たったひとつの譲れない正義   作:ルルル・ルル・ルールルールー

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初投稿です


第1話 雷島の白き幻獣

 遠くから木が爆ぜるパチパチとした音と、ごうごうと炎が風に煽られる音が聞こえる。

 次いで、耳に届く海賊達の汚い笑い声。とっても不愉快だ。

 

 お母さんもお父さんも、リンちゃんもナナちゃんもリューくんも、近所のおばあちゃんも。もしかしたら秘密基地で隠れて飼っていた猫のみーちゃんも。

 みんな、みんな、みんなみんなみんなみんな。海賊に殺された。

 

 わけがわからない。何でこの島に来たの? 何でみんなを殺したの? 何でわたしを一人ぼっちにするの? 

 悲しみ、苛立ち、不安、焦燥、憎しみ、そして何よりも怒り。たくさんの感情がぐちゃぐちゃで気持ち悪い。吐きそうだ。

 

 わたしにもっと力があれば。海賊達からみんなを守れる強さがあれば。何かが違っていたかもしれない。

 海賊達が憎くて憎くてたまらないけど、それと同じかそれ以上にわたし自身に対する怒りも湧いてくる。何もできなかった。みんなに守られるだけだった。

 そして、みんなに逃がしてもらって、村の外れの地下に掘ってあった倉庫に一人で膝を抱えて蹲るだけ。無力だ。わたしには何にもない。

 

 今も聞こえてくる海賊達の陽気な声に、頭が壊れそうなほどの不快感を感じる。もういっそ、死んでしまって楽になれたらと何度も思った。

 

 でも、ダメ。みんなに生かしてもらったわたしが自殺なんて絶対にダメ。そんなことをしたらみんなの死に意味がなくなってしまう。

 

 わたしは生きて、こいつらがこの島から離れたら身体を鍛えて、そしていつか海軍にでも入ろう。そうして海賊をたくさん捕まえて、いつかはこいつらもわたしが捕まえてやる。

 

 そうすれば、わたしを生かしてくれたみんなに胸を張ることができる。あなた達がわたしを助けてくれたおかげで、こんなにもたくさんの人たちを海賊から助けることができたんだよって。

 

 優しいお母さんは目一杯褒めてくれると思う。お父さんは海兵なんて危ないことやらないで結婚して幸せになれって言うのかな。

 リンちゃん達はすごいすごいってたくさん驚いてくれる。近所のおばあちゃんはご褒美にクッキーを焼いてくれて、みーちゃんは私の脚に擦り寄って甘えてくるかな。

 

 …………生きなきゃ。

 

 倉庫の中の食料はもって一週間分くらい。冬の終わりの時期だから、備蓄はほとんど残ってない。幸い水だけならたくさんあるから何とかなるかな。

 とにかく、何か食べよう。疲れて、疲れて、お腹が空いた。

 

 一番近くの棚に置いてあった変なきのみを手に取ってみる。真っ白な雫型で青い線が何本も走ってる不気味なきのみ。

 たしか二年前に木こりのダンおじさんが見つけて来たきのみだ。見た目が悪すぎて誰も食べようなんて思わないまま、倉庫にしまって二年。それなのにどこも腐ってるようには見えない不思議で不気味なきのみ。

 

 それをわたしは何の躊躇いもなく口に運んだ。食料が限られている以上、どうせこれも後で食べることになるのだし先に食べてしまった方がいい。他の美味しい食料は後に残しておく。わたしは楽しみはとっておくタイプなのだ。

 

 きのみはとても不味かった。それでも、何度も吐き出しそうになりながらも一心不乱に食べ続けた。

 

 食べ終わった後味は涙の味がした。きのみが不味かったからなのか、みんなを殺された悲しみからなのか。

 

 わからなくなったけど、少しは気が紛れたかな。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 わたしが薄暗い地下倉庫に篭ってからしばらく経った。この空間にずっといたせいで、時間の感覚はとっくに狂ってしまった。どれくらい経ったのかはわからないけど、食料は何日か前にすでに切れたから少なくとも一週間は経ったのだろう。

 

 残ってるのは水だけだけど、水だけでも数日間は問題なく生きていられるのは思わぬ発見だった。人の底力なのか、わたしが意外とタフだったのか。それでも、食料がなければいつかは限界が来るだろう。

 

 海賊達の不快な声は今でも聞こえる。聞こえてくる話では、まだしばらくこの島に滞在するようだ。食料がなくなってしまったのだから早くどこかに行ってくれないと困るのに。

 いつになったら出て行ってくれるのかな。

 

 このままだとこの倉庫の中で餓死するが早いか、海賊に見つかって殺されるのが早いか。

 そのどちらかしかなさそう。でも、それはダメだ。わたしは生きないとダメなんだ。

 

 だけど、考えたところでわたしには何もできないのが悔しい。できることはいるのかも知らない神様に祈るだけ。

 

 …………どうやら、祈りは届かなかったらしい。もしくは神様なんていないのか。

 

 遠くから草をかき分ける音と数人の海賊達の話し声が聞こえる。どうやら、この地下倉庫はすでに昨日見つかっていたらしい。

 見つけた海賊が船長と呼ばれている海賊に報告して、その船長が今になってやっとこの倉庫の中を確認しに来た。

 

 この倉庫暮らしを続けていて、なんだか耳が良くなった気がする。視界がずっと真っ暗だからなのかな。前に医者のタタラさんが目が塞がっていると耳が良く聞こえるようになる、なんて言ってたはず。

 それと同じ状態なのかも。今はあんまり嬉しくなかったけど。

 

 海賊はすでにかなり近くまでやって来ている。

 もしかしたら、わたしは今日ここで死ぬのかもしれない。本当は死にたくなんてないけど、現実は非情だ。だけど、簡単に死んでやるつもりなんてさらさら無い。

 

 倉庫の中に転がっていた適当な大きさの木材を手元に寄せる。

 せめて、一人でも道連れにしてやる。わたしは強く決意して、木材を構え地下倉庫が開かれるのを待つ。

 

 やがて、わずかな光が入り口から漏れ出した。久しぶりの光にまぶしさを感じるけど、幸い目はちゃんと見えている。光の先にいる薄汚い海賊の姿もよく見える。

 

 わたしはすぐに脚に力を入れた。何日か食事を取れていなかった割に、脚にも木材を持っている腕にもしっかりと力が入る。むしろ、この倉庫に来る前よりも身体が動いている気がする。こういうのを火事場の馬鹿力とか言うのだったかな。

 

 なんにせよ、これなら一人くらいは道連れにできそうかな。そう考えると自然と頬が吊り上ってしまう。

 

 わたしはあなた達に全てを奪われたのだから、わたしにも一人くらいは奪わせろ! 

 

 まだ、海賊達はわたしのことに気づいていない。最初の一撃は完全な不意打ちができるはずだ。

 倉庫の入り口が半分くらい開いたのを確認してすぐに一番手前の海賊の顔に渾身の突きを入れる。

 

「っっっっっっっ!?」

 

 声にならない悲鳴をあげて蹲る海賊の後頭部に間髪入れずに木材を思いっきり叩きつける。

 それだけで海賊はぐしゃりと派手に血を撒き散らして動かなくなった。思ったよりも簡単。海賊の汚い返り血を鬱陶しく思いながらもわたしは更に機嫌がよくなった。

 

 初めて人を殺したけど、罪悪感なんて何も感じなかった。海賊とは言え、人を殺したことに変わりはない。だけど湧いてくるのは達成感と満足感だけ。

 

 この感覚はまるで、家の中に入って来た目障りな虫を潰すのと近い。海賊なんてただの害虫だから、殺してもなんとも思わないのだろう。

 

 海賊は人間じゃない。ただの虫。

 そう考えると、すっと馴染み、妙な納得感を得た。

 

 虫なら、もっと殺さなきゃ。

 

 突然の仲間の死に固まっている残りの三人の海賊の内、一番弱そうな細身の男を次の標的にしてその顔に木材を力一杯叩きつけてやる。

 

 今度はそれだけで、殺せたみたい。細身の海賊はさっきのやつと同じように動かなくなっている。

 

 だけど、どうやらここまでみたい。

 

「っ! このクソがッッ!!」

 

 残った海賊の内、強そうな方が剣を抜いてわたしの心臓を貫いた。不意打ちで二人を殺せても、正面から戦い慣れている海賊と戦って勝てるわけがない。避けることなんてできなかった。

 

 身体が冷たくなっていくのを感じる。瞼が重い。血が足りない。寒い。熱い。わたしはこれで死ぬのかな。

 

 だけど、二人も殺せた。これで島のみんなは少しくらいわたしのことを褒めてくれるよね。

 お母さん、お父さん、リンちゃん、ナナちゃん、リューくん、おばあちゃん、みーちゃん。

 今からそっちに行くよ。待ってて。

 

「……ふふ」

 

 記憶の中のみんなが笑ってくれた気がする。

 

 そこでわたしの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「ガープ中将! 目的の島が見えました!」

 

 〝海軍の英雄〟ガープの乗る船が偉大なる航路(グランドライン)のとある島を訪れていた。その島は数十年前から嵐と雷に包まれ、誰も上陸することができなかった未開の島。しかし、偉大なる航路(グランドライン)ではそんな島は特段珍しいものでも無い。

 

 年中雪が降り積もる島。端から端まで砂だらけの砂漠の島。果てには空飛ぶ島なんてものもある。でたらめな気候、異常な生物。なんでもありなこの海では、年がら年中嵐や雷に包まれた島なんてものは珍しいものでもなんでも無い。

 

 しかし、この島は何十年も昔は偉大なる航路(グランドライン)にしては普通の住みやすい島だった。それが、ある時期を境に今の気候に変化したと言うのだ。

 

 歴史の文書に目を通してこの異常に気づいた海軍は、島の調査のためにもしもの不足の事態に対応できる実力のあるガープを派遣したのだ。

 

 下っ端の海兵の報告を聞いたガープは、彼から双眼鏡を奪い取り島を観察する。

 

「おーおー、『雷島』の名に違わぬ島じゃのう……なんじゃあれは」

 

 ガープは訝しげに呟いた。

『雷島』の異様に驚いたわけではない。ガープが双眼鏡を通してとあるモノを目撃したから漏れ出してしまった疑問だ。

 

 ガープが見たのは、青白い毛皮に高貴さを感じさせる白い鬣、白い尻尾の四足で飛び回る馬のような白き獣。そして、何よりも目立つのは額から伸びた立派な一本の青いツノ。

 

 その幻獣を思わせるあまりにも美しい姿に、さすがのガープもしばらくの間目が釘付けになっていた。

 

 しかし、ガープはすぐに我を取り戻し船員に指示を出す。

 

「船で近づけるところまで島に接近、その後はわしが一人で乗り込み調査する。予定通りじゃ」

 

「はっ!」

 

 周りの船員はガープの指示に敬礼で応え。すぐに船は島に向かって進み始めた。

 

「あの馬はわしのペットにして、センゴクに自慢してやるか」

 

 ガープはニヤリと笑い、六式〝月歩〟で島に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よろしくお願いします。
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