元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
内心、私は戦慄していた。お酒の肴とは言え、結構しっかりとした料理を作っていた筈なんですけど、目の前であんな、わんこそばみたく胃の中へ落とし込まれて行くのはちょっとした衝撃映像ですね...
「おかえりー...?どしたの、よーちゃん。怖い顔して」
「...あーちゃん。まだしばらく頑張ってもらいますよ」
「う、うん...?」
あの桁外れのペース、きーちゃんにメイド長や藍さん、加えて他のお手伝いの方々が居るとは言え、流石にもう厨房から離れるのはダメだろう。おそらく供給が間に合わなくなってしまう
「きーちゃんも、お願いしますね」
「?...はい~、お任せください~」
一つ、深呼吸をする。...ふぅ...さ、ここからが本番ですかね。元ホテルマンとして、来られたお客様には意地でも笑顔で帰ってもらいますからね...!
「うおっ...相変わらずスゲェなぁ...」
「んふー...あら、魔理沙じゃない~。久しぶりね~」
少しばかりざわついている場所があるなぁ...と足を運んでみると、そこには次から次へと皿を空にしていく幽々子の姿があった。すでにかなりの量を平らげているらしく、周りには山積みになった皿がいくつかの搭を形作っていた。ホント良く食うなぁ...コイツ
「ん~、今日は一段とお料理が美味しい気がするわ~」
「そいつぁ良かったな...」
味わって食ってんのか?なんて疑問が沸いてくるものの、酒と一緒に飲み下す。あれ、そう言えば...と、今一度周りを見渡してみると酒瓶は見つからなかった。...コイツ、まさか
「お前...まさか瓶ごと...」
「むー、流石に失礼過ぎないかしら~?」
毒を食らわば皿まで、酒を呑むなら瓶まで...なんてことは無いらしい。いやだって、お前ならやりかねないじゃんか。
「空きっ腹にお酒は良くないのよ~?あーむっ」
「いつになったら膨れんだよ...」
そんなことを言いながら、料理を食べ進める幽々子。どうやらまだ酒には手を付けてないらしい。言われて見れば、今までの宴会もそうだったっけか...
「...ま、ほどほどに頼むぜ」
「んー、善処するわ~」
かー、妖夢に軽々しく声掛けたのは失敗だったか...。まぁでも呼ばなきゃ後が怖いしな。善処ねぇ...せめて食べる手を止めて言って欲しいもんだな。...厨房の方は大丈夫か?
「...す、凄い...」
「ははっ、私も似たような反応だったよ」
幽々子様と神社まで訪れ、直ぐに厨房の方へ足を運んだ私。今は料理をする手も殆ど止まってしまい、その厨房の一画から目が離せないでいる...。眼にも留まらぬ包丁捌き、平行していくつもの作業をこなすその姿は、もはや芸術的と言っても差し支え無いように、私の目に映っていた
「ら、藍さん。あの子...いえ、あの方々は...」
「あぁ、あの子たちは紅魔館で働いてる妖精メイドだそうだ。そこのお皿、取ってくれるか?」
「あ、はい...でも、あそこの妖精メイドさんは確か...」
「役に立たない、か?ははっ、ここまで同じだと笑えるな。ん、助かるよ」
お皿の受け渡しをしながらそんな会話をする。でも、咲夜さんから良く聞いていたお話とは違うけれど...と思うも、藍さんの言葉が正しいというのは、妖精メイドさんの料理を作る手際の良さが物語っている
「今日は紫様がいないしどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだ」
「え、そうだったんですか!?」
「ほら二人とも、殆ど手が止まってるわよ」
「あぁ、すまんすまん...それじゃ、これ持って行くよ」
「す、すみません!私も行きます!」
「出来ました、急いで持って行ってください!」
「わかったー!任せてー!」
「まかせてー」
料理を作る手は止めず、少しばかり乱暴に指示を飛ばす。申し訳ないけれど、そこまで気を回す余裕も頭のキャパも今は無いんですよね...
どこかで火がついてしまったのか、お客様をお待たせする、という行為を本能が嫌う。その想いは手際にも影響しているのか、今までの仕事の中でも一、二を争う集中っぷりだと自分でも肌に感じている
きーちゃんは勿論のこと、あーちゃんとしーちゃんの二人も頑張ってくれている。それでも、回転率はそこまで良くはなっていない。流石に皆も、長い時間働き詰めで疲労の色が見え隠れし始めているようだ...
「妖精長、これ運んでも大丈夫?」
「はい!どんどん運んで...ってあれ?」
その声に呼応するも、直ぐに違和感に気付き作業の手が止まる。あーちゃんもしーちゃんも、いましがた料理を手にして走り出していったのに...
「...くーちゃん」
「手伝うよ、妖精長」
声の主はくーちゃんだった...しかも、それだけじゃない
「ん、お皿洗いだとか水商売は私に任せて...」
「そーちゃんそれじゃ語弊がありますよぅ!それを言うなら水仕事ですぅ!」
「それじゃ、ボクこれ持ってっちゃうねー。一緒に行こ、はーちゃん」
「......」コクン
そーちゃんにみーちゃん、おーちゃんとはーちゃんまで...
「皆も...でも、どうして?」
「あーちゃんたちが頑張って走り回ってるの見ちゃってさ......それにさ」
「...?」
「みーんな、大事な同僚だから、ね」
!...もしかしたら、皆じゃ足手まといになるかもしれない、なんて考えてしまっていた過去の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。...でも今はそんな暇はない、だから
「ふぬっ!」ぱしっ
「ちょっ、妖精長?!何を...」
「...よし、気合い入った!くーちゃん、ありがとね」
「...うん、一緒に頑張ろう」
両の頬を挟むように両手で叩く。...よし、こっからはホントに本気だ。もう、倒れるまで食べさせてあげますからね...!
「んー...時間も良いぐらいかな。よっ、と」
「あら、もう帰っちゃうの?らしくないじゃない」
縁側から腰を上げる萃香に声を掛ける。もう結構夜も更けて良い時間だけど...最後まで飲んでいかないなんてらしくないわね
「んー?いんや、ちょっとばかし頼まれ事があってね。まだ帰りゃしないさ」
「ふーん...そ。帰るなら一言くらい言ってからにしなさいよ」
「あいよ、そんじゃまた」
「ん...」
そう言うと萃香はまだ開けていない一升瓶と空の盃を一つ持って、宴会客の合間を抜けて行った。しばらくしてその背中は見えなくなる
「頼まれ事、ねぇ...」
静かになった縁側で一人呟く。ふと、自分の持つ盃の中に、夜空が写っているのが目に入る
「あら...月見酒とでも、洒落混もうかしら...」
どこか紫がかった月が、こちらを見下ろしていた...
「くかー...はっ!...ありゃ、くーちゃんたちは...?」
そーちゃん
空色のメイド服を着た妖精メイド。少し間の抜けた言動がある。お皿洗いや洗濯物など、水仕事が得意...けど、料理のウデは絶望的。いわゆる暗黒物質を産み出してしまう
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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