とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。 作:SUN'S
神様の友神であり、僕達の迷宮探索を気に掛けてくれる優しい薬の神であるミアハ様がリングの中で戦っている。先手を譲るような動き回り、ヘルメス様のような正確無比なカウンター、乱雑な動きでは堅実な戦い方を崩すことは出来ない。
ヴェルフは「行けェーーッ!!ぶちかませ!!」とミアハ様を応援しているけど。セコンドとして見守っているナァーザさんや先生の心境はどうなんだろうか?このままミアハ様の勝利を確信しているのか、それとも相手の攻撃を受けて倒されることを予想しているのか。
そんなことを考えていた。
次の瞬間、ミアハ様の顔を掠めるように肘が入った。観戦席の人は「鉄壁の防御を誇ったミアハがついに被弾したァ!!」と叫んでいる。違う、今のは肘打ちで血を流したんだ。
ミアハ様のジャブを掻い潜り、ボディを殴ろうとする相手の顔面をショートアッパーで叩き上げる。読んでいた、予知していた、最初から分かっていた、いろいろな考察が飛び交う脳内を落ち着かせる。
さっきのショートアッパーが効いたのか、相手の選手はガクガクと足を震わせている。押せば倒れてしまうのでは?等と考えているとミアハ様はスウェーバックで不意打ち紛いの裏拳を躱わし、身体が伸びきった瞬間を狙って左ジャブを繰り出した。
その手の分野には疎い僕でも分かる。あれは芸術品の領域へ到達している。この試合、ミアハ様は「左ジャブ」しか使っていない。距離を測るため、軽く牽制するため、相手を倒すため、威力の強弱を使い分けている。
よく聞けば「ミアハァーーッ、強くてカッコいいとかズリぃんだよおぉ!!」と叫んでいる(男の方の)神々の声が聴こえてきた。
ふと、ミアハ様の動きに違和感を覚えた。
なんだ、さっきとは違う。
神様や僕と一緒にビップ席という場所で観戦しているリリは「うわっ、えげつないですね」と呟いた。リリは違和感の正体を見破ったんだ。それなら僕だって自力で見破らないとダメだ。
よく見ればミアハ様は軸足を入れ換えており、さっきまで基本通りだった構えすら鏡写しのように真逆になっていた。
たしかサウスポーだったかな?
今は「5ROUND」終了を知らせるゴングが会場の中へ浸透するように鳴り響き、先生とナァーザさんは汗だくのミアハ様の疲労を回復するために水筒やタオルを使って献身的な働きだ。
神様は椅子の上で膝を抱えながら「むう、僕の子供なのに」と拗ねている。こういう女の子らしい仕草が可愛いんだよなあ……。
そんなことを考えていると「6ROUND」開始のゴングが聴こえてきた。先程とは打ってかわり、相手の選手は乱打殴打の勢いで拳を振り回している。
ミアハ様の研ぎ澄ました刃物のようなワン・ツーが相手の選手の顔面を弾き飛ばし、筋肉の緩んだ箇所を正確な角度から殴り付けている。
神様が言うには「ミアハ様はナァーザさんのために戦っている」らしいけど。
あの鈍感なミアハ様のことだし、自分の心情には気付いてないんじゃないかな?
そんなことを思いながらステップインから振り上げるような右のフックを放ち、身体を戻す反動を利用して左のフックを叩き付けるように放ったミアハ様の姿を目に焼き付ける。
ミアハ様は勝利を確信したのか。
大きく右腕を突き上げ、勝利のスタンディングを決めている。何気にデビュー戦から続いている勝利の決めポーズだったりする。
肘打ちを除けば被弾なしだ。そして、自分の戦い方を崩さず完璧な勝利を納めている。僕達、冒険者のように神様達は死に物狂いでモンスターと戦うことは無いけど。
みんな、自分の信じた道を踏ん張って進んでいる。
『無敗の秘訣?そうだな、大切なモノを守るために戦うことではないか?』
ミアハ様はマイクを受け取った瞬間、いろいろと考えながら質問への解答を口にした。なぜかナァーザさんを見ながらだったけど。