とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。 作:SUN'S
β月ヴ日
アイズの突き刺すように振るう直剣を手の甲を使って下段へ払い落とし、鶴頭を顎先に向かって放つ。アイズは鞘を反転させ、私と同じように顎先を鐺で狙ってくる。
この前とは違うな、不完全ではあるが制空圏を築けている。あの時の少年はアイズの成長の理由を知るため、私達の組手を観察しているようだが、その程度ではアイズの最高速度を追うことは出来ない。
リリルカは「アイズ様だけズルいです!!」と叫んでいるのだが、割り込もうとは考えていない。アイズの成長を見ることは自分のために必要だと理解し、動きを観察することで自分に欠けているモノを探している。
緩急にて虚実を加えた貫手をアイズの右脇腹と左肩を擦るように放ち、アイズと至近距離で気当たりを叩き付けて相手を威嚇する。
アイズは「ししょう、わざと?」と首を傾げながら脇腹と肩を擦っている。まだ、達人級には届いていない弟子を本気で殴るほど落ちぶれてはいない。
ポフッと頭を押すように撫でながら私達の組手程度で身震いしている少年が「ここまで親指が疼くのは初めてだ」と呟いているのが聴こえた。それは親指は疼くというより痒いんじゃないのか?
β月ゐ日
ベートには、およそ十キロほど上乗せしたパワーバンドを手足に装着させている。食事、修行、就寝、あらゆる事態だろうと脱解することは禁じている。
藁や羽毛を刻んで練り合わせたミットを両の手につけ、ベートの放つ虫より遅い拳打を受け止める。ゆっくりとした動きは筋肉繊維を締め上げ、柔と剛を溶け合わせたモノへと作り替える。
それにリリルカのピンク筋を作るために費やした日々を上回るには、この方法しか存在しない。
ベートは私の突き出した腕を押さえつけ、鳩尾を指先にて突き刺すように放つ「滾雷龍掌」を叩き込もうとしてきた。
もう少しだけ右へ傾いていれば確実に心臓を止められていた。まさか、ここまで教えた技を使えるようになっているとは思いもしなかった。トントン、胸近くを叩きながら「変態め」と言えば「そういう技だろうが!?」と言い返してきた。
アイズと楽しそうに談笑しているベルをベートの構えている前へ放り投げ、格上と戦うことも経験だと教えてやる。ベートは「テメー、ぶっ潰すぞ」と言いながら睨んでくるが、弟子の成長を促してやるのは師匠の役目だと言えば「ちっ、加減してやるから掛かってこい」と手招きしている。
私はベートが年下に甘いことはリサーチしている。あらゆる事態を想定しつつ、アイズのために適切な解答を導き出すために必死の努力を重ねている。
そう、誰にも気づかれずに……。
β月[日
私は救助隊と共に迎えに来てくれたヘスティアの説教を受けているベル達を見守りつつ、不自然な木々の揺らめきや複数の呼吸する音の出どころを調べる。
誰かを殺すために息を潜めている。一番、標的として考えられるのはヘルメスと呼ばれる飄々とした男なのだが、どうやらベルを狙っているようだ。ベルの成長は嫉妬や恨みを買うには十分だからな。
そんなことを考えながら飛んできた矢を受け止め、矢じりの毒を確かめる。神経毒の一種だろうか?香坂の部屋で舐めたモノと少しだけ味は似ているな。
全身の筋肉を締め上げ、両の手首を繋げ合わせた熊手を腰へ溜めながら拳圧と気当たりを練り合わせた不殺技を密集している襲撃者へ向かって風林寺の長老の使っていたモノより劣るが、この「梁山波」を放てば威嚇に使えるな。
コキコキと首の骨を鳴らし、忍の技法を使って姿を隠しているモノを選んでベルの前へ放り投げる。ベルには「お前の客だ、相手しろ」とだけ伝えて向かい合う二人を静観する。
ただ、どちらか逃げようとすれば作成しようとしている修行道具の実験台として有効活用してやろう。ベルは僅かに反りのある剣を構えていた男へと突っ込んでいき、死に物狂いで武器持ちの相手を倒そうとしている。
ベルは修行道具の実験台は嫌なのか?
ベルは「諸手拳槌打ち」「山突き」「朽木倒し」と流れるように放ち、男は攻撃に対応することすら出来ずに倒れ伏していた。
まだ、攻撃の繋げは甘い。
梁山泊へ帰れば修行量を増やすとしよう。