元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
「いってきまーす!」
「わっ、お、お気をつけてー!」
館の扉が勢いよく開かれたと思うと、中から眼にも留まらぬ速さで妹様が飛び出していった...そういえば今日は朝から遊ぶ予定があるとかなんとか、咲夜さんが言っていたっけ
妹様はお嬢様から外に出ることを許されて以来活発になられたようで、最近は頻繁に霧の湖に棲む妖精達と遊んでいるらしいです...
見送る背中があっという間に小さくなっていき、振っていた手を下ろす。さて、今日も今日とて門番の役目を果たそう...まあここ数ヶ月の間、魔理沙さんと悪戯好きな妖精以外は、侵入者として訪れてはないんですけど...
はっ?!...ここは?ベッドの...上?と言うか、自分の部屋である......えーっと、なんだっけ。なんでこんな場所に...?
「あ、起きたー!良かった~...」
「よかったー」
「あ、あーちゃんにしーちゃん...二人とも、なんでここに?」
ベッドの脇には椅子が二つ。そこには赤と白の妖精メイドがちょこんと座っており、私が起きたことに何故か安堵の声を漏らしていた...なんで?
「妖精長、フラン様のお部屋で倒れてたんだよー。見つけた時びっくりしちゃった」
「...ん」
「......あ、そうだったんだ...はこんでくれてありがとー...」
大体思い出した......道理でなんか、邪念というかなんというかが無い訳だ。額の鈍痛がその証拠だろう...あ、そうだ、今って...
私は懐から懐中時計を取り出す。メイド長から貸してもらっている物だ。手元にあった方が色々と便利だろうと、実際かなり助かっている
「もうすぐお昼か...」
どうやら丸一日寝過ごした訳でもなく、眠っていたのも二時間程度だったらしい。見かけによらず丈夫なんだなぁ...この身体
二人に看病の感謝を伝え、お昼休みに入るよう言っておいた。そのまま部屋をあとにする妖精達を見送り、私も続くようにベッドを降りる
さて、柄にもなく眠りこけていたし、言われた仕事はこなさないと。私は廊下を歩きながらやることを順番に考える。確か食堂の整理がまだだったような...
「もうすぐお昼だね、そろそろご飯にしよっか」
「ん、さんせーい!チルノちゃん、いこいこ!」
「わわっ、ちょっと待ちなさいよ!」
私はチルノちゃんの手を取り湖の畔へと向かう。提案した大ちゃんも後ろから待ってよー、と続く。三人は湖の畔にある樹の下で座って、大ちゃんが持って来た果実を頬張っていた...たまにはこんなのも良いよね
「このあとは弾幕ごっこやろっかなー」
「む、今日こそは負けないからなー!...でもアレ、あの燃える剣みたいのはナシね!」
「あはは...チルノちゃん、いっつも溶けちゃいそうになるもんね」
レーヴァテインが禁止になった...カッコいいのになぁ。そんな話をしながら手早くお昼ご飯を済ませていく。そんな中、ふと大ちゃんが独り言のようにぼそりと呟いた
「...今日は雨になりそうだね」
「え、そうなの大ちゃん?」
「お、大ちゃんの予報は百発...えーとなんだっけ......と、ともかく!凄く当たるぞ!」
へぇー、大妖精ともなるとそんなのも出来るんだ...実は大ちゃん、凄い子なのかも?...それにしても雨かぁ、今日はいつもより早く帰らないとかなぁ...
「.........」
「んー...んー!」
今、私はお昼ご飯でもと使用人の食堂まで足を運んでいる。しかしどうやら先客がいたようで...咄嗟に隠れ、出入口の脇から顔を覗かせ、中の様子を探っている
「.........」
「...ふぅ...ふぬー!」
どうやら妖精メイドさんが居たようで、今は仕事...かな?椅子を重ねて戸棚の中の物を取りだそうとしているようだった
「.........」
「むぅ...ふぬぁー!!」
頑張って背伸びをしているものの、妖精ということもあり、中々手が届いていない...なんというか、我が子を見守るのってこんな気持ちなんだろうか...とても微笑ましい
「うにゅー!っうわ?!」
「あ、危ない!」
妖精メイドさんが力一杯手を伸ばしたその時、ぐらり、と足下の不安定だった椅子が崩れた。私の身体は声を発すると同時か、それより早く動いていた
「ふー、よかったー間に合って」
「...へ?...あ、門番さん?...あ、ありがとうございます...」
倒れた椅子達が散乱する中、滑り込むような形で妖精メイドさんを受け止めていた。何が起こったか分からないような様子で妖精メイドさんは私に感謝の言葉を溢す。さて、と
「え?あ、あの門番さん!?」
「よいしょっ、と。これで届きますかね?」
私はそのまま妖精メイドさんの脇に手を入れ、ぐっと持ち上げる。軽いなぁ...なんて考えていると、少し困惑した声が聞こえる。それも束の間、観念したのかそのまま戸棚に手を伸ばし、何か作業を始めたようだ
「あの、門番さん」
「ん、どうしたんですか?」
「終わりましたので...もう降ろしてもらっても...」
数分程度経っただろうか...作業が済んだらしく、言われるがまま、妖精メイドさんを降ろす...良く見ると、今朝咲夜さんの見送りに来ていた子だった。青いメイド服に見覚えがある
「あ、ありがとうございました。何分、こんな体躯ですので...」
「いえいえ、構いませんよ。困った時はお互い様ですから」
「あ、すみません......そう言えば、門番さんは何をしに食堂まで...?」
床に転がっている椅子達を片付けながら、そう聞かれた。あ、そうだ、お腹減ってるんだった私。ちょっと照れ臭く、頬を掻きながら応える
「ちょっと、お腹が空いちゃって...」
「そうだったんですね......ちょっと待っててください」
そう言うと、妖精メイドさんはとことこと走っていった...なんだろ。ひとまず言われた通りに椅子に座って待つことにした
「お待たせしました。これ良かったらどうぞ」
「え?これって...」
少しして戻って来た妖精メイドさんの手には、小さめのバスケットが握られていた。私の側まで来るとそのバスケットを差し出してくる。その中には...
「サンドイッチ...ですか?」
「はい、簡単なモノですけど...良かったら食べてください」
「いや...でも...」
さっき作ったにしては戻ってくるのが早すぎる。となると...おそらく妖精メイドさんの分だろう。流石に貰えないんだけれど...なんてまごまごしているとバスケットを押し付けられる
「困った時はお互い様、ですから」
「あっ......ありがとうございます、えーっと...」
「...あ、メイド長からは妖精長と呼ばれてます」
「...ありがとうございます、妖精長。私は門番の紅美鈴といいます」
今さらながら自己紹介を済まし、バスケットを受け取る。...妖精長、てことは、妖精メイド達のトップということだろうか...
さてと、あんまり門前を空ける訳にもいかない。それでは、と別の仕事へと向かった妖精長を見送り、私は長机にバスケットを置く
いただきます...ん、おいし...
館の仕事をこなしているうちに、もうすぐ夕暮れと言った時間になっていた。先程、帰って来たフラン様とすれ違い軽く挨拶をした
門番さん...美鈴さんに手伝って貰うことになったのは申し訳無かったが......どうやって飛ぶんだろうか、未だに飛び方は分からないままだ
ふと、窓の外に目をやる...少し雲行きが怪しい気がする。これは...一雨来そうだ。他の子にも手伝ってもらって、洗濯物を取り込んでおかないと...
「あ、きーちゃん、そーちゃん。少し手伝って欲しいんだけど...」
「あ、妖精長~実はですね~...」
「少し雨が来そうなんだ。洗濯物を取り込みたいんだけれど...」
ちょうど二人の妖精メイドが見つかったので手伝いを...と思っていたけれど、どうやら同じ要件だったようだ。話が早い。
私は二人を引き連れて廊下を歩いていく。さて、降りだす前に全部取り込めればいいけれど...
昼食を終え、いつものように門の脇に立つ。いまさっき妹様が帰って来た。もうすぐ、咲夜さんも帰ってくる頃だろう
「...ん?」
ぽつりと冷たい何かが額に落ちる...あぁ、どうやら雨のようだ。妹様がいつもより早く帰って来たのはそういうことだったらしい...
どしゃ降りという程では無く、まぁ普通くらいの雨。私は妖怪だし、この程度なら風邪なんてひいたりはしない。身体は丈夫ですからね、毎朝鍛えてますし...。
そんなことを考えていると、バチャバチャと水溜まりを踏む音が聞こえる。私の後ろ、館の方から...誰だろうか、こんな時間に
「門番さん、風邪ひいちゃいますよ~...」
「...貴女は」
そこには、黄色いメイド服を着た妖精メイドさんが傘をさして立っていた...この子は、良く私の隣でお昼寝をしている......どうやら雨の中立っている私を心配しているらしい
「私は大丈夫ですから、ほら、貴女こそ風邪ひいちゃいますよ」
「...でも」
「大丈夫、私は強いですから」
「...分かりました~」
えらく渋々ではあるものの分かってくれたようだ。さて、咲夜さんが留守の間は戻る訳にも行かない。この雨の中なら尚更、そういう時に敵が襲撃してくることだってある。それぐらいしないといけない...
「よいしょ~」
「って、わっ...妖精メイドさん?」
すると突然、戻ったと思っていた妖精メイドさんが私に肩車の要領で乗っかって来た。え、ちょっ、何を...?
「館に戻ったんじゃ...」
「えへへ~、これなら濡れませんよ~」
私の頭の上に被さるように凭れて座る妖精メイドさん。肩には持っていた傘もあり、雨に濡れることは無くなった...妖精メイドさんはなんで皆こんなに優しいんだろうか...
「...ありがとう、ございます」
妖精メイドさんの身体の熱が心地よく温かく思えた...
「妖精長、きーちゃん見てないかい?」
「え?...さっきまで一緒に...あれ?」
なんとか降りだす前に洗濯物を総員救出。大きな籠の中に入れ、戻っている途中だった。そんな中、そーちゃんにそう言われて、きーちゃんが居なくなって居るのに気がついた。
「...まったく、こんな時に何処へ」
「取り込んでる時は居たんですけどね...ん?」
気まぐれに窓の外に目をやると、門が見えた......あぁ、そういうことか。黄色い、見覚えのある傘にやれやれ、と納得する
「...きーちゃんには別の仕事を頼んでおきましたから、大丈夫ですよ」
「ん、そうなのか?...まぁ、ひとまずこの服を片付けようか」
念のために傘を持って行って良かったわね...少し遅くなってしまった。お嬢様はまだ寝ているでしょうけど...早く帰らないと...そう思いながら帰路を急いでいると紅魔館が見えた
「あら......まぁ、今日くらいは大目に見ようかしらね...」
この日は門の前で眠っている二人を叱る気になれなかった
「妖精長ー!クッキーはー!?」
「今から作りますから待っててください...」
門番さん
お昼寝好き。一見普通の女性だが妖怪さん。普段から仕事をほっぽって寝ているため、時折メイド長からナイフでお仕置きされることもある。ガーデニングもしばしばやっているらしい
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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