元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます   作:微 不利袖

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それでは、ゆっくり読んでいってね...なんてね


12話 厨房と書いて〝せんじょう〟と読む#2

 

 

「へい、おまちー!」

「おまちー」

 

「ん、そこ置いといて良いわよ」

 

 

神社の縁側で賑やかな境内を肴に一杯やっていると、料理を両手に携えた妖精がやってきた。目配せで座っている隣の方にそれを置いてもらい、ぐいぃと升を空にする

 

妖精はそのまま次の仕事でもあるらしく、すたこらと裏手の厨房へと走っていった。こんな無礼講でもお仕事なんて、大変ねぇ...

 

 

「ん、ほらよ」

 

「あら、悪いわね」

 

 

空になった升を見かねたのか、隣で呑んでいた呑兵衛が一升瓶を片手に溢れんばかりのお酒を注いでくる。おっとっと...いくら貰い物とは言えど、溢すなんて勿体ないことはできない。...今、貧乏性って言ったヤツ、覚えてなさい

 

 

「こんなところでしんみり呑んでるだなんて、らしくないんじゃないの?アンタ」

 

「んー?いいじゃん、たまにはさ」

 

 

頭部の両脇に捻れた角を引っ提げた、一見少女のような鬼はそう言うと、自前の瓢箪を数度呷る。いつもなら天狗や河童なんかに絡んで馬鹿騒ぎしてるのに...珍しいこともあるのね

 

 

「ぷはぁ!...いやぁ、今日は賑やかだねぇ」

 

「...そうね。最近は異変も無かったし、こうやって皆でお酒呑んで、どんちゃんするのも久しぶりかしらね」

 

 

平和が一番とは言うものの、時折こういった刺激がないと少しばかり寂しいと思うようになった。...自分で言ってなんだけど、ちょっと婆くさいかしら

 

 

「そうだね...ん」

 

「ん?...あぁ、はいはい」

 

 

こちらに突き出された瓢箪に少し困惑するも、直ぐに何がしたいのかは分かった。カッ、と乾いた小さな音は、宴会の喧騒に紛れて消えていった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、すみません遅れました!」

 

「おお、妖夢か。...ということは」

 

「ええ。ここからが本番ね...」

 

 

手伝いとして何人かが厨房へと出入りする中、やってきたのは妖夢。料理に関しては、まぁ言わずもがな腕の立つ方だろう。その援軍に喜ぶのも束の間、そう、従者が居れば主もまた、この神社に居るということ

 

どうやら咲夜も分かっているようで、腕捲りをし今一度気合いを入れているようだ。今までも数々の『宴会』(たたかい)を乗り越えてきたのだ、私たちならやれるさ。...それに

 

 

「あーちゃん、しーちゃん、そこのやつもう出しちゃっていいですよ」

 

「あ、これも持ってっちゃってください~」

 

「よいしょっ、と。いってきまーす!」

「きまーす」

 

 

今日はあの子たちもいる。未だに料理を作るその手は止まることを知らず、皿の上は次々に酒の肴で溢れていく。咲夜、連れて来てくれてホントにありがとう...

 

とは言え、妖精たちに頼り切りという訳にもいかない。少しばかり、包丁を握る手に力が入る。一段落したら、あの子たちとも一杯やりたいものだな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...おかしいですね」

 

「?どうかしたんですか~、妖精長~?」

 

 

ふと、疑問が一つ浮かび上がり、その言葉が口を突いて出た...おかしい。かれこれ一時間程度は手を休めることなく、調理を進めている。それなのに...

 

 

「よーちゃーん、次はー?」

「つぎー」

 

 

もう次、ですか。空っぽになったお皿を携えて、二人が帰ってくる。明らかに往復のペースは落ちていない...いや、むしろ少しばかり速くなっているようにも見える程だ

 

確かに境内には沢山の...それこそ100や200ではきかないような数の宴会客の皆さんはいらっしゃった。それでも、もうとっくに皆さんに行き渡るくらいの量は作った筈なんだけれど...

 

 

「それにしても、凄いねー。お客さん増えるばっかりだよー」

 

「そうですね~、あ、それとあとこれ、お願いしますね~」

 

「えー、流石にそんないっぺんに持てないって...よーちゃんも手伝ってよー!」

 

「...分かりましたよ、一緒に行きましょうか」

 

 

まあ、時間が経つにつれ人が増えるのはなんらおかしいことでも無いか。さて、厨房に関してはやっぱりきーちゃんに任せた方が良さそうだし、ちょうど料理も作り終わったことだし、私も運びに行こうか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、まだ置けてない所は...」

 

「あ、妖精のメイドさ~ん。お料理、お願いできるかしら~?」

 

 

あーちゃんとは一度別れ、料理を両手にまだ行き届いていない場所を探す。すると、少し遠くの方からおそらく私を呼ぶ声が聞こえた。...なんか聞き覚えのあるような

 

声のする方へ目を向けると、人混みの合間から手招きをしているのが見えた。小柄な身体を活かし、私は人混みをかき分けて目的の場所へと着いた

 

 

「うふふ~、ありがとう妖精さん...あら、また会ったわね~」

 

「お待たせしました...って、貴女はさっきの...」

 

 

声の主は、さっき厨房で出会ったどこか不思議な雰囲気の女性だった。どうやらお一人で飲まれているらしく、周りには空になったお皿がいくつか置かれている

 

 

「さっきはありがとうね~。卵焼き、美味しかったわ~」

 

「あ、ありがとうございます。お口に合って良かったです」

 

「それ、いただいても良いかしら~?」

 

「はい、それではこちらに置いておきますね」

 

 

味付けが少し心配だったけど、それなら良かった。私はそう言われると手元の料理を置き、入れ換えるようにまっさらになったお皿たちを手に持った。よいしょっと

 

 

「ん~、美味しいわ~」

 

「それは良かったで「おかわりってあるのかしら~」...はい?」

 

 

味の感想に感謝を返そうと口を開くも、その言葉と、女性の手に持っている空のお皿に言葉は遮られてしまった。...あれ、さっき持ってきたばかりの筈なんだけど。まだ空のお皿が残っていたのだろうか...

 

否、違う。厨房でおかしい、と口走ったのは間違いではなかったのだろう。ここに来て、この場にて、違和感の正体が分かった気がする。女性の身体で隠れて見えない位置に何かあるのに気づく

 

 

「......直ぐ、ご用意いたしますね...」

 

「ん~、たのしみだわ~」

 

 

そこにあったのは皿の山。恐らく、いや確実にこの女性が平らげたであろう料理達の成れの果て。直感した...この方を『満腹にする』(倒す)まで、この『宴会』(たたかい)は終わらないだろう、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ...お手並み拝見、といこうかしら...」

 

 




くーちゃん

黒いメイド服を着た妖精メイド。余り目立ってはいないけれど、妖精長を除けば一番のしっかり者で、口調は少し男の子っぽい

ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また

シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。

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