王宮の会議室。
そこでレッドグレイブ派閥と敵対する派閥の幹部が集まって会合を開いていた。
「聞きましたかな。殿下たちはまたあの成り上がり者に負けたそうですよ」
「使った鎧に欠陥があったとの情報もあります。自分たちだけでは仕上げられず、職人を雇ったとか。──それで詐欺に遭ったようですが」
「やはり世間知らずですな。担がなくて正解でした」
次々にユリウスたちを嗤う声が上がるが、1人の貴族がリオンの話題に触れる。
「それよりもあの成り上がり者──このまま放置しておいてもよろしいのですか?レッドグレイブ家に擦り寄ったかと思えば今度は大臣に取り入ってクラリス嬢を娶るようです。奴をこのままのさばらせていては我々の計画の障害になるかと」
その発言で会合の緩んでいた空気は一変する。
「確かに──当初の予定が狂ったのはあの成り上がり者が飛行船を出して戦いに首を突っ込んだから、と考えられますな。フィールド家だけではあの軍勢に対処し切れなかったはずです」
「奴の目的は何でしょうか?善意だけであれだけの働きをするとも思えませんが──」
「我々の計画に勘付いている可能性は?」
「ない──とも言い切れますまい。どうにも最近レッドグレイブのモグラが活発ですからな」
「おや、捕らえられたので?」
「左様。貴殿の家も一度掃除が必要では?」
「ご忠告には感謝しますが──うちの庭は狭く、土も少ないのですよ。寂しいものですが大掃除の労力が不要なのは気に入っておりましてね」
「おや、これは1本取られましたな」
フフフ──。ハハハ──。
冗談を交えつつの情報交換と議論の末に、やがて彼らの視線はボス──マルコム・フォウ・フランプトン侯爵へと集まる。
「侯爵、如何致しますか?」
その問い掛けに侯爵は勿体ぶって葉巻を吹かし、ゆっくりと口を開く。
「──奴のロストアイテム──公国との戦いで見せた飛行船と鎧は我らにとっても有用なもの。これは好機だ。相互不干渉と引き換えに奴のロストアイテムを王宮に献上させる方向で接近しろ。周りの人間を使って多少追い込んでも構わん。従わぬ場合は敵と見做し、追い落とせ。ただし、こちらから直接的な手出しはするな。我々の動きはヴィンスに勘付かれているだろうからな」
「ちなみに【取引】は口頭で?」
「──当然であろう」
「愚問でしたな。ハハハ」
政界において口頭での取引ほど信用ならないものはない。そのことは普段から宮廷で権力争いに明け暮れている者からすれば常識だが、そういった薄暗い争いとはあまり縁がない領主貴族──彼らの場合、武力での直接的な争いの方が馴染み深く、搦手を得意としていない──ならば面白いくらいに騙されてくれる。
彼らからすれば自分たちの目的が果たされることが何よりも重要──失敗すれば良くて失脚、下手をすれば一族郎党処刑だからである──であり、そのためには手段など選んではいられないのだ。
自分たちの手を汚さずに脅威を取り除けるのなら、多少吹っ掛けられても
牙を抜くか、潰すか──その選択ができる余裕がこの時の侯爵、そして彼の派閥にはあった。
◇◇◇
決闘の翌日。
「なんで俺ばっかり──詐欺師に引っ掛かって共用財産吹っ飛ばしてあんな欠陥品押し付けられたのはあいつらの責任だってハッキリしてんだろうが。しかも俺はグレッグを助けてやったんだぞ。あそこで俺が助けてやらなかったらアイツ今頃死体も残っちゃいないだろ。確かにインパクトは使ったよ。でもそうでもしなきゃアイツあのまま抵抗し続けて爆死してただろ。──なのにどいつもこいつも俺が壊したって疑いの目で見るし。そんなにあいつらのヘマだって思いたくないのかよ。──思いたくないんだろうな。そうだよ。俺は嫌われ者の悪役だもんな。俺が何かしたっていう甘い嘘の方がよっぽど受け入れやすいもんな」
ぶつくさ文句を言いながら礼服に着替える。
調査の結果、ユリウス殿下たちが作った鎧が爆発したのは構造上の欠陥──魔力回路にやたらと質の良い素材を使っているせいで魔力のオーバーロードを起こしたとか冷却用パーツの致命的な不足で動力部が融解したとか言っていた──ということがはっきり分かったにも関わらず、俺が何かしたという根拠のない陰謀論は消えなかった。
お陰で学園生とすれ違うたびに疑惑の表情で見られるし、背中越しにヒソヒソ話す声が聞こえてくるしで、俺の繊細な心は悲鳴をあげている。
例外はクラリスと──師匠くらいなものだ。
「今は誰にも認められなくとも貴方は確かにミスタグレッグの命を救ったのです。誇りなさい、ミスタリオン」
師匠のお言葉が胸に染み入る。やっぱりあの人最強紳士だわ。
思わず流れ出した涙をハンカチで拭い、ドアを開けて外に出る。
部屋の外に出ると、俺は一瞬気圧された。
「似合っているわよ。リオン」
「立派だぞ。リオン」
「あら、公国との戦いでの雄姿を思い出しますわね」
女王様──じゃなかった、ディアドリー先輩が胸の前で両手を合わせていた。
他にも──
「お前って奴は──どこまでも驚かされるぜ。しょっちゅう変なこと言ってたガキが今や子爵様だなんて──本当に凄いな。畜生、涙が止まらねえ」
どこかの涙脆い執事みたいに感涙に咽ぶ親父に、ハンカチを何枚も持って親父に1枚ずつ差し出しているお袋。
「お前──なんか知らないお嬢様が増えてないか?」
ニックスが疲れた顔で問いかけてくる。
どうにもクラリスにアンジェにディアドリー先輩ととんでもなく身分が高い令嬢揃いで落ち着かないようだ。
そして後ろの方で小さく文句を言っているジェナ。
「──何よ。結婚してあげるって言ったのに。私も親友も拒否して。“いや、ちょっとないです”なんて酷いじゃない」
俺が子爵になると聞いて、狙っていた男子を思い出しているんだろう。
ジェナは結局狙っていた子爵家のご子息とは結ばれなかった。
そういえば討伐したウィングシャーク空賊団をその子爵家に鉱夫として引き渡したんだったな。
姉が申し訳ないと謝罪して迷惑料代わりにサービスだってしてきた。
俺って出来た弟だよね。
ジェナはそんな弟に感謝のひとつもないような女だから振られたのだ。自業自得である。
ちなみにジェナはその子爵家のご子息を巡って親友と険悪になったのだが、振られた者同士で愚痴り合っていたらいつの間にか仲直りしていたらしい。
雨降って地固まる、ってやつだろうか。
そんなジェナにからかいの言葉のひとつでも掛けてやろうとしたが、クラリスに手を握られる。
「さあ、急がないと式典が始まるわよ」
とびきりの笑顔のクラリスを見ていると、少し気が治まる。
皆に疑われて陰口叩かれて、ただでさえ嫌われていたのがさらに酷くなったけど、それでも変わらぬ笑顔を向けてくれる人がいる。
たった1人でも自分を愛してくれる人がいたら、それ以外の全ての人に嫌われてもいい、という考えにはこれまで納得できなかったけど、今ならその気持ちに近いかもしれない。
愛した男に捨てられて酷く傷ついた女と、蔑まれて恨まれて嫌われている男の傷の舐め合いだと──心ない連中はそう言うかもしれないが、そんなのただの幸せに対する嫉妬だ。
クラリスは有象無象の女性とは比較にならない魅力的な女性だし、俺がクラリス以上の女性に好かれることなど到底望めないだろう。
だから──クラリスのことは一生大事にしよう。
クラリスと一緒になるのに必要だと言うのなら、子爵の地位くらい受け取ってやろう。
そう、はっきりと思った。
◇◇◇
叙勲式が執り行われた王宮の大広間は大勢の貴族で埋め尽くされていた。
アロガンツとクリスが乗っていた大型の鎧、そして黒騎士の大剣が目立つ所に飾られ、窓からは庭の上空に浮かぶパルトナーが見える。
公国との戦いに参加した者全てがここに集い、活躍に見合った勲章と叙勲記念品を受け取るのだ。
最初にアンジェを助けるための陽動作戦を行った学園生たちに【奉仕勲章】が渡された。
軍属ではないが、軍に対する貢献が認められた者に授与される勲章で、戦争中に軍と共に戦った義勇兵とか、輸送のために飛行船を差し出した船主とかに授与されるものらしい。
普通は授与されてお終いなのだが、学園生たちは貴族である。
そこで男子たちは正式な騎士として認められ、女子たちは僅かばかりではあるが年金が出ることになった。
肉の壁に囲まれて後ろからシールドを展開するか、大した威力もない魔法を撃っていただけの女子を命懸けでモンスターの大群から守り続けたにも関わらず、男子に年金は支払われない。
ここにもこの世界の厳しさが現れている。
ちなみにクリスは豪華客船が攻撃された時点から鎧に乗って抗戦し、アンジェを助けた後もフィールド辺境伯軍と共に公国軍と戦ったので、追加で【従軍勲章】を貰い、廃嫡も取り消し。晴れてアークライト家に復帰を許された。
次に公国軍と直接交戦したフィールド辺境伯家の軍人たちや流星騎士団のメンバーに【従軍勲章】とか【戦功章】とか【名誉戦傷章】とか色々と授与された。
鎧で戦い、敵を撃墜した者は授与の際にスコアを読み上げられ、飾り盾とか剣とかの記念品を受け取る。
艦隊の乗組員は数が多過ぎるので、艦長が代表で【艦隊従軍章】や【艦隊戦功章】を受け取る。
黒騎士に撃沈された戦闘艦【ドーントレス】の乗組員や鎧での戦闘で撃墜された戦死者たちには【捧心章】という名誉の戦死を遂げた者に贈られる勲章が授与されると発表された。
ふと妖怪婆に売られそうになった時のことを思い出した。
あのまま俺が売られて軍人になって、どこかで戦死していたとしたら──俺はあの捧心章なる勲章を貰っていたのだろうか?
──貰っても全然嬉しくないな。
親父もお袋も悲しむだろうし、せめてもの慰め──になるのかどうかはさて置き──の遺族年金も妖怪婆のものになって実家には入らない。
──そういえば【淑女の森】はまだのさばっていたんだったな。全てが片付いたらルクシオンと一緒に潰しにかかるか。
俺が考え事に浸っている間にも式典は進み、フィールド辺境伯家の軍人たちを指揮したアーヴィング・フォウ・フィールド辺境伯の名が呼ばれた。
俺よりも段違いに豪華に着飾ったアーヴィングさんには戦争で大きな戦果を挙げた指揮官に贈られる【殊勲賞】と豪華な装飾の付いた剣が授与された。
そして──
「リオン・フォウ・バルトファルト男爵、前へ!」
俺が呼ばれる。
席を立って赤い絨毯の上を進んでいく。
玉座に座る国王陛下と隣に立つ王妃ミレーヌ様の眼前でお辞儀をし、片膝を突く。
プレートに載せられた豪華な勲章──双翼を象った白金製のやつ──が運ばれてくると、ミレーヌ様が直々に感状を読み上げる。
やたらと仰々しく俺の功績を並べ立てた格式ばった文章はいくらミレーヌ様の美声を以ってしても頭に入っては来ず、早く終われという願いといつまでもミレーヌ様の美声を聴いていたいという欲望がせめぎ合う。
神妙な顔で頭を垂れている最中にこんな私欲塗れなことを考えている俺はどう考えてもこの【白金双翼章】なる勲章を受け取るに相応しい英雄ではないだろう。
「────し、敵の気勢を挫きたるは王国軍の勝利に寄与すること極めて大にして、その武勲顕著なり。以上の功績及び其の勇気を讃え、
長ったらしい感状の読み上げが終わると、ミレーヌ様が勲章を手に取り、礼服の左胸に着けてくれた。
会場から盛大な拍手が上がる。
ミレーヌ様が手の甲を俺の顔の前に差し出した。
国王陛下あるいは王妃様から直接授与される栄誉を得た者はその手の甲に口付けするのが慣しなんだとか。
手の甲にとはいえミレーヌ様にキス──ゾクゾクする。
いかん!いかんぞ俺!
ミレーヌ様は王妃で、人妻で──俺にはクラリスがいるんだから。
ポーカーフェイスを維持しながら恭しくミレーヌ様の手を取る。
でもやっぱり──ミレーヌ様の柔らかな手の感触には劣情が湧き上がるのを完全には止められなかった。
◇◇◇
グレッグが目を覚ますと、そこは学園の医務室だった。
「目が覚めたか!」
ユリウスたちが安堵の表情でグレッグの顔を覗き込んでいる。
グレッグはまだ頭がはっきりしていなかったが、医務室にいることで結果を察した。
「ああ──そうか。俺は負けたのか。皆すまねえ」
謝罪するグレッグだが、誰も責めはしない。
「グレッグ君に任せたんです。それで負けたのなら、皆の敗北です」
「気にするな。また次の機会があるだろう」
ジルクとユリウスがグレッグの肩に手を置いて慰める。
「殿下?」
「ユリウスでいい。グレッグ、俺たちはこれで終わるつもりはない。いつかまた必ずバルトファルトに挑む。そしてその時こそは勝つ。お前も手を貸してくれるか?」
グレッグが上半身を起こして小さく笑った。
「そんなの決まってるだろ。皆がやる気なのに俺だけ引き下がれるかよ。俺はやるぜユリウス。何度でもな」
力強く笑い合う5人。
だが清々しい友情シーンはいつの間にか医務室に入ってきていたマリエによってぶち壊される。
「あんたら──」
俯いてワナワナと震えるマリエの表情は影になって見えない。
「ああマリエ、来たのか。グレッグが目を覚ましたんだ。それで──」
ユリウスが言い終わる前にマリエの拳が医務室の扉を叩き、大きな音を立てて凹ませる。
「マリエさん?何をしているんですか!血が!早く手当てを!」
オロオロするジルクが戸棚を漁り始めるが、マリエの声で手が止まる。
「またリオンに挑むって──そう聞こえたんだけど」
その声は今まで5人が聞いたことのないような、底冷えのする低い声だった。
「あ、ああ。そうだ。あいつに勝って初めて俺たちは晴れてお前と──」
ユリウスが戸惑いながらも答えるがそれをマリエの怒鳴り声が遮る。
「それより先にやることがあるでしょう!!」
凄まじい表情で怒気を放つマリエに5人は思わず震え上がる。
「調査結果を聞いていなかったの?あの鎧は内部構造がデタラメな欠陥品で、あんたたちが雇った職人は詐欺師よ!鎧ひとつ作るために空賊退治の報酬も、学園祭で稼いだ共有財産も溶かして、その結果は何よ!?鎧は爆発して売り物にもならないし、私たちの生活費も殆どゼロのままよ!そんな状況でよくもそんな戯言を言っていられるものね!」
マリエの剣幕に言い返せないユリウスたちだが、ジルクが苦しい弁解をする。
「で、ですがマリエさん、あの職人が詐欺師であるなどとは──マイスターの証書だって持っていましたし──」
だが、マリエはそれを一蹴した。
「マイスターだかユアスターだか知らないけど、証書なんてやろうと思えば幾らでも偽造できるのよ!それに、暴走して爆発した結果が何よりの証拠でしょうが!」
激昂したマリエは少し呼吸を整えてから宣告する。
「あいつへの再戦を考える前にあんたたちを騙した詐欺師の屑野郎を捕まえてきなさい。それから、そいつに騙し取られた50万ディア取り返して私の前に持ってきなさい。それができるまで私はあんたたちと一切口利かないからね!」
言い終わるや否や、肩を怒らせて去っていくマリエに五人はしばし茫然としていたが、はっと気が付いたユリウスが後を追いかける。
彼は初対面でマリエに平手打ちを貰っていて、マリエの怒りに若干耐性があったのかもしれない。
「待ってくれマリエ!」
廊下に出たユリウスだが、マリエの姿はどこにも見えない。
そのユリウスの後ろで我に帰った4人が青褪めている。
「──マリエが怒ったぞ」
「確かに、こうしてはいられない」
「失敗すればマリエに見放されるぞ」
「そんな!」
彼らを見てマリエに見捨てられる自分を想像したユリウスは恐怖に震える。
鬱屈していた自分に光をくれた女神のような人に見捨てられるなど耐え難い苦しみだ。
「──皆。急いであの職人──詐欺師を探すぞ」
ユリウスの言葉に全員が頷いた。
◇◇◇
叙勲式から二日経ち、俺は白いスーツに身を包んで神殿にいた。
隣にはやはり白いドレスに身を包んだクラリス。お洒落に巻いた髪には花を挿し、ベールを被っている。──凄く綺麗だ。
今日は俺とクラリスの婚約式の日だ。
遂に──遂にここまで来てしまった。
思えばクラリスとまともに面識を持ってから数ヶ月しか経っていないんだな。
我ながらどうしてこうもトントン拍子に関係が進んだのか、不思議に思えてくる。
面識を持つ前は雲の上の人だったクラリスが、今や俺の婚約者。そしてあと2年弱経って俺が学園を卒業すれば妻になる。
──その時、この世界はどうなっているだろうか。
扉が開く。
俺たちは腕を組んで赤い絨毯の上を歩いた。
割れんばかりの拍手が鳴り響く。
参列者は大物貴族揃いだったが、ヴィンスさんやギルバートさん以外は殆ど顔も知らない。
並んだ長椅子を通り越して部屋の最奥部まで進むと、神官がいた。
その神官が俺とクラリスの婚約が正式に認められたことを告げ、祝福の言葉を紡ぐ。
次に婚約誓約書の朗読。
叙勲式を思い出す格式ばった堅い文章で、読みにくいが、暗記した通りに読み進める。
そして俺とクラリスは婚約記念品の交換をする。
俺からは婚約指輪、クラリスからは懐中時計。
運んできた神官から指輪を受け取ると、クラリスの左手を取って薬指に指輪を嵌める。
クラリスがふっと息を漏らす。ベールの下で愛おしそうに指輪を見つめている。
そういえば──ルクシオンが婚約指輪を作ろうかと提案してきた時は笑えたっけな。
大きな宝石を取り付けようとか、全て違う宝石が付いた指輪を10個用意しようかとか、普段の優秀さは何処へやらふざけているのかと思うようなトンチキぶりを見せてくれた。
思い出し笑いを堪えていると、クラリスが懐中時計を俺のスーツのジャケットに付けてくれた。
ポケットに入る直前にチラッと見たが、白金製で、裏に俺の名前が彫ってあった。こんな高級なものに自分の名前が入ってるって何だか気が引ける。
最後に二人でいくつかの書類に署名して婚約式は終わりだ。
だがその後にはパーティーが待っている。
俺史上最高に長い1日になりそうだ。
◇◇◇
賑やかなパーティーと関係者への挨拶から解放されて学園の寮に戻ったのは夜になってからだった。
この冬休みは王都で色々やることがあって帰省はできないので、俺は学園の寮に留まっているのだ。
「あー疲れた」
ベッドの上に大の字になって寝転がる。駄目だもう立てない。
「後2日は休みたい」
その呟きに辛辣な反応を返してくるルクシオン。
『クラリスは今日よりも遥かに忙しい日々が後1週間は続くようですよ。この程度で音を上げるとはマスターは怠惰ですね』
──怠惰という評価には同意しかねる。
「酷いな。俺ほど国の未来のために頑張ってる奴いないだろ。どうすれば公国との戦争を防げるか、もし起こってしまった時にどうするか、ここの所一所懸命考えてるんだぞ?」
するとルクシオンはいつもみたく皮肉で返してくることなく、真剣な声色で告げてきた。
『それなのですがマスター。公国と王国の戦争を回避する目処が立ちました』
「何?本当か!?」
思わずガバッと身体を起こす。
『はい。継続調査の結果、両国の公式見解と矛盾する情報、及びヘルトルーデ・ヘルトラウダ姉妹に関する新しい情報を多数発見しました。これらの情報の活用次第で公国との戦争の回避
「聞かせてくれ。どんな情報だ?」
ルクシオンは勿体ぶった質問で返してくる。
『どちらからにしますか?公国の歴史に関することか、王女姉妹に関することか。どちらにしても長くなりますよ』
「──じゃあ、姉妹に関することからで」
するとルクシオンは一つの書類──と言うより、メモ書きのようなものを映像で映し出した。
『これは姉妹の両親──先代の公王夫妻が計画していた王国との和平に関するものです』
「和平?公国が?」
『はい。この書類を分析した結果、先代公王は王国との際限のない対立構造と戦争の再来を憂えていたようです。実際、王国の侵攻により、一時は公都を包囲されるという事態にも陥りましたからね。もしまた戦争になれば多くの犠牲が生まれ、そうでなくとも過度な軍拡が国庫を圧迫する。王国と敵対し続けることはいずれ公国を破滅に導く悪手──彼はそう考え、王国との和平を計画したと思われます。ですが──』
ここでルクシオンは言葉を区切り、人物リストに映像を切り替えた。
『これに主戦派が反発しました。王国による侵攻の記憶がまだ鮮明に残っていた時期でしたから、貴族だけでなく、国民の大多数も報復を叫んでいました。そして彼らは公王夫妻を暗殺し、魔笛に適性のあった姉妹を後継者として担ぎ上げたのです。このリストは調べた限りでの今生きている主戦派のメンバーです』
ルクシオンが言うリストをさっと読んでみたが──
「要職全部占めてるじゃねえか──」
摂政、大蔵卿、兵部卿、外務尚書卿、内務尚書卿、その他諸々──政権は完全に主戦派に乗っ取られていた。
『ヘルトルーデ・ヘルトラウダ両姉妹が物心ついた頃には周囲には主戦派しかいなかったということです。つまり、姉妹は傀儡です。ですが、これからお話しする公国の真の歴史と合わせて両親の死の真相を知れば、こちらの思惑に乗せられるかと』
「真の歴史ってどういうものなんだ?」
ゲームでは殆ど説明がなかったし、学園でも習っていない。
『ファンオース公国の起源からお話しする必要がありますが──簡単に言うと、王国本土への侵攻を度々繰り返したファンオース大公家がホルファート王国直臣から除名されたのがファンオース公国の始まりです。王国は軍事力に優れたフィールド家に辺境伯の地位を与えて国境の守りに置きました。ですが、公国となった後もファンオース家は王国への侵攻を繰り返し、遂にはグリンカ島の破壊を機に全面戦争に発展。この戦争については両国で見解が異なります。王国側では公国が人の住む浮島を破壊し、数千人もの命を奪ったことに対する報復攻撃とされていますが──公国側では不平等な通商条約を課せられたことをきっかけに独立を決意した大公家が民を率いて圧政に抗った独立戦争とされています』
「ちょっと待て。公国が元々王国の臣下だったってことなら──なんで王国は大公家を武力で潰さなかったんだ?いくら大公家が強力でも王国が本気で攻めたら保たなかったんじゃないのか?」
率直な疑問だった。
王国が領主貴族たちを纏めていられるのは一重に強力な正規軍の軍事力があるからに他ならない。
それを行使して大公家を潰そうとしなかったのは不自然だと思えたのだ。
『ええ、大公家も単独では王国相手には分が悪いと理解していました。ですので、周辺国家と協力して同時に攻めたのです。王国軍は複数の戦線に戦力を割かれ、大公家に集中することができなかった。だからこそこのような周りくどいやり方を選択したのでしょう』
「となると──公国がまた仕掛けてくる時はまたほかの国を巻き込んで攻めてくるのか?」
『可能性は非常に高いですね。そちらの方面も調査しますか?』
「──ああ。頼む。それで、今聞いた情報をどうすれば戦争を防げるんだ?」
ルクシオンはセンサーアイを不気味に光らせて冷徹な計画を告げてきた。
『ヘルトルーデ・ヘルトラウダ姉妹、及び公国内の非戦派を利用し、公国で内戦を起こすのです』
叙勲式の所やたらと勲章の名前多くて冗長かもだけど、勲章って色々あって面白いんだよ?
ナポレオンだって「諸君は