乙女ゲー世界はモブたちに厳しい世界です   作:鈴名ひまり

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クラリス先輩の服とか髪型考えるのも何気に楽しかったりする。
その描写のせいで長くなるんだけど。


掴み取る幸せ

『クラリスと結婚できますよ』

 ルクシオンのその言葉に俺はハッとした。

 クラリス先輩と結婚──身分が違いすぎて無理だと思ってたけど、子爵に陞爵したら大手を振ってできるようになるじゃないか!

 クラリス先輩は俺のこと好き(?)な素振りを見せてるし──これって千載一遇の好機なのでは?

 うまくいけば俺には勿体ないほど魅力的な女子と結婚できて、婚活地獄からも解放される!

「それはいいな!」

 ガバッと起き上がる俺にルクシオンは呆れていた。

『現金な方ですね』

「今度開くお茶会には真っ先にクラリス先輩を誘うとするか。クラリス先輩の気持ちを確かめられたら、その場で──いやいやそれはさすがにないか。でも──」

 どうやったらスマートにクラリス先輩との婚約を取り付けられるか、考え始めた俺はハッと思い出す。

「そうだルクシオン、魔笛の解析はどうなってる?」

 ルクシオンは珍しく興奮したような口ぶりで話し始める。

『驚きました。あの道具は全く未知の技術で作られています。年代測定の結果、作られたのはホルファート王国の建国よりも前のことだと判りました』

「え?公国が作った道具じゃないのか?」

『はい。公国は魔笛を解析し、利用しているだけで作ったわけではありません。定義上はあの魔笛もロストアイテムの一種ということです』

 ──知らなかった。

「モンスターを操るカラクリは解ったのか?」

『はい。魔法的な契約によってモンスターたちを従えているものと思われます。その際の触媒は、術者の命です』

「え!?」

 俺は思わず声が上擦った。

 命を吸う道具とか、怖いんだけど。

『そこらのモンスター程度では命を奪われることはありません。精々、精神的な疲労感を味わうだけでしょう。ですが、あの魔笛に封印されている人工的に作り出されたモンスターは別ですね』

 魔笛に封印された巨大モンスター。移動するだけで地震を起こし、何度倒しても復活する厄介すぎるラスボスだ。

『封印というのは不正確ですね。魔笛には巨大モンスターの元になる情報が保存されています。術者は自身の命を触媒に、周辺の魔素を集めて巨大モンスターを実体化させるのです』

「つまり倒せない原因は魔笛だったってことか──」

 てっきりラスボスはリビアの持つ力でなければ絶対に倒せないと思っていたが、無限復活のタネが分かれば対処のしようはある。

「だったら魔笛を壊してしまえば心配はいらないってことじゃないか?それとも壊したら何かまずいことになるか?」

『周囲に影響なく破壊することはできます。ですが使用されている魔法と科学技術に価値があるので、解析を続けたいのです』

 さっさと破壊させるべきかどうか少し考えたが──魔笛は手元にあることだし、面倒なことにならないなら構わないか。

「分かった。けど終わったらちゃんと壊せよ」

『もちろんです』

 ふっと息が漏れる。

 最大の懸案事項の1つが解消された。

「それとルクシオン、もういくつか調べてもらいたいことがあるんだが──」

『何でしょうか?』

 ルクシオンがセンサーアイを光らせた。

 

 

◇◇◇

 

 

 数日後。

 真新しい茶器から透き通った赤い液体をカップに注ぐ。

 今日も今日とてお茶会に精を出す俺だが、今回の相手はクラリス先輩である。

 前回クラリス先輩の方から誘って頂いたお返しという体で招待状を渡したら、その日のうちに承諾の返事をくれた。

 新しいティーセットを購入し、師匠に茶葉・菓子選びに付き合って頂き、レイアウトもいくつも試して一番良いと思ったのを念入りに整えた。

 そして今、会心の出来と自負するお茶をお出ししているわけである。

「貴方のお茶を頂くのは初めてね」

 クラリス先輩は嬉しそうにしているが俺の方は内心穏やかではない。

 俺のお茶など、この前クラリス先輩の淹れてくれたお茶に比べれば月とスッポンだ。

 いくら会心の出来でもクラリス先輩にお出しするのは正直凄く恥ずかしい。

「──どうぞ」

「ありがとう」

 ティーカップを受け取ったクラリス先輩は余裕を見せるかのように香りを楽しんだ後、ひと口飲んで──笑顔になる。

「美味しいわ。これ、ヌワ=リエリアね。私の好きな味よ」

 ひと口飲んだだけで銘柄を当ててきた。

「分かるんですか?さすがですね」

 やっぱりあんな美味しいお茶を淹れるだけあって利き茶もできるらしい。

「ふふ、淹れた人がお茶の持ち味を引き出せているからよ。努力したのね」

 ──喜んで貰えてよかった。

 というか今までそんな褒め言葉掛けられたことって──なかったよな。

 これまで誘った女子はもちろん、リビアとアンジェにも言われたことはない。

 リビアはお菓子に夢中だったし、アンジェは俺のこと茶狂いって言うし。

 思わず嬉し涙が出そうになる。

 自分が一番情熱を注いだものを褒められるってこんなに嬉しいんだな──。

 涙腺が緩むのを堪えて自分の分を注ぎ、ティータイムを楽しむ。

 お茶請けを食べてしまって、お茶の1杯目が空になったタイミングで話を切り出す。

「あの──クラリス先輩」「──リオン君」

 見事に質問のタイミングが被った。一瞬気まずい空気になる。

「えっと──お先にどうぞ?」

 俺は先を譲る。

「聞いたわよ。子爵への陞爵が内定したそうね」

 どこか嬉しそうな顔でクラリス先輩は言う。

「はい。レッドグレイブ公爵家から伝えられました」

「──公爵家は貴方の結婚について何か言っていたのかしら?」

「相手の目星は付いているかは訊かれましたけど──どうしてそれを?」

「ふふ──子爵になれば選択肢は広がるわね。下は男爵家から上は伯爵家まで──寄ってくる娘も多くなるんじゃないかしら?」

 それはどうだろうか?今まで恨みを買い過ぎたからな。

 仮にそうなったとしても、今までこちらを見下してきた相手が華麗に手の平を返して媚びてくるなんて、気持ち悪いだけだと思うのだが。

 自分でも気付かないうちに難しい顔をしていたらしい。

「──嬉しくないの?」

 クラリス先輩が心配そうな顔で言ってくる。

「い、いえ──嬉しいですよ」

 クラリス先輩と結婚できるようになったから──そう言いかけたがクラリス先輩の追及の方が早かった。

「そうは見えないのだけど?やっぱりアンジェリカ狙いかしら?」

 え?なんでここでアンジェの話?

 俺ってアンジェのこと好きなように見えてたの?

「いや、違いますって。アンジェはその──そう、友達ですよ。()()()友達です」

「ムキになるところが怪しいわね」

 クラリス先輩が目を細めて愉しそうな微笑みを浮かべている。

「公爵令嬢ですよ。狙うなんて畏れ多いです」

「あら、好意は否定しないのね」

「それは──というか、どうしてそんな話になるんですか?」

「ふふ──どうしてかしらね」

 うーん調子狂うな。なんか今日のクラリス先輩は俺を煙に巻こうとしてる。

 溜息を吐きたくなるのを堪えて2杯目のお茶を淹れていると、クラリス先輩が不意に真顔になり、呟くように訊いてきた。

「ねえ──私はどうなのかしら?」

 その表情は──何というか、期待とか不安とか、色々混じり合った翳りのある笑顔だった。

 一瞬その表情に気を取られて言葉が出てこなかった。

 慌てて口を開くが、クラリス先輩がそれを遮った。

「今ここで答える必要はないわ」

「──先輩?」

 クラリス先輩はお茶が注がれたティーカップを自分で取ってソーサーに置いた。

 角砂糖を入れてかき混ぜながらクラリス先輩は言った。

「収穫祭2日目、一緒に回る約束をまだ果たしてもらっていないわ。その埋め合わせをしてから聞かせて」

 埋め合わせ?それってどういうこと──?

 クラリス先輩は2杯目をひと口飲んでから言った。

「デートに行くのよ」

 

 

◇◇◇

 

 

 お茶会の時間が終わり、クラリスは女子寮への帰途に就く。

(──あれで良かったのかしらね)

 リオンに自分はどう映っているのか──好意があるのか、それとも単に善意で助けた人の1人なのか──その答えを聞くのが怖くなって彼の言葉を遮った。

(いつから私はこんなに臆病になったのかしら──)

 自問するが、実のところ考えるまでもなく答えは分かっている。

 かつて愛していた男(ジルク)に捨てられてからだ。

 あれから女性としての自信をほぼ完全に喪失してしまった。

 おまけに収穫祭で考えつく限りの誘惑を試みてもなお転ばず、自分の前でオリヴィアとアンジェリカへの想いを滲ませたリオンを見て、僅かに残っていた歪んだ自信も完全に打ち砕かれた。

 そしてリオンが自分を求めてきたのは夢心地の時、それも目の前の相手が誰かも分かっていない状態だった。

 ──好きな人に愛されない苦しみをまた味わうことになる予感がする。

 だから──仮に両想いだったとしても、予感通りあえなく振られることになるとしても、その前にもうひとつだけ思い出が欲しかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ルクシオン本体。

 その医務室でリビアはまだ眠り続けている。

 俺はカプセルの横に【聖なる首飾り】を置いた。

 本来ならリビアが持つことになっていたもの。

『権威の象徴とも考えましたが、エネルギーを内包しています。何かの効果があるのは間違いありません』

 ルクシオンはそう言っていた。

 何の効果かは分からなかったが、リビアが持つと凄いパワーを発揮するアイテムだ。

 チートレベルの防御力とか、ダメージを受けた味方の回復とか、モンスターへの強烈な攻撃力とか。

 もしかしたらリビアも助けてくれるかもしれない──そう思ってリビアの傍に置くことにした。

「ごめんな──渡すのが遅くなった」

 もし修学旅行の前に渡していたらどうなっていただろうか。あの悲劇は防げただろうか。

 ──考えても仕方ないか。

 今はただ回復を祈るばかりだ。

「そういえばさ。俺、子爵に昇進することになっちゃったんだ。リビアを助けに行ってアンジェを奪い返して、ちょっと王国軍のお手伝いをするだけのはずだったにさ。黒騎士っていう出鱈目に強い敵が出てきて、仕方なく相手したんだけど──死ぬかと思ったよ」

 何も返ってはこないが、リビアに俺の奇譚を語って聞かせる。

「何とかかんとか黒騎士を撃退したら、周りから英雄扱いされちゃってさ。凄くレアな勲章まで貰うことになったんだ。そんなもの俺は興味ないんだけど。で、色んなとこから推薦状出されて、ミレーヌ様にまで後押しされて、子爵になることが決まったってわけ。本当に──なんで毎度毎度厄介事に巻き込まれる度に出世しちゃうんだか──」

 ──いけない。愚痴になってしまっていた。

 空気が重くなるようなこと言っちゃ悪いな。

「でも──今回は悪いことばかりでもなかったな。今度の週末クラリス先輩とデートすることになってさ。うまくいけば──やっと婚活から解放されそうなんだよ」

 リビアが眠ってなかったら、この話にどんな反応をしただろうか──そんなことをチラッと考える。

 リビアのことだから素直に祝福してくれるとは思うけど──ひょっとしたら心配するだろうか。初対面の時クラリス先輩はかなりグレてたしな。

 でもクラリス先輩は本当はとても健気で、優しくて、凄く魅力的な人なんだって教えてあげたい。

 正直──目を覚まさないリビアや、悲しみと怒りで近寄り難い雰囲気を纏うようになったアンジェを差し置いて、俺だけが幸せを掴もうとするのはどこか気が咎めたが、どの道婚活からは逃げられない。

 それにクラリス先輩との婚約に成功すれば、婚活に割かれていた時間と資金をもっと有効に使える。

「また来るよ」

 俺はそう言って部屋を出た。

 今度【聖なる腕輪】も回収して持って来よう。

 

 

◇◇◇

 

 

 クラリス先輩は白いブラウスに黒のロングスカートという垢抜けた格好で来た。

 いつものようなサイドアップではなく、三つ編みを組み合わせたお洒落なハーフアップ。

 クラリス先輩って本当に髪型のバリエーション多いな。

「待ったかしら?」

「いえ、さっき来たばかりですよ」

「良かった。リオン君、新しい上着買ったの?」

 クラリス先輩が俺の上着を見て尋ねてきた。

「はい、空賊退治の報酬で買ったんですよ」

「そう。似合ってるわよ」

 クラリス先輩が褒めてくれた。ここは褒め返すべきだよな。

「クラリス先輩も似合ってますよ。──大人っぽく見えます」

 褒め言葉としてはありきたりだが、俺に女性ウケする褒め方を求められても困る。

 だって──絶対似合わないし。

 そういえばジルクってクラリス先輩とデートしたことあったんだろうか。

 マリエとはしょっちゅうしてたけど──もししてたならどんな風に褒めてたんだろう。

 ──つまらない疑問だな。俺が気にしても仕方ない。

 クラリス先輩はベタな褒め方でも笑顔を見せる。

「ありがとう。さ、行きましょうか」

 クラリス先輩が俺の手を取った。

 収穫祭の時みたいに腕を組んできたりはしない。恋人繋ぎでもない、普通の握り方。

 前回よりかはプラトニックな雰囲気で俺たちは王都を歩く。

 

「あ、あの店行ってみない?」

 クラリス先輩がとある店の前で立ち止まった。

 アクセサリーを売っている店のようだ。

「いいですよ」

 2人で店に入ると、店内にいたのは殆どが貴族女性だった。

 専属使用人を連れて高価そうなネックレスやらイヤリングやらを物色している。

 ──近付きたくないな。

 クラリス先輩は他の客がいない所に歩いていく。

「これ、リオン君に似合うと思うわよ」

 クラリス先輩が手に取って見せてきたのは木彫りのネックレスだった。

 シンプルだが、大人っぽい魅力を感じる。

「着けてみる?」

 どうやら試着できるようだったので、鏡の前に行って着けてみた。

 ──結構印象変わるものなんだな。ネックレス侮り難し。

「気に入ったならプレゼントするわよ」

 クラリス先輩が微笑みながら言った。

 マジか──正直凄く嬉しい。

 女子からプレゼント貰えるのって何気に今世じゃ初めてじゃないか?

 ──だが、一方的にプレゼントされるってのは気が引けるな。ここはひとつ俺からも何か──。

 辺りを見渡した俺はすぐ横にあったものに目が留まった。

「あ、じゃあクラリス先輩にも。これなんてどうですか?」

 俺は簪のようなヘアアクセサリーを手に取った。

「あら、マジェステ?リオン君センス良いわね」

 いや、それほどでもないです。

 前世で妹がよく着けてたヘアアクセサリーにそっくりで、なんとなくクラリス先輩にも似合うかなと思っただけなんだけど──あれマジェステっていうのか。

 妹のアクセに興味なんてなかったから知らなかった。

「気に入ったわ。ありがとう」

 クラリス先輩がマジェステを挿した後ろ髪を見せてくる。

 橙色の髪に白と黒のマジェステはよく似合う。

「よかった。とても似合ってますよ」

 何ていうか──こんな時間はこそばゆいけど心地良い。

 

 購入したアクセサリーをすぐに着けて、俺たちは店を出た。

 外に出ると日の光が当たる分、アクセサリーも着けているクラリス先輩も綺麗に見える。

 クラリス先輩はお茶会で見せたような翳りなど微塵もない笑顔だった。

 

 

◇◇◇

 

 

 昼。

 アクセサリーの店を出てから、もういくつかの店に立ち寄り、魅力的な商品の数々に心躍らせ、空腹になった俺たちはオープンテラスのあるレストランで食事していた。

「うーん、美味しいですね」

 料理に舌鼓を打つ俺は実に上機嫌である。

 クラリス先輩と一緒なので、普段は行かないようなお高めの店に入ってみたら、値が張るだけあってかなり美味しい。

 特に今俺が食べている、湖で獲れた新鮮な魚を使った焼き魚料理は脂が乗っていて絶品だ。

 スパイスと柑橘系の汁のいい香りが味を引き立てる。

「本当ね。来たことなかったけれど、いいものね」

 俺よりだいぶ舌が肥えているであろうクラリス先輩も満足してくれているようだ。

 彼女は蟹を丸ごと茹でて、それをニンニクの油と沢山のスパイスで豪快にローストしたものを注文していた。

 俺が注文した焼き魚と双璧を成すこの店の看板メニューなんだそうだ。

 蟹が丸々1匹殻ごと出てくると、驚くほど大きく感じる。

 実際に1人で食べるには大きすぎたようで、いくらか分けてくれた。

 蟹自体はさっぱりした味だが、スパイスの混じった油を付けると途端に濃厚な味わいになる。こんなの前世じゃ食べたことない。

 この世界に転生して数少ない良かったことは美食を楽しめることだな。

「いかがですか?」

 ウェイターが声を掛けてきた。

「今まで食べた中で一番美味しい!」

 キリッとした笑顔で感想を言う。

「大袈裟ですね貴族様。デザートは如何されますか?」

 ウェイターが若干苦笑しながらデザートメニューを渡してきた。

「俺は葡萄のタルトで。クラリス先輩はどれにします?」

「私はマロンシャンテリーにするわ」

「かしこまりました」

 ウェイターが下がると、俺たちは急ぎ足でメインディッシュを平らげた。

 

「お待たせしました。デザートと紅茶でございます」

 ウェイターがデザートと食後のお茶を運んできた。

 収穫祭の時みたいに少しずつ交換する。

 秋らしい味わい──豊穣の味、とでも言おうか。お茶請けとしては最高だ。

 なるほど、お茶には季節のものを取り入れることが必要、と。

 師匠も言っていたが、改めて再確認できた。

「リオン君。口を開けて」

 不意にクラリス先輩がフォークに刺したケーキを差し出してきた。

 これはあれだ。あーん、ってやつだ。

「え?──クラリス先輩?」

「こういうの一度やってみたかったのよ」

 やってみたかった、ってことは初めてってことか?凄く照れくさい。

 でもこれはチャンスだ。今なら真意を問い質せる。

「あの──先輩、なんでその相手が俺なんでしょう?」

 するとクラリス先輩はスッと顔を近づけてきた。

「──知りたい?」

「──はい」

 え、待って何これ。凄く近いんだけど。まさか俺ここで告白されるの?

 いやまあ、それはそれで嬉しいけど──

 内心ドキドキする俺の口にケーキを押し当ててクラリス先輩は言う。

「それはね──誰かさんが鈍いからよ」

「──え?」

「ふふ──さ、口を開けて」

 誤魔化すようにケーキを押し込んでくるクラリス先輩。

 でも──これで俺にも分かった。

 やっぱりクラリス先輩は俺に好意を持っている。そして──俺の方から告白されたがっている。

 でなきゃこれまでの言動の説明がつかない。

 ──よし、決めた。このデートの終盤に、もうちょっとムードのある所に行ってから、告白しよう。

 あーんされたケーキをもぐもぐしながらする決断ではなかったかもしれないが、大事なのは決断をしたということ、そしてその結果である。

 さて、ムードを作れそうな場所といったら──

「先輩、この後ですけど、よかったら公園に行きませんか?」

 俺の提案にクラリス先輩は頷いた。

「いいわよ。楽しそうね」

 

 

◇◇◇

 

 

 陽が暮れていく。

 ここの所冬が近づいてどんどん日の入が早くなっている。

 レストランを出た後、港の近くにある大きな公園でボートに乗ったり、屋台でおやつを買って食べてみたりしてのんびり過ごしていたらあっという間に陽が傾き、夕方になってしまった。

 

 俺たちは公園の隅にある小さな展望台に来ていた。

 夕陽に照らされた王都の街並みがよく見える。

 何というか──凄くムードがある場所なのは俺にも分かる。

 ここならクラリス先輩に告白するのにお誂え向きなのではないか?

 そう考えた途端に猛烈にドキドキしてきた。

「──今日は楽しかったわね」

 クラリス先輩が展望台の柵にもたれかかって言った。どこかしみじみとした声色だ。

 心なしか、デートが終わってしまうことへの寂しさなどとは違う、哀愁がこもっているように感じる。

「そうですね──」

 平静を装って返したが、心の中はもはや嵐のような混沌状態である。

 今だ、言ってしまえという声とやっぱり怖いという声がせめぎ合って鼓動だけが速く、大きくなっていく。

 くそ、こういう本気の告白なんてしたことないから、頭が働かない!

 え?ミレーヌ様の時?あれは──何ていうか、接待みたいなものだ。今とは訳が違う。

 というか、頼むから落ち着いてくれよ俺の心臓!いや、脳か?

 先程から腹式呼吸を試みているが、全く効果がない。

 このままじゃ、プロポーズしても吃って折角のムードが台無しになりかねない。

「──帰りましょうか」

 クラリス先輩が柵から離れた。

 ──クラリス先輩が行ってしまう。

 呼び止めないと。ここで「はい」などという返事をしたら多分二度とチャンスは来ない。

 ()()呼び止めるだけでいい。それくらい出来るだろ俺!

 言葉選びをする余裕もなく、口を開く。

「待ってください!」

 クラリス先輩が一瞬ビクッとしたように見えた。

 しまった。声量を間違えたか。だがもうこのまま突き進むしかない!

「──どうしたの?」

 クラリス先輩が振り返る。

 風が吹いてクラリス先輩の髪が靡く。

 夕陽を浴びて輝く橙色の髪と緑色の瞳に目を奪われる。

 鼓動が更に激しくなり、全身が心臓になったかのように錯覚する。

「クラリス先輩──先輩さえよかったら、その──」

 あまりの緊張で言葉が途切れてしまう。

 しっかりしろ俺。俺にとって一生に一度のビッグイベントだろ!

 落ち着いて、はっきりと言わなければ。

 高まっていく鼓動を抑えるためにひと呼吸おいて──クラリス先輩としっかり目を合わせる。

 深く息を吸い込む。

 いっせーの、と掛け声に合わせるように俺は続きの言葉を発する。

 

「結婚してくれませんか?」

 

 するとクラリス先輩の両眼から涙が零れ落ちた。

 ──え?な、なんで泣くの?ちょっと予想外なんですけど!?

 慌ててハンカチを差し出そうとするが受け取ってくれない。

 クラリス先輩は零れるままの涙を拭おうともせずにしばし泣き続けた。

 俺は何も言う気がなくなった。

 ただ──クラリス先輩がひと心地着くまでじっと待つ。

 クラリス先輩が手で涙を拭う。

 そして眩しいほどの笑顔を俺に向けて──ただ一言、答える。

 

「──はい!」

 

 




やっと書きたかったシーンが書けた──
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