元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
「...お団子、美味しいですね。ずずーっ...ほぅ」
甘味処の椅子に腰掛け、三色団子を頬張り湯呑みを傾けて息を漏らす。余り人里に、ましてや甘味処には足を運びませんけど...こういう和の甘さというか...優しくてほっとしますね、ずずーっ
...さて、太陽も丁度てっぺんに差し掛かったような真っ昼間、妖精メイドのまとめ役の私がお仕事もしないで何故このようにほっと一息ついているのかと言うとですね...
「え、お休みですか?」
「そう!咲夜がさっき言っててねー!」
フラン様に話し掛けられ咄嗟に聞き返してしまう。えっ、と...そのようなお話、朝礼の時には聞かされて無いんですが...
「いえ、ですがそんな急に、それにさっきの音「そうだねー!休日ってなると人里で食べ歩きとか遠くの神社にお参りとか良いと思う!それじゃいってらっしゃーい!」え、ちょ!?フラン様押さないでくだうわぁー!?」
...そんな訳で今はお団子を頬張っているところです。甘いものに罪は有りませんし、メイド長の善意で頂いたであろうお休みですし...
「今日ばかりは堪能しましょうかね...あーむっ」
「チョコレートの作り方...ですか?」
「そう!咲夜なら知ってるでしょ?」
いつもの業務をこなしている最中、突然妹様に呼び止められ、そう切り出される
「えぇ、まぁ...知っていますが...」
「教えて!」
「!?...ど、どうされたんですか...?」
ずいっ、と目前まで迫られ少し仰け反ってしまう。教えることに関しては構わないですし...でも何故、突然...?
「バレンタインデー...ですか?」
「そう!だからチョコレート作りたいの!」
お話を聞いたところ、外界の文化であるバレンタインデー...想いを寄せる相手にチョコレートやお菓子を渡す日、それ今日だと...ん?
「い、妹様...?まさか...」
「いつもお世話してくれる妖精さんと...館の皆、あといつも遊んでくれる魔理沙とか妖精の皆にも渡したいの!よーちゃんには特に...」
知らぬ異性の名前が出なかったことに勝手に安堵し、胸を撫で下ろす。恐らく妹様の認識では、友人や親しい相手に感謝の意を込めてチョコレートを渡す日がバレンタインデーなんでしょう...
「そうですか...分かりました、私で良ければお手伝いいたします」
「ホント!?咲夜、ありがと!」
「それでは善は急げです。早速取り掛かりましょう」
「おー!」
お菓子作りとなると...あの子にも手伝ってもらおうかしらね
「お菓子作りなら任せて下さい~。なんでもお教えしますよ~」
「ありがとー、きーちゃん!」
キッチンに市販の板チョコや牛乳等の材料、そしてボウルやトレーと言った器具を一通り並べ終え、これから実践が始まるところ
元々、誰かに料理を教えたことなんかは無いけれど...この子も手伝ってくれるなら上手くいく筈ね。...あら、お砂糖を持ってきてなかったかしら。備蓄が確か倉庫に...
「貴女、先に始めておいてくれるかしら。足りない材料を持ってくるから」
「分かりました~、お任せ下さい~」
キッチンをあとにして倉庫へと向かう。なんなら、あの子だけでも出来そうかしらね...
「フラン様~、まずはチョコを溶かします~」
「はーい!きーちゃん先生!」
後方からはなんとも微笑ましい会話が聞こえてくる。そうね、まずはチョコを溶かして......熱......炎......あ、
轟音、叫び声...振り向く顔の表面を熱気が炙る。......はぁ...前の5月のこと、思い出すのが少し遅かったわね
「えっと...ご、ごめんなさい......」
酷く申し訳なさそうに頭を下げる妹様。キッチンに残った焦げ臭さが、その事件を物語っていた
「熱かったです~、ビックリしました~」
「あ、きーちゃんもゴメンね...ケガとか無い...?」
「大丈夫ですよ~。妖精は丈夫ですから~、あちょ~!」
スカートの先が少し焦げた妖精メイドも、自身の安否を不恰好に構えながら伝えている様子だった。一体誰の真似かしらね...ですが
「うん...でも、キッチンが...」
...この惨状では、お菓子作りを続けるのは難しいわね。急いで片付けても今日はもう...
「......きーちゃん、大きい音、何かあった...?」
「あ、はーちゃん~。フラン様がちょっと頑張っちゃって~、キッチンが壊れちゃったんです~...」
半ば、今日のお菓子作りを諦めていた時、さっきの轟音を聞いてなのか灰色の妖精メイドの子が様子を見にキッチンへとやって来た。黄色の子の説明を聞き、中をキョロキョロと見渡しているようだった
「......メイド長」
「ん、どうしたのかしら?」
ある程度見終わったあと、灰色の子に呼び掛けられる。...あぁ、そうね。片付けも人手がある方が良いものね
「......直す?」
「...え?」
「ふぅ......メイド長、これで良い...?」
唖然とした。私も片付けは手伝ったものの...本当に朝、あのような惨劇が起きたのか分からない程に、ものの数時間で、綺麗なキッチンがそこにはあった。彼女は額の汗を拭い、こちらへそう問い掛ける
「え、えぇ...」
「どうなったかな...って、すごーい!元通り!」
「...ん、良かった。...仕事、戻る...」
その様子を見て戻ってきた妹様も興奮気味に目を輝かせている。...やっぱり妖精長や黄色い子、それにさっきの灰色の子も...妖精メイドたちのこと、何も知らないのね、私。今度ちゃんと、皆と話してみようかしら
「ただいま戻りました~。あ、直ってますね~、流石はーちゃんです~」
灰色の子と入れ替わる形で、お使いを頼んでいた黄色い子が戻ってくる。これでキッチン、材料、器具...大丈夫そうね
「うん、これならよーちゃんが帰ってくる迄に間に合うかな...」
「?...妹様、今何か...?」
「え!?う、ううん、なんでもないよ。そ、それより!」
「早速取り掛かりましょう~」
「...そうね」
「おやっさーん、いつもの頼むー。...ん?」
「ずずーっ...ん、あれ...魔理沙さん?」
季節に似合わぬぽかぽか陽気に動く気にもなれず、のんびりとお茶を啜って一息ついていると、聞き覚えのある快活な声が耳に入る。声の主は知り合いである、魔理沙さんのものだった
「おお、妖精長か。珍しいな、人里で合うなんて」
「そうですね。ここに来るのもお使いとか、お休みを頂いたときくらいですからね」
名前を呼びながら流れるようにして隣に座られる魔理沙さん。しばらくしてお皿に盛られたお団子と湯呑みを持った店主さんが、それらを魔理沙さんの元へと運んで来た
「お、そうだ。お前知ってるか?外界では今日、バレンタインデーって言う行事?らしいぜ。あーむっ」
「バレンタインデー、ですか?えっと...」
そう切り出され、手元の懐中時計にある日付を確認する。2月14日...確かにバレンタインデーですね。魔理沙さんの聞き方的に、幻想郷では余り一般的ではないんですかね
「2月14日...そうですね、余り気にしてませんでしたけど...」
「ずずーっ...お、お前は知ってるんだな。なんでも、大事な人に感謝の気持ちを込めてお菓子を渡すんだってな。この前フランにも話してやったんだよなー」
お菓子...ずずーっ。館の皆さんや妖精メイドの皆、お世話になってる方々に何か作ってお配りしたかったですね...今からじゃ流石に間に合いませんかね
「あ、そう言えばさっきお前んとこの黄色い...きーちゃん?だっけか、見掛けたな」
「え、きーちゃんですか?」
「おう、急いでる様子だったから話し掛けはしなかったけど、なんか色々買ってるみたいだったな。ずずーっ」
...今朝のフラン様の言動、そしてあの時、前にあったパチュリー様の言動...少し重なる気がする。それに今朝のあの轟音とも言える音。少し遠く、向かう途中にフラン様に半ば追い出される形で休日を頂いたけれど、出どころは多分キッチン辺り?......あ、
「......これ以上食べると、虫歯怖いなぁ」
「ん、団子、そんな食ってるのか?」
「ただいま戻りました。あ、フラン様」
「お、お帰りよーちゃん。...あ、あのね、ちょっと渡したい物があって...その...」
いつもと逆の立場で玄関前、言葉を掛け合う二人...少し遠くの物陰には、少なくとも妖精メイド一人とメイドが一人...もしかすると主人や居候、門番に司書なんかも、その様子を見守っていたとかいないとか...
こんな感じですかね...バレンタインデー、もうすぐ終わりですけど。この行く末は皆さんの想像にお任せ致しますね。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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