーダー格、天之川光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。天之川は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之川。無駄に歯がキラリと光る。

 

 

 

正義感の強い天之川が人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。

 

そして善吉も、それは見抜いていた。

善吉が持つスキル、欲視力(パラサイトシーイング)は他者からの人の見方を見る能力。

恐らく、天之川から見たクラスメイトは自身の後ろを何も文句を言わずついてくるRPGのパーティメンバーでしかなく、イシュタルから見た彼らは神のもたらした強くも扱いやすく、都合のいい兵士でしかないのだろう。

 

とはいえ、今の善吉には天之川光輝に物申すことが出来るほどの発言力はない。なにせ転校してきて初日に起きたことなのだから。

 

 

当然の流れというようにクラスメイト達が天之川に賛同していく。畑山先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが天之川の作った流れの前では無力だった。

 

 

 

 

 

戦争参加の決意をした以上、全員戦いの術を学ばなければならない。いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生。いきなり魔物や魔人と戦うなど難しいのだろう。

 

その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

 

 

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

 

イシュタルがそう呟いた瞬間、足下の魔法陣が輝き、道が開かれた。

 

どうやら、先ほどの詠唱とやらで台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。

まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。

 

眼下には大きな町、否、国が見える。

山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

 

王宮に着くと、真っ直ぐに玉座の間に案内された。

 

教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。彼らが何者か、ある程度知っているようだ。

 

江迎は居心地悪そうに、善吉の袖をつかみながら最後尾を歩く。

 

巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

 

イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。天之河等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

扉の先には、真っ直ぐに伸びたレッドカーペットと、その奥に玉座があり、王と思われる初老の男が、立ち上がって待っていた。

 

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

そして、玉座の手前に着くと、イシュタルは俺達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。

 

そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がされた。

 

 

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが味よりも原材料が気になるところだ。

 

 

晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きベッドに愕然がくぜんとしたのは善吉だけではないだろう。善吉は、豪奢な部屋にイマイチ落ち着かない気持ちになりながら、それでも怒涛の一日に張り詰めていたものが溶けていくのを感じ、ベッドにダイブすると共にその意識を落とした。

 

 

 

 

 

翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思うが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告したのだ。

 

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

デビルかっけー! と、一人テンション上がりながら善吉はすぐに手に傷をつけ、血を擦り付ける。それを見ながら江迎も針をプスっと刺した。

 

 

 

人吉善吉 16歳 男 レベル:1

筋力:680

体力:546

耐性:78

敏捷:160

魔力:10

魔耐:10

技能:サバット・欲視力(パラサイトシーイング)愚行権(デビルスタイル)・言語理解

 

 

 

江迎怒江 16歳 女 レベル:-13

天職:作農士

筋力:-8

体力:-10

耐性:-3

敏捷:-13

魔力:-6

魔耐:-1

技能:荒廃した腐花(ラフラフレシア)過負荷(マイナス)・言語理解

 

 

 

まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、善吉と江迎は互いのステータスを見せあった。

 

「天職……? 俺には無いのか。

まぁ、確かにお前の天職はそれか味噌職人とかだろうな」

 

「人吉くんは天職がない……専業主夫?」

 

「ニートより先にそれが出るあたり江迎だよな、ほんと」

 

ステータス、レベルがマイナスであることに善吉は終始気にしなかった。

 

 

 





今回地の文を担当したのは私こと、黒神めだかだったのだが、なんと次は球磨川が語るらしい……

私は不安で仕方がないぞ!?
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