乙女ゲー世界はモブたちに厳しい世界です   作:鈴名ひまり

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攻撃開始時刻

 俺の宣告に対する反応は2種類だった。

 ふざけるなと騒ぎ立てるか、だんまりを決め込むか。後者は男子が多かった。

 モニターからに映る騒ぎを見て俺は溜息を吐いた。つくづく腐った連中だ。

 だからこそ──コイツらには落とし前をつけてもらうとしよう。

 俺はマイクを握り直し、かつてないほどの声で怒鳴った。

「ガタガタうるせえんだよこの似非貴族共が!!」

 一瞬で騒ぎが静まる。

 再び騒ぎ出す前に俺は言葉を紡ぐ。

「お前らは自分たちが何でこんな目に遭うのかって思ってるだろうが、俺に言わせれば簡単だ。お前らが情けない腰抜けばかりだったからだ!」

 その言葉に再び怒号が飛び交う。

『似非貴族とはなんだ!』

『何にも知らないくせに!』

『腰抜けはお前の方だろうが!出て来い!』

『大体アンジェリカが悪いのよ!1人だけ助かろうとしたのよ!』

 キャンキャンよく吠える奴らだ。頭にくる。

 特に最後の方は殺意すら覚えるね。

「はあ?どう考えてもそうだろうが。俺は知ってるぞ。アンジェがその身を公国に差し出した時、お前らが何してたか。安堵していたんだよな?黙って嵐が過ぎ去るのを待ってたわけだ。冒険者ってのは仲間を見捨てるという行為を軽蔑するんだったな。なのにその末裔のお前らときたら何だ?どいつもこいつも臆病で、卑屈で、卑怯で勇敢さや気高さの欠片もない!小賢しいネズミみたいな似非貴族だ!」

 その罵倒に真っ先に反応したのは──

「取り消しなさい!」

 ディアドリー先輩だった。

 だが俺は鼻で笑って拒否する。

「嫌だね」

 そしてマイクに向き直り、清々しい笑顔で言ってやる。

「本当の敵である公国軍にはロクな抵抗もできずにやられっ放し。おまけにみんなを助けるために、たった1人でその身を差し出したアンジェを助けに行こうともしない。そればかりか罵る声まで出てくるとは何という体たらく!お前らの先祖は苦労して成功した冒険者なんだろうけど、今のお前らにはまるで価値がない!」

 いつの間にか怒号は止んでいた。

 ──当然だな。言い返す言葉もないだろう。

「公国が人質はアンジェだけで十分と判断するわけだ。お前らには冒険者の末裔であるホルファート王国貴族に相応しい資質はまるでない。果てしなく広い大空に飛行船で旅に出た勇気も、ダンジョンを攻略した知恵も、モンスターを屠ってきた力も──何ひとつとして受け継げなかった情けない弱虫の出来損ないがお前らだ」

「小さい頃からご先祖様たちの冒険話を聞いて育って、学園に入って英才教育を受けて──それで今まで一体何を学んできたんだ?見栄を張り合って、空気を読むスキルだけか?先祖の功績にすがって威張り散らすくせして、攻撃されたら何もできずに蹂躙され、助かったら助かったで敵の手に落ちた仲間を見捨てて、安全なところまで逃げようとする。そんなんじゃ立派なご先祖たちも泣いて──いや、笑ってるね!」

 学園の生徒たちが怒気を纏い始めたのがモニター越しに見えた。

 ──作戦成功だ。あともう一押し。

「腹を抱えて笑っているだろうな!嗚呼、俺の子孫たちはなんて情けないんだろうって!貴族なんて名ばかり、冒険者の血筋だけが取り柄の情けない奴らだ、ってさ」

 俺は高笑いしながら先祖と比べて生徒たちを嘲る。

「お前らの素晴らしいご先祖様たちは頑張って貴族になったけど、それも全て無駄だったな。だって跡を継ぐのがお前らなんだから。何の抵抗もせずに公国に負けて、今も逃げようとしている腰抜けの根性なしどもだ。ご先祖様たちの素晴らしい功績はお前らの情けなさで上書きされる。これぞまさに泥を塗る行為だね。ご先祖様の功績に泥を塗って、子々孫々にまで大恥かかせるわけだ。きっとこのまま帰ったら、お前らはこう言われるぞ。貴族の面汚しってな!」

 貴族の最もデリケートな部分──冒険者の末裔であることへの誇りを煽ってやる。

 効果はたちまち現れた。

「ば、馬鹿にするな!俺は──先祖に恥ずかしい思いなんかさせない!家名に泥を塗ってたまるか!」

 男子の1人がようやくその誇りを思い出したらしい。遅いんだよ。

「随分とご立派な心意気だな。だがここで何もしていないなら同じことだ。胸に手を当てて聞いてみろよ?聞こえないか?お前らに流れてる冒険者の血が情けないって笑ってる声が!」

 多くが胸に手を当てている。船員や、専属使用人まで。

「ほらどうだ?聞こえないか?ゲラゲラ笑ってる声が。それとも悲しんでるか?呆れて肩をすくめてないか?中には笑わせてくれてありがとうって言ってる人もいるかもね。だがな、これだけは確かだ。立派なご先祖様ならこう言うぜ。喧嘩を売られて、何もできずに叩きのめされた挙句、仲間を見捨てて逃げる。そんな臆病者に貴族を名乗る資格はないってな!」

 言い返せる奴はいなかった。

 いたとしても笑い者にしてやるだけである。

 俺は真顔になって怒鳴る。

「既に王国の艦隊も出動している。公国が艦隊と接敵すれば、アンジェは間違いなく生きた盾にされる。そうなる前に俺たちの手でアンジェを取り返し、公国の目論みを挫く!地に落ちた名誉と誇りを少しでも回復したいと思っているのなら!アンジェを取り返すのに力を貸せ!嫌ならさっさと俺の船から下りろ!どっちにするか、今ここで選べ!」

 それを聞いてディアドリー先輩が言葉を発した。

「──そうね。ローズブレイド家の娘ともあろう者が何もせずに蹂躙されて、おめおめと逃げ戻ったなんて末代までの恥だわ。みんなはどうなのかしら?このまま好き放題言わせておいていいの?この男が言うように、本当にご先祖様に合わせる顔がないわよ!」

 すると次々に男子たちから声が上がる。

「舐めるんじゃねえぞ糞野郎!」

「俺らがどれだけダンジョンで鍛えてきたと思ってるんだ!1年のくせに!上級生の実力を見せてやる!」

「偉そうにペラペラと!お前に言われるまでもねーんだよ!」

「武器庫はどこだ!武器を持ってこい!」

 男子たちがやる気になった。

 やはり女子に激励された方がやる気出るらしい。

 最初からやる気出せ馬鹿共が!

「ここまで言ったのだから当然何か考えがあるのでしょうね。貴方はどうやってアンジェリカを奪回するというのかしら?」

 ディアドリー先輩が腕を組んで問うてくる。

 よくぞ聞いてくれた!

「よく聞け馬鹿共!お前らに敵旗艦に乗り込んでアンジェを救出する、なんて大役は務まらないだろうから、それは俺がアロガンツを使って1人でやる。だがそれには敵の目を逸らさせる陽動が必要だ。それをこの船とお前らでやる!」

「たった1人で乗り込む気?貴方正気なの?」

 ディアドリー先輩が予想外という顔をする。

「正気だ。公国艦隊がよだれを垂らしてこの船に夢中になってる隙にかっさらう。その後は王国艦隊と合流して公国に思い切り殴り返してやるのさ」

 本気か?という声が囁かれるが、ディアドリー先輩は笑い出した。

「いいわ!貴方、すごくいい!それから──なんで女子は誰も声を上げないのかしら?ここで逃げるような臆病者は私が絶対に許さないわよ!」

 ディアドリー先輩が女子に向かって檄を飛ばす。

 うんうん。男子にはプライド、女子にはボスに対する恐怖。実に効果的な組み合わせじゃないか。ディアドリー先輩が生きていたのは好都合だったな。

 女子も渋々覚悟を決めたようだ。

「さあ時間がないぞ!さっさと戦闘準備にかかれ!」

 艦内が騒がしくなる。

 俺の意図を汲んだルクシオンの指示でロボットたちが武器を配り、受け取った男子生徒たちや船員、専属使用人や女子たちまでも持ち場へと走る。

『戦える者は武器受領の後、誘導に従い、速やかに指定された持ち場につくように』

 ルクシオンがアナウンスを流す。その声は人間の女性に偽装されたものだ。

 詳細な戦力配置はルクシオンに任せておく。

 銃を持った射手は艦内各所の窓から狙撃、その他は甲板で槍だの剣だの魔法だのでモンスターを迎撃するか、シールドを展開。

 本当はそんなことしなくてもパルトナーは十分な防御力を持っているのだが、わざわざ教えてやることもない。

 ただ死人が出ないようサポートはさせておこう。

 懐中時計を見る。随分長く感じたが、ディアドリー先輩に呼び出されてから今まで20分と経っていなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「バルトファルト!」

 格納庫に向かっていると声を掛けられた。

 声の主はクリスだ。

「何だよ?」

「この船に他の鎧は積んでいないのか?積んでいるならば使わせてくれ!公国の奴らは人が相手にできないような大型のモンスターも引き連れていた。鎧の援護がなければ対処が難しい」

 ──知っている。

 だがコイツは既に満身創痍だ。ルクシオンが動けるようになるまで治療したが、鎧での戦闘には無理があるだろう。

 救助した連中にしたって、戦えないほど重傷な奴は医務室に残している。

「あるにはあるけど──その状態で戦う気か?冗談は止せよ」

「そこを頼む!──これは私のけじめだ。大勢を救うためと言い訳して、貴族としての誇りを見失い、アンジェリカを生贄にして逃げようとした。お前が言った通り、ここで戦わなければ私は死んでもあの世で先祖に顔向けできない!」

 ──けじめ、ねえ。

 正直言って無謀だし、コイツが懸念している大型モンスターはパルトナーの対空砲で対処しようと思っていたのだが──止めても無駄か。

「──ついて来い」

 俺は溜息をついてクリスを手招きし、歩き出す。

 

 アロガンツのほかに積んであった鎧というのは【ウィングシャーク】なる空賊団を退治した時、分捕ったやつだ。

 アロガンツに似たマッシブなパワータイプの鎧で、買い手が付かずにパルトナーに積んだままになっていたのだ。

 俺はその鎧を指してクリスに言った。

「これを使え」

「こ、これは──お前の鎧に似ているな」

 クリスは複雑な表情をする。

「性能はアロガンツに及ばないけど、喰らい付かれても壊れないし、振り解けるパワーもある。今のお前じゃ空戦機動なんて無理だろうから丁度いいと思うぞ」

 大体、現在主流の高機動スリムタイプの鎧は脆すぎるんだ。速力は装甲の代わりになんてならない。兵器なら防御力が最優先だろうが。

「それはそうかもしれないが──剣はないのか?」

 クリスは鎧の背中に装備された大鉈を見て言った。

「文句が多い奴だな。同じ刃物だろうが」

 俺は言い捨ててアロガンツに乗り込む。

 胸元のハッチが閉まり、周囲の映像が映し出されると、クリスがタラップを昇って鎧に乗り込むのが見えた。

 慣熟のためか、いくつかの動作を試している。

 俺は再び懐中時計を見た。

 出撃まで、あと5分少々。

 

 

◇◇◇

 

 

 甲板。

「見えたぞ!」

 誰かが叫ぶ。

 遠くからでもそれと分かるモンスターの大群。

『全員戦闘用意。これより同航戦に向け前進する』

 アナウンスが流れ、全員が気を引き締める。

 だが恐怖を拭いきれない者も中にはいた。

 震えている者、呼吸が荒い者、逃げちゃダメだと自分に言い聞かせるように呟いている者──。

 ディアドリーはつい先程までの自分と彼らを一瞬重ね合わせる。

 そして深呼吸して言い放った。

「どうやら皆勘違いしているようね。これから死ぬかもしれない──そうお思いかしら?」

 答える者はいないが、否定しないと言うことはそうなのだろうと、ディアドリーは判断する。

「その考えは今すぐここで捨てなさい。私たちはとっくに死んでいるわ。この戦いは──私たちが()()()()ための戦いなのよ!」

 ディアドリーは声を張り上げる。

「襲撃されて、何もできずに蹂躙される臆病者だった私たちは船を沈められた時に死んだ!ならば今ここにいるのは誰かしら?情けないままステュクスを渡り損ねた亡霊?違う!今ここにいるのは、勇敢な冒険者の末裔、誇り高き王国貴族として生き返る者たちよ!私たちはそれを証明するために戦う。卑劣な敵に、冒険者の血を引く者たちの勇姿を見せつけてやるのよ!」

 ディアドリーはひと息ついて──静かに言った。

「王国の──旗を掲げなさい」

 男子生徒の誰かが「旗を掲げろ」と呟く。

 すると別の男子も同じことを呟き、また別の男子も呟き、その言葉は伝言ゲームのように広がっていく。

「旗を掲げろ」

「旗を掲げろ」

「旗を掲げろ!」

 声は甲板に満ち、大きさを増していく。

 するとどこから操作しているのか、巻き上げ機が動き出し、マストにホルファート王国旗を掲揚する。

 揚がっていく旗を見て武者震いし、周囲に旋風を纏い始めたディアドリーが力強く叫ぶ。

「旗を掲げろ!!」 

 甲板に集まった生徒たちや船員が一斉に武器を掲げ、鬨の声をあげる。

 甲板だけではなく、窓に配置された射手たちや医務室に残された負傷者たちまでもが声を上げる。

 旗が揚がりきってもその声は止まらない。

 

 

◇◇◇

 

 

「──すごいもんだな」

 俺はアロガンツのコックピットに映し出された映像で甲板の様子を見て感心していた。

 よくもまあ、こうまで扇動できるものだな、と。

『マスターにはとても務まらない役ですね』

 ルクシオンは通常運転で皮肉を言ってくる。

「俺には似合わねえよあんな役。俺はモブだし。さっきみたいに裏方で支える方がよっぽど向いてるだろ」

 俺がディアドリー先輩と同じこと言っても、みんなマトモに聞かないだろう。

 だから俺は煽るというやり方を選択したのだ。決してあいつらへの怒りと軽蔑をぶつけたかっただけじゃないんだぞ。──本当だぞ。

 ちなみに「さっき」というのは甲板でみんなが「旗を掲げろ」と叫んでた所でルクシオンに王国旗掲揚の指示を出したことだ。

 実に素晴らしい演出をして差し上げた。俺って気が利くよね。

『ふ──モブ、ですか。マスターは自己認識が実態と致命的に乖離していますね』

 ルクシオンが鼻で笑うような効果音付きで言った。

「──言ってろ。さてと、そろそろだな」

 出撃は秒読み段階だ。

『最終計算、完了。カウントダウン、開始します』

 タイマーが表示され、数字が減り始める。

 格納庫の扉が開き、アロガンツは飛び出す構えに入る。

『バルトファルト──』

 クリスの声が聞こえてきた。

『幸運を祈る。この鎧、使わせて貰うぞ』

「お前こそ、な。死んでも鎧のせいにするなよ」

 皮肉混じりの返答にクリスはふっと笑った。

『生きてまたマリエの笑顔を見るまで死ぬつもりはない』

 ──最後にオチをつけやがった。お前、アイツのどこがそんなに良いんだ?

「ハッ、そうかよ。──絶対に死ぬなよ」

 そう言い終わるや否や、カウントダウンが終了する。

 アロガンツは大空へと飛び出した。

 待っててくれアンジェ。俺が必ず無事に連れて帰る。

 敵の視認範囲外の高空を目指してアロガンツは上昇する。

『パルトナー、攻撃を開始します』

 ルクシオンがそう言うと、下方でパルトナーの主砲が火を噴いた。

 戦いが──始まる。




空賊の頭が乗ってた重装甲タイプの鎧、アロガンツ同様王国だと時代遅れの型落ちに見えるんだったら、鹵獲できても売れなかったんじゃないかな。
だったらリオンがそのまま持っててもおかしくない──はず。
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