たったひとつの譲れない正義   作:ルルル・ルル・ルールルールー

2 / 4
第2話 ビリビリ少女とパワハラ(物理)おじいさん

「んぅ……?」

 

 目が覚めたら知らない天井だった。どうやら、ベッドに寝かされているようだ。清潔なベッドで、そのふかふかとした魔力に囚われて抜け出せなくなりそうだけど、鋼の意思で掛かっていた毛布をどかして、すぐに身体を起こす。

 

 そこで気づいた。

 

「あれ? 髪が白くなってる、なんで!?」

 

 胸ぐらいまで伸ばしたわたしの髪は、もともとお母さん譲りの綺麗な黒髪だったのに、なぜか真っ白になっていた。もしかして、地下倉庫生活でストレスが溜まって白くなったとか? 

 前に医者のタタラさんが、ストレスで髪が白くなるとか言ってたような……その時は全く興味のない話だったからちゃんと聞いてなかったけど、今になってわたしの身に起こるとは。

 結構ショックだ。お母さんとお揃いで気に入ってたのに。そのうち戻ってくれればいいけど……

 

「服も、ぶかぶか」

 

 わたしが着ていた服はお母さんの趣味で着せられていたフリフリなゴスロリだったはずなのに、今着ているのはサイズが大きくて全く合ってないぶかぶかな男物の白いシャツとズボン。

 とりあえず、このままだとズボンがずり落ちそうで心配だったので、親切にもベッドの脇に置いてあったベルトをきつく締めて落ちないようにする。

 

 髪と服に意識が取られてたけど、改めて周りを確認してみる。小さな部屋で、置いてあるのは机と椅子とわたしが寝ていたベッドだけ。他には小さな丸い窓とドアが一つずつ。

 

「船の中?」

 

 窓から見えるのは一面、青い世界。太陽の光を反射してきらきら光る海は綺麗で、一定のリズムを刻む波の音はなんとも心地いい。

 

「もしかして、海賊に捕まった?」

 

 この状況や地下倉庫の日々が夢だなんてことは多分ない。海賊にみんなが殺されたのも間違いない。その事実に胸が締め付けられそうになるけど、ひとまず置いておく。

 あの出来事があって、今のわたしが船に乗せられているのならあの海賊達に捕まったと考えるのが妥当だ。

 

「でも、わたしは死んだはず……」

 

 そこまで考えて、手っ取り早く服を脱いで直接確認してみることにした。心臓を刺されたのだから、おそらく傷跡があるはずだ。

 ぶかぶかなシャツを脱いで胸元に目をやる。しかし、傷跡が見当たらない。

 

「あれー?」

 

 手で触ってみても違和感はどこにもないし、わけがわからず本格的に混乱してきた。顎に手をやってムムムと唸りながらこの不可思議現象について考えてみるけど、皆目見当もつかない。

 

 ──と、そこでガチャリと扉が開く音が聞こえた。

 

「よぉ、起きたようじゃな。せんべい食うか?」

 

 入ってきたのはお煎餅をバリバリと食べてる白髪のとても大きなおじいさん。突然のことに思考を停止していると、わたしの姿をしばし凝視したおじいさんはやがて口を開いた。

 

「小さいのう、わしの好みはもうちょっとこう──」

 

「きゃああああああああああああ!!!!」

 

「──へぶっ!?」

 

 下着越しとはいえ、わたしの裸をまじまじと見た上にとんでもないことを口走ったおじいさんに、頭で考えるよりも先に手が出てしまった。

 わたしの悲鳴とともに出てきた謎の青白い雷みたいなのがおじいさんを黒焦げにし、そのボロボロの身体に追撃のビンタが突き刺さりおじいさんは吹っ飛び、派手な音を立ててドアの外に戻っていった。

 

「なに今の!?」

 

 いろいろな意味で万感の叫びだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「悪魔の実……ですか?」

 

「うむ、そうじゃ」

 

 急いで服を着て、しばらく頭を冷やしてから改めて黒焦げで頬に真っ赤な紅葉のマークを付けたおじいさんこと、ガープさんに話を聞いた。

 わたしの身になにがあったのかを説明して、ガープさんからはわたしの状況を説明してもらう。

 

 ガープさんはなんと、海兵さんだったらしい。それも海軍本部中将という海軍の中でも上から三番目の階級。とんでもないお偉いさんだ。

 そんなガープさんは、わたしの住んでいた島の調査のために島を訪れていて、そこで大変な状態になっていたわたしのことを発見して保護したという。

 海賊の船じゃなくて心底良かったと思う。

 

 ガープさんの話では、どうやらわたしは悪魔の実という海の秘宝を食べて能力者というものになっていたとのこと。

 悪魔の実の能力は自然系(ロギア)動物系(ゾオン)超人系(パラミシア)の三種類。自然系は身体が氷や光のような自然現象に変化する能力で、ごく僅かな例外を除いて三種類の中で一番珍しくて強力なモノが多い。動物系はモデルとなった動物の特徴や身体能力を得ることができ、人型、人獣型、獣型の三つの姿に変身できる。超人系は自然系と動物系に属さないその他の能力で、身体の体質が変化したり特殊な現象を起こせるようになったりと、多種多様な能力があるらしい。

 

 これだけだと悪魔の実を食べることにはメリットしかないように思うけど、世の中そんなにいい話ばかりではなく、しっかりとデメリットも存在する。悪魔の実を食べると、カナヅチになってしまい、海や水の中では力が抜けて能力も使えなくなってしまうのだ。更に二つ目の悪魔の実を食べると身体がバラバラになって死んでしまうらしい。

 二つ目の悪魔の実はくれぐれも食べないように気をつけておけばいいことだけど、カナヅチになってしまうのは致命的なデメリットだ。海に沈んだら、すぐに誰かに助けてもらわないと溺れて死んでしまう。

 それでも、悪魔の実を求める人は多くいるらしいけどね。カナヅチになってでも強力な悪魔の実の能力は有用なのだろう。

 

 わたしが食べたのは動物系。その中でも、とんでもなくレアな〝幻獣種〟と呼ばれる〝不死鳥〟のような空想上の存在をモデルとした悪魔の実で、自然系よりも更に珍しくて強力な能力が多いとか。モデルとなった動物の力を再現する動物系で、空想上の存在の能力を再現するのだから、〝幻獣種〟が強いのは当然といえば当然だと思う。

 

 わたしの能力は『ウマウマの実幻獣種モデル〝ユニコーン〟』だってガープさんは言うけど、何となく違うと思った。この感じを上手く言語化はできないけど何となくしっくり来ないのだ。

 そのことを伝えると、悪魔の実についてはわかってないことの方が多いし、未確認の悪魔の実は幾らでもあるのだから無駄に気にする必要はない。後でしっくりくる能力名が思い付いたらそれにすればいい。と言われた。

 

 わたしの向上した身体能力や雷を出す能力は悪魔の実の能力によるもので、傷が治ったのも髪が白くなったのも悪魔の実を食べた影響かもしれないらしい。

 わたしの話を聞いたガープさんの推察では、海賊に心臓を刺されたことによる重度のダメージが原因で、防衛本能が働いて能力が暴走してしまっていた。…………それも、数十年もの間。

 

「正直、実感がないんですけど……見た目も髪の色以外変わってませんし」

 

「それに関しちゃあ、ようわからんが。動物系ならお前さんのそれもモデルとなった動物の特徴の一つなのかもしれんな」

 

 気がついたら数十年経っていて、年齢的にはすでにおばあちゃんになっていた。なんて嘘としか思えない。信じたくない。でも、わたしの住んでいた島が能力の影響で雷と嵐の島になってからすでに数十年、状況証拠からしてまず間違いない事実なのだろう。

 思わずため息が出るけど、死ななかっただけ良かったと思って納得しておくことにした。それに、あの憎っくき海賊どもはきっと暴走したわたしが全部殺したはずだ。そう思うと、嬉しさが込み上げてくる。

 

 でも、身体と精神年齢は14歳なのに実年齢はおばあちゃんかぁ…………

 

 わたしがそんなことを悶々と考えていると、部屋の外がドタバタと騒がしくなり始めた。

 

「なにかあったんでしょうか?」

 

「すぐわかるじゃろ」

 

 ガープさんはそう言って腕を組み、ドアの方に鋭い視線を向ける。

 すると、その直後に部屋の中にノックの音が響いた。

 

「入れ」

 

「失礼します! ガープ中将、海賊が現れました!」

 

 部屋に入って来たのは短い黒髪の若い海兵さん。かなり急いで来たのか、かなり汗をかいている。

 

「どこのどいつかわかるか?」

 

「懸賞金7000万ベリー、〝重装〟のゴデラです!」

 

「よし、すぐに向かう。準備しておいてくれ」

 

「はっ!」

 

 報告に来た海兵さんはそれだけの短い会話をして、ドタバタと部屋を出て行った。

 ガープさんは座っていた椅子から立ち上がって部屋を出て行こうとドアに手を掛ける。しかし、何を思ったのかドアを開ける直前にわたしの方に振り返り、良いことを思いついたとでも言いたげな表情でニヤリと笑った。

 

「お前さん、海兵志望じゃったな。職場体験じゃ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ガープさんに連れ立って甲板に出ると、たくさんの海兵さんが忙しそうに駆け回っていた。わたしは保護されて船に乗せてもらっている手前、何も手伝わずにいることに少し居心地の悪さを感じる。

 

「ほれ、あれが海賊じゃ。7000万ならこの前半の海じゃあ、そこそこじゃな」

 

 ガープさんの指差す方に視線を向けると、遠くの方に海賊旗(ジョリーロジャー)を掲げた大きな船が見える。甲板にはたくさんの海賊達が騒がしく動き回っている。まるで蟻のよう。

 

「お前さん、あれ倒してみろ」

 

「……へ?」

 

 ガープさんが突然わけのわからないことを言ってきて、間抜けな声が出てしまった。

 

「聞こえんかったか? あれを──」

 

「聞こえてますけど! 今までまともに戦ったことがないのにいきなり戦えと言われてもですね……」

 

「お前さんの能力なら大丈夫じゃろ。……多分」

 

 今、小さい声で「多分」って言いましたね? 

 思わず、じっとりとした目になってしまう。わたしのそんな視線に気づいたのか、ガープさんは下手な口笛を吹いて誤魔化そうとしているけど、誤魔化されませんよ? 

 

「っんん! 〝重装〟のゴデラ! 今すぐ降伏するなら命だけは助けてやるぞ!!」

 

 わたしの視線から逃げるようにガープさんは大声で降伏勧告をする。その声があまりにも大きくて、空気がビリビリと震えているようにすら感じる。隣にいたわたしの耳への被害は特に甚大で、咄嗟に塞いでいたというのに、耳が痺れるような感覚が残った。

 

「うるせェ!! ぶッ殺してやらァ!! おめェら、撃ちまくれ!!」

 

 ゴデラの返答は大砲だった。身体の芯に響くような轟音と迫る大砲の迫力に思わず身震いしてしまうが、そんなわたしの様子を見て取ったガープさんは、安心させるように笑いかけながらわたしの肩に手を置いた。

 無茶苦茶なことを言うガープさんだけど、もしかしたら優しいところもあるのかもしれない。

 

「よし、行くぞ! 入隊試験じゃ! ふんッ!!!!」

 

 ガープさんはわたしの肩に置いた手でそのままわたしのことを掴み上げ、あろうことか海賊船の方にぶん投げた。

 

「あほかあああああああああああっ!!!!」

 

 少しでも優しいのではないかなんて思ってしまった数秒前の自分を殴りたい! 

 とんでもないパワハラおじいさんだこの人!! 

 

 ぐんぐんと迫ってくる海賊船。相手の海賊達ですらポカンとした顔でわたしのことを見上げている。

 

「船長ッ! 空から女の子がッ!!」

 

「見りゃわかるッ! おめェら! 迎え討て!!」

 

「「うおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 やばい! このままだと絶対死ぬ!! 

 そう思ったわたしは、咄嗟にさっきの電撃を海賊船に向けて放とうとした。なんとなくだけど、すでに能力の使い方はわかっている。

 

「えーっと、か、雷!!」

 

 わたしの手のひらから放たれた電撃が海賊船の甲板に派手な音を立てて突き刺さり、大きな穴を穿つ。巻き添えに何人かの海賊も黒焦げになり、木造の船に火が付いた。

 

「クソッ! 能力者か!?」

 

「放電!」

 

 海賊達が混乱しているうちに甲板に着地し、自分を中心とした円形に電撃を放って何人かを仕留める。上昇した身体能力のおかげで問題なく着地できたし、電撃の威力がすごくて簡単に殺せる。

 ガープさんの言ってたことはあながち間違ってなかったみたい。それでも釈然としないし、わたしを投げたことは許せないけど。海賊を殺せたことで少しだけ溜飲は下がった。

 

「敵は一人だ! やれ!」

 

 船長の号令で、囲まれて剣や銃を向けられるけど、能力が思ったよりも強かったのもあってそれほど恐怖は感じない。

 そうなってくると現金なもので、心に余裕が生まれてくる。近づいてくる海賊や放たれる銃弾を的確に全て雷撃で迎え撃つ。いくら身体能力が上がっても銃弾を受けて無傷でいられるとは思えないし、荒事に慣れてる海賊に、ただの村娘だったわたしが近接戦闘で勝てるとも思えない。力はあっても技術がないのだ。だから、近づかれる前に全て能力で倒す。

 

「こいつ、つえェ! 船長!」

 

 わたしの能力に怯えた海賊が船長と呼ぶ一番目立つ男──おそらくこいつがゴデラ──に情けなく縋り付く。それを鬱陶しそうに足蹴にしたゴデラが一歩前に出てきた。

 

「てめェ、あんまり調子乗り過ぎンなよ。懸賞金7000万のこの〝重装〟のゴデラ様にケンカ売って生きて帰れると思うんじゃねェぞ!」

 

 重そうな全身鎧に右手に大剣、左手に大斧を持った巨漢。身長は150cmのわたしの数倍はあり、見上げすぎて首が痛くなる。ガープさんよりも大きい。6mくらいはありそうだ。

 でも、自然とそんなに恐怖はなかった。ガープさんには底知れない強そうな雰囲気を感じたけど、ゴデラにはそれが無い。ゴデラもそれなりに強いのかもしれないけど、今のわたしなら多分大丈夫だと本能的に感じる。悪魔の実ってすごい。

 

「ガー……上司はあなたのこと、そこそこだって言ってたよ」

 

「舐めンなッ!!」

 

 ゴデラは右手の大剣を大きく振り回すけど、それを後ろに跳ぶことで回避して、すぐに強めの電撃を放つ。

 

「雷!」

 

「があああああああああ!!」

 

 それだけで、ゴデラは全身を痙攣させながら白目をむいて仰向けに倒れた。死んではなさそうだけど、しばらくは身動き一つ取れなさそうだ。随分と呆気ない。すぐに雷で心臓を貫いて息の根を止める。

 

「せ、船長!」

 

「ひいいっ!!」

 

 ゴデラが倒れたことで、怯えて及び腰になって固まっている残りの海賊たちに追撃しようとしたところで、いつの間にか接舷していたガープさんの船から海兵さんが雪崩れ込んできた。もう少し害虫駆除をしたかったけど、海兵さんのお仕事を邪魔するわけにもいかないので追撃するのをやめて、ふーっと息を吐いて力を抜く。今回はそんなに強い相手ではなかったけど、初めてのまともな戦闘で結構気疲れした。

 

 海兵さんがまだ息のあるゴデラや残党の海賊たちを拘束してるのを眺めながら手持ち無沙汰にしてると、上機嫌そうな笑みを浮かべたガープさんがわたしの方に歩いてきた。

 

「ぶわっはっはっはっ!! 期待通りじゃな!!」

 

 そう言って、ガープさんはわたしの肩をバシバシ叩いてくる。結構痛いのでやめて欲しい。わたしはそれを払って、改めて抗議する。

 

「ガープさん! さっきのは流石にひどいですよ!」

 

 腰に手を当てて怒っていますのポーズを取るけど、ガープさんは全く意に介さなかった。

 

「勝てたからいいじゃろ」

 

 あっけらかんとそんなことを吐かすガープさんに色々言いたいことがあるけど、わたしも勝てたことが嬉しくてたまらなかったのは事実なので、ややあって愚痴を言う気も失せた。

 

「まぁ、海軍入隊に関してはわしから話を通してやるから、安心せい。入隊試験は合格じゃな」

 

 ニヤリと笑うガープさんの姿を見て今度こそ完全に毒気は抜けてしまった。

 

「それなら……許してあげます」

 

「そいつはよかった。改めてよろしくのう、()()()

 

 ガープさんから初めて呼ばれた自分の名前に、海軍の仲間として認めてくれたのだと実感が湧いて嬉しさが込み上げてくる。

 だから、わたしもニヤリと笑って右手の甲を見せる海軍の敬礼を見よう見まねで返した。

 

「改めて、よろしくお願いします! ガープ()()!」

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!
お気に入り&評価、感想もありがとうございます!

シエルが食べた悪魔の実に関して、本編で名前が出るのか微妙なのでここに書いてしまおうかと思います。

リュウリュウの実 古龍種 モデル〝キリン〟

当然オリジナル悪魔の実です。タグにキリンと付けているので特にネタバレとかでもありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。