乙女ゲー世界はモブたちに厳しい世界です   作:鈴名ひまり

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ようやくプロットとシノプシスが完成した──


収穫祭

 修学旅行当日。

 俺は他の大勢の学園生と共に豪華客船に乗っていた。

 俺はついにクラリス先輩のお誘いを断る言い訳を思いつかず、修学旅行の行き先を変更していたのだ。

 正直スメラギ島に行きたかったが、まあいい。少々面倒でもイベントをクリアすればレアアイテムは手に入るし、そのための装備も持ってきている。

 クラリス先輩とデートできるなら楽しいだろうし、断ったら後が怖そうだし。

 さて──修学旅行とはいっても遊んでるようにしか見えない。

 カジノに温水プールにオーケストラに社交ダンスと娯楽には事欠いていないのだから。

 俺にとっては、プールはカースト上位の連中が占領してるし、オーケストラは眠くなるだけだし、社交ダンスは──相手に足を踏まれた挙句、逆ギレされたトラウマがあって行く気がしないので、カジノをぶらぶら回っている。

 3年生の【ヘクター・フォウ・バーデン】先輩と一緒だ。

 ヘクター先輩はルクル先輩の友人で俺たちと同じ底辺グループの男子生徒だ。

「修学旅行は男子にとってはチャンスなんだ。エスコートができればグッと距離が縮まるからな。リオン、お前も頑張り時だぞ」

 こう言うヘクター先輩は知らない。

 俺がクラリス先輩とデートの約束しちゃってること。

 つまり、俺に他の女子にアプローチするチャンスなんてないに等しい。

 俺はまたしても婚活に絶好──かどうかは個人的には甚だ疑問であるが──のタイミングで全く婚活の役に立たないことをやっているわけである。

 ──別にいいけどね。

 人気の女子は男連中が取り囲んで口説こうとしてて近づけないし、そうでない女子は専属使用人にチヤホヤされてご満悦だし。

 それに下手な女子をエスコートするよりクラリス先輩とデートしてる方がずっと楽しいだろうから。

 そのクラリス先輩だが、今は俺と一緒ではない。

 さっきチラッと見かけたが、取り巻き連中に囲まれて劇場に入っていった。

 忠誠心あふれる男子の取り巻きではなく、信用を取り戻そうと必死な女子の取り巻きに。

 まあ、連中の努力は無駄だと思うけどな。

 婚約破棄されたクラリス先輩に散々陰口叩いて、不良堕ちまでさせるに至り、一方的に見限って離れていったのだ。

 今更何をしたところで信用は回復しない。むしろ露骨に媚びへつらってると下がる一方だと俺は思う。

 取り巻きって本当に何なんだろうね。くれるといっても欲しくないわ。

 今回の行き先はダニエルやレイモンドとも違うし、リビアやアンジェとも違う。

 なので俺の顔見知りはほとんどいない。退屈だな。

「ルーレットでもやるか?」

 ヘクター先輩が俺をギャンブルに誘ってきた。

「遠慮しときます。賭け事は好きじゃないので」

 ヘクター先輩が信じられない、と言った顔で俺を見る。

 だが事実である。俺は勝つか負けるかも分からない勝負などしない。

 

 

◇◇◇

 

 

 前世で言うとオクトーバーフェストってところだろうか。

 ハッランドは王国最大の直轄領で肥沃な農業地帯が広がる浮島だ。

 ちょうど収穫が終わる時期にあり、収穫祭で今年の収穫を感謝し、来年の豊作を祈願するのだそうだ。

 港町の大通りを酒樽を積んだ馬車の隊列が郊外の会場まで行進し、神官たちの宣言によって収穫祭は始まる。

 会場には開始前から大きなテントがいくつも並び、数え切れないほどの種類の発泡酒と美味そうな匂いを漂わせた料理が並んでいる。

 はずれの方から歓声が上がった。馬車の隊列が到着したようだ。

 俺は歓声から離れ、クラリス先輩との待ち合わせ場所に向かう。

 クラリス先輩は俺より先に来ていた。

 5分前行動をしていた俺より先に来てるとは、この世界の貴族女性とは思えない行動だ。

「すみません!待たせちゃいましたか?」

 俺は詫びを入れながら駆け寄るが、クラリス先輩は笑って許してくれた。

「いいのよ。私が来るのが早すぎただけだから」

 やっぱり女神かこの人!

 女神かといえば見た目もだな。気合が入ったナチュラルメイクで、シニョンと三つ編みを組み合わせたようなお洒落な髪型をしている。

 耳には小さなイヤリング。不良スタイルの時みたいにいくつも着けるようなことはしておらず、清楚で上品に見える。

 見惚れていたらクラリス先輩が「どうしたの?」と聞いてきた。

「先輩、すごく──お美しいです」

 吸い込まれそうな緑の瞳から目が離せないまま、俺は本音を漏らす。

 たぶん今の俺はハートを抜き取られた放心状態で、無表情なのに目だけがギラギラしてて、間違っても目と目が合う瞬間好きだと気付く、なんてことにはならないだろう。

「あ、あのリオン君?近すぎないかしら?」

 ほら見ろ、クラリス先輩がちょっと引いてるじゃないか!

「すみません、つい」

 ようやく顔を逸らすことに成功(?)する。

「もう──でも、ありがとう」

 褒められたのは嬉しがってくれたようだ。

 いかん、このままじゃミレーヌ様の時みたいに勢い任せで口説いてしまいそうだ。

「行きましょうか。そろそろ開会式始まりますし」

「そうね」

 2人で並んで開会式が行われる広場を目指す。

 エスコートができればグッと距離が縮まる、とヘクター先輩は言っていたが、今の俺たちは無言状態でただ一緒に歩いてるだけ。

 ただ──結構距離が近い。肩がしょっちゅう触れ合うくらいに。

 これってもしかして手とか繋ぎたがってるのか?

 だとしたらここは男の俺から提案した方がいいよな?

 周りは混んでるし、はぐれないようにって言えば自然に繋げるか?リビアやアンジェとクレープの屋台に行った時も混んでたら手握られてたし──いやでも違うかもしれないし、断られたら気まずくなるし──。

 悶々としているとルクシオンの声が聞こえてきた。

『ヘタレなマスターが深く考えても逆効果です。ストレートに提案することを推奨します』

 この人工知能、さらっと俺を見下してきやがった。

 だがアドバイスは聞き入れるとしよう。

「あの、先輩。混んでるのではぐれないように手繋ぎませんか?」

 俺はなるべく自然体を装って言う。

 前世でもこういうのは経験済みだろ!しっかりしろ俺!

「いいわよ。エスコートをお願いね」

 クラリス先輩が俺の手を握──らずに腕を絡めてきた。

 それはちょっと予想外なんですけど!?

「ん?どうしたの?」

 クラリス先輩が俺の顔を覗き込んでくる。

 目が楽しそうに笑っている。人の気も知らないで!

 あれ?もしかして分かってて聞いてるんですかクラリス先輩?

 もしかしてこの人Sなのか?

「先輩──この体勢恥ずかしくないんですか?」

 せめてもの抵抗。

 たしかに美人の先輩と腕組んでてハッピーな状況なのだが、真意が読めないのは看過しかねる問題である。

「あら、嫌かしら?私はむしろ楽しいのだけど」

「──そうですか」

 俺はクラリス先輩と腕を絡めたまま人混みを掻い潜って進む。

 だが俺はクラリス先輩がどういう意図で俺に腕を絡めてきたのか、そればかり考えていた。

 仮にクラリス先輩が俺に好意があるとして、俺が彼女の気持ちに応えられるかというと──答えは否である。

 たしかに今クラリス先輩はジルクとの婚約を破棄されてフリー状態だが、身分が釣り合わないので俺とは結ばれない。

 俺は独立した領主の男爵で、クラリス先輩は政界の重鎮である伯爵家の令嬢。

 結ばれようと思ったら俺が子爵に陞爵するか、クラリス先輩が実家を追い出されるかの2択になる。

 前者は──もしかしたら可能かもしれないが俺の意に反する。

 今でさえ卒業後の王国への貢献で頭が痛いのに子爵にまでなったら──俺の領地じゃ絶対に賄えない。

 宮廷貴族になって政治活動をやるのも面倒なのでパスしたい。

 後者は──それこそゲームでのユリウスルート・逆ハーレムルートでのアンジェみたいな不祥事(と見做されること)でも起こさないと実現しないだろう。

 そしてクラリス先輩がそんなことをしたら大勢の人に迷惑がかかる。

 現にアンジェが俺を代理人にして決闘を起こした後、彼女の実家のレッドグレイブ公爵家は落ち目になっている。

 アトリー伯爵家は落ち目どころでは済まないだろう。

 最悪、大臣の失職──アトリー家の寄子や関係者、その親族の人たちも致命的なダメージを受ける。

 ──第3の選択肢として駆け落ちという手もあるにはあるが、その後を考えるとやはり取ることはできない。

 だとしたら、クラリス先輩は俺をどうしたいのだ?

 今のクラリス先輩は、どう見ても俺を誘惑しているように見えるのだが──。

 もしかして愛人にでもするつもりか?結婚後も愛人を認めさせる女性は多いと聞くが──いやいや、それは男爵家から子爵家までと一部の伯爵家の女性だけだったはず。

 クラリス先輩がそんな存在を欲しがるとはちょっと考えられない。

 ──やっぱり分からん。そして彼女の真意が分かったとして、その時俺はどうすればいい?どうしたい?

 

 俺がそんな風に考え込んでいる時、クラリス先輩がどんな表情をしていたのか、俺はいまだに知らない。

 

 

◇◇◇

 

 

 開会式が行われる広場は窪地状の遺跡だった。

 学園の闘技場と同じように階段状に設けられた席が並んでおり、上の方にはVIPルームのようなガラス張りの部屋まである。

 修学旅行の学園生は好きな席を選んで着席していいことになっていて、クラリス先輩は眺めの良いボックス席を取っていた。

 取り巻き共に邪魔されないためだったのだろうが──そこで俺は()()共とご対面を果たした。

 俺の期待を裏切り、意に反した出世をプレゼントしてくれやがったブラッドとグレッグ、そして全ての元凶、マリエである。

「バルトファルト──とクラリス先輩?」

 ブラッドが驚いたような声を上げる。

 なんという偶然か、彼らは隣のボックス席だった。

 クラリス先輩を見たマリエはそれとなく視線を逸らしている。

「げ──お前らの隣だったのかよ」

 俺が悪態を吐くとブラッドが筋を浮かべた笑顔を向けてくる。

「げ、とはご挨拶だね」

「空賊と一緒に戦った仲じゃねえか」

 グレッグまで──お前らは俺の指示がなきゃろくに動けなかっただろうが!

 悪いが俺はお前らを戦友と思っちゃいないからな。

「言ってくれるな、だが俺は──」

「ここで喧嘩する意味はないわよリオン君。荷物を置いて、乾杯用の飲み物を受け取りに行かないと」

 火花を散らす俺たちを仲裁したのはクラリス先輩だった。

 出世させてくれた恨みを込めてネチネチ嫌味でも言ってやろうかと思ったのだが。

 

 収穫祭の開会式では神官の音頭に合わせて参加者全員で乾杯するらしい。

 ちなみにその乾杯用の飲み物は醸造酒──ビールである。

 ジュースとか烏龍茶はないのかと言いたくなるが、この世界では15歳で成人と認められ、飲酒だってできる。

 異世界はこういうところ、戸惑う。

「どれがいいかしら?」

 クラリス先輩が品定めするかのように大テーブルを物色する。

 大テーブルに並んだビールは金色や茶色といった前世でも馴染みのある色から、黒や緑、青といったエキゾチックな色まであり、実に多彩だ。

「学園の貴族様ですか?でしたらこちらのフーハルデンはいかがでしょうか。爽やかで飲みやすいですよ」

 ビールを配っていたスタッフの男が親切に教えてくれた。

「じゃあそれにするわ。リオン君は?」

 これは──あれだ。飲まなきゃいけない空気だ。20歳まで酒は飲まないようにしていたのだが──

『問題ありませんよ。マスターの肉体はアルコール分解酵素が既に豊富にあります。認めたくはありませんが、新人類の肉体は旧人類に比べて発達が早く、再生能力も高い』

 ルクシオンは問題ないと言うので急性アルコール中毒を起こさない程度に慎重に飲むことにした。

「──同じ物を」

「はい喜んでー!」

 どっかで聞いたようなフレーズを口にして男はジョッキにビールをなみなみと注いで渡してきた。

 

 ミニテーブルを挟んで席に座る。

 ジョッキを置き、広場の方に目をやると歓声と共に酒樽を積んだ馬車の隊列が入場してくるところだった。

 馬車の隊列が中央の祭壇の前で停まると、神官たちが酒樽と麦の束やら豚の丸焼きやらを祭壇にお供えしていく。

 空中に神官たちの姿が大きく映し出され、代表らしき白髭の神官がスピーチを始めた。

「私は言おう、私の兄弟、友のために。あなたのうちに平和と幸福のあらんことを」

 長ったらしいスピーチは聞く気が起きないが、俺は必死で欠伸を堪える。

 10分くらい続いた口上の後、2人の神官が酒樽を1つ、代表の前に持ってくる。

「ホルファート王国収穫祭の伝統に則り、この酒樽を割って開会の宣言とする!この祭に集いし兄弟並びに友たちよ、手に酒を!」

 代表の音頭に合わせて俺たちはジョッキを手に取る。

 代表の神官は装飾のついた白金の斧を振り下ろし、鮮やかな一撃で酒樽を叩き割った。

「乾杯!!」

 噴き出す酒を前に神官たちが叫ぶと、集まった人たちが一斉に歓声を上げ、広場は歓喜の声に満たされる。

「乾杯」

 俺とクラリス先輩もジョッキを突き合わせてグビリとひと口やる。

 なんてことだ!これは本当にビールなのか?

 ビール特有のコクや苦味がほとんどなく、軽い酸味の中にオレンジのような爽やかさを感じる優しい味だ。

 前世での飲み会なんかで飲んでたビールは正直好きじゃなかったが、これはクセになりそうな美味しさである。

「美味しいわね、これ」

 クラリス先輩も気に入ったようだ。

「美味しいいいい!今日は飲むわよ!」

 ──隣がうるさい。

 というかマリエって酒好きだったのか。どうでもいい情報だが、あいつの前世はどんなだったんだろう。

 近いうちに話を聞く必要があるな。

「リオン君、早く飲んで出店を回りましょう。人気の店は売り切れ早いわよ」

 クラリス先輩がワクワクした表情で俺を急かしてくる。

 収穫祭は始まったばかり。お楽しみはこれからだ。




 お酒は20歳から、とか、未成年と●●●(ピー)しちゃダメ、というのは割と最近できた先進国の「流行り」です。
 とはいえ、個人差を無視して設けられた基準が数字こそ違えどいつの時代も存在しているのは、そうする必要があるからでしょう。
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