元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
中庭を眺めながら、優雅にティーカップを口元に運ぶ。あら...咲夜ったら、また腕を上げたみたいね。今日は珍しくこんな時間に目を覚ましてしまった。煌々と光を放つ太陽はまだてっぺんを少し過ぎた辺り...幻想郷に来てから昼間から活動する事も増えたし、たまにはこんな時間にティータイムなんてのも乙なものね...
「それにしても、宴会なんていつぶりかしら...ねぇ、咲夜」
「そうですね、お嬢様」
テーブルの上、置かれているのはティーカップとお茶菓子...そしてこの招待状。今さっき妖精メイドの一人が、魔理沙さんからお嬢様宛てです、と言い持ってきたもの。帰り際に受け取ったらしい...
内容は宴会がある、といういたってシンプルなもの。いつも通り場所は博麗神社。最近は異変も鳴りを潜め、言うなれば「宴会ロス」と言ったところか。一念発起した魔理沙が企てた大宴会だそうな...らしいというかなんというか...
勿論、参加するに決まっている。紅魔館の面々は全員引き連れていく予定ね...あら、もう空ね。紅茶のおかわりを咲夜に頼む...フフッ、今から楽しみね...
いつも通り朝の指示出しを終え、妖精メイド達を散らす。さて、宴会の話が決まり日が少し経った。早くも明日に控えた宴会、お嬢様は紅魔館の皆で行く!と、言っているけれど...少しばかり問題がある
そう、妖精メイド達だ。買い出しの時のように、妖精長に任せておけば...とはいかない。なにせ、今回は宴会の規模がかなり大きいらしく、宴会の準備にかなり人手がいるらしい...となると、戦力として十分な妖精長は連れていきたい......
「どうしようかしら...」
「?...どうかなされたんですか?メイド長」
そんな考えを巡らせていると、件の妖精長に声を掛けられる...ちょうど良いかしら。妖精メイドの統率をほとんど任せているこの子にも、相談した方がいいわよね...
「宴会、ですか...」
朝から何か考え事をしているふうだったメイド長。声を掛けてみたところ、実は...と、色々と話してもらった。宴会、ですか。場所はここから少し離れた神社の境内らしい...
「それで貴女には準備の手伝いとして一緒に来て欲しいのだけれど...」
とのこと。...いつもなら、メイド長が不在の時は、紅魔館で他の妖精メイド達とお留守番、なんだけど...私一人では手伝いとして不十分ではないだろうか。宴会の準備、となると基本的にお料理がメインだろう。となれば...
「そうですね...そういうことならきーちゃん辺りにもお願いしておきましょうか」
料理上手なきーちゃんには、来てもらって損は無いだろう...そーちゃんはダメかな、あの味音痴は筋金入りだし、何より自覚が無いのが怖い。洗い物とかは頼りになるけれど...
さて、しかし問題が2つある。1つ目は他の妖精メイドのこと。今まではこんな時、皆に休暇を上げていたらしいが、私は良いとしてもきーちゃんに申し訳ない。でも人手は欲しい...となると、全員宴会の手伝いとして連れて行くことも視野に入れなければならない。が、問題はそのあと...
2つ目の問題...宴会はお酒の席、行けば飲むことになるだろう。して、妖精という種族だが...お酒にめっぽう弱いのだ。小さな体躯で酔いが回りやすいのだろう...ちょっと前に他の妖精メイド達がお酒を飲んでいたのを見たけれど...かなりひどい有り様だった
...きーちゃんには悪いけれど、後で話しておこうかな。多分それが一番いいだろうし...うん
「...そう、貴女がそう言うなら、その子にも頼んでおいて頂戴」
「分かりました、となると後は...」
結局、私ときーちゃん以外には明日、お休みを与えられることになった。...きーちゃんには何か埋め合わせしてあげないとね。話はそれで終わり、私も仕事に向かうことにした
「...?...気のせいかな」
...そのとき、私はまだ気づいていなかったのだ。私とメイド長に刺さる、2つの視線に...
「...聞いた?」
「きいたー」
一通り仕事も終わり辺りは夕方、すっかり低くなってしまったお日様は山の向こうに鳴りを潜めようとしている
今はきーちゃんと二人で、メイド長の元へと向かっているところだ。なんでも、宴会に同行するにあたって、一応お嬢様にお顔を見せておいてもらいたい、とのこと
「ん~...宴会ですかぁ...初めてなのでちょっと楽しみです~」
「ごめんね、他の皆はお休みなのにきーちゃんだけ...」
「構いませんよぉ、妖精長~。お料理は大好きですから~」
事情をあらかた説明したところ、快く了承してくれたきーちゃん。...いやぁ、頭が上がらない
そんなことを話していると、メイド長に指定されたお部屋の前までたどり着いた。扉の前には既にメイド長が立っている
「来たみたいね...同行する子はその子だけでいいの?」
「はい、お力になると思います」
「頑張ります~」
メイド長の確認にそう返す。きーちゃんも意気込みを一つ言い、ぺこりとお辞儀をする。分かったわ、と言うと、メイド長は部屋の扉を数度ノックした。中からはお嬢様の声、了承を得て扉が開かれる
実際にお嬢様にお会いしたのはこれまででも、片手で事足りるほどの回数のみ。言葉を交わしたことは...魔理沙さんからのお手紙を渡した時くらいだろう...
「失礼します。お嬢様、連れて来ました」
「ん、ご苦労様、咲夜。...そう、その子達がねぇ...」
ひとまずお辞儀をして部屋の中へと入る。一言二言メイド長と会話するお嬢様。私たち二人を値踏みするような...幼い風貌からは想像もつかない威厳じみたものを感じる
「今回、ご同行することとなりました、妖精長とお呼びください」
「同じく、きーちゃんです~。お料理は任せてください~」
簡素ではあるが自己紹介をする。きーちゃんは...いつも通り、ですね...
「そう...まあ、咲夜の選んだ妖精メイドだものね、明日は頑張って頂戴ね」
「はい、仕事の方は問題ないと思います。できる子達なので...」
「あ、そうそう。それとね...」
激励の言葉を頂いた後に、メイド長からは太鼓判を押してもらえた。頑張らなければ...なんて思っていると、続けてお嬢様が口を開く...って、え?
「言って無かったけれど、この子達も連れて行くわね」
「やっほー!妖精長!」
「やっほー」
そこに居たのは、赤と白の妖精だった...いや、なんで?
ん、そろそろ咲夜が一緒に連れて行く妖精メイド達を、引き連れてくる頃ね...まあ、咲夜が選んだのなら、文句は無いわ
コンコン、とノックの音がする...どうやら来たみたいね。部屋の中に入るよう促す。あら、妖精メイドだけみたいね...咲夜はどうしたのかしら
「失礼します、お嬢様!ちょっとお話があります!」
「ありますー」
「ん?...まあ、構わないわよ。それで?」
入ってきた赤と白の妖精メイド。何か話があるらしい...ひとまず聞いてあげましょうかね...
事情をあらかた話してくれたお嬢様...大まかな内容はこうだ。今回の宴会には様々な権力者の方々が参加するらしく、そこに何人もの従者を手伝いとして駆り立てることができる、というのは一権力者としての威厳やらカリスマやらを示すことができるうんたらかんたら...らしい。隣でメイド長は頭を抱えている...
「...と、このメイド達に助言を貰ってね。私のカリスマを見せつける舞台としてこれ以上はないわ!」
「ないわー」
「ないわー!」
しーちゃんはともかく、あーちゃんまで...お嬢様もノリノリである。どうやら、どこかで宴会に関しての話が漏れていたようで
少し前、メイド長にお嬢様へは言っていけない言葉があると言われた。カリスマ、威厳、等々...どうやら二人...主にあーちゃんはタブーてんこ盛りでお嬢様を口説き落としたらしい...
とことこ、とこちらに歩いてくるしーちゃん。...まったく、流されやすいのは知っていたけど。何か話があるようだ
「...はぁ、なんですか?しーちゃん」
「...そーちゃんにはまだいってない...」
ちょ、まだって、なんですか、まだって。...脅しですね、これ。同行する妖精メイドは計4人になりそうかなぁ...
「くしゅんっ!...風邪かなぁ...」
「ん?大丈夫か?そーちゃん」
お嬢様
吸血鬼姉妹の姉の方で紅魔館の当主。幻想郷の中ではかなりのビックネームでカリスマ性もある...が、スイッチのON、OFFが激しくどこか子供っぽいところもちらほら...
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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