乙女ゲー世界はモブたちに厳しい世界です   作:鈴名ひまり

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ダメだこれ24話で書ききれないやつだ。


遅すぎた救援

 どうして?なぜ?なんで今?早すぎるにも程があるだろ!

 ルクシオンの報告は俄かには信じられないものだった。

「確かか?」

『王国籍の船からの救難信号を傍受しました。「スメラギ島より帰還中、モンスター多数を伴う公国の艦隊の襲撃を受けた。彼らは第一王女ヘルトルーデ・セラ・ファンオースの名において王国に宣戦を布告。本船には修学旅行中の学園生徒が多数乗船している。至急救援を請う」だそうです』

「何だと!?」

 他人事のように喋るルクシオンに憤りを覚えるが、今はそれどころではない。

 スメラギ島から帰ってくる学園生を乗せた船といったら──リビアとアンジェが乗っている船じゃないか!

『如何しますか?本体とパルトナーはドックで待機中ですが』

「すぐに出せ!救援に向かわないと!このことは王国に伝わってるのか?」

 ルクシオンは歯切れの悪い返事をする。

『ジャミングを受けているようで。信号が微弱です。宣戦布告は既に王宮に伝わっているものと考えられますが、船の方は──』

「分かったもういい!情報収集を続けろ!パルトナーの到着にはどれくらいかかる?」

『急ぎますが、やはりすぐにというわけには──』

「俺も向かう。あのエアバイクは飛ばせるか?」

 あのエアバイク、とは先日アトリー家から頂いた大型エアバイクのことだ。

 ルクシオンが改造のために離れなかったのと、レアアイテム入手ポイントの探索に使うために持って来ていた。

『可能です。今から出れば途中でパルトナーと合流可能です』

「よし。今から船に戻って──」

『いえ、それには及びません。ここまで無人飛行させます。光学迷彩も装備していますので目撃される心配は無用です』

「そうか──じゃあ頼む」

 それにしても、なぜ1年のこの時期に公国の相手をしなきゃならない?

 どこで予定が狂った?

 まさか──俺のせいか?公国と裏で繋がってた空賊とオフリー家を潰したから?

「あ、リオン君。先に来ていたのね。待たせたかしら?」

 クラリス先輩が現れた。

 俺は知っていることをクラリス先輩に言うべきか、しばし悩んだ。

「リオン君?」

 クラリス先輩が怪訝そうに俺の顔を覗き込む。

 下手な言い訳なんて思いつかなかった。

「クラリス先輩。たった今情報を得ました。ファンオース公国が王国に宣戦を布告したとのことです。学園生の乗る客船が公国の艦隊に襲撃されたとも。すみません。俺は行かないといけません」

 クラリス先輩はしばし呆然としていたが、みるみる驚愕の表情に変わる。

「それ、確かなの?」

「確かです。詳しい説明はできませんが、俺はこれから襲われた船の救援に向かいます。アンジェとリビアを助けないと」

 襲われた船がどうなっているのかはまだ分からないが、おそらく拿捕されているだろう。最悪、既に撃沈されているかもしれない。

 だとすればリビアとアンジェは人質か、海の上か──どう考えても無事では済まないだろう。とにかく急いで助けに行かなければ。

「救援って、間に合うはずないでしょう?落ち着いてリオン君」

 クラリス先輩が子供をあやすような口調で止めてくるが、翻意はない。

『シュヴェールト、到着しました』

「シュヴェールト?」

 ルクシオンの奴、エアバイクに名前を付けていたらしい。

 空中に突然、エアバイクが出現し、俺のすぐ横に降りてくる。

 面食らうクラリス先輩をよそに俺は素早くシュヴェールトと呼ばれたエアバイクに乗り込み、ヘルメットを被ると操縦桿を握りしめる。

「リオン君!?」

 クラリス先輩が我に帰って引き止めようと手を伸ばしてくるが、その手は俺に届かなかった。

 シュヴェールトが一気に上昇し、エンジンを唸らせて突き進む。

(クラリス先輩と収穫祭回って、その後レアアイテム探しに行くはずだったのに、どうして!)

 俺を嘲笑うかのように風がびゅうびゅう唸る。

 

 

◇◇◇

 

 

「──行っちゃった」

 リオンが飛び去った方角の空を眺めてクラリスは呟く。

 リオンが言っていたことは俄かには信じられなかったが、彼が動くときは何かが、ある。

 クラリスの直感は彼の言ったことが事実だと告げている。

(すぐに確認を取らないと)

 クラリスは通信機を使うため、急いで船へと戻る。

 ふと、彼が言った言葉が頭をよぎる。「アンジェとリビアを助けないと」と、彼は言った。

(リオン君はあの2人のこと、本当に大切に想ってるのね)

 アンジェリカに気に入られているからと遠慮していては可能性はゼロだと思い、思い切ってアプローチを試みたが、リオンは自分に転ばなかった。

 彼自身は認めないだろうが、やはりアンジェリカとオリヴィアのことは好きなのだろう。自分に入り込む余地はないように思えてくる。

(──本当に馬鹿ね。後から入ってきたくせに、図々しい)

 だが、好きになってしまったのはもう取り返しがつかない。

 アンジェリカとオリヴィアに対する嫉妬とそんな自分への嫌悪感が混ざって、足取りは重くなる。

 

 

◇◇◇

 

 

 パルトナーに着艦した俺はすぐにパイロットスーツに着替えてアロガンツに乗り込む。

『偵察機からの情報では客船と乗客乗員は無事です。ですが会話を分析した結果、アンジェリカが公国との交渉のため単身公国艦隊に投降したとのことです』

「何!?」

 思わず俺は声を上げた。

 客船に纏まっていてくれた方が救出しやすかったのに。

 アンジェリカの意図はなんとなく分かる。自分の身柄と引き換えに他の皆を見逃してもらおうとしたのだろう。

 健気なものだが、正直余計なことを、と思ってしまう。

 こうなったら救出計画の変更が必要だな、と考えながら俺はコンテナに大量の浮輪とゴム製の救命筏を詰め込んだアロガンツを発進させる。

 コンテナの外側に追加のスラスターが搭載され、速力が大幅に向上しているが、それでも到着まであと20分ほどかかる。

 そして──現実は待ってはくれない。

『マスター!公国艦隊が客船への攻撃を開始しました。人質はアンジェリカ1人で十分と判断したようです』

 恐れていた事態が起きてしまった。

「くそっ!とにかく急ぐぞ!」

 操縦桿を目一杯押し込むとアロガンツは空気抵抗を限界まで減らす姿勢を取る。

 早く!

 早く!

 1秒でも早く!

 だが──ルクシオンは非情な報告をしてきた。

『客船、撃墜されました。不時着水を試みていますが、船体の損傷が甚大です。長くは浮いていられないでしょう』

 間に合わなかった。こうなったら救助に切り替えだ。

「ルクシオン、本体は公国への陽動に使え。客船から公国の艦隊を遠ざけるんだ。その隙にパルトナーとアロガンツで救助をやる」

『了解です』

「それとリビアはどこだ?」

『偵察機の情報によると牢屋に閉じ込められています』

「は?」

 予想外の返答に俺は驚愕する。なぜリビアが牢屋に閉じ込められている?

 まさか──アンジェがいなくなって、残された学園生のタガが外れたのか?

 ──助ける気が失せたが、そう都合よくリビアだけを救出する手段もない。

『本体、先行します。これより陽動任務を開始』

 光学迷彩を解除したルクシオン本体がアロガンツを超える高速で水平線の彼方へと飛んでいく。パルトナーと外見上はそっくりだが、速度他の性能は比較にならない。

「言っとくけど引き離すだけだぞ!無闇に攻撃はするなよ」

『──了解です』

 釘刺しておいて良かったな。明らかに渋々という感じの返事だった。

 確かに公国の連中はリビア──と学園生の乗る飛行船を襲って、アンジェを攫ったが、ルクシオンに奴らを攻撃させるわけにはいかない。

 ルクシオンにやらせたら、それこそ嬉々として殲滅するに違いないし、そうなったら厄介事が増えてしまう。それ以前にアンジェも攻撃に巻き込まれかねない。

 だから今は公国の軍勢への対処ではなく、リビアを助けることに集中する。

 

 

◇◇◇

 

 

 ルクシオンの陽動はうまく行ったようだった。

 だが──状況は最悪だ。

 船首から沈んでいく豪華客船の周りに無数のモンスターが群がり、脱出した学園生や船員が襲われている。

「助けてくれえええええ!」

「いやあああああ!!」

「来るなあああ!」

「誰か!誰かあああ!」

 ──悲鳴を上げる彼らを無視することは俺には出来なかった。

「──ドローンとライフルを出せ。モンスターを殲滅する」

『ドローン展開します』

 アロガンツの大腿部から矢のような形の細長いドローンが8機飛び出し、光線を乱射しながら四方に散っていく。

 アロガンツの手にはコンテナから出てきた大型ライフルが握られる。

 構えると銃口に巨大な魔法陣が出現し、海面近くのモンスターの群れをロックオンする。

『雷属性、炸裂式、ヘルブラスト──どうぞ』

 ルクシオンからゴーサインが出る。

「吹き飛べ!」

 引き金を引くと銃口から大口径弾が飛び出し──魔法陣を抜けた途端に青白い光を発して飛んでいく。

 弾はモンスターたちの頭上で炸裂した。

 無数の雷撃が下方に降り注ぎ、モンスターたちを消滅させていく。

 一気に大量の敵を殲滅する高火力魔法だが、雷撃はロックオンしたモンスターにのみ当たるので、生存者たちへのコラテラルダメージはない。

 もっとも、非常に高度で扱いが難しい上に魔力を桁違いに消耗するのでルクシオンの補助がなければとても使えないのだが。

 2発、3発と続けて撃ち込み、海面のモンスターを次々に屠る。

 大量のモンスターを倒したことで膨大な黒い煙が巻き起こる。

 その中から攻撃を生き延びたらしいモンスターが飛び出してくるが、すかさずドローンが追い立ててトドメを刺していく。

『モンスターの8割を殲滅しました。今が好機です』

「よし。急いでリビアの救助に向かうぞ」

 コンテナを開けて浮き輪と救命筏を投下する。

 空中に放り出された浮き輪と救命筏は自動で膨らみ、沈みゆく船の周囲に満遍なく落ちていく。

 学園生や船員たちが我先にとしがみつくのを後目に、俺は沈みゆく豪華客船に肉薄する。

「ルクシオン、リビアのいる牢屋は?」

『特定済みですが──既に浸水しています』

「ッ!とにかく助け出すぞ」

 クソ。どうしてこうも俺はブレるんだ。

 リビアだけ助けられればいいと思ってたのに、あいつらの悲鳴とモンスターに喰われていく姿を見て──助けるために貴重な時間を割いてしまった。

『バトルアクスを使用。切り開きます』

 アロガンツがライフルを格納し、代わりに斧を手に持つ。

 そして豪華客船の船体を叩き壊しながら船内の奥へと進み始める。

 見ていて少し不安になる。

「おい、大丈夫だろうな?」

『これが最短の救出手段です』

 ルクシオンは淡々と答える。

 既に浸水した区画に到達し、アロガンツは腰のあたりまで水に浸かっている。

『牢屋まで到達した後はマスターが救出してください。アロガンツは崩落防止のため動けないと予想されます』

「分かったから早くしてくれ!」

 思わず大声で急かす。

 ルクシオンは言い返さなかった。

 アロガンツが何度目かの斧を振り下ろすと、牢屋の天井を突き破った。

『今です!』

 ハッチが開く。

 外に飛び出し、開いた穴から水で満たされた牢屋に飛び込む。

 ──リビアは力なく水中に漂っていた。

(リビア!)

 魔法で肉体を強化してリビアのところまで泳ぎ、抱きかかえて穴に戻る。

 穴をくぐって水面に顔を出すと、アロガンツが俺たちを拾い上げた。

「おい!リビアは生きてるのか?助かるのか!?」

『落ち着いてくださいマスター』

 ルクシオンが冷静にリビアの身体をスキャンし、指示を出してくる。

『心肺停止状態です。速やかに心肺蘇生をしなければ完全に死亡します』

「分かった!」

 心肺蘇生法なら前世で習ったのを覚えている。

 胸骨圧迫30回と人工呼吸2回。これを5回やるごとに呼吸を確認する、だった。

 ルクシオンがレーザーで示した位置に掌を当て、その上にもう片方の手を重ねて体重をかけて圧迫する。

『マスター、リズムが遅すぎます。もっと早くしてください』

 ルクシオンが口出ししてくる。

 そういうならお前がやれ!と言いたくなるが、球体ボディには無理である。

 こんなことなら人型ボディを用意させておくんだった。戯れとはいえ、せっかく作ったのに。

 30回圧迫するとリビアの頭を少し上げさせて気道を確保して鼻を塞ぐ。

 口移しで空気を吹き込む。

 2回息を吹き込むと、胸骨圧迫を再開する。

 また30回やって、2回息を吹き込んで、胸骨圧迫。

 腕が疲れてくる。なんだよこの根性なしが。動け。動けよ。

 視界が滲む。目に入ったのは汗か、海水か、それとも()()()()か──

 頼むから目を覚ましてくれよリビア!君がいないと世界の危機なんだ!

 願いながら懸命に心肺蘇生を続けるが、リビアは息を吹き返さない。

 視界を滲ませる何かが唇に到達した感触がする。

 ──まさか今世でのファーストキスが溺れた主人公様への人工呼吸になるとは。

 こんなの不本意にも程がある。俺はどこで間違った?

『マスター、パルトナーからメディックが到着しました。後は任せてください』

 ルクシオンの声で我に帰る。

 焦りで一瞬思考がフリーズしていたらしい。

 いつの間にか到着していた小型艇からロボットたちが降りてきて、医療カプセルのようなものにリビアを収容し、手早く運び去っていく。

 ロボットたちが乗り込むと、小型艇はすぐに発進して上空へと消えていった。

『オリヴィアは本体の医務室に運びます。それで命は助けられるでしょう。ですが──』

 ルクシオンが言い澱んだ。

「なんだよ?」

 先を急かす俺にルクシオンは残酷な宣告をしてくる。

『オリヴィアは意識を取り戻さない可能性が大です』

「──は?それって──植物状態、ってやつか?」

『はい。残念ですが、低酸素状態が長すぎました。脳へのダメージが深刻です』

 全身の力が抜けて俺は膝をついた。

 目の前が真っ暗になったように錯覚する。

『マスター!マスター!────!』

 ルクシオンの声が遠くなっていき、世界がどんどんぼやけていく。

 ──どうしてこんなことになった?

 ──何がいけなかったんだ?

 ──本当にこの世界はモブに厳しい。




モブせかの魅力は大団円のハッピーエンドにならないところだと思うのです。
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