元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
「...はぁ」
万年筆が書類の上を駆け回る音...それを遮るように、溜め息を一つ吐く。自分でも分かる程に疲労の色が見え隠れしているそれを、傍らに佇む一匹の飼い猫が酷く心配している
「さとり様、あまり無理はなさらないで下さい...」
「大丈夫よ、お燐...珈琲、お願いできる?」
万年筆を置き、自分の肩をとんとん、と叩く。私の身体を気に掛けてくれるのは嬉しいことだけれど、こなさなければいけない仕事の量は変わらない。あの異変から、最近は少し増えたかしらね...
内容は...地上から地底への訪問許可願と地底から地上への外出許可願。新しい娯楽施設の提案書、賭場の売上報告に...喧嘩で壊れた住居の修復に関する書類。あとは「さとり様ッ!!」
「ふぇっ?!」
突然の怒号ともとれるような大きな声と机を叩く音に、身体が跳ねてしまい、情けない声が漏れる
「さとり様はもっと自分を大切になさって下さい!!あたい以外のペットたちも、皆心配してるんですよ!?」
「お、お燐...?」
「とにかく!!今日これ以上お仕事するのはダメです!!」
あ...え?開いた口が塞がらない...普段から温厚なお燐が、こんなに感情的に...
「...分かったわ。ごめんなさいね、お燐」
「分かって下されば良いんです。それに今日は...」
あっ...嘘、でしょ...?主人想いな飼い猫の巡らせる思考に、困惑を帯びた言葉が心の中で木霊する...そ、そんな
「レミリアさんたちも来られるんですから...」
う、嘘じゃ無かった...まぁ、心読んでるから当たり前なんですけど!いや、それよりも今日!?よりにもよって!?なんで仕事詰めの忙しい時に...いえ、来てくれるのは嬉しいですよ!?そりゃもちろん!!普段は宴会以外で会うことも殆ど無いですし...た、立場が立場ですからそう易々と地上に出ていくこともできないですし...あ~...折角遠路遥々レミリアさんが来てくれるのに......ん?ちょっと待って下さい。ここ数日の間は仕事が立て込んでしまってこの書斎から殆ど出ていない。それこそお手洗い以外には...って、まさか...
サーッ、と血の気が引いていく音がする。...わ、私...お風呂、入って...
「...お燐、私、いつから書斎に籠ってたかしら...」
「はい?えーっと...一週間くらい、ですかね」
いっ!?...くんくん......あ
「こ、ここが...」
「あら、結構綺麗なのね」
「ねー」
「温泉だー!わーいっ!」
旧都へ繋がる橋を渡り、随分と古風な...風情を感じる街並みを横目に目的地へと歩を進めていた。そして、私たちの目の前には...街並みとは違い現代風な、所謂スーパー銭湯が鎮座している
「そんな訳で、ここが新しくできた温泉だよ」
「あっ、ここまでの案内ありがとうございます。ヤマメさん」
ぽかんと口を開け建物を見上げていると、ここまでの案内をしてくださったヤマメさんの声でハッ、と我に帰る。ぺこりと頭を下げ、簡単ではありますが感謝の意を伝える
「いやなに、ソレは大体私のせいだからね。これくらい気にしなくて良いさ...あ、あとこれ」
「へ?...これは...」
そう言ってヤマメさんが手渡してきたのは...四枚の紙。手のひらサイズで、書かれているのはシンプルに漢字が五文字...
「初回無料券...ですか?」
「そう。いやなに、地底じゃ結構たくさん配られてるからね、遠慮しなくて良いよ。私ももう使っちゃったし...それじゃ、ゆっくり楽しんでってね」
そう言い残し、ひらひらと手を振りながら背を向けて来た道を帰って行くヤマメさん...無言ながら、その背中へともう一度、深く頭を下げる...さて
「それじゃあ、早いところ入ろうかしら」
「やったー!お、ん、せんっ!お、ん、せんっ!」
「あははー、フランってばはしゃぎすぎだよー」
落ち着け、妖精長。この修羅場...どう潜り抜ける...
「ふーん...結構色々な種類の温泉があるのね」
「やっぱり一番おっきいのが良いよ!」
「えー、でもこっちも良さそうだよー?」
おっきな建物に入ってすぐ、くつろげるようなスペースにあった大きな案内板にはたっくさんの温泉が...んー、温泉自体が初めてだし、迷っちゃうね
「ねー、よーちゃんもこっちの方が...って、あれ?よーちゃん?」
「ふぅ...こっちには多分来られないと思うんですが...」
お嬢様たちが案内板に釘付けになっている隙に、できるだけはしっこの温泉に逃げ仰せて来れましたね...。施設の中は朝方というのもあり、そこまで人気は感じられないものの、ちらほら他のお客様の姿も見える
「早いところべとべとを流して出ないと、ですね...」
いくつかある脱衣場に入り、手早くメイド服を脱ぐ。この服にも、いつの間にか慣れちゃいましたね...ロングとは言え、スカートも最初は違和感凄かったですし...
正直なところ、自分自身の裸体にももう慣れてしまいました。最初の頃は入浴中に目を瞑ったりしてましたけど...
脱いだ服をランドリーへと持って行き、そそくさと長めのタオルを取ると、前を隠しながら目を付けていた場所へと移動していく
「温泉...いつ振りなんでしょうかね」
桶でお湯を掬い、ざぱぁと被る。ん、少し熱いくらいですが...まぁ丁度良いですかね。手早く石鹸を泡立て、身体のべとべとを洗い流す。温泉なんて、朧気な記憶では初めてなのか、久し振りなのかは分からないですが...
「まぁ、今は楽しみましょうか...成るべく手早く、ですけど」
タオルを湯船の脇に畳み、手拭いを頭に乗せてゆっくりと入る。んっ...やっぱりちょっと浸かるには熱いですね。しかし喉を過ぎればなんとやら、一気に肩の辺りまでを沈める...んぅ~、気持ち良い、ですね...はふぅ...
かぽーん、なんて銭湯で良く聞こえる音を聞き流しながら、温泉を堪能する。案内板にはサウナなんかもあると書いてましたからね...もし時間があれば行きたいところですが...
「あ、隣...よろしいですか...?」
「ほえ?...あっ、はい。大丈夫ですよ」
ぽけーっとお湯に浸かっていると、そう声を掛けられる。ぬくぬくとしていたせいか、返事が少し覚束ない...見ると、ピンク色の髪をした女性、ですが...身体からは触手?のようなモノが三つ目の瞳へ伸びており、ぱちくりと瞬きをしている...
あれ、こいしさんも確かあんなのが付いていたような...そういう種族の妖怪さんなんでしょうか、なんて
「ふぅ...えぇ、私とこいしは同じ妖怪で、なんなら姉妹ですからね。似ていても何ら、不思議では無いですよ」
あー、やっぱりそうなんですね...ん?あれ...私、今声に出して...?
「いえ、声には出てませんよ」
「えっ...?」
隣から聞こえてくる言葉に動揺が隠せないまま、そんな間の抜けた声が口を突いて出る。え、つまりこの方は...
「心が読める?ですか...はい、その通りですよ...えっと、妖精長、さん?」
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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