ていうかみんな1話目の存在忘れちゃってるんじゃ⋯⋯
「なるほど。これは確かに難所だね。狭い上にこの入り組みよう、それにモンスターも多すぎる」
「弾幕張ってもこれってどんだけいるのよ」
殿のメルセデスとレベッカが毒づく。
メルセデスはショットガン、レベッカはロストアイテムを研究して作られた特注品の連射銃を使って大量のモンスターを屠り続けているが、倒しても倒しても際限なくモンスターは湧いてくる──どころかむしろ増えているような気もしてくる。
「直上です!」
エリスが警告してきた。
天井の穴から飛び出してきたワーム型のモンスターがレベッカに襲いかかるが、寸前で頭を撃ち抜かれて消えていく。
エリスとシビルが天井からの敵に対処しているため、ほかのメンバーは水平方向の敵に集中できる。
見事なチームワークを披露するヘスティカセブンの4人だったが、彼女たちがいてもなお、敵はあまりにも多く、強大だった。
「うわっ!おい、そっち任せてただろ!」
「仕方ねえだろ!多過ぎてこっちも捌ききれねえよ!」
一方で、退路を切り開くアルヴィンたちはチームワークで遠く及ばなかった。
◇◇◇
威力偵察を切り上げて地下6階入り口まで撤退してきた一行は盛大にため息をついた。
「何なのあそこ──」
レベッカが両脚を投げ出してアーマーを脱いだ。
「あんなところに挑んだ君たちは
シビルが皮肉を言う。
「やっぱり駄目でしたか──」
アルヴィンは落ち込む。
期待していたのにまた失敗した。
「ヘスティカセブンのメンバーが4人いてもこれって、やっぱりこっちのルートは難しすぎるな」
ホーレスが呟いた。
「稼ぎがいいって聞いたからここに来たけど──これじゃかえって損してるんじゃ──」
弱音を漏らした仲間の1人【キース・フォウ・ローバー】にクラークが噛み付いた。
「はあ?俺のせいだって言いたいのかよ」
「いや、そんなことは──」
「言ってるのと同じじゃねえかよ!」
言い争いを始めるキースとクラーク。
「やめろよ!お前ら!」
アルヴィンは仲裁に入る。
「俺たちがここに来るのを選んだんだ。そのためにメルセデス先輩たちも呼んだ。ここで引き下がったらそれこそ今までの苦労がふいになるだろ!」
だが、そのアルヴィンの言葉を上から目線だと思ったのか、キースは言い返してくる。
「そう言って一体何発の弾を使って、いくら金を掛けるんだ?今までの稼ぎは殆ど弾代と武器代と、治療費で溶けたじゃないかよ!仮にここから先に進めたとして?掛かった金と、抱え込んだ借金全部賄えるだけの稼ぎができる保証なんかどこにあるんだよ!」
「「んだとてめえ!」」
喧嘩が勃発しかけた時、アルヴィンとクラーク、そしてキースは強い力で引き離される。
尻餅をついた3人は頭に思い切り水をぶっ掛けられた。
やったのはメルセデスとレベッカとエリス。
「な、何するんですか!」
ずぶ濡れになり、アルヴィンは思わず食ってかかる。
「内輪揉めに頭と体力使うとか馬鹿だろ。頭冷やせよ」
メルセデスが先ほどまでとは打って変わった底冷えのするような低い声で言った。
「アンタたちはこのダンジョンを攻略して、お宝を見つけて稼ぎたいと思った。そうでしょ?動機が借金返済のためだったとしても。なのに、なんでみんなで知恵出し合うなり、チームワークを改善するなりしようとしないわけ?お互いに責任を転嫁し合って、仲間内で言い争って──そんなんじゃ私らがいても絶対にダンジョン攻略なんてできないよ」
メルセデスの説教が始まり、アルヴィンたちは言い返せずに俯いてしまう。
その様子を見ているレベッカとエリス、そしてシビルは失笑すら起こさずに背景に徹していた。それほどに怒ったメルセデスの迫力は凄まじかった。
◇◇◇
数十分後。
メルセデスの説教は終わり、アルヴィンたちは別ルートの探索に向かう。
王都のダンジョンと違い、崩落防止用の板や柱はなく、剥き出しの岩肌から鋭い金属結晶が無数に突き出た歩きにくい通路だ。
とはいえモンスターは出ず、比較的安全なルートではあるようだ。
何事もなく大広間のような部屋に到着する。
「ここで少し休もうか。クラーク君、見取り図を」
「あ、はい!」
メルセデスとクラークは見取り図を出して位置の確認を始め、アルヴィンたちは一息つく。
ホーレスは大広間を歩き回っている。
「おいホーレス、ここには何もないぞ?」
アルヴィンは言ったが、ホーレスは折れない。
「隠し宝箱とかあるかもしれないだろ?」
こうなったホーレスは誰が止めても意見を曲げない。
アルヴィンは止めるのを諦める。
ホーレスはランタンを掲げて広間の隅々まで見て回っていたが、不意に足を止めた。
「あったぞ!宝箱だ!」
「何!本当か!」
宝箱と聞いてアルヴィンたちは一斉に立ち上がり、ホーレスの下に駆け寄る。
やや遅れてエリスもやって来た。
宝箱は石の棺のような形をしていた。大の大人が2人ほどは入れそうな大きさだ。
「どうやって開けるんだこれ?」
「これが蓋、だよな?」
「ちょっと待って。トラップとかないか調べないと」
すぐに開ける方法を考え出すアルヴィンたちに対して、エリスは宝箱を検分し始める。
「見たところそういうのはなさそうだけど?」
ホーレスが疑問をぶつけるが、エリスは真剣だった。
「馬鹿だね。本物のトラップはそれと見て分かるようなもんじゃないよ」
エリスは宝箱から目を逸らさずに言い放ち──
「取り敢えず大丈夫そうだね。鍵もないみたいだし、蓋を横の方に押せば開くと思うよ」
エリスからゴーサインが出た。
アルヴィンとホーレスの2人が息を合わせて蓋を押す。
中にあったのは──
「これって──剣だよな?」
「変わった形だけど──」
アルヴィンたちは口々に疑問を口にする。
それくらい、宝箱の中身は奇怪な姿をしていた。
櫛のような深い凹凸が等間隔に並んだ峰に、
およそアルヴィンたちが知る「剣」とはかけ離れた見た目である。
「あー、これってソードブレイカーだね」
エリスが正体を看破した。
「それってどういう?」
ホーレスの疑問にエリスが得意げに答える。
「銃が発達する前に使われてた武器だよ。剣で戦うときに、相手の剣をここの凹凸に噛ませて圧し折るんだ。膂力と技量が要るけど、この大きさなら今の騎士剣だって──」
エリスの解説に一同が気を取られたその時だ。
いきなりソードブレイカーが振り上げられたかと思うと、ホーレス目掛けて斬りつけたのだ。
完全に反応できなかったホーレスは袈裟斬りにされて悲鳴を上げた。
「うあああああああああああ!!」
鮮血が迸る。
「離れて!」
エリスが叫び、アルヴィンたちは咄嗟に後ずさる。
ホーレスから宝箱に視線を移したアルヴィンは目を疑った。
宝箱から伸びた蛸のような触手がソードブレイカーを振り回しているのだ。
「しまった!ミミックか!」
エリスが臍を噛む。
(ミミック?)
聞いたこともないモンスターだ。
宝箱からさらに多数の触手が伸びてホーレスの足首に巻き付いた。
そのまま触手は箱の方にホーレスを引きずり始める。
「この野郎!」
アルヴィンは剣を抜き、触手に斬りかかった。
「よせ!」
エリスの制止も聞かずにアルヴィンは振り下ろされてきたソードブレイカーを躱し、ホーレスを引きずり込もうとする触手に剣を振り下ろす。
しかし、触手は信じられない素早さでアルヴィンの剣をソードブレイカーで絡め取り、あっさりと圧し折ってしまった。
(はっ!?)
折れた剣を見て唖然とするアルヴィンをエリスがタックルで突き飛ばした。
一瞬前までアルヴィンがいた場所にソードブレイカーが振り下ろされる。
「ソードブレイカー相手にそんな剣効くかよ!馬鹿なのか!?馬鹿だろお前!」
エリスがまくし立てるが、アルヴィンの耳には半分も入ってこない。
触手が地面にめり込んだソードブレイカーを引き抜き、アルヴィンとエリス目掛けて振り下ろしてくる。
アルヴィンは思わず目を瞑った。
しかし、ソードブレイカーはアルヴィンに届く直前で甲高い金属音を発して止まった。
目を開けると、ソードブレイカーは見覚えのある剣によって防がれていた。
「早く離れて!」
メルセデスが剣を傾けてソードブレイカーをいなし、地面に激突させて隙を作る。
アルヴィンは慌ててその場から離れた。
「ミミックなんて珍しいわね」
レベッカがハチェットを手にメルセデスに並んだ。
「うん──しかもあんな武器振り回す奴なんて初めて見るよ」
メルセデスは触手を睨みつける。
触手の方はホーレスを放し、メルセデスとレベッカの方を向いて臨戦態勢を取っている。
「銃は効きそうにありませんね。やはり接近戦しか──」
シビルが宝箱を見て言った。
メルセデスとレベッカは一瞬目配せすると──
「はああッ!」
メルセデスが触手に斬りかかった。
触手はメルセデスの剣もソードブレイカーで絡め取ったが、肉厚の剣は折れなかった。
メルセデスは自分の剣ごとソードブレイカーを地面に叩きつけて上から踏みつける。
その機を逃さず、レベッカがソードブレイカーを持つ触手を切断した。
ぎあああああ、と耳障りな悲鳴が宝箱から上がる。
残った触手がレベッカに襲いかかり、ハチェットを奪おうとするが、今度はメルセデスがそれらを剣で斬り払った。
形勢不利と見たのか、触手は箱に引っ込んで蓋を閉じようとするが、シビルがライフルのストックを差し込んで阻止した。
間髪入れずにエリスが手榴弾を取り出すと、安全ピンを引き抜き、箱の中に投げ込む。
シビルがストックを引き抜いた直後、箱の中で手榴弾が爆発し、蓋が上に吹っ飛んだ。
中のミミックは爆発で死んだらしく、黒い煙が箱の中から上がる。
「ホーレス!おい!しっかりしろ!」
アルヴィンたちの方は倒れたホーレスに駆け寄っていた。
かつてないほどの重傷にオロオロする。
「ホーレスが!血が!早く手当てしないと!」
「どいて!」
レベッカがホーレスの装備を剥ぎ取り、診断する。
「これは酷い怪我ね。とりあえず血を止めるけど、早く医者に診せないと」
レベッカが応急処置を始めたが──
「待ってください。入り口付近、感知魔法に感ありです」
エリスが接近してくる敵の存在を看破した。
「ゴブリンです。さっきのホーレス君の悲鳴を聞きつけて来たようです。数40以上」
「──入り口付近か。逃げるのは無理そうだね」
メルセデスが顎に手を当てて考える仕草をするが、アルヴィンやクラークたちは大慌てである。
「迎撃しないと。ホーレスを守るんです!」
アルヴィンたちは銃を手に取ってホーレスを囲もうとしたが、メルセデスはそれを止める。
「落ち着きなよ。わざわざ接近してくるのを待つまでもない。ここならむしろ向かって行った方がいい。レベッカ、エリス、シビル。【壊衝波】で行くよ!」
メルセデスの指示に3人の女子は頷き、素早くフォーメーションを組んだ。
レベッカ以外の全員が銃を手にする。
「私らはゴブリンをやる。君たちは手当てをしていて」
メルセデスが言い終わるや否や、奥からゴブリンの大群が現れる。
「よし、かかろう」
4人は横1列でゴブリン目掛けて走り出した。
不意にゴブリンたちが立ち止まり、矢の雨を浴びせて来た。
しかし、その矢は全てレベッカが展開したシールドに弾かれる。
お返しとメルセデス、エリス、シビルが発砲し、次々にゴブリンを倒していく。
「ストップ!」
メルセデスの指示で4人はピタッと止まり、防御円陣を組む。
エリスが眼に魔法陣を浮かべてゴブリンたちを観測する。
「45、仰角47です!」
「45、仰角47──」
メルセデスがエリスの報告を復唱しつつ卵型の手榴弾を投擲する。
放物線を描いて飛んでいった手榴弾がゴブリンの群れの直上に到達した瞬間──シビルが手榴弾を狙撃し、空中で炸裂させた。
魔法で爆発の威力を強化した破片手榴弾が破滅的な破片の雨を降らせ、ゴブリンを大量に殲滅する。
メルセデスたちは少し前進し、再び止まる。
「25、仰角17です」
「25、仰角17──」
メルセデスが2発目の手榴弾を投擲する。
ゴブリンたちが足元に転がったそれを拾い上げる前にシビルが撃ち抜き、再びゴブリンを吹き飛ばす。
不意にシールドに赤い光弾が直撃する。
「
メルセデスが指示を飛ばし、レベッカがシールドを解除すると、4人はバラけて各個にゴブリンの残党に突撃する。
術者のゴブリンが再び魔法攻撃を放とうとするが、メルセデスが素早く懐に飛び込んで剣で貫いた。
もう1体の術者ゴブリンはメルセデスを攻撃しようとするが──
「よそ見しないでくださいませ!」
レベッカに剣で貫かれ、そのまま体当たりを受けて壁に叩きつけられる。
──戦いは終わった。
40体はいたはずのゴブリンの群れは全て黒い煙に変わっている。
「これが私らのやり方だよ」
メルセデスが兜を脱いで髪を掻き上げる。
「す、すごいです⋯⋯」
アルヴィンは驚愕がおさまらない。
それはほかの仲間も同じだった。
一体どうやったらたった4人で10倍の敵を屠るなんてことが可能になるのだろうか?
そして──自分たちは彼女たちの足を引っ張ってばかりいるという無力感と屈辱感が湧いてくる。
「さあ、誰か、ホーレス君を担いで!さっさと撤退するよ」
メルセデスは手を打ってアルヴィンたちを急かす。
アルヴィンとクラークが慌ててホーレスを担ぐと、メルセデスたちが四方を固める。
一行は速やかにダンジョンを入り口まで引き返したのだった。