たったひとつの譲れない正義   作:ルルル・ルル・ルールルールー

4 / 4
第4話 〝黒腕〟のゼファー

 マリンフォード、海軍本部に併設された海軍学校。新兵を育成する教育機関であるこの施設の、演習訓練場でわたしは紫髪に緑色の瞳を持つ巨漢。ゼファー先生と対峙していた。

 

 海軍学校では、主に退役した元海軍将校が教官として何人かの新兵を担当して教練に当たる。

 ゼファー先生もその教官の内の一人で、なんとガープさんやセンゴクさんと同期の元海軍本部大将。しかも、今の海軍本部大将である〝赤犬〟〝青雉〟〝黄猿〟の三人をはじめとしたたくさんの海兵を育てた凄い人らしい。

 

 わたしは明日からこのゼファー先生の下で教練を受けることになっている。そして今日は、わたしの現状の実力テスト。内容は単純明快。ゼファー先生との一対一の模擬戦闘だ。

 

「行きます! 『纒雷(てんらい)』!」

 

 バリバリと音を立てて青白い雷がわたしの身体中の内側と外側を駆け巡る。

 

 マリンフォードに来てから一週間。海軍学校に入る準備と諸手続きが終わるまで、与えられた寮でヌクヌクとダラけていたわけでは決してない。

 わたしなりに自己トレーニングをしていたのだ。とはいえ、動物系悪魔の実を食べたわたしの体力や身体能力はすでに、鍛える必要もないくらいのものになっていたので、専ら能力開発に時間を費やした。

 

 その中で新たに作り出した技の一つが『纒雷(てんらい)』だ。わたし自身の身体に雷を纏うと、なぜか身体能力が上がるということを発見したわたしは、この技を戦うときの基本形態とした。

 

纒雷(てんらい)』発動中は身体能力が上昇し、更に接触時には纏っている雷による追撃が入る。わたしが開発した技の中では、今のところこれが一番シンプルに強い。

 

「来い!」

 

 ゼファー先生の合図でわたしは即座に動き出し、ゼファー先生のお腹に向けて雷を纏った右脚で蹴りを放つ。

 

「なるほど、速いし威力もなかなかだ。だが、まだまだだッ!!」

 

 ゼファー先生はわたしの蹴りを左腕を盾にして簡単に受け止め、そのままわたしの脚を掴み、動きを塞いでから右の拳を振りかぶる。

 このままだと、わたしはこの拳を受けてしまうだろう。だけど、ここまでは想定内だ。

 

「『放雷(ほうらい)』!!」

 

 掴まれた右脚から雷を放出し、接触している左腕からゼファー先生の身体に流し込む。

 

「チッ! こいつは……」

 

 これはマズイと思ったのか、ゼファー先生は慌てて手を離しわたしから距離を取る。

 すぐに手を離したおかげでダメージは少ないようだけど、わたしが纏っている『纒雷(てんらい)』の雷に加え、更に『放雷(ほうらい)』も受けたゼファー先生の左腕はしばらく使い物にならないだろう。

 

 高威力の雷は当たれば簡単に人の命を奪う。しかし、これは訓練なのでそんな威力の攻撃を放つわけにはいかない。だけど、雷はたとえ威力が低くても副次効果として、命中した相手の身体の自由を奪う効果がある。痺れて動けなくさせることができるのだ。

 

 海賊は殺してしまうのが最も手っ取り早いけど、必ずしも全部殺していいわけではないらしく、生きて捕縛した方が良いときもあるという。わたしは全部殺してしまった方が良いと思ったけど、それがルールだと言うのなら従う他ない。

 

 なにより、悪魔の実には能力者が死んだら、再び世界のどこかで同じ能力を持つ悪魔の実が発生するという仕組みがあるという。凶悪な悪魔の実の能力を持つ能力者を殺して、その能力を世に解き放つよりは凶悪犯罪者用の監獄──インペルダウンに収容してしまった方が良いと言われれば、なるほどと納得できる話だった。

 

 捕縛するための殺さない程度の手加減。その練習として、ガープさんの船に乗っていた時に弱めの攻撃を放って海賊を倒そうとして、この相手を痺れさせるという雷の特性に気づいた。

 

「弱めの雷は相手を痺れされることができるのですよ。動かせないでしょう?」

 

 わたしはフフンと胸を張ってゼファー先生に勝ち誇る。明日からお世話になる教官だけど、別にここで倒してしまっても構わないのでしょう? 

 

「なるほどなぁ、確かにこいつは厄介だ。海賊を捕縛するにも便利そうだな」

 

「そうでしょう、そうでしょう」

 

 ゼファー先生がそう言って褒めてくれるので、ますます鼻高々だ。

 

「だがまぁ、俺には効かん」

 

 そう言うと、ゼファー先生の左腕がみるみる黒く染まっていき、「痺れなどない」と言わんばかりに、わたしに見せびらかすように左腕を動かしてみせた。

 

「なんですか? それ」

 

 腕が黒くなるなどという不可解な現象に、訝しみ尋ねると、ゼファー先生はニヤリと笑いながら答えた。

 

「こいつは〝覇気〟って言うんだ。まぁ、詳しいことはそのうち授業で教えよう」

 

 〝覇気〟なんて初めて聞いた。けど、いつか教えてくれるなら今はとりあえずそれでいい。そもそも、このゼファー先生からはガープさんやセンゴクさんのような力強い気配を明確に感じていたのだ。あれだけで倒せるとは、ちょっとしか期待していなかった。

 

「俺を相手に手加減なんて考える必要はないぞ。全力で来い! 俺は元海軍大将〝黒腕〟のゼファーだ!」

 

 ゼファー先生のその叫びにビリビリと空間が震える。これも〝覇気〟なのかな? とんでもない圧力と迫力を感じる。どうやらわたしは、あまりにもゼファー先生を侮っていたようだ。今のわたしは手加減する側ではなく、される側なのだ。

 

 思えば、これまでわたしよりも強い相手と戦ったことはなかった。明確な格上との戦いはこれが初めてだ。

 今まで、弱い海賊を一方的に殺していたせいで、少し慢心していたのかもしれない。ゼファー先生はその慢心を見抜いていたのか、たまたまなのか。わからないけれど、こうしてわたしの傲りを正してくれる場を用意してくれた。それなら、お言葉に甘えよう。正直、勝てる気は全くしない。なんとなくだけど本能で「勝てない」と直感している。

 

 だけど、全力を出そう。せっかくこれほど強い相手と死のリスクがない模擬戦闘という形で戦えるのだから、今のわたしがどこまでやれるのかを知れるチャンスだ! 

 

「怪我しても、知りませんよっ!!」

 

 わたしはさらに『纒雷(てんらい)』の出力を引き上げてゼファー先生に飛び込む。今度はさっきまでとは違う。本気で殺す気の威力の蹴りを放つ。

 

「はっ!!」

 

「さっきよりも格段に速く重くなったな!」

 

 わたしの蹴りをゼファー先生はさっきと同じように黒く染まった左腕で受け止める。ドンッと空気が爆ぜるような音が響くけど、ゼファー先生は特にダメージを感じていないようだ。さらに、今度は脚を掴まずそのまま右腕を繰り出してくる。

 

「ッ『放雷(ほうらい)』!! 

 

 咄嗟に身体を捻ることでギリギリでその攻撃を躱し、さっきのとは比べ物にならないくらいの威力の『放雷』を放つ。この威力だと、そこらの雑魚海賊は丸焦げになって死ぬ。

 

 さすがのゼファー先生もこれには当たりたくないのか、後ろに跳び距離を取る。だけど、これはもともと当たるとは思っていない。

 

 ──本命はこっちだ! 

 

「『槍雷(そうらい)』!!」

 

 手のひらに集めた雷を槍の形にして投げる。この技は『放雷』よりも攻撃範囲がずっと狭いけど、今のわたしに使える技の中では一番の威力と貫通力を誇る技だ。

 雷の槍はバチバチと音を立てながら高速で飛翔し、ゼファー先生めがけて空間を裂きながら突き進む。

 

「『(ソル)』」

 

 しかし、ゼファー先生が突然その場から霞のように消えてしまう。標的を失った雷の槍は演習場の地面に深々と突き刺さり、周囲を派手に破壊するだけだ。

 

 次の瞬間、わたしの直感が働いた。──後ろ! 

 

「『放雷(ほうらい)』っ!!」

 

 直感に従い、咄嗟に前に跳びながら振り向き、全力の『放雷(ほうらい)』を放つ。

 

「ッ! 『鉄塊(テッカイ)』!」

 

 やはり、ゼファー先生はわたしの後ろに居たらしく、驚いた表情を浮かべながらもわたしの反撃を黒い腕を交差させて受け止めた。

 

「まさか、見聞色か? まだ未熟だが、無意識に〝覇気〟を身につけているとは……末恐ろしい新兵だな」

 

 そう言ってゼファー先生はニヤリと笑った。どうやら、わたしは知らぬ間に〝覇気〟を使えていたらしい。驚きだ。

 でもそれ以上に驚きなのは、ゼファー先生が全力の『放雷(ほうらい)』を真正面から受けて無傷なことだ。

 

「だがまぁ、これで終わりだ。『(ソル)』!」

 

 またも、ゼファー先生はその場から掻き消え、瞬きのうちに目の前に現れた。

 

「ふんッ!!」

 

 お腹にめがけて放たれるゼファー先生の捻りこむような右腕を躱そうとするけど、さっきよりも格段に速くて間に合わない! 

 

「くうぅぅっ!」

 

 咄嗟に左腕を挟み込み、お腹を殴られるのを避ける。だけど、代わりに受けた左腕はジンジンと痛み、少し動かしにくい。めちゃくちゃ痛くて涙が出そうだけど堪えて、追撃をもらわないように距離を取ろうとする。

 しかし、ゼファー先生はそれをさせる気は無いらしく、『纒雷(てんらい)』を気にせずにわたしの右腕を黒い左手で掴み、残った右腕のこぶしをわたしの顔の数ミリ先の距離で止めた。

 

「ここまで、だな」

 

 ゼファー先生のその言葉に、わたしはふーっと息を吐き、『纒雷』を解いてその場に座り込む。

 ……全く敵わなかった。ついこの間までただの村娘だったわたしと、何十年も戦い続けている元海軍本部大将のゼファー先生。わたしが負けるのは当然と言えば当然だけど、それでも悔しい。

 

 このままじゃ、ゼファー先生くらいに強い海賊が出てきたら殺せないし、それどころかわたしは呆気なく殺される。それはダメだ。わたしは生きて、たくさん海賊を殺して、わたしを生かしてくれた島のみんなに報いなきゃ。

 

「お前の実力はよくわかった。正直、ここまでやるとは思わなかったが」

 

 ゼファー先生の声に少し暗くなりかけていた思考が打ち切られる。

 

「能力に頼りすぎている部分はあるが、今まで戦闘の経験がほとんど無かったということを加味すれば上出来すぎるな」

 

「わたしも……ゼファー先生くらいに強くなれますか?」

 

 初めての敗北で落ち込んでいたせいか、すごく暗い感じの声が出てしまった。だけど、ここで聞いておきたい。たくさんの海兵を育ててきたゼファー先生なら、わたしがどこまで成長できるのかわかるかもしれない。そんな期待を抱いてゼファー先生の返事を待つ。

 

 ──だけど、ゼファー先生の返事はわたしの期待していたものではなかった。

 

「さぁな。俺にはわからん」

 

 ゼファー先生はそう言って腕を組み、続ける。

 

「勘違いしないでほしいが、別にお前が強くなれないとは言っていない」

 

 その声に自然と下を向いていた顔を上げ、ゼファー先生と目を合わす。

 

「実力はあるし、才能もある。能力も強力だ。だが、それだけで強くなれるほどこの海は甘くはない」

 

「? どういうことですか?」

 

「大事なのは、〝芯〟だ。コイツだけは譲れねえ、コイツだけは押し通す、コイツだけは必ず成し遂げる。そうやって、自分の人生に一本スジを通す。強いヤツは皆、必ずそれを持っている」

 

 信念、というものだろうか? 

 今のわたしにそれはあるのかな。海賊を殺したい。生きて島のみんなに報いたい。この思いは嘘じゃない、わたしにとって何よりも大切なものだ。

 だけど、それは信念と言えるモノなのか……

 

「まぁ、今すぐに見つけろと言っているわけじゃない。お前はまだ若い。これから見つけていけばいい」

 

 むむ、と考え込んでいると、ゼファー先生はわたしを元気づけるようにそう言った。

 

「ゼファー先生の〝芯〟は何なんですか?」

 

 これだけ強いゼファー先生だ。きっと、明確にそれを持っているのだろう。参考として、知りたい。

 

「俺は……そうだな、お前が俺の下を離れる時に、もし覚えていたら教えてやろう」

 

 ゼファー先生は、フッと笑うとそれだけ告げて背を向けた。今すぐ教えてくれても良いのに。いじわるだ。

 

「今日のところはこれで終わりだ。明日から授業を始める。今日はよく休んでおけ」

 

 わたしは片手を上げて演習訓練場を出て行くゼファー先生の背中を何とは無しに眺めていた。とても大きく、力強い背中に見えた。

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただき、ありがとうございます。
お気に入り、評価などもありがとうございます。

『纒雷』
原作のキリンが身に纏うビリビリしたあれです。
自己強化と接触した相手を雷で焼く&痺れさせる技です。
『放雷』
放電攻撃です。身体のどこからでも出せるので、牽制、範囲攻撃、追撃と何でもできる便利な技。
『槍雷』
槍の形をした雷を投げつける技。ホーミング能力とかは特にない。
現時点でのシエルの最高打点。ゼファー先生でも当たれば無傷とはいかないでしょう。当たればね。

ワンピースの世界観で電気がどんな扱いなのか割とふわっとしているのでどこまでやっていいかわからない。
なので、このSSでもシエルの電気は割とふわっとした設定で進めます。何か釈然としない点などがありましたら、キリンのモンスターパワーや悪魔の実による不思議現象だと思ってください。

ゼファー先生はワンピースの映画で一二を争うくらい好きなキャラです。
「かっこいいじゃねぇか」なその生き様を上手く書いていきたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。