元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
桶入り娘はウトウトと
「ん...んーっ!...ふぅ」
自室のベッドの上、上体を起こしてぐぐっと伸びを一つ...今日は誰も居ないみたいですね、部屋の中。まぁ、それが普通なんですけど...
シーツを退けて立ち上がり、いつもの服に着替える。フリルにスカートなんのその。人間慣れれば案外大丈夫、住めば都ともいいますしね、今は妖精ですが
「さてと...ん、あれ?」
身支度を済まし、ふと窓に視線が移る。館の外はうっすらと明るくなっており、これから1日が始まるんだと改めて実感できた
そして頭上に浮かんだ疑問符...まだ目の覚めきっていない頭の勘違いでは無いみたいですかね。瞼を擦り、もう一度外を見る
「雪...」
ふわりと宙を舞うそれらに、無意識に言葉が口を突いて出る。冬...ここ幻想郷に来てから、私にとって初めての季節...吐く息は白く、窓一面を曇らせた
「おはようございます、メイド長」
「ん...おはよう、妖精長。一応聞いておくけれど...無理、してないでしょうね?」
「あはは...はい、もう大丈夫です」
冬の訪れに沁々する...なんてことはなく、自室をあとにして仕事場へと向かう。既に起きていたメイド長に挨拶をすると、そう心配される
まだ時折頭が痛むこともあるけれど、傷に関しては跡が残るようなことも無かった。永遠亭の皆さんにはいつかちゃんとお礼しないと、ですね
「よーちゃんおはよー...うぅ~、さぶいぃ」
「おはよう、あーちゃん。今日は雪ですからね...皆もおはようございます」
「おはようです~」
やけに寒そうなあーちゃんにそう返し、他の妖精メイドの皆にも挨拶をする。各々マフラーを巻いていたり、ミトンの手袋を着けていたりと防寒はバッチリみたいですね
「ひとまず、皆集まったようね。それじゃあ今日の仕事を割り振って行くわ。今日は...」
なんとなく、メイド長が話す指示の内容に懐かしさを感じながら、両の掌に息を吐く。はー...よし、今日も頑張りましょう
「へっくしゅんっ!!...うぅー、さぶい...」
いつものように門番として館の正面玄関に立つ...まぁ、今日は雪が降ってていつもより寒いんですけど...。お昼の休憩になったら、黄色い妖精メイドさんに温かいスープでも作ってもらおうかなぁ...
「...ん?」
すっかり雪景色の林道...まだ姿は見えないものの、新雪を踏み締めこちらに近付いて来るのが聞こえてくる。気配は複数...来客の予定は聞いておらず、恐らく妖精でもない。自然と脚に力が入り、構えをとる。足音は更に近付き、その姿が視界に入る
「...って、えぇっ!?」
「メイド長、皆もお仕事一段落ついたみたいです」
「そう、分かったわ。...そうね、キリも良いし休憩にしましょうか」
妖精長から皆の進捗を聞き、懐中時計を見る。今は二つの針がてっぺんで重なろうとしているところ...お昼の休憩には丁度良い頃合いね
妖精長の容態が良くなってから、仕事が滞ることは無くなった。とは言えまだ病み上がりみたいなもの...この子は大丈夫と言ってるけれど、余り無理はさせたくない...あら?
「えっと、確かこっちに居るって...あ!咲夜さーん!」
「美鈴...どうかしたのかしら」
「どうしたんだろうねー」
そんな考えを巡らせていると、廊下の角から美鈴の姿が見えた。キョロキョロと辺りを見渡し何か探してるようだけれど...と、どうやら目的は私のようで遠くから声を掛けてきた。何かあったのかしら
「あ、門番さん、おはようございます」
「え?あ、お、おはようございます...じゃなくて!咲夜さん!」
「騒がしいわね...何かあったの?」
「いや、お客様が...」
こちらまで走って来た美鈴はそう口にする。お客様...?今日は来客の予定なんて無い筈だけれど...
「ち、地底からだそうです...」
「...え?」
「ふあぁ~......流石に急過ぎないかしら?ねぇ、さとり」
大きなあくびをしたお嬢様が、少し不機嫌そうにそう言葉を放つ。応接室の横長のソファーにはそんな言葉を掛けられた地底からのお客様が3...いえ、4人座られていた
「へー、ここがねぇ...随分と尖った趣味してんだね。なぁ、キスメ」
「......」
「ねー!真っ赤っかー!」
「こいし、ソファーの上で跳ねないの...おやすみのところすみません。急ぎ、伝えなければいけないことが有りましたので...」
見知った顔は3人。さとりさんにこいしさん、それに勇儀さん...皆さん、地底にお邪魔したときにお世話になった方々だ。どうやら大事な話があるようで、お嬢様と私もその部屋へとご一緒している。というか...
「寒かったりしませんか~?」
「ひぅっ!?ご、ごごご、ごめんなさいぃぃ...」
知らない最後の方...何故か大きめの桶に入っている方ですけど、とんでもなく怯えている。会話から察するに、キスメさん...らしいですけど。館イチの温厚で通っているきーちゃんにあの怯えようですからね...
「ん、そこのは...!...そう、大体分かったわ。妖精長も呼ぶ訳ね」
「え、わ、私ですか...?」
「...はい、お考えの通りです」
合点がいった両名に挟まれ、疑問符が浮かび上がる。えっと...私?そして、私のそんな間の抜けた顔を見てさとりさんは言う
「貴方のケガ、その原因はキスメ...彼女です」
「え?...そう、なんですか...?」
そう言われても私は分からない。あの時、頭に何か降ってきたことは分かっている。鈍い痛みも覚えている。でもそれが...
「間違いないわね。あの時降ってきたのはそこの釣瓶落としよ」
すっかり目の覚めきったお嬢様が言い放つ
「勿論、わざとでは無いです。うたた寝していたら、いつの間にか身体が落下していて...だそうです」
「おんなじとこに棲んでるヤマメも、キスメはそんな寝相悪くないって言ってたよー」
「そう...ま、さとりが言うならそうなんでしょうね」
どうやら、わざと落っこちてきた訳では無いらしい。それに、さとりさんが事情を聞いてるんですもんね...疑う余地もないですね
「んで、今日は謝りにきたんだよ。なぁ、キスメ」
「...うん」
謝罪。それが地底から遥々地上まで来られた理由...できれば再開は皆さんで遊びに来る時、と思ってたんですけど...
「えと...よ、妖精さん」
「...はい」
少し震えながら、彼女は言う
「ご、ごめんなさい...」
「はい、許してあげます」
「ほ、ホント?もう、怒ってない...?」
「はい、もう痛くないですから、怒ってないですよ」
そう言葉を掛けると、キスメさんは隣に座っているこいしさんやさとりさんの顔を交互に見る
「ねー?よーちゃん優しいから大丈夫って言ったでしょー」
「そうですよ。かっ...のじょに限ってそんなことは無いです」
...なんとなく、さとりさんが何か言い間違え、いや正しいんですけどね、間違えそうになった気がする。頭の痛みよりも、そっちの方が怖いですよもう...
「はぁ...良かったわね、うちのメイドが優しくって。さてと...」
少し呆れたような調子で言うお嬢様。一拍置いて、言葉を続ける
「折角来たんだから、歓迎するわよ。咲夜」
「はい」
いつの間にかお嬢様の傍らにはメイド長が立っている
「お昼、多めにね」
「承りました。それじゃ妖精長、手伝ってくれるかしら?」
「はい、勿論です」
「やったー!ご飯ー!」
「お、こりゃついてきて正解だったね」
「お酒は控えて下さいよ」
「わ、私も良いの?」
時刻は丁度お昼前。それじゃあ頑張って作りましょう!
「それと、良いって言われる前に勝手に上がり込んじゃ駄目でしょ?こいし」
「えへへー、バレてた?」
こんな感じですかね。ま、想像通りキスメが落っこちてきてましたね。ちょっと次のおはなしは※付きでシリアス風味かもです。ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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