元ホテルマンですが妖精メイドに転生してメイド長に一目置かれてます 作:微 不利袖
今日も今日とて快晴快晴!箒に跨がり、晴れた空を見上げながら木々の合間を抜けていく。んー、風を切る感覚はいつもながら気持ちのいいものだな
「お!見えた見えた...」
さてと、こんないい日には本を盗...げふんげふん、借りるに限る...ラッキー、今日は寝坊助がしっかり仕事をしているようだ。大きな鼻ちょうちんが、いっそ清々しいくらいだ
ザル...もとい立派な門を顔パスし、真っ紅な館の窓へ向けて一直線。さーて、待ってろよ、まだ見ぬ魔導書!...おっと、淑女たる者、人の家に入る時は挨拶だな...帽子の縁で顔を覆い、衝撃に備える
ガッシャーン!!
「おっ邪魔..し...ま......す」
「...ようこそ紅魔館へ......ところで、何か言うことは無いですか?...魔理沙さん...?」
さっきまでの勢いは嘘の様に消え、サーッと血の気が引く音がした...何がいい日だこんちくしょう。目の前の青い妖精メイドを見て、そう心の中でぼやいた...
今日もいつもと変わらず、館の仕事をこなし、同僚がちゃんと仕事をしているかの見回りをしていた...最近は皆ちゃんと働いているようで特にトラブルも無く、平和な日々
ガッシャーン!!
「おっ邪魔..し...ま......す」
...平和な日々が送られていた、この瞬間まで。さてと妖精長、まずは落ち着こうか。ここで怒鳴って喚くのは簡単だ、赤子でも出来る。...ふぅ、まあ、曲がりなりにもお客様......うん、百歩譲ってお客様だ。元ではあるがホテルマンたるもの、お客様への応対は常に笑顔でこなさなければならない、うん笑顔笑顔。いましがた窓を叩き割って来られたお客様を見据える。箒に跨がり空中でピタッと止まっている。服にはいくつかガラスの破片が付いている...顔色が余りよろしくないようだ
「...ようこそ紅魔館へ......ところで、何か言うことは無いですか?...魔理沙さん...?」
「...いい天気...です...ね?」
説教は暫く続いた
まったく、なんで毎度毎度窓から入って来るのだろうか...しかも割りながら。今月でもう三度目だ。私は残念ながら仏より気が短いし、堪忍袋の緒もユルッユルである。そんな訳で...
「ちゃんと掃除して貰いますからね、魔理沙さん」
「げぇっ...なんで私が......いや何でも無いです私がやりますやらせてください」
割れた窓の後片付けをして貰うことにした。...笑顔、ひきつって無いだろうか。まあ、おあつらえ向きの立派な箒もあることだし、それに割ったの魔理沙さんだし、なんならやりたいらしいし
ひとまず、いつものようにメイド長へ伝えておかないと...いや、この人から目を離すと危険だ。何をするか分からない。誰か代わりに頼めそうな...あ
「むーちゃーん、ちょっといいですかー?」
「ん?妖精長ー、アタシに何か用かーい?」
少し遠くの廊下に紫色の妖精メイドが見えた。...うん、むーちゃんなら大丈夫かな...聞こえるように大きめの声を出し、手招きをする。気づいたみたいですかね...
「どうかした?...って、そこのモノクロは新しいメイドさん?」
「...まあ、日雇いみたいな...今日限りですけどね」
「あらら、後輩が出来たと思ったんだけど...そりゃ残念。で、要件は?」
冗談交じりに話すものの、ちゃんと要点を押さえてる辺り、むーちゃんだなぁ...なんて思いながら、手短に必要なことを伝えた
「ん、分かったよ。そんじゃね、妖精長......頑張んなよー、モノクロさん」
「お願いしますね、むーちゃん」
茶化すようにそう言い残し、むーちゃんはメイド長へ伝えに行ったようだ...因みに、今までに割った窓や皿、花瓶の数はむーちゃんが一番多い。ドジで手先が不器用なこと以外は頼りになるんだけど...
不服そうな顔をして、自前の箒を動かす魔理沙さん。これで懲りてくれればいいけれど...なんて考えていると、足音が近づいてきた
「って、フラン様?」
「...ん~...ふぇ、妖精長~?」
「お、フランじゃんか」
廊下の角を曲がって姿を現したのは、寝間着のままのフラン様だった。ちょ、何でこんな昼間に...今日は特にご予定があるなんてメイド長からは聞かされていないけど...
「どうされたんですか、こんなお時間に...」
「んー...トイレ~...」
...らしい、まあそんなところだろうとはなんとなく分かっていたけれど...右手で寝ぼけ眼を擦り、左手には枕が握られている
「よぉフラン、結構久しぶりだな」
「ん~?...あれ、魔理沙?...おはよ~」
「もう真っ昼間だぜ」
半分寝ながら挨拶を交わすフラン様。確か魔理沙さんとも良く遊んでいるらしく、そんな会話が繰り広げられる。少し談笑した後、じゃあね~、と別れを告げ、トイレに向かうフラン様...って逆ですよー、そっち...まあ大丈夫だろう。多分
「...ふぅ、妖精メイドさんよ、これで良いか?」
「ん...まあ大体おっけーですかね」
とんとんと箒の先端で床を指し示す。山になった窓の破片、周りは......大丈夫かな、うん
「そんじゃ、私はこの辺で...」
「あ、魔理沙さん、待って下さい」
「...まだなんかあるのか...?」
私の返答を聞くや否や、箒に跨がろうとする魔理沙さんを呼び止める。...凄い嫌そうな顔、表情豊かなことで...
「いつも遊びに来て下さってありがとうございます。パチュリー様も喜ばれると思います」
「!......別に、私は本が欲しいだけだからな...ついでだよ、ついで」
パチュリー様、主人の親友にあたる方だ。この館にある大図書館の管理を任されており、そこに住まわれている。ただ、喘息持ちに根っからの出不精とあまり活発的ではなく、お嬢様もどうにかしたいと言っていた程だ
...でも、この前大図書館に用があり訪れたところで魔理沙さんと楽し気に談笑していたのを見かけた。パチュリー様の笑顔を見たのはそれが初めてだった
正直、有難いと思っている。館に住む住人、皆さんには楽しく生活を送って欲しい。...元ホテルマンの性、だろうか...心の中で微笑する
「あと、今度からちゃんと玄関から入って来て下さいね...」
「...善処するぜ」
美鈴さんが怒られちゃうしね...そう言葉を残し、魔理沙さんは箒に跨がり飛んで行った
ぎいぃ、と重厚な扉がその巨体を軋ませながら口を開く。...誰かしら、なんて思いながらちょうど読み終わった本をぱたりと閉じ、出入口に目を向ける...あら
「...久しぶりね、魔理沙...また本でも借りにきたのかしら...?」
皮肉を放つ口元が緩んでいることに少女はまだ気づいていない...
「へ?いや、メイド長!?割ったのはアタシじゃないってば!ちょ、待っ」
ぐさり
生きてます(3話ぶり 2度目)
魔理沙さん
紅魔館の面々とは基本的に仲が良い。普段から良く大図書館を利用しており、フランとも弾幕ごっこで遊ぶほど...窓から入ってくる
ここまで読んでいただき感謝です。それでは、また
シリアスパートですが、読まなくてもある程度お話に支障が出ないように書いているつもりです。因みに、そのシリアスな部分は読まれているでしょうか。
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