本屋にはあまり来たことはなかったが今はなんだかわくわくしている自分がいる。本に囲まれる経験は夏祭りの前に行った図書館以来なのでなんだかわくわくしている。まあ、それよりも、
「翔くんと本屋に行けるなんて…!やった…!」
これでわくわくしない奴がいるか?いや、いない。すごく嬉しそうな表情を全く隠しきれていない文香さんが隣にいるだけでどこでも楽しいに決まっている。俺まで表情が緩んでしまいそう。
「翔くん?表情が隠しきれてないですよ?」
「…お互い様じゃないですか。」
「う、うるさい…!」
カッと赤く頬を染めた文香さんは恥ずかしそうに僕の前を先導し、本屋の奥へと歩いていった。
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「うおー…。全然わかんねえ。」
小説のコーナーに目を向けると初めて見るようなタイトルや作者の名前が並んでいた。さすがに芥川龍之介とか、森鴎外とかは一般教養として知ってはいるが、全然わかんねえ。
「どうです?翔くん。」
「…右も左も。」
「この本なんてどうでしょう。…おすすめしますよ。」
文香さんから差し出された本は予想に反してなんだか新しそうな本だった。なんだこれ?
「…それは坊っちゃん。夏目漱石の本です。」
「あー。これが。」
国語が苦手なわけではないが、興味が無くて知らなかった。坊っちゃんって夏目漱石なのか。
「翔くんは、告白の言葉を忘れていないですよね…?」
「今日はこの本を俺に渡すためにここへ来たんですか?」
「…はい。あなたにこの方の本を読んで頂きたかったので…。」
文香さんらしいな。俺に夏目漱石を読んで欲しかったのかー。
「文香さん。」「…はい?」
「本、見てきてもいいですよ?」
「…ありがとうございます。」
颯爽と別のところへ行った…。正直な人だ…。
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「すみませんでした…。本に声をかけられている気がしてしまいまして…。」
普段は大人しくておしとやかな人なのに本が絡むと何故こうなってしまうんだろうか…。ま、それも魅力なんだけどな。いいだろ?
「翔くん?大丈夫ですか?なんだかにやにやしていらっしゃいますよ?」
「大丈夫です。愛を自分の中で確かめてました。」
「ふぇ?!」
自分も恥ずかしくなって二人ともそそくさと本屋から出た。
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「次はどこへ向かいますか?」
「私の家で先ほど買った本を読みませんか?」
「わかりました。」
ん?家?文香さんのおうちってことか。まあ行ったことあるし大丈夫か。
「今日は家に誰も居ないんです。」
「そうなんですか?それなら集中して読書ができていいですね。」
「…翔くんはお祭りのことを覚えていますか?」
「もちろんです!一生忘れないですよ。」
「そうですか…。あ、着きましたね。」
文香さんはどこか普段とは違う笑みを浮かべていた。その意味に気づくのはもう少し後だった。