ダンジョンライフ
「いるな。ゴーレムだ。数、大体30体か」
ルクシオンが用意した暗視ゴーグルはダンジョンのような暗い閉鎖空間でも昼間と対して変わらないくらいに見える優れものだ。
おまけにレーダーのようなものまで積んでるらしく、岩肌の影や横穴に潜む相手も発見可能だった。
だが同行者たちには暗視用の魔装具としか言っていない。
「おいリオン、さすがに多くないか?ここは一旦退いて──」
レイモンドが弱気な発言をするが俺に退却する気はない。
だってリビアが見てるから。
自分に期待している女の子にカッコいいところを見せて、「すごい」と言われたいのは男のサガというもの。
「心配ねえよ。30秒でカタを付けてくるから。お前らはリビアを守りながらついてきてくれ」
俺はライフルを構え、ダニエルとレイモンドにリビアを任せる。
「あの、リオンさん、無理はしないで下さいね?」
心配してくれるとはリビアは優しいな。
「ああ!」
俺は元気よく返事をして走り出す。
視線でゴーグルを操作し、ストップウォッチをスタートさせた。
視界の右上に表示された数字が時を刻み始める。
◇◇◇
「もっと金がいる!」
ダニエルがそう叫んだのがきっかけだった。
神社で大金を投じて良縁を願い、帰り途にファンオース公国の艦隊とモンスターの大群に襲われ、抵抗ひとつせずにアンジェを人質に差し出した臆病で卑怯な似非貴族の糞ガキどもを煽り立てて戦いに参加させ、そのゴミ屑どもの予想以上の奮闘もあってパルトナーの到着まで持ち堪え、公国の艦隊を破り、最強の敵黒騎士と戦い、辛くも勝利を収めて全員で生還した波乱万丈の修学旅行が終わり、学園での日常が戻ってきた頃。
俺の部屋で男同士の集まりで飲み食いしていた時にお茶会に関する愚痴が出てきたのだ。
お茶会というものはとにかく金がかかる。
部屋を借り、内装やレイアウトを整え、食器と茶器を揃え、高級な茶葉を買い、有名な店にお菓子を特注で作らせ──前世で言うなら新品のバイクが1台買えるくらいの額がたった1度のお茶会で吹っ飛ぶ。
そんな風に手間と時間と金をかけてお茶会を開き、女子に招待状を送っても無視されることの方が多い。
来たとしても最初のお茶会みたく、時間潰しとして勝手気ままに飲み食いされたり、ケチをつけられたり──やりきれない話だ。
だがお茶会は開かないという選択肢がない。
お茶会も開けないような男だと噂されたらそれこそ今より婚活が難しくなる。
結局のところ男子はお茶会で金を使いまくるのを避けられない。
「王都のダンジョンは安全だけど魔石とか金属くらいしか産出しないもんね」
レイモンドが憂鬱な顔で言う。
「くそ、もっと稼ぎのいいダンジョンに行きたい!」
「郊外のダンジョンは希少な魔石が産出するって聞いたけどね──」
「ならそこに行かないか!?お前も首が回らないって言ってたじゃないか!」
「でもそのダンジョン、ケイブドラゴンとかサラマンダーが出る高難度ダンジョンだよ?僕らじゃまだ無理じゃないか?」
ダニエルとレイモンドが郊外の高難度ダンジョンに行くかどうかで議論している。
「なあリオン、お前ここのところしょっちゅうダンジョンに行ってるよな?一緒に郊外のダンジョンに行ってくれないか?」
ダニエルが俺に協力を依頼してきた。
だが俺としては別に郊外のダンジョンに挑む理由がない。
「そうだけどさ、わざわざ郊外に行かなくてもいいだろ?王都のダンジョンだって深くまで行けばけっこう儲けになるとこあるんだぞ?この前リビアと──」
つい口が滑った。
「儲けになる所があるのか?しかもお前、オリヴィアさんと2人占めしてるってことかよ!?」
「僕たちにもその場所教えてくれないかな?僕たちもお金が要るんだよ」
ダニエルとレイモンドが獲物を見つけた狼みたいな目をしている。
まあ、いいか。1人や2人よりは4人の方がもっと奥まで進めるし。
ルクシオンはアロガンツやパルトナーの整備にかかりきりでサポートは期待できないし。
その週末、俺はリビアとダニエル、レイモンドを加えた4人でダンジョンへと潜った。
◇◇◇
「そこにいるのはわかってるぜ!」
岩陰に潜んでいた1体の不意打ちをかわし、発光する心臓めがけてライフルを撃ち込む。
ゴーレムは砂のように崩れ、黒い煙になって消える。
それを見た他のゴーレムが呻き声のような音を発しながら俺を追いかけてくる。
俺はリビアたちからゴーレムの群れを引き離すため、奥の下り坂になった通路へと走る。
ゴーレムは目を赤く光らせて俺を追う。
かなり速い。追いついてくる。
「怒ってるなあ。まあだだぜッ!」
追いついてくるほど速いなら、逆に前に押し出してやればいい。
俺は素早く岩陰の横穴に飛び込んで身を潜める。
先頭のゴーレムたちは俺を見失ってうろうろし始める。
そこに後続のゴーレムたちがぶつかってドミノ倒しのようにバタバタ倒れていく。
「もういいよっと。そして死ね!」
倒れたゴーレムたちに手榴弾を2つ投げつけ、一気に吹き飛ばす。
間髪入れずにライフルを構え、爆発で倒せなかったゴーレムを撃ち抜く。
スピンコックアクションで次弾を素早く装填し、次々に倒していく。
うーん、爽快だ。
レバーアクションライフルでのスピンコックって憧れあったんだよね。
今まで実行に移したことはなかったけど。
だが俺は修学旅行帰りに黒騎士と交戦し、負けそうになって以来、鍛錬を兼ねてかなり本気で練習した。
黒騎士との戦いで俺に絶望的に足りてなかったのは対集団戦の技術──反応速度、状況判断、処理速度、どれを取っても俺は未熟で凡庸だった。
今まではアロガンツという絶対的な優位に立てる機体の性能がそれを補って余りあったが、黒騎士を相手にして分かった。いくらアロガンツの性能が良くてもそれだけでは勝てない相手がいるのだと。
白状しよう。俺はアロガンツの性能にあぐらをかいて慢心し、鍛錬を怠っていた。
ヘルトルーデは捕らえて、魔笛も手中に収めたが、やはり不安は拭えない。
ヘルトルーデや、黒騎士の爺さんや、公国の兵士の言動から察するに、王国を相当憎んでいるようだったし、公国が戦争をやめる保証はない。
だから、もしまた公国が仕掛けて来ても、対応できるように備えはしておくべきだろう。
またあの爺さんのような強敵が現れないとも限らないし、俺もレベルアップしておかなければ。
「あいつ、マジかよ──」
「すごいな──」
ダニエルとレイモンドはリオンの戦いぶりに舌を巻いていた。
ゴーレムは心臓以外ならどこが傷ついてもすぐに再生する凄まじい生命力と、常に群れで行動する習性を併せ持ち、集団で獲物を追い込んで殺しにかかる厄介なモンスターだ。
それをリオンは1人で相手取り、しかも翻弄している。
「右です!」
不意にオリヴィアが叫ぶ。
横穴からゴーレムが3体、出てきた。
「任せろ!」
レイモンドがライフルで1体を撃ち抜く。
すり抜けた残り2体が襲いかかるが、ダニエルが銃剣で1体の心臓を突き刺し、オリヴィアがもう1体に魔法攻撃を命中させた。
3体のゴーレムは崩れて黒い煙になって消える。
「痛っ!」
崩れる直前のゴーレムに最後の足掻きとばかりに殴られたダニエルが悲鳴を上げる。
「大丈夫ですか!?」
オリヴィアが駆け寄る。
「大丈夫。ただの打ち身だよ。ありがとね」
ダニエルはすぐに立ち上がる。
「急ごう。リオンに置いてかれる」
遠のいていく銃声を追って3人は走る。
「これで最後ッ!」
飛びかかってきたゴーレムを華麗に避けて蹴っ飛ばし、壁に激突させて後ろから心臓を撃ち抜く。
いや、最後じゃなかったな。背後にまだもう1体いるのが音で分かった。
振り向きざまにライフルのストックでゴーレムの頭を殴りつけて転倒させる。
ゴーレムは仰向けに倒れ込み、突き出た金属の結晶が体に突き刺さって動けなくなる。
何の苦もなく心臓を撃ち抜く。
ストップウォッチを止める。
「36.2秒か。まだまだだな」
またタイムアタック失敗だ。
「おーい!リオン!ちょっと待ってくれ!」
ダニエルたちが追いついてきた。
俺は来た道を戻って彼らと合流する。
◇◇◇
「すごいな──」
「うん。こんなの見たことないよ」
「綺麗ですね」
たどり着いた場所は無数の魔石が星のように光る大広間だった。
所々に六角柱型の金属の結晶も突き出ている。
「俺が見つけたんだ。取り放題だぜ」
「よーし!掘るぞ!」
「負けるか!」
ダニエルとレイモンドが先を争ってスコップを取り出し、魔石を掘り出していく。
リビアも小型のツルハシで一所懸命魔石を掘り出そうとする。
頑張ってる女子っていじらしくて可愛いと思う。
「一緒にやろう?」
俺がスコップを持って手伝いを申し出るとリビアは明るく笑う。
「はい!」
嗚呼守りたい、この笑顔。
「重いな──」
「耐えるんだよ。金の重みだと思って──」
背嚢一杯に魔石を詰め込んでダンジョンの出口を目指す俺たち。
つい調子に乗って集めすぎたせいでものすごく重い。たぶん40キロくらいあると思う。
鍛えているとはいえ、背負って歩き続けるにはつらい重さだ。
だが、これは相当な儲けになるはずだ。
「なあレイモンド、お前この儲けで何買う?」
「そうだね、差し当たり新しいティーセットかな」
「茶葉とかも見ときたいよな。この前まずいとか言われて帰られたし」
「お菓子もだね。もっと高いのじゃないと喜ばないよとかアドバイスみたいに言われても困るよ本当に」
何を買うかの話題からいつの間にか愚痴を言い始めるダニエルとレイモンド。
お前ら──同意すぎて泣けてくる。
コイツらにはリビアやアンジェのようにコンスタントに来る女子もいないのだ。
その点、俺は恵まれているのだろう。
相変わらず結婚相手は見つからないけど。
「立ち入り禁止?」
ダニエルが立ち入り禁止の看板を見つけた。
(ここだったのか!)
俺にとっては見覚えがある。
この先に縦穴があって、それを降りていった先で”聖なる腕輪“が手に入るのだ。
早いとこ回収したいと思っていたのだが、今まで見つけられないでいた。
もう少し鍛えてからまた探しに来るとしよう。ルクシオンがいない今の俺ではおそらく腕輪まで辿り着けない。
ゴーグルを操作して座標だけ記録する。
腕輪が既にマリエによって持ち去られていたと俺が知るのはこの数ヶ月ほど後のことである。
◇◇◇
「「「乾杯!」」」
大衆向けの居酒屋的な店で祝杯をあげる。
持ち帰った高純度魔石はかなりの額で売れた。といってもお茶会3回ほどでなくなるだろうけどね。
ちょっと気の毒だったので祝杯の分は奢ってやることにした。
「いやーありがとな。リオン」
「気前良いのはリオンの数少ない美点だよね」
「おいレイモンド、それ以上はよせよ。あいつ機嫌損ねたら奢るのやめるぜ?」
「おいおい、嫌味のひとつやふたつで俺が機嫌損ねるわけないだろ?」
伊達に口の悪い皮肉屋の人工知能と普段からやり合ってはいない。
「それより今日は食おうぜ!」
体を動かした後はたっぷり食って体力づくり。
「体動かした後はご飯が美味しいですね」
リビアがステーキを美味しそうに食べている。既に4枚目だ。
リビアってけっこう大食いなんだな。
ダンジョンに潜ってモンスターと戦って、重い戦利品をひいこら言いながら持ち帰り、ギルドで換金して、居酒屋で祝杯をあげる。
異世界らしい日常──ダンジョンライフとでも呼ぼうか。
それが俺は嫌いじゃない。
だから俺はこう言うのだ。
「また行こうぜ」
その言葉にダニエルとレイモンド、そしてリビアも答える。
「おう!」
「ああ」
「はい!」
この日常は大事にしよう。
そして願わくば、この日常を過ごした仲間に幸あらんことを。
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