とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。   作:SUN'S

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第10話

∪月◇日

 

梁山泊の中庭にてリリルカを筆頭として正拳を放つ三人の子供を眺めつつ、ヘスティアとロキの喧嘩を仲裁しているとリリルカが「お母さん、なぜか丸太が折れました!?」と言ってきた。

 

リリルカの近くに転がっている荒縄を巻き付けた丸太を持ち上げ、折れた部分を注視するように確かめる。これはリリルカが正拳を放つ瞬間、ねじり貫手のように足の指先から回転を加えたせいだな。

 

やはり、三人の中では断トツの成長速度だ。

 

まだ、リリルカには人越拳の技を習得するのは速いと思っていたが、ねじり貫手を学ぶには十分な膂力と脚力は備わっている。ベルやアイズはリリルカの正拳を上回るほど鍛練を積んでいないため、差を埋めるのは難しいことだ。

 

リリルカへ「今後は貫手の技を教える」と伝えれば「いいぃよっしゃあぁぁ!!」と歓喜の雄叫びをあげてきた。私の継承した人越拳を受け継ぎ、立派な武術家となってくれると嬉しいが、アイズの「いいな」という声は聴こえているぞ。

 

∪月¨日

 

リリルカに貫手を放つ角度を修正させ、貫手を不安定な足場でも放てるように鍛え上げる。緩急を加えれば虚実を纏った幻惑の貫手を使うことも出来るが、リリルカは「滅掌雷轟貫手」を使うことを目標としている。

 

しかし、ベルやアイズはリリルカの言っている「滅掌雷轟貫手」を見たことが無いため、どのような技なのか知らない。見せてほしいと懇願してくるリリルカに根負けし、引っくり返した土壁を百を越える貫手を残像を残す程の速さで粉砕する。

 

後ろではリリルカが「これです!リリの目指す技の最終到達点はこれなんです!!」とベル達に言っているが、アイズは「私より速い」と感想を話している。まだ、弟子級を抜けていない三人には難しいことだ。

 

リリルカは滅掌雷轟貫手を覚えるより先にねじり貫手を習得するように言いつつ、ベルとアイズには基礎的な技を教えるだけに留めている。しっかりとした信念を持たねば武術を続けることは出来ない。なによりリリルカは「滅掌雷轟貫手への憧憬のみ」で達人級まで辿り着こうとしている。

 

汗を拭っているアイズへ抱き着こうとしているロキは「ウチのアイズたんだって、そんくらい出来るわ!!」等と言っているが、アイズは「邪魔、退いて」と引き剥がそうとしている。

 

ベルはヘスティアの介護を受けつつ、ぐったりと地面に倒れ伏している。三人ともピンク筋にはほど遠いが、他の者と比べれば柔軟な筋肉ではある。

 

∪月Δ日

 

リリルカは修行中のベルを連れ出した。

 

もしや習得したばかりの「ねじり貫手」を試すためにダンジョンへ向かったのか?そんなことを考えながら歩いていると赤い髪の青年と遭遇した。なにかブツブツと呟いており、その手には大きな日本刀を持っている。この地方の武器は刃金の真実へ到達するのは難しそうだな。

 

青年を避けて通り過ぎようとした瞬間、両の肩を掴まれながら「アンタ、拳人だよな!?」と興奮気味に詰め寄ってきた。生憎、見ず知らずのヤツに肩を掴まれるほど優しくはない。

 

強く掴んでくる青年の腕を弾き上げ、皺の出来た外套を直しながら歩き出そうとした瞬間、青年が腰回りに抱き着いてきた。なんなんだ、この馬剣聖のようなヤツだな。

 

おい、お尻に顔を押し付けるな。

 

赤い髪の青年ことヴェルフ・クロッゾは駆け出しの鍛冶屋であり、私のようにレベル・アップした人間と個人契約を結びたいらしい。

 

すまないな、防具は自作できるんだ。

 

そう告げればガックリと肩を落とすため、梁山泊では半人前の半人前であるベルは攻撃を受け流すことは難しいことを教え、ヴェルフに「さっきの軽装甲冑より軽いモノは作ることは出来るのか?」と問えば「ああ、問題ねえ幾らでも作ってやる!」と胸を叩いて応じてくれた。

 

よく見ればヴェルフは煤だらけの身体を洗っておらず、完全な職人気質だということも分かった。しかし、女人の近くに来るときは身体を洗うべきだ。

 

そんなことを思いながら歩いていると傷だらけのベルを背負ったリリルカとアイズ達がダンジョンから出てくるのが見えた。

 

直ぐ様、傷を癒やそうと駆け寄ればリリルカが「ベル様が、リリを守ってミノタウロスと…っ…」と涙を流しながら謝ってきた。己の技を試すため、未熟な弟弟子を連れていったことを後悔するのは後回しにしろ。この傷が癒えればベルの本格的な「技」の修行へ取り掛かる。

 

ベル、頑張るのは良いことだ。それでも大切な仲間や家族を悲しませることは止めるんだ。

 

 

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