とあるオタク女の受難(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか編)。 作:SUN'S
僕より一段上の席を陣取り、挨拶を済ませてきたのか?なんて聞いてくるアポロンの顔面を殴りたい気持ちを落ち着かせながらリュー君の魔剣誘導を見る。数多の同族を殺した魔剣を振るうリュー君の心情を知る術はない。
ミコト君の発動した重力系統の魔法"フツノミタマ"によってアポロン・ファミリアの半数以上は動きを封じられている。
リリルカ君達の到着を待たず突入するベル君とヴェルフ君の行動を見て、向こうには聞こえないのに直ぐにでも戻るように叫びそうになった。
次の瞬間、フツノミタマの中心部へと落下してきたモノを見るために画面が動いた。土煙を振り払って出てきたのは胴着姿のリリルカ君だけだった。あの子は、画面の中には映っていない。あの子を探そうにも画面を動かすことは出来ない。
『わるいな、遅くなった』
あの子の声が聞こえた。
映像の変わった画面を見れば城弓を構えていたアポロン・ファミリアの団員を殴り飛ばし、ベル君達の攻めている城壁とは反対から攻めている。リリルカ君をミコト君の近くに落とす瞬間に決めたんだ、この挟み撃ちの作戦を…。
「クソ、足止めはどうしたんだッ」
「
アポロンへ言葉の意味を追求するために振り返れば「しまった」という表情を浮かべており、必死に言い訳を考えている最中だった。
画面を見れば彼女の身体を吹き飛ばす強烈な一撃を放つ仮面を被ったヤツが現れた。あんなヤツを隠していたのか!?なんて考えていると「だれ、だ、あいつは?」と驚いているアポロンの声が浸透するように部屋の中に響き渡った。
『また、シラット使いか!?』
あの子は声はオラリオ全土に聞こえている。あの武術のみで戦ってきた彼女の厄介そうな、嫌な相手と当たったような声色を聞いた者は「あの仮面野郎は強い」と確信した。
僕だって彼女の負ける姿は想像できないけど。城壁を飛び回り、彼女を翻弄する仮面のヤツを倒す姿も想像できない。ヘルメスの差し金じゃない、アポロンの差し金でもない。
彼女を苦戦させる武術の使い手なんてオラリオには存在しないはずだ。
『お前、ジュナザードの弟子か?』
動きを止めた彼女の問い掛けを答えるべきか悩んでいる仮面野郎は仮面を外し、褐色肌の若い青年の顔を見せた。あんな子供が彼女を苦戦させたのか!?
『はあ…死体偽造とはな』
したいぎぞう?という聞き慣れない言葉に困惑しながら画面を見詰める。青年は「カカッ、そうじゃわいのう?拳神の嫁が儂の屋敷へ如何様じゃ?」と萎れたお爺ちゃんのような声を発した。
えっ、その声は、どうなってるんだい?
ちょっと待とう、さっきの青年の言葉の中に気になるワードが混じっていたような気がするんだけど。
えっ、あの子って結婚してたの?
『ふむ、風林寺の爺様は居らんのか?』
『生憎、私は見知らぬ爺に誘拐されて此処へ来たからは風林寺の長老はいない』
二人の会話を聞いても分からない。
青年の飛び掛かる攻撃を迎え撃つため、あの子が飛び上がろうとした瞬間、アポロン・ファミリアの残党が彼女の足を掴んだ。
「避けろ、ナギサ君!!」
猛獣の如く振るう左右の拳撃、内臓を踏み潰す蹴撃、鮮血を纏って城壁を落ちていく彼女の姿を見て、膝をついてしまった。
あの子が死んだ?そんなバカなことあるはずないと考えているとアポロンの「消えているのか!?」という言葉が聞こえてきた。まだ、恩恵は消えちゃいない、あの子の恩恵は消えていない。
『カカカカッ、あの状況で儂の仮面を壊すとはやるわいのう……』
ひび割れた仮面を脱ぎ捨てる青年は彼女への怒りを顕にしており、見下ろす先には落石で積み重なった岩山の上に立って呼吸を整える彼女がいた。
「シルクァッド・ジュナザード。アイツは彼女の住んでいた
ヘルメスの解説するような声が響き渡り、振り返って追求しようと彼を見れば飄々とした佇まいを崩して冷や汗を流していた。
あの胡散臭いことで定評のあるヘルメスが危険と判断する人間を倒せるのは彼女だけだ。城壁の上に向かう彼女を襲うようにシルクァッドが飛び降りてきた。
「ヘルメス、何かないのかい!?」
「シラットは高低差を利用する森林での戦闘を得意とする武術だ。閉鎖的な場所や高台では無類の強さを誇る」
「そんな話を聞きたいんじゃない。どうにかしてヤツを倒せる術はないのか聞いてるんだ!!」
首を横に振るうヘルメスから視線を画面へ戻せば上下左右から迫り来る拳撃を往なし、わざと身体を吹き飛ばす攻撃を受けてシルクァッドとの間合いを保っている。
『真地念源流"跳梁観空蹂躙"!!』
『もう、その技は見飽きた!!』
彼女はシルクァッドへ向かって数多の残像を作り出す貫手を放つが、飴細工を壊すように容易く打ち破られた。振るえば打ち負かされ、迎え撃てば致命傷を受けないことで精一杯だった。
『やはり、その凄まじい執念を宿した瞳は人越拳神"本郷晶"の妻としか思えんわい』
「ホンゴウアキラ、そいつが夫なのか!!」
「ヘルメス、アポロンを縛っておいてくれ」
「はいはい」
アポロンへ汚物を見るような目を向けてから画面を見れば彼女の構えが変わっていた。いつものような両の腕を上下に離した構えじゃない。左右の拳を頭上にて交差させた独特の構えだ。
『カカカッ、誘っておるのか?』
ゆらり、ゆらり、変則的な動きを始めるシルクァッドにも反応せずに待ち構えている。きっとアイツを倒す作戦を思い付いたんだ。
『ずいぶんと死に物狂いじゃわいのう。当ててやろう、貴様の考えている打開策とは内臓上げであろう?』
『さあな、試せば分かることだ』
『カカッ、カカカカカカカッ!!たしかに、おぬしの言う通り…そんなものは試せば分かることじゃ!』
変幻自在、千変万化、例えようと思えば幾らでも例えることが出来るほどイビツな動きで彼女を殺すために放たれたシルクァッドの両手の貫手が脇腹を突き破った瞬間、彼女は両の腕を絡め合わせた。
『鏡破組崩し!!』
『ぬおおっ!?』
グシャッという果実を砕いた音が聴こえた。画面を見れば
シルクァッドは両の腕をだらりと落としており、完全に肘の関節を破壊されている。
『クカッ、クカカカカカッ、よもや儂の腕を壊すために内臓を差し出すとは…』
『お前などに内臓を差し出したつもりはない』
『ふん、次の機会を待つするかのう…』
『拳魔邪神、拗ねるのは構わない。しかし、そろそろティダード王国にでも帰ったらどうだ?』
自分を殺そうとした人間を労るなんてお人好しすぎるんじゃないかな?なんて考えていると「ヘスティア、ウォーゲームは延期ね」という声が聞こえてきた。
ヘルメスやアポロンの声じゃない。後ろに振り返ればフレイヤが立っていた。なぜか僕はフレイヤが不満げな表情を浮かべているような気がした。
たぶん、気のせいなんだろうけど。
シルクァッド・ジュナザード
人越拳神との激闘の末に死亡。その亡骸は生き仏として奉られており、ティダード王国の守護神となっています。