周りの女子たちを見ていると馬鹿じゃないのかと思えてくる。
男子たちに恨まれて、蔑まれるようなことをして何になる?
そうやって自分の首を絞めていることにも気付かないとはおめでたいことだ。
お茶会への招待をけんもほろろに断る同級生の女子生徒を見て、ミリーこと【ミリセント・フォウ・ホーカー】は思った。
彼女は表向き誰にでも優しい性格の良い女子として通っている。
だが──何も善意だけでそうしているわけではない。可能な限りの優良物件と婚約を取り付けるためにそう振る舞っているのだ。
なるほど男子たちは結婚に必死で、どんな女子にでもアプローチがあるだろう。
でもそれに胡座をかいてあからさまに見下した態度を取ったり、搾取に走ったりするのは長い目で見ればロクなことにならない。
人から買った恨みはいずれ地獄の業火として自らに降りかかる。そうミリーは言い聞かされて育ってきたし、今でもそう信じている。
逆に自分を律し、他者に優しく接していればその先には果報がある。
それは現在進行形で証明されている。
「今日はヘイゼル君、か」
お茶会の招待状を確認する。
ミリーには金持ちの男子生徒から熱いラブコールが掛かっている。
ミリーとしては期待した通り──否、それ以上の状況である。
実家は決して裕福な方ではないし、ミリー自身も正妻の娘ではなく、妾の娘である。
婚約する相手は裕福な方が良いに決まっている。
それに──正妻の子供たちを見返すという目的もある。
我儘に振る舞い、会う度に自分を見下してくる異母姉妹たちよりもいい男子と婚約して、今まで言われてきた嫌味と悪口のお返しをしてやるのが、ミリーの密かな目標である。
◇◇◇
招待されたお茶会の部屋はだいぶ派手に仕上げられていた。
学生のお茶会には過ぎた、見るからに「高級品です」と主張しているインテリアや茶道具の数々。天井には後から付けたらしい巨大な金細工のシャンデリア。
(趣味悪すぎでしょ──気持ち悪い)
財力自慢をしているとしか思えないレイアウトに思わず嫌悪感を抱くが、もちろんおくびにも出さない。
「ようこそお越しくださいました」
招待してきた子爵家の跡取り【セドリック・フォウ・ヘイゼル】が気合の入ったボウ&スクレープを披露する。
──努めて笑顔を見せているのが丸分かりだ。
笑顔の裏に丸見えの必死さを隠して媚びて来る者に対する本能的な忌避感が生じる。この時間がミリーは嫌いだった。
本音を言えばさっさと婚約を済ませて解放されたいのだが、最優良物件を見極めるためにはまだまだ我慢しなければならない。
ミリーは見事なカーテシーで返して満面の笑顔で返事をする。
「お招きありがとうございます。ヘイゼル君」
堅苦しい礼儀作法では冷たい印象を与え、かといって馴れ馴れしくても「軽い」と不快感を抱かれる。
塩梅を見極めるのが重要だが、ファミリーネームに君付けで呼べば、大体外れはない。ちゃんと敬意を持っている印象があるし、それでいて親しげにも聞こえる。
心中「ないな」と思っていても呼び方は常にファミリーネームに君付けで笑顔を崩さない。
関係を進める気がない男でも、自分の情報を拡散させるピボットとして利用できるからである。
今回も効果は覿面だった。
セドリックは耳が赤くなるのを抑えられていない。
「さ、お席にどうぞ」
差し出された手は微かに震えていた。
「はい」
ミリーは笑顔でその手を取る。
ミリーが席に着くとセドリックが給仕を始める。
家庭教師でも雇っていたのか、丁寧で無駄のない所作だ。
学園のマナー教師もこの男子相手には大して教えることなさそう、とミリーは思う。
どこかの馬鹿な三人娘たちと違って勝手にお茶請けをとって食べ散らかすなどという無粋なことはしない。
セドリックが切り分けたチーズケーキを出してくれるまで行儀良く待つ。
男子相手にマナーのなっていない女子も多いため、これだけでも好印象である。
お茶が入るまでのこの時間はお茶会の中でもマシな時間だ。
お茶が入ったら、自分と結婚するメリットを
◇◇◇
(あー疲れた──)
お茶会が終わり、礼を言って部屋を出たミリーは大きく伸びをする。
(今回もパス、かな)
頭の中でセドリックの序列を決める。
何もミリーは裕福度や身分だけを基準に優良物件かどうかを判断しているわけではない。
性格や能力なども経歴や普段の言動・所作から推測している。
そうやって点数を付けて最高得点を出した男子と婚約する、とミリーは決めていた。
(えーと、明日は──)
手帳を取り出し、予定表を確認する。
(毎日お茶会ってのも疲れるなぁ──)
このままではお菓子の食べ過ぎでブクブク太るのではないかと内心ヒヤヒヤしている。
「あ、ミリー。やほー」
馴染みのある声がした。
「ジェシー、あんたもお茶会帰り?」
「そだよー。今日もあそこ行く?」
ミリーがジェシーと呼ぶ【ジェシカ・フォウ・フリント】はミリーと境遇も価値観も似ていて親友と言える間柄だ。
「行こう!今日は飲みたい気分」
◇◇◇
学園に来てから馴染みのある王都のバー。
少し見つかりにくい場所にあるが、食事は美味しく、静かで、ついでにマスターがイケメンで2人は気に入っている。
「いらっしゃいませ」
マスターがカウンターから声をかける。
店内にはほかの客はいないようだ。
ちょっと得した気分、と思いつつミリーは注文する。
「「いつものを」」
「かしこまりました」
マスターが低アルコールカクテルを作り始めると、ミリーとジェシカはお喋りを始める。
「昨日ミリーを誘ってたアーキンってやつ、いたでしょ」
「あー、いたいた」
「あの人結構胸見てこなかった?」
「あー、うん。ムッツリってやつだよね。ちょっと気持ち悪かった」
「私もー。今日お茶会に誘われたんだけどね、視線が何回も胸に来ててさ、それを隠そうとして俯き気味で余計に気持ち悪くてさ。で、どこ見てるの、って言ってみたらさ──」
「え、聞いたの?聞いちゃったの!?で、なんて言ってたの?」
「ふふ、当ててみて?」
「えー、どこも見てないよ!とか?」
「ブー、ハズレ」
「えー何気になる!言って言って?」
「やだ、思い出しただけで笑いが──」
「ちょっとー、思い出し笑いとか余計気になるよー」
「んーちょっと耳貸して?」
ジェシカが耳打ちしてきた内容にミリーは思わず頬が緩み──
「何それ予想の斜め上!」
「でしょー!笑い堪えるの大変だったんだよ?」
2人して笑うミリーとジェシカ。
「あーやっぱり楽しいね。こういうの、いいよね」
そうだろうそうだろう。ミリーは頷く。
面白かったことや楽しかったこと、あるいは面白おかしく仕立てた愚痴をお喋りで共有することが楽しくない人間などいるだろうか。否、いないと断言できる。
2人が少し落ち着いたところで、マスターがカクテルを出してきた。
2人はグラスを軽くぶつけてひと口飲む。
爽やかな甘酸っぱさが口の中に広がる。
不意にジェシカが少し恥ずかしげに、しかしちょっと自慢げに微笑んで言った。
「そういえば、今度の週末、デート行くんだ~」
「お、それってひょっとして──」
「えへへ」
「えー、ほんとに?誰?」
「ほら、この前話したでしょ?──アルリック君」
「おおー本当か。いいなー、私もデートしてみようかなー」
「絶対その方がいいよ。勉強も大事だけど、せっかくの休みなんだよ?勿体ないよ」
「そうだねー。また男子が殺到して来る予感がするけど」
「ミリーはデートしてみたいって思える人、いないの?」
「うーん、そうは言ってもね⋯⋯」
「いっそデートは別口って事でこっちから誘うのもありなんじゃないかな?」
「ん──確かにね。お茶会しててそこそこいいなって思えた人とか──」
「別にそういう基準とか拘りなくても良くない?私たちとお茶会してる人なんて全体から見れば少ないしさ。例えばそうね──バルトファルトなんてどうかな?」
「あー確か冒険で新しい浮島とロストアイテムの船見つけたって有名になってたよね」
「うんうん。辺境出身だけど意外と狙い目かもしれないよ?独立して男爵位を貰うことになってるって聞くし、実家も投資で発展して裕福になってるみたいだし」
「うーん、でもねえ──バルトファルトって私たちのこと見てないと思うよ」
「そう?方々にお茶会の招待とか出してるじゃない?」
「そうなんだけど、最近特待生の子と仲良さげにしてるしね。たぶんあれは相当入れ込んでるよ」
「え、そうなの?でも結婚できないでしょ?」
「そうなんだけど、たぶんそういう損得勘定抜きで入れ込んでるんだよ。確かにあの特待生、気立てはすごく良いしね。──良すぎるくらいに」
「あ──なるほどね。それは面白くないって思う人が相当いそう」
「そうなの。現実問題、今バルトファルトに粉をかけたら、色々と良くないことになりそうだし、やめとくよ」
──この判断をしたことにミリーは後に
ジェシカは微笑んでまた別の話題を振ってくる。
「そっか。あ、今日のお茶会はどうだった?」
「またあの時とおんなじパターンだったよ。金持ち自慢が凄くてさ──」
また賑やかなお喋りが始まる。
女3人集まれば姦しいというが、2人でも十分だろう。
女性は本質的にワイワイ楽しくお喋りがしたい生き物で、ミリーとジェシカも例外ではない。
いつの間にか時間が経って店に人が集まり始めても2人のお喋りは止まらなかった。
ミリーとジェシカは本質的には猫被りが上手いリアリストで、リオン含め男子生徒諸君は優しくされてコロッと騙されてた説
これじゃ五馬鹿を笑えませんね