とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。 作:SUN'S
ц月Ш日
焚き火を踏んで消した跡を見付けた。
まだ、焚き火は温もりを保っている。考えられるのは半日ほど夜営を行いつつ、疲労を回復するために薬品を三人で回すように飲んだ。焚き火の煙を察知した化け物の襲撃を受けたか、若しくは休息を取れずに逃げ回っているか。
よく見れば鎖帷子が放置されており、サイズ的に言えばリリルカの着用しているモノだ。重さを無くすために脱ぎ捨てたとは考え難いな。近くにある縦穴を降りるために使ったと考えるべきか?
リリルカの持つ咄嗟の判断力はサバイバルでは貴重な戦力となり、私の教えた技術を使っている間は最前線にて戦うことは出来るはずだ。
無駄なことを考えるな集中しろ、リリルカの考えそうなことを推測すればいい。まずは状況確認だ、揉み合ったような跡は残っていない。あるのは小さな靴の跡と暴れたような蹄の跡だけ、あの子は二人のために一人で戦っているのか。
ц月ゐ日
はあ、お前達の不注意には肝を冷やす。
さっさと通路へ逃げ込んでいろ。この巨人の相手は私一人で十分だからな。でかいの、私の弟子をハエのように叩き潰そうとしていたな。
今度は、お前を叩き潰してやる。巨人の振り下ろした拳槌擬きを受け流し、手首の内側を切り裂いて握り潰す攻撃を封じる。こういう巨体の相手を行うのは久し振りだ。普段はウシや蜥蜴擬きの相手ばかりで退屈していた。
石礫の煙幕とは考えたな。大事な一張羅が台無しだな、これでも繊細なんでな。岬越寺の作ったスーツ以外は着ないようにしてるんだ。
テメー、覚悟しろよ?
今から人越拳の真髄を叩き込んでやる。リリルカが見てれば「リリにも教えてください!」って叫んでくるだろうが、今は私とテメーだけだ。
巨人の振るう拳打を迎え撃つように貫手を放ち、中指の関節を引き千切るように破壊する。巨人の左腕を蹴り飛ばし、右の膝を正拳にて叩き割り、痛みを和らげるために転げ回る巨人の喉元を踵落としで潰し、弟子を怯えさせた分の怒りを込めた「人越拳"滅掌雷轟貫手"」を放って巨人を葬り去る。
巨人は死骸となって霧散していき、煙を振り払えばアイズとベートがベル達の滑り込んだ通路から出てくるのが見えた。
ц月Α日
馬式針治療を行えば傷を癒すために閉じていた気血を開くことが出来る。打撲二十八箇所、左鎖骨骨折、右腕骨折、頑張るのは良いけど。お前達には無理な行動は控えるように教えたはずだ。
アイズは「みんな、助かったから…」と甘いことを言っている。戦いとは生死を賭するモノであり、相手の命のみを奪うのは遊戯と変わらない。しっかりと傷を癒すことを考えておけ……。
ベートは与えた鉄靴を履いており、軽やかに木々を飛び跳ねるように移動している。しかし、替えの服を持ってこなかったのは失敗だな。
このままだと風邪を患ってしまう。
はあ、リリルカに教えようと考えていた人越拳の技は延期せねばならんな。そんなことをリリルカ達の休んでいるテントの近くで呟けばアイズを引きずってリリルカがテントから出てきた。
絶対安静だと言っただろう?そんなことを言えば「リリは人越拳を極めたいんです、修行を…!」と言いながら気絶してしまった。
無理するのは馬鹿だけでいい。もう少しだけ身体を労ることを覚えて貰わねば修行量を増やせないじゃないか。