元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
私は買い出しに出掛けるメイド長の背中を見送る。さて、ここに来てからおおよそ一週間が経った。この体や館での仕事にも慣れ、いつの間にやらメイド長達から妖精長、なんて呼ばれるようになったが...少し荷が重い
さて、それはともかくとして館の仕事を一任されたのだ。メイド長の期待には応えなければならないし、早く動くに越したことはないだろう、うん
私は朝早くから鍛練を積む門番さんを横目に館へと戻っていく...とりあえず皆を起こそうか。えーっと、今日の朝食の当番は...
私はいつもより軽い足取りで買い出しに向かう。何も心配事なんて無い。何せ、今日はいつもとは違う...そう、あの子が、妖精長が居るのだから
今まで、買い出しに行くのは憂鬱だった。私が館を留守にすると、妖精メイド達は仕事もせずにおおはしゃぎ。帰ってくると館の中は滅茶苦茶...思い出したらイライラしてきた、用事が済んだら甘いものでも食べようかしら...
それ以来買い出しに行く日は妖精メイド達に休暇を与え、館の外へ遊びに行くように仕向けていた。次の日は仕事が普段の倍...ゾッとする
そんな日々の中、気付けばあの子が居た。本当に嬉しかった、救われた。この十六夜咲夜、あれだけ泣いたのは赤子の時以来かしらね...
メイド長の目にも涙、なんて言ってきた妖精メイドにナイフをお見舞いしたのは余談だけれど、ともかく館のことは妖精長に任せて私は私のやることをやらないと...さ、まずは人里からね...
ひとまず妖精メイド達、もとい同僚達を起こして食堂まで連れて来た。ちょうど十人分の椅子と長いテーブルに、一人を除いて皆ちょこんと座って朝食を待っている。眠そうな子や、おしゃべりをする子など、見た目と同じく十人十色の様相が伺える
妖精メイド達は皆似通った風体をしているが、身に付けている服や帽子の色が違う。手前の子から、赤、黄、空、緑、紫、橙、白、黒、灰、そして私が青、と言った具合で判別ができるようになっている
ただ、皆には名前が無かった。かく言う私も妖精長とは呼ばれているが、名前は無いらしい。用事があるときに直ぐ呼べないのは不便過ぎる、ということで簡単ではあったが私が付けてあげた
「きーちゃん、きーちゃん、今日は何作ってるのー!」
「つくってるのー」
「今日はホットケーキですよ~、あーちゃん」
「やった!きーちゃん大好き愛してる!」
「あいしてるー」
「あ!ほら、火を使ってるんですから危ないですよぅ二人とも!」
今厨房に立っているのが黄色のきーちゃん。盛大なLOVEコールを送り、抱き付きに行こうとした一人目が赤色のあーちゃん。もう一人は白色のしーちゃん。そんで二人の服を掴んで止めているのが緑色のみーちゃん...頭文字伸ばしただけ?...なんのことやら
「しゃーねぇなぁ...アタシも手伝ってやろうかな」
「へ!?いや、むーちゃんはゆっくりしてた方がいいんじゃないか...ほ、ほら、そろそろできそうだし...ね?」
「んー?...まぁそうみたいだね」
「「......」」
「あーちゃん、いっつもはしゃいじゃって...」
手伝おうとしたのが紫色のむーちゃん。必死に止めたのは空色のそーちゃん。我関せずの黒色、灰色のくーちゃんとはーちゃんに、最後は橙、オレンジ色のおーちゃん。朝から元気で何よりだなぁ...なんて考えつつ、喧騒の中朝食を待っていた
朝食の時間もあっという間に終わり、今はそーちゃんときーちゃん、そして私の三人で食器を片付けている。
他の七人は座っておしゃべりをしているようだ
「あ!そーだ!今日ってメイド長いないんでしょー!?やったね!」
「そうですね。只、私が代理として指示を出すように言われてますから...サボろうなんて考えないように」
「うぇっ、そうなの?...ちぇー、妖精長のけちー」
「まあまあ、そんなに落ち込まなくても...ね?」
「ぶー、ぶー」
片付けも終わり、そんな会話を交えながら戻って来る。元気だったあーちゃんは明らかにしょんぼりしてテーブルに突っ伏している。隣でおーちゃんが機嫌をとろうとしているようだ。あの日叱られていたのはこの子達なんだけど...おそらく常習犯だろう
私は皆の方に向き直り、いつもメイド長がやっているようにお仕事の割り振りをすることにした
「ま、そういう訳ですから。とりあえずいつもみたいにお仕事、割り振って行きますね」
「「「はーい」」」
「えーっと、まずはあーちゃん......ってあれ?」
席に居なかった。まさか、と思い私が食堂の出入口に目を向けると、件のあーちゃんが今まさに忍び足で廊下に出ようとしているところだった
「...あーちゃん?」
「あ、えー...そのー......さらばっ!」
脱兎の如く走り去って行った...はぁ
「...あーちゃんとむーちゃん、それとおーちゃんは客室と廊下のお掃除をお願いしますね...それで」
「ちょ、妖精長。いいのか?どっかいっちまったけど...なんならアタシが追いかけようか?」
「大丈夫ですよ~むーちゃん」
「そうなのか?ならいいけどよ...」
何事も無かったように続ける私を止めるように、むーちゃんが言う。そう、今日はきーちゃんに手伝って貰うので問題ないのだ。そのまま残りの指示を出していく
「ふぅ...こんなところですね...さて」
少し間を置く
「全部お仕事が済んだらー、きーちゃんがクッキー焼いてくれまーす」
「焼きま~す」
わざとらしく大きい声で言う
「それじゃ、皆取り掛かってくださいね」
「「「はーい」」」
むーちゃんとおーちゃん、きーちゃんと私を食堂に残して皆それぞれの持ち場に移動していった。少しして誰かが走ってくる音が聞こえる。そら来た
「ぜぇっ、ぜぇっ...きーちゃん、っはぁ...ホント?!」
「ホントですよ~」
「おーちゃん!今日持ち場何処!?」
「えっ、ボクらは客室と廊下のお掃除「モタモタしてないで早く行くよ!」って、ええ!?ちょ、あーちゃん?!」
「あっ、おい!アタシを置いてくなよ!」
食堂前で急ブレーキを掛けて止まったのはあーちゃんだった。きーちゃんの言質を取ると、おーちゃんの手を取って走り出した。遅れてむーちゃんも走っていく...ひとまず、これでいいかな
「ごめんね、きーちゃん」
「いえいえ~、構いませんよ~」
サボり癖のあるあーちゃんは、直ぐに物に釣られる。きーちゃんの協力もあってどうにか仕事はしてくれそうだ...この手に限る。それでは~、と自分の持ち場に向かうきーちゃんを見送り、私は一人食堂に残される
私は食後の珈琲を淹れ、席に着く。ホテルで働いていた時から染み着いている朝のルーティンだ。これがないと、少し調子が出なかったりする。飲み終えてから、私も仕事に向かおう。私は珈琲を飲
ガシャーン、パリーン
「あー!むーちゃんなにやってんのー!」
...珈琲を
「ぐぅ...躓いちまった...花瓶が」
......珈琲
「あうぅ...ボクの服びしょ濡れだよぉ...」
......私は珈琲に砂糖とミルクをぶちこんで飲み干した
メイド長
奔放な妖精メイドたちに手を焼いていたが、妖精長が来てくれたこともあり最近はかなりご機嫌。館の留守を任せたりと、かなり信頼を置いている様子。最近服用する胃薬の量が減ったとかなんとか
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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