乙女ゲー世界はモブたちに厳しい世界です   作:鈴名ひまり

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フェイタルダメージ

 王宮の会議室の1つにヴィンスと彼の派閥に属する貴族たちが集まっていた。

 上座にヴィンスが座り、隣に立つ腹心の貴族がアンジェから報告された内容を聞かせていた。

「つまり庇護を蹴ると認めた上で、かつ協力関係も維持したい、と?」

「虫の良い話ですな。公爵の尽力で命を救われ、あまつさえ出世までさせて貰っておきながら──恩知らずなことだ」

「全く何なのでしょうね。痴情の縺れに首を突っ込んで宮廷を引っ掻き回したかと思えば、公爵に媚を売り──今度はアトリー家に取り入るとは」

「やはり小狡い成り上がりですな。恩義に報いる忠誠心がない浮気者だ」

「野心がないとは言うが、どこまで信用できることやら」

 貴族たちが口々にリオンに対する不満を露わにする。

 リオンがここにいたなら公国との交戦前は大して興味もなかったくせに随分と手前勝手だと思っただろう。

 ヴィンスが貴族たちを宥める。

「彼に庇護を蹴られたことには今更驚きはせん。元々彼が私を頼ってきたのも伝手がなく他に頼れる相手がいなかったから、というだけの話だ。その私が宮廷での影響力を落としたと彼が知った時点でこうなることは決まっていた。むしろ金輪際関わるなと言われなかっただけマシと考えるべきだろう」

 魑魅魍魎の蠢く貴族社会において裏切りや忘恩などよくあること。特に力なき者たちは時局を見て頼る相手を簡単に変える。

 ヴィンスはそれをよく知っていた。というより、今も現在進行形で思い知っている。

 だが「仕方なかった」と割り切れるものでもない。

「惜しむらくは──彼を取り込む手段として結婚相手の用意を選択しなかったことだ。それでは弱いと思ったのだが──アンジェによれば出世は彼の望みではないとのこと。こうなった以上は我々も方針の修正をせねばなるまい」

 だがヴィンスは具体案をすぐには出さない。

 そしてその玉響の沈黙は意見を募るものと解釈される。

 若手の貴族が過激な意見を口にする。

「敵対派閥よりも先に彼のロストアイテムを押さえるべきではありませんか?」

 しかし、彼の対面にいた派閥の最古参の貴族が反対した。

「却下だ。そんなことをすれば確実に彼を敵に回すぞ。それに黒騎士を破った実力の持ち主から奪えるとでも?」

「取引でですよ。彼が欲しがるものを調べて──」

 反論する若手貴族に資料を読んでいた別の貴族が水を差す。

「彼が欲しているものは領地での平穏な生活、それだけだ。度し難い無欲さだが、それ故に厄介だ。彼はあのロストアイテムを自分の安全と平穏を担保するものと捉えている。他者に渡すはずはない」

「子爵というのが歯痒いですね。伯爵であればアンジェリカ様を正室に迎えさせ、強固な縁を作れたものを」

「我々が用意できる中でクラリス嬢を凌ぎ正室に収まることができる娘は──」

「おりませんな。身分だけならサマーズ辺境伯の次女が当てはまりますが──あの性格では拒絶されるでしょう」

 次々に発言する貴族たち。

 議論で一気に部屋が騒がしくなるが、ヴィンスは静観していた。

 ついこの間──アンジェが決闘沙汰を起こすまでこういった会議は不文律に縛られて本音の半分も出ておらず、問題解決に役立つことは殆どなかった。

 それに比べれば騒がしいここの方が断然マシだ。

 議論が少し騒がしさを落とした所でヴィンスは手を打って周囲を黙らせる。

「今更言っても詮ないこと。我々が彼に提示できる対価、それは情報だ。彼が協力を求めてきた内通者の炙り出しはどうなっている?」

 ヴィンスの問いかけに腹心の貴族が答える。

「はい、正直に申し上げて難航しております。件の豪華客船の乗客と船員全員分の事情聴取を精査した結果、公国に客船の位置を知らせていた者を1人発見し、確保しました。我々の派閥に属していた家の娘です」

 貴族たちの間に動揺はあまり見られない。

「締め上げた所、指示した者の名を吐きましたが──その者は遺体で見つかりました。家の当主は関与を否定。蜥蜴の尻尾切りをされた形です」

 貴族たちの顔が歪む。

 ヴィンスも眉間の皺が深くなる。

「思ったよりも動きが早いな」

「それともう1つ。今回の調査以降、敵対派閥に忍ばせていた【耳】からの連絡が相次いで途絶しました」

「どこの耳だ?」

「【離宮】及びフランプトン侯爵派閥です。語るに落ちているものですが──いかんせん証拠がなく、上手く用意する(でっちあげる)手立てもない以上手の出しようがなく──」

 あちこちから溜息が漏れる。

 ヴィンスは目頭を揉んでゆっくりと口を開いた。

「リオン君はアンジェに張らせる。彼のいる寮の職員にも声を掛けておけ。それからヘルトルーデと侯爵に付けた【カナリア】に通達を。これ以降は耳としての任務に移行せよ、だ」

「承知致しました」

「──勢いのある相手との謀略戦は容易ではないな」

 ヴィンスは背もたれにもたれ掛かりたくなるのを堪えて呟いた。

 

 

◇◇◇

 

 

 長かった2学期が終わりを告げ、学園は異様な熱気に包まれていた。

 公国による豪華客船襲撃で大勢が死んでからしばらく明るい話題がなかった所に降って湧いた再びの決闘のせいである。

 終業式が終わった後、闘技場には大勢の学園生が詰めかけた。

 その殆ど全員がユリウスたちを応援している。

「ユリウス殿下たち、あの外道に勝つために5人で頑張ってきたんだって!」

「夜な夜な鎧の修理のために5人で集まってたって」

「よ、夜な夜な」

「負けても諦めずにまた挑むって凄いよな」

「ああ、きっと今度はやれる!」

「精一杯応援するぞ!」

 女子はユリウスたちの不屈の闘志と()()()()に熱狂し、男子は5人で鎧を用意した話に感動している。

 闘技場の端に出された5人の鎧はお世辞にも格好が良いとは言えなかったが、それを笑う者はいない。

 リオンの方は前回の決闘での悪印象が強く、襲われた豪華客船の救助を行なったことや黒騎士を打ち破った活躍は捨象されている。

 クラリスは最前列でユリウスたちを称賛する声を聞いていた。

 周りには取り巻きたち──特にクラリスに忠実な男子たち──が陣取り、苦々しい表情を浮かべている。

「能天気なもんですね。黒騎士を破ったやつにあんな寄せ集めの鎧で勝てると本当に思ってるんでしょうか」

 クラリスの隣に座る【エリオット・フィア・リーガン】が毒づいた。

「そうぼやくものでもないわよエリオット。所詮は因縁を終わらせるための八百長試合。周りの反応なんて気にするだけ損よ」

 クラリスがエリオットを嗜める。

 彼女はこの決闘が最初から八百長だと知っているため、鷹揚に構えている。

「八百長?あのバルトファルトが八百長なんてするんですか?」

 エリオットからすれば少々意外だった。

 リオンは空気を読むことをせず、「予定調和など糞食らえ」とでも言わんばかりに大番狂わせを連発する。

 そんなリオンが八百長をしてまでユリウスたちを勝たせるというのは不可解だった。

「彼にとってはあの5人との因縁が決着すれば勝利なのよ。決闘で負けてもそれは問題じゃないわ」

 クラリスに諭されてエリオットは黙ったが、忌々しげに闘技場の端を睨みつける。

 ユリウスたちは5人で集まって最後の作戦会議でもしているようだった。

 敬愛するクラリスを苦しめた男が「バルトファルトに勝って前に進む」などというふざけた言い草にクラリスにも見せたことがないような良い笑顔で賛同し、勝ちを譲られて大手を振ってマリエと交際する──面白いわけがなかった。

「──ふふ」

 不意にクラリスが笑い出した。

「どうされましたか?お嬢様?」

 エリオットが怪訝に思って問いかけるが、クラリスは目を合わさず、暗い笑みを浮かべて言った。

「あの鎧、貴方は寄せ集めと言ったけれど、わざわざ職人を雇って造らせたそうよ。それで空賊退治の報酬と、あの5人、いえ、6人で倹約しながら貯めた生活費の殆ど全てが吹っ飛んだと聞いたわ。それをあの5人は自分たちの愛の通過儀礼と肯定的に考えているけれど、あの女は真逆。わざわざリオンにあの鎧を壊さないように懇願してきたのよ?あの5人が自己陶酔に浸っている中であの女だけが現実を見て不安に圧し潰されそうになっている──最高に笑えると思わない?」

 そしてクラリスはハイライトの消えた目で言った。

「もし──私がリオンにあの鎧を破壊するよう頼んでいたらどうなったのかしらね──」

「お嬢──様?」

 エリオットがドン引きした表情になっていた。

 クラリスはすぐに眩しい笑顔に戻る。

「冗談よ。そんなことを言ったらリオンに嫌われてしまうわ」

 それってリオンには言わないだけで、あの鎧が壊れることを望んでいるのは否定しないってことだよな、とエリオットは思ったが、口には出さない。

「あ、バルトファルトが来ました」

 エリオットが空を指差すと、アロガンツがスラスターを噴射しながらゆっくりと降りてくるのが見えた。

 闘技場から一斉にブーイングが上がる。

 ふとクラリスが呟く。

「本当に──嫌な奴ね」

 誰に向かってのものだったのかも分からないその呟きは誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ちょっと趣向を凝らして空から登場してみたら、着地する前からブーイングの嵐だった。

 やっぱり必要以上に煽ったのと、賭けで大損して絶望する所を嘲笑ったのを根に持たれているようだ。

 まあ、同じことされたら俺も恨むけどさ。

 そういえば今回は賭けをやっていなかったな。

 今回は俺が自分に賭けることをしていないから賭けが成立しなかったのかもしれない。

 どうでもいいけど。

「さてと、どうやって負けたもんかな?あんまりあからさまに八百長しても却って良くないことになりそうだし──」

『マスターは一応、黒騎士を倒した英雄として知られていますからね。少しは真面目に相手してやった方がよろしいかと』

 ルクシオンの言う通り、黒騎士を破った功績が既に学園中に広まっていて消極的に戦う選択肢がない。

 確かに俺が負けるのは決定路線だし、皆が望む予定調和でもあるのだが──あんまり簡単に終わってもお互い体裁的に面倒なことになりそうだ。

 だがアロガンツが本気で戦えばあの鎧は間違いなく破壊される。

 となると間を取って──あの5人の()()()()を正面から受け止めて、宿命のライバルっぽい対話を挟みつつの激闘の末に、彼らの思いを乗せた渾身の一撃で倒されて負けを認める、っていう筋書きが良いだろうか。

 まあ、途中であの鎧に傷の1つや2つ──いや、たぶん傷だらけになるだろうが、要はスクラップにならなければ良いのだ。

 それに、どの道マリエにはいくらか援助してやるつもりでいる。

「よし、この線で」

 頭の中でシミュレーションしていると、腐の人が歓喜のあまり昇天しそうな熱い展開を繰り広げるユリウス殿下たちが見えた。

 会話は拾えないが、どうやら乗り込むのはグレッグのようだ。

 たぶんあとの4人は「お前に託す」とか「俺たちは離れていても心はお前と共に戦っている」とかそんなことを言っているんだろう。

 彼らの友情を前に会場は感動の嵐に包まれている。

 女子たちの黄色い声援と男子たちの熱い応援が響き渡る。

 呆れる一方でちょっと羨ましい気持ちもある。

 まさに青春!って感じだもんな。

 

 グレッグが鎧に乗り込み、胸元が閉まる。

 進み出てきた鎧が右手に槍、左手にライフルを携えてアロガンツと向かい合う。

 マリエはダサいと言っていたが、こいつの価値は見た目ではないのは俺にも分かる。

 言うなれば夏休みに作った人力飛行機だ。

 どんなに不格好で、他人からはガラクタにしか見えなくても、作った者からすれば思い出が詰まった何物にも代え難い宝物なのだ。

 ──そのために生活費全部吹っ飛ばしたのは頂けないが。

 試合前の口上を述べ、決闘の誓いを立てると、審判が開始を告げた。

『両者はじめ!』

 グレッグは一気に距離を詰めて槍を横薙ぎに振るってきた。

 魔力が込められた強烈な一撃を俺はヒラリと躱し、お返しにライフルをぶっ放した。

 グレッグは素早く横に飛んで弾を躱し、左手のライフルを発砲してきた。

 アロガンツには効かないが、炸裂した弾の煙が視界を遮り、生じた一瞬の隙に距離を詰められる。

 突き出された槍をブレードでいなし、上空に舞い上がる。

 高度の有利を得た俺は上からライフルを撃ち込むが、グレッグは全弾回避した。

 しかし、回避に意識を取られたグレッグは姿勢が乱れ、一時的に俺への攻撃ができなくなる。

 その隙に俺は落下速を乗せて斬りかかる。

 回避は間に合わないと悟ったらしいグレッグは槍とライフルを十字形に交差させて振り下ろされたブレードを防ぎ、そのまま鍔迫り合いになる。

 グレッグの鎧はアロガンツのパワーと重量で押さえつけられたにも関わらず、それをものともせずに巧みに機体を回転させて逃れ、その勢いのまま槍を振るってくる。

 槍の穂先がアロガンツの肩を掠め、火花が飛び散った。

 それがどうという訳でもないが、アロガンツに一太刀浴びせたグレッグに会場から盛大な歓声が上がる。

 距離を取った俺は一息吐いて呟いた。

「あいつ、成長したな」

 動きが前の決闘の時とは全く違う。

 最初から全力で自分の膂力と技量の限りを尽くして立ち向かってきているのが分かる。

 おまけに鎧の性能も段違いだ。パワーもスピードも以前戦ったどの機体よりも上。

 その鎧とグレッグの動きは人馬一体と言ってもいいほどだ。

 再びグレッグが向かって来たので、アロガンツを前進させる。

 互いにライフルで牽制し合いながら距離を詰め、弾倉が空になった所でグレッグが一気に加速して超速の刺突をお見舞いして来た。

 アロガンツは躱し切れずにモロに刺突をくらって尻餅をつく。

 グレッグが追撃をかけてくるが、横向きに転がって躱し、素早く体勢を立て直す。

 弾切れのライフルは投げ捨ててもう1本のブレードを取り出し、二刀流の構えをとるアロガンツ。

 グレッグの方もライフルを捨てて槍1本になっている。

「ルクシオン、ドローンだ」

『ドローン、展開します』

 アロガンツのコンテナから球形のドローンが飛び出し、グレッグの鎧に襲いかかる。

 だがグレッグは素早く闘技場の壁際に移動し、攻撃の方向を限定してドローンを1機ずつ的確に撃墜していった。

 俺はドローンがやられている間に距離を詰め、2本のブレードで斬りかかったが、グレッグは後方倒立回転跳びで躱し、槍を振るってアロガンツのコンテナを切り裂いた。

 ドローンの迎撃に気を取られているように見えてちゃんと俺の方も見ていたらしい。やるじゃないか。

 距離を取るためにスラスターを吹かして上昇するが、グレッグの鎧が跳躍して飛びかかってきた。

 両脚を揃えて曲げ、空中衝突の直前で瞬時に伸ばすことで放たれた強烈な屈伸蹴りをくらったアロガンツはバランスを崩して背中から墜落した。そのままズルズルと闘技場の端まで滑って行き、壁にぶつかって止まる。

 グレッグの鎧は反動で後ろ向きに大きく宙返りして反対側の端に着地した。

 サマーソルトキックのようなアクロバティックな技が決まったことで観客席から割れんばかりの歓声が上がる。

 アロガンツが巨体に見合わない軽快な跳ね起きで立ち上がり、ブレードを構え直すと、グレッグの鎧も突撃の構えを取る。

 そろそろクライマックスといこうか。宿敵同士の対話の時間だ。

 どちらからともなく走り出し、再び俺とグレッグは接近戦に入る。

 グレッグは途切れることなく刺突を繰り出し、俺は二刀流でそれをいなす。

 これで周囲には俺が防戦一方になったように見えるはずだ。

 音声を外に出してグレッグに声をかけてみた。

「やるじゃないか。この前とは機体も動きも段違いだぞ」

『お前に勝つために鍛えた成果だ!マリエと皆の──想いと願いと未来を背負って俺はここにいる!』

 またクッサい台詞を吐きやがって。

 まあ、鍛えてきたのは事実だろうから突っ込まないでおいてやるが。

「おお〜青春だね〜」

 ケラケラ笑いながら俺はグレッグにぶっ飛ばされる用意をする。

 アロガンツの脚部を狙ったグレッグの刺突で一瞬構えが崩れた俺にグレッグが渾身の一撃を繰り出す。

『そこだあああああああ!!』

 喉元にクリティカルヒットを貰ったアロガンツは派手に吹っ飛び、闘技場の壁に激突する。

 一方のグレッグも槍の穂先が欠けてしまい、肩で息をしているような仕草を見せる。

 だがそれでも槍を構え直し、こちらに近づいてくる。

 ──頃合いだな。

 この後は最後の足掻きのポーズをつけて、その後は「参りました」と言って綺麗に決闘を終わらせ──

 

『マスター!すぐ脱出するようグレッグに伝えてください!あの鎧は爆発寸前です!』

 不意にルクシオンがアラートを鳴らした。

「何!?どういうことだ?」

『先程から動力部をはじめ機体各部の熱量が異常に増大しています。スキャンしましたが、内部構造がデタラメです。改造で出力を上げたのではなく、暴走しているだけです!』

「何だって!?」

 慌てて俺はグレッグに警告した。

「おいグレッグ!お前の鎧おかしいぞ!今すぐ降りるんだ!」

 だが──

『はっ!俺を惑わせるつもりだな。そうはいくか!見え透いた心理作戦には引っかからないぞ。だが、それだけお前を追い詰められたってことだよな!』

 グレッグは俺を信じなかった。

 俺は審判に向かって叫ぶ。

「審判!中止だ!こいつの鎧は暴走している!」

 だが審判の教師がかぶりを振る。

『見苦しいですよバルトファルト君。彼らの思いを真正面から受け止めてあげなさい』

「ふざけんなよ!お前はまず俺の言葉を真剣に受け止めろ!緊急事態なんだよ!」

 クソッ。さっきまで演技とはいえグレッグの猛攻に追い詰められていたせいで、俺が苦し紛れのデタラメを言っているようにしか見えないではないか。

 観客の中にも俺の言葉を信じている者はいない。

「負けそうになったからってあんな姑息な手を使うとか、最低ね」

「もしかして僻み?気持ち悪〜」

「さすがバルトファルトだ。やり口が卑怯なんだよな」

「グレッグ!そんな奴に騙されるな!」

 マズい!俺が決闘を綺麗に終わらせるために書いた筋書きが完全に仇になってるじゃねーか!

 ルクシオンが呆れていた。

『身から出た錆ですね。日頃の行いが悪いから誰にも信用されないのです。解析完了しました。いつでも爆発させずに破壊できます』

「──嘘だろオイ」

 俺に壊せと言うのか?

 あの5人の青春の一部で、マリエの全財産でもあるあの鎧を?

「い、嫌だ。そんなことができるか!あいつらが頑張って作って──マリエの全財産が注ぎ込まれているんだぞ?」

 拒否する俺にルクシオンは無慈悲な選択を突きつける。

『では爆発でグレッグが死ぬところを見るおつもりですか?」

 ──認めよう。確かに何度かグレッグに対して死ねとか思ったことはある。

 でもだからって今死んで欲しいわけじゃない。いや、死なせるわけにはいかない!

 なりふり構わずアロガンツの出力を上げてグレッグの鎧に飛びかかり、体格差を活かして押さえつけようとしたが、グレッグは必死にアロガンツから離れようと抵抗する。

「いいから降りろ!頼むから降りてくれ!」

『まだ言うか!まだだ!まだ俺は負けてねえ!』

「いやだから本当にヤバいんだって!その鎧は暴走しているんだ!」

『戯言を!これは俺たちの闘志に相棒が共鳴してるんだよ!お前を倒そうと昂っているんだ!』

「戯言を言っているのはお前の方だ馬鹿野郎!本当に危ないんだって!」

『お前の口車にはもう騙されないぞ!俺たちにイカサマをしたことは忘れてねーからな!』

 ──しまった。

 空賊退治の時、船賃代わりにイカサマトランプで金を巻き上げたんだった。

 しかも後で種明かしをして「世の中にはこういうイカサマで金を騙し取るヤツが普通にいるから注意しろよ(笑)」と言ってやったのもマズかった。

 いくら馬鹿なこいつらでもそんなことされて俺を信用するわけがない。

 なんであんなことしたんだ俺の馬鹿!大馬鹿者!

 それ以上に──

「少しは学習しろよ!詐欺師に騙されやがって!」

 おそらくこいつらは腕利きの鎧製作者を騙る詐欺師に引っ掛かったのだろう。

 それでデタラメな組み上げをされて欠陥品を押し付けられたというわけだ。

 これだからボンボンは!取引とか契約をする時は少しくらい相手を疑えよ!

 アロガンツの出力を最大まで上げてグレッグを押さえつけようとするが、それに呼応してグレッグの鎧も出力を上げる。

 あろうことか、アロガンツとパワーで拮抗していた。

 なんてしぶといんだよ!

 会場はグレッグへの「負けるな!」コールで満ち溢れている。

 ユリウス殿下たちも声をからしてグレッグを応援している。

『皆の応援が力になっているみたいだな!いくぜえええええ!』

 応援でパワーアップとか──幼稚園児向けのヒーローショーじゃあるまいし!

 だが実際鎧は出力を上げ続け、アロガンツが押し返され始める。

 熱量も上がり、おそらくグレッグの鎧の中はサウナ状態だ。

 なのに戦いに夢中でグレッグは気付いていない。

 ルクシオンが急かしてくる。

『マスター、タイムリミットが近いですよ』

 ──もうこうなったらなりふり構っていられるか!

「ああもう!ルクシオン!グレッグを黙らせろ!」

『了解です』

 アロガンツの左腕の装甲が展開して光を放つ。

『あ!バルトファルト!その手はグヘッ!』

 何か言おうとしていたグレッグが衝撃を受けて気絶し、鎧はようやく大人しくなった。

 だが爆発はもう免れない。

 胸元をこじ開けるとグレッグを掴んで引っ張り出し、鎧を思い切り遠く目掛けて蹴飛ばした。

 直後、鎧は背部から大爆発を起こしてバラバラに砕け散った。

 四方八方に凄まじい勢いで爆風と破片が飛び散り、闘技場の観客席を守るシールドが強い光を発してそれらを受け止める。

 シールドに当たって跳ね返った破片が闘技場の中を跳び回り、行き場をなくした爆風と共に暴れ回る。

 アロガンツにも無数の破片がペチペチ当たった。

 俺は助け出したグレッグを守るためにアロガンツをしばらくうずくまった姿勢にさせ続けた。

 

 破片と爆風の嵐が収まったのは爆発から数分後のことだった。

 煙が晴れると、原型を留めないほどに四散した鎧の残骸が闘技場に散らばっていた。

 ちぎれ飛んだ手足はまだ辛うじて形を保っているが、たぶん売り物にはならないだろう。

 良くてスクラッパーギルドで部品として叩き売りだ。

 俺は座席にぐったりともたれかかる。

「こんなことなら──受けなきゃよかった」

 会場は静まり返っていた。

 皆何がどうなっているのか分からない、という顔をしている。

 そしてその静寂を破って響き渡るのは──マリエの悲鳴だった。

 

 

◇◇◇

 

 

「イギャヤァァァァァアアアァァァァ!!私の50万がぁぁぁ!全財産がぁぁぁ!」

 絶叫するマリエの隣でカイルが耳を塞ぐ。

 そのままマリエは真っ白に燃え尽きて卒倒する。

 カイルが慌てて駆け寄った。

「ちょっと!ご主人様!?き、気絶してる──お医者様ぁぁぁ!」

 カイルは慌てて医者を呼びに駆け出した。

 取り残されたマリエはうわ言のように呟く。

「こ、これは夢──そう悪い夢よ。ユリウスたちが共有財産を溶かして作った鎧を自慢してきて──決闘を起こして──お兄ちゃんに壊されるなんてあってはならないわ──私の50万ディア──生活費が──借金は嫌──そう、これは夢──私は悪夢を見ているだけ──誰か──誰か私の目を覚ましてよ──」

 

 かくしてユリウスたちが時間と情熱を注いで作り上げた鎧は構造上の欠陥が原因で大爆発を起こして失われ、学園中が熱狂したリベンジマッチはユリウスたちの鎧が吹き飛んだことでリオンの判定勝ち、しかも搭乗者グレッグはよりにもよって仇敵たるリオンに爆発寸前の機体から引っ張り出されて命を救われる、という誰も予想だにしなかった結末を迎えたのだった。

 




結局爆発エンドは避けられなかったよ──
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