とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。 作:SUN'S
あのゼウスの孫であるベル・クラネルは俺の期待を遥かに越える成長を遂げていた。その理由は否が応でも「ちょっと散歩してくるわい」と異界へと渡り、この世界へ連れ込んだ彼女のおかげだ。
ベル・クラネルを筆頭として十年あるいは五十年も費やせねば到達することは不可能な動きを短期間で習得させる手腕には驚かされた。
なによりリリルカ・アーデ、元ソーマ・ファミリアのサポーターだった少女ですら自身より大きなモンスターを叩き潰すほど成長している。このまま彼女の修行を受けていれば物語の主人公として完璧な
そのためには「神々の試練」とも言うべきサプライズを用意しなければダメだね。最悪の事態を乗り越えれば世界は彼を英雄と重ねて見るはず、あの老若男女問わず欲するフレイヤすら虜にしてしまう無垢なる魂の持ち主だ。俺の愉快で爽快な
昔馴染みの友神であるゼウスの孫だろうと俺の理想のためならば割り切れる。それなのに、なんなんだ、なんで「師匠」という駒として異界から呼ばれた彼女はベル・クラネルを逃がそうとしている。
この俺を、あの悪神をも裏切り謀って友神の希望すら奪おうとしていた俺を庇うなんて想定していない。神を怨み呪うモノより送られた迷宮の孤王の拳を往なし、俺なんかを助けるために飛んできたアスフィも助けている。
俺は彼女を英雄視するつもりはない。
「アスフィ、俺のことはいい。最前線に行ってアイツを倒すことを優先するんだ…」
「なにを、言っているんですか?主神を捨て置くなど出来るはず……」
「アスフィ、アスフィ・アル・アンドロメダ。この災害を踏破する君だって英雄の一人だ。あの空を飛んで俺を
「……はあ、分かりました。拳人、ヘルメスのことは貴女に任せます」
あぁ~っ、柄にもないこと言うもんじゃないな。ちょっとばかり恥ずかしくて転げ回りたい気分だ。まあ、そんな余裕なんて戦場と化した安全階層にはないけど。
「拳人ちゃん、俺を殺すかい?」
俺を守るように円陣を組んでバクベアーを「ねじり貫手」と呼ばれる拳打にて打ち倒している拳人へ尋ねる。無反応、返答なし、俺のことを警戒しているのは知ってるけど。無視されるのは少しだけショックだね。
「一度だけだ、あの飛んだ少女の瞳を信じる」
「(俺じゃなくてアスフィを信じるのか…)まあ、アスフィを信じるってことは間接的に俺も信じるってことだね」
やはり、彼女は欺瞞の視線を向けてくる。俺が「この災害の原因の一端」を担っていると考えているんだろうね。正解と言えば正解だけど、迷宮の孤独な王様は誰が呼んだか調べることは出来ない。
「ほら、無垢なる英雄の生誕だぜ」
ゼウス、君の希望は芽吹いた。
俺は彼のことを生涯を費やして手助けする。もう、向こう側へ戻ってしまったアンタと語ることは出来ないけど。アンタの孫に、アンタの武勇伝を語り繋ぐことは出来るんだぜ?
「拳人ちゃん、流石の俺でもお姫様抱っこは恥ずかしいんだけど。そろそろ降ろしてくれないかな?」
「じゃあ、背中へ回り込んでろ」
「そんな振り回すのは危なくないかい!?」
なんとか拳人ちゃんに振り落とされることだけは免れたけど。バクベアー、ヘルハウンド、ミノタウロス、強敵とは言えないけど「Lv.2」の彼女でも苦戦するほど増殖している。
ガゴッという音が後ろから聴こえてきた、振り返れば石の戦斧を振るおうとしているミノタウロス蹴りあげ、他のモンスターと手足が絡み合うように繋ぎ合わせている。
「岬越寺"無限轟車輪"」
あの無数の敵を叩き潰していた彼女は相手の命を奪わず殲滅する技法すら身に付けているのか。タケミカヅチに「敵を殺すことだけが戦いではない」と聞いたことはあるが、こういう状況のことを言いたかったんだろうな。
「ベル、前より白くなってるな…」
「【英雄願望】の特性を活かすため、最大まで溜め込んでるんだ」
さあ、あの悪を倒すために駆け出せーーー。
その辺で買うことが出来る書物の中の御伽噺や伝承なんてモノじゃない。あれこそ正真正銘、本物の英雄のみが放てる「英雄の一撃」だ。
「ファイアボルトオォォォッ!!!」
ベル・クラネルは【黒いゴライアス】の上半身を吹き飛ばすほど強大な一撃を放ち、剥き出しとなった魔石を短剣にて破壊する。あのまま引き抜くことが出来れば素晴らしい戦果となったはずなのに、その場凌ぎの仲間を守るために躊躇うことなく砕いてみせた。
「ああ、素晴らしい。ゼウスの希望は、神々の試練を乗り越えてみせた、あれこそ真の英雄だ!!」
「お前、うるさいな」
拳人ちゃん、少しは空気を読んでくれないか?
そんなことを思いながらベル・クラネル達のところへ向かって踊りたくなる心を落ち着かせ、彼の功績を讃えるために近寄れば「神様、見てましたか?」と精神力を使い果たし、今にも倒れる寸前、息を吹き掛ければ倒れてしまうほど力を振り絞っていたらしい。
「ベル・クラネル、さっきのはスカッとする男らしい一撃だったぜ」
やれやれ、彼を讃えるのは今度だな。今は心安らかにヘスティアの膝で眠ればいいさ。お邪魔虫な俺はアスフィを迎えに行くとしよう。