元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
メイド長に着いていく私達妖精メイド御一行。肩を落としているあーちゃんがきーちゃんに慰められているけれど...自分から手伝うって言った手前、今からお休み欲しいなんて、そうは問屋が卸さない...といったところだろうか。まあ、脳天にナイフが刺さっていないだけ温情はあったんだろう
「ここね...いつもよりかなり気合い入ってるみたいね」
「わ~、凄いですね~!」
慣れたように神社の裏手に回るメイド長に引き続き着いていくと、そこには野晒しとはいえ、かなりの規模の厨房が広がっていた。はえー...軽く見ただけでも紅魔館の3倍近い設備の量だ。きーちゃんも目を輝かせている
「お、咲夜か。いやぁ、毎度来てくれて助かるよ...と、そこの妖精達は?」
「あら、藍、もう来てたのね。今日はこの子達にも手伝ってもらうのよ」
その光景にキョロキョロと目を泳がせていると、メイド長を呼ぶ知らない声がした。見るとそこには...えーっと、ひぃ、ふぅ、みぃ...九つの尻尾を携えた女性がメイド長と親しげに話していた。お名前は、藍さんと言うらしい
「そうか...まあ、人手は多いに越したことはないしな。宜しく頼むよ、妖精さん」
「は~い、お任せください~、お稲荷さん」
「おいなりさん」
「おいなっ?!...私はそんな大層なものじゃあないよ」
ふふっと笑うメイド長。どうやら狐の神様ではなく、狐の妖怪さん...妖狐さんらしい。あ、尻尾が揺れてる
うし、挨拶回りもこんなもんでいいだろ。私はその辺の盃を掻っ払い、愛用の箒に跨がり最後の仕事をすべく、神社の少し上に飛んだ。んー、この辺でいいだろう。すーっと、息を飲み込む
「お前らー!!楽しんでるかー!!」
反応した妖怪やらなんやらから伝播し、そこいら中の参加者が此方に目を向けている。何が始まるのやらとわくわくしているような期待の眼差しや、今飲んでるとこなのに、なんて視線もある。...いやぁ、それにしても良く集めたもんだな、私。眼下に見える沢山の人妖に、染々とそう思う
「楽しく飲んでもらってるとこ悪いけど、皆大事なこと忘れてないかー!?」
たんまりと酒の入った盃を掲げる。この時点でなんのことか分かった奴らは、呼応するように手元にある酒の入ったコップやらなんやらを頭上に掲げている。へっ、ノリの良い奴らばっかで助かるな
「大宴会!最後まで楽しんでいってくれ!!乾杯!!」
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
ぐいい、と盃を一気に呷る。ぷはぁ!宴会、これにてスタートだぜ!
増援として頼もしい咲夜の到着を内心喜んでいると、境内の方が盛り上がっているのか、歓声にも近い声が聞こえてきた。ふと見上げた本殿の上空には...なるほど、正式に宴会開始、という訳だろう
「それじゃあ、そろそろ私達も動くとしようか」
「任せてください~」
「くださいー」
「ほら、あーちゃんも行きますよ」
「...はーい、妖精長」
その言葉に早々に動いていったのは紅魔館の妖精たち。残されたのは咲夜と私のみ
「ふぅ...なぁ、ホントに大丈夫なのか?あの妖精たちは」
「あら、貴女もそう思うのね...心配いらないわよ」
そうは言うけれど...妖精メイド、と聞くとほとんど役に立たないだの、いない方がマシだの、従者の集まりで呑んだ時に言っていたのは咲夜なんだがなぁ
「それより、今日は...」
「!...来られるらしい、魔理沙から聞いたよ」
「...そう。今日も忙しくなるわね...はぁ」
まだ到着はしていないだろうが、今日の宴会にはあの方も来られる運びになっている。今日は生憎紫様も私用で来られないので、ストッパーと成りうる方もいない...
私は腕捲りをし、まな板と食材たちの前に立つ。ひとまずは私たちの役目を果たそう。後は宴会が無事に終わりを迎えられることを祈るばかりだ...はぁ
「あーちゃんとしーちゃんは出来上がったのからどんどん運んじゃって下さい」
「りょーかい、よーちゃん!いってきまーす!」
「いってきまーす」
「腕が鳴ります~」
私たち妖精メイドの一行はとりあえず作業に取りかかることにした。私ときーちゃんが調理、完成したらあーちゃんしーちゃんの出番だ。因みにこの立派な厨房は河童さんたちが用意してくださったらしい
食材に関しては神社の裏手に沢山、山積みにされている。足を運んでいる宴会客の方々が持ってきてくれているそうだ...作りすぎの心配は恐らく要らないだろう
「あーちゃんもやる気になってくれて良かったですね~」
「そうですね。まぁ、いつも頑張ってますし...」
メイド長にきつくお説教されたあーちゃんは、終始半べそかいてたけれど、一段落したら楽しんできて良いよ、という旨を伝えたところあの通り。いつもああやってくれないだろうか、全く
「それより、私たちは私たちのやることをやっちゃいましょう」
「そうですね~。あ、これ持ってっちゃいますね~」
へ?ちょ、もう出来たの?...手、動かそっかな
「...はぁ」
「あら、藍、そんな憂鬱そうにしてどうしちゃったのかしら」
そう、今日である。魔理沙が企てた大宴会、無論私も招待されたし、何なら手伝いに呼ばれているくらいだ。まぁそれくらいなら良いとして...今日は来るんだろうか、あの方は
「そう言えば今日みたいね、大宴会。あーん、行けないのは残念ね、もうっ」
「...そうですか」
私用があり出向くことができない我が主が、くねくねしながらそんなことを仰っている。子は親を選べず、式は主を...選んだわ、そういや。後悔の念で押し潰されてしまいそうだ
「ま、今日は大丈夫だと思うわよ。紅魔館の従者たちも来るんでしょう?」
「咲夜、ですか?まあ、そうですけど...」
「...ふふっ、そうね。ま、頑張りなさいな」
他の従者も手伝ってくれるとは言え、足が重い...一段落したら、やけ酒だな、決めたぞ。潰れるまで飲んでやる
なんて、考えてたのはさっきまでだ。今は目の前で起こっている事象に、空いた口が塞がらない状態だ。...ホントなのか?...これ
「言ったでしょ?心配はいらないって。ほら手、動いてないわよ」
「は!...いや、すまない。ちょっとのみ込めなくてな...」
そこにはせっせと料理を作り、どんどんと運んでいく妖精たちの姿があった。悪い評判しか聞かなかったあの妖精メイドたちが?...いや、これは喜ぶべきことだろう。すでにいくつもの料理を終えているようで、咲夜の言っていることも間違いではないようだ
「魔理沙にも言ったけれど、能力抜きなら私より動けるわよ、あの子」
「!...冗談ではないみたいだな。見れば分かるよ、まだ少し信じれないけれど」
あの青い子と黄色い子、手際がとんでもない...私も家事には自信のある部類だと思っていたのだが、あれは少し桁が違う
「これなら、あの方が来ても問題ないかもな」
「そうね。まぁそれでも宴会の規模が規模だから、急ぎましょう」
「あぁ、そうだな。妖精たちにも負けてられんな」
紫様の言うとおり、今回は大丈夫かもしれないな...美味しい酒が飲めそうだ
「.........」
「じー......」
きーちゃんも料理を出しに行って残ったのは私一人。変わらず調理を続けている。続けているんだけれど...
「.........」
「じー......」
...なんかいる。出来るだけ見ないようにしているけれど...調理している台からひょっこりと顔を出して、こちらを覗き込んでいる
「...んー...」
「じー......」
何か食べたいんだろうか...恐らくだけどそんな気がする。目が向けられているのは今焼いている卵焼き、熱い視線で焦げてしまいそうだ。うーん...どうしたものか
「...あ、あの」
「!さっ...ひょこっ?...」
隠れるようにしゃがみこみ、台の下に消えた...と思ったら、おそるおそる頭を出してきた。ちなみにこの音は全部口で言っている...
私は焼き上がった卵焼きを3つほど切り分け、小皿に盛る。お箸お箸、と...これで大丈夫かな
「これ、どうぞ。焼きたてですから、美味しいですよ」
「...貰って良いのかしら~?」
「はい、冷めない内にどうぞ」
すくっと立ち上がったその女性は、なんというか、ふわふわしているような...どこかきーちゃんに似ている気がする。私が小皿を手渡すと、その人はお礼を言ってどこかに行ってしまった
「よーちゃーん、出来たのあるー?」
「あ、じゃあこれお願いしますね」
さて、どんどん作っていこうかな。
「あ、幽々子様!勝手にどこ行って...ってそれどうしたんですか?」
「ん~?優しい子から貰ったのよ~。あむっ、んー、美味し~い♪」
「もう...ご挨拶行きますよ」
むーちゃん
紫色のメイド服を着た妖精メイド。姉御肌で頼りになるが、手先がかなり不器用で皿や窓、花瓶を割ったりなんかもしばしば...
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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