とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。   作:SUN'S

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第26話

Β月√日

 

ヘルメスの対戦相手であるラウル・ノールドの仕上がりを見るためにロキ経営のジムへ来てみたが、ベートが構えているミットに向かって激震を起こすボディを叩き込んでいるラウル・ノールドがリングの中央に立っていた。

 

おい、それはジャブの威力ではないだろう。たしかに地道な足腰のトレーニングを続けていれば強烈な拳打を放つことは出来るが、武田や志場のパンチは才能ゆえに光るものを感じる。

 

しかし、彼の拳は努力のみだ。

 

才能なんて欠片だってない。繰り返し続ければ努力は実ると言うものは存在する。私だって努力は肯定する人間だと思っているが、ここまで異質な努力の形状は見たことも聞いたこともない。

 

どっしりと構えた超至近距離の戦いを前提とした動き方とは裏腹に繊細なパンチングのレパートリー、ロキの入れ知恵とは思えない。なにより打つ瞬間だけ拳を縦へ動かそうとする癖、アイツはベートの動きを真似てるのか。

 

いっそのことボクシングへ擬態した中国拳法と言われた方が納得することが出来る。ベンチを独占しているロキへ歩み寄り、ラウル・ノールドの仕上がりを尋ねると「そんなん決まっとるやんか、ウチらのラウルが勝つで?」なんて言葉が返ってきた。

 

Β月≫日

 

ヘルメスには決定的な打撃力は無い。振るえば鋭利な刀剣と化すブローは持っていても相手を吹っ飛ばす威力は持ち合わせていない。私はヘルメスのボクシングは芸術品のようなモノだと思っている。

 

どんなヤツだろうと打てば倒す打撃力を持つ相手に命を削って放つ起死回生の一発は全神経を総動員させねば打つことは出来ない。

 

ヘルメスは逃げ場のない恐怖を乗り越えることを強いれば強いるほど鋭利な刃を携えて戻ってくる。骨身を削れば刀身は切れ味を強め、打ち合えば折れてしまう諸刃の剣となってしまう。

 

アスフィは「いつものように人を後ろから操って小馬鹿にしたような考えでもしていればいいんですよ」と可愛く怒っていたが、ヘルメスのことを心配している。

 

しかし、ヘルメスにはラウル・ノールドを倒すことが出来る一撃必殺の切り札を与えている。成功すれば如何なる相手だろうと倒すことは不可能ではない。

 

アスフィの不安を拭い去ることは出来ない。

 

それでもヘルメスの努力を奪うことは無理だと理解している彼女を励ますことは彼のやる気を引き上げるためには必要なことだ。なによりヘルメスのやつはアスフィのことを贔屓している。

 

Β月κ日

 

リリルカの住まう部屋の掃除を行うためにリリルカの許可を得てから入室すると日当たりの悪い壁にはベルの写真を貼りまくっており、自作のベル抱き枕がベットの上に転がっている。

 

よく見ればベルの着ていた衣服や装備を模型として作った物まで棚の上に飾ってある。とりあえず、リリルカの心の闇を治すのは後回しだな。

 

リリルカの部屋の床や壁の隙間に溜まっている埃や塵を集めつつ、不要なゴミの分別を行う行程へと移ることにした。

 

私のねじり貫手を放つ瞬間の写真まで保管されているのには驚きを隠せないが、ヘスティアを中心として家族写真のように撮影したモノを飾ってあるのは嬉しい。嬉しいんだけどな、ベルの無くなったと騒いでいた衣服を枕の中に詰め込むのはやめろ。

 

部屋の中を探せばベルの私物ばかりだ。

 

おい、ベルのマグカップや歯ブラシまで出てきたぞ。ストーカーの住んでいる場所ってのは、こんな感じなのだろうか?

 

そんなことを考えながら「じんえつけん」と書かれた書物を見付けた。幾度となく修正を繰り返した技法や体捌きなどが細かく書かれている。

 

リリルカは努力家だな。ちょっとアレな部分も持ち合わせているようだが、私の故郷だって両の手では数えられないほど沢山の変態は居たからな。

 

 

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