次からは気をつけたいと思います
「……お2人とも、隊のイメージダウンに繋がるような回答は、出来るだけ控えてください。無理に取り繕う必要はありませんが」
カニンガムが、パイプ椅子に座っているアナとジャニスの後ろから小声で言う。
「それ、フラムちゃんの指示?」
振り返ったジャニスが苦笑いを浮かべながら聞くと、カニンガムが首を横に振った。
「そうでもありますが、基地司令からの指示……というより、要望でもあります」
「さいですか……」
「多少の嘘は勘弁してほしいけど」
同じく、背後のカニンガムに振り返ったアナが言う。
「自分の事に関しての質問であれば構いません」
「カニンガム大尉、お時間です」
格納庫の入り口から現れた一般兵に、カニンガムが案内をするように告げる。
「それでは健闘を祈ります、ボイド中尉、スリャーノフ大尉」
カニンガムが別の出口から去っていくのと同時に、格納庫の入り口から、小学生くらいから高校生くらいまでの少女が30人ほど、一般兵に連れられて入ってきた。
その多くは期待や羨望のようなものが籠もった視線を送っているばかりだったが、少女らの後から入ってきた保護者らしき大人たちの中には、F-15F戦闘機の前でパイプ椅子に座る2人を見て、どこか懐疑的な表情を浮かべる者などもいた。
「もし失礼なこと言われても耐えてよ、ジャニス」
「フラムちゃんじゃないんだし、そんなことしないよ」
列の最後尾にいたカメラマンも含め、ざわめきながら少し離れた位置で椅子に座っていく人々を見て、2人がぼそぼそと会話する。
「……えー、皆さんご着席していただけたようですね。はい、それでは、現役で活躍するウィッチのお2人、ジャニス・ボイド中尉とアナスタシア・スリャーノフ大尉への質問コーナーを始めさせていただきたいと思います!」
司会を務める一般兵の女性の言葉が格納庫に響き、椅子に座った人々が拍手を鳴らす。2人の目の前のテーブルには、その日の段取りが書かれたプリントとマイク、水の入ったペットボトルが置かれていた。
(「なんでこんなことしてるんだろ……」)
司会が色々と取り決めを話しているさなか、ジャニスは記憶を遡っていた。
一週間前の、6月下旬のある日。201部隊の全員が、朝食後にミーティングルームに集められた。
「ふわぁ……ねむい……」
「こんなとこに集めるなんて珍しいね。大規模作戦でもやるのかな?」
あくびをするレイと並んで椅子に腰掛けていたジャニスが、後ろの列の游隼に聞く。すると、游隼は首を横に振った。
「いや、多分違うと思うよ。ここが使われること自体あんまり無いから覚えてるけど、去年のこの時期は──っと、来たね。きっと、直接説明された方が早いよ」
徐々に大きく響いてくる足音に、部屋内の隊員それぞれが立ち上がり、足音の主を迎える。
「おはよう。全員揃ってるわね?……うん、着席。じゃあ、ミーティングを始めるわよ!」
カニンガムに開けさせた両開きの戸からつかつかと部屋に入ったフラムが、ジャニスの前方の机の後ろに立つ。その、どこか元気が溢れている様子が気になったジャニスが聞いた。
「何か良いことでもあった?随分ウキウキしてるじゃん」
「そんな風に見える?気のせいだと思うけど」
「まさか、恋だったりして!」
「くだらないこと言ってないの。カニンガム、資料をお願い」
「かしこまりました」
あしらわれ方も普段より余裕ぶったものだったため、ジャニスは一層怪しんだが、カニンガムに配られた資料の冒頭の一文に気を取られ、疑念は頭から消え去ってしまった。
「『千歳基地広報の日について』……なにこれ?」
「あぁ、これですか」
「やっぱりね……」
同じく資料を見たレイと游隼が同時に言い、顔を見合わせる。
「游隼、何か知ってるの?」
「そういえば、アナとジャニスはまだ来てなかったんだっけ……」
「それくらい前でしたねぇ」
アナの問いに、苦笑を浮かべる游隼と懐かしげに言うレイ。その様子に首を傾げるジャニスだったが、フラムが手を叩いたためそちらに向き直った。
「はいはい、静かに。ボイドとスリャーノフ大尉以外は去年も経験したからわかってると思うけど、改めて説明するわね。……このイベントは名前の通り、当基地、つまり千歳基地を広報するイベントよ。ウィッチや国防空軍に興味がある小学生や中高生、大学生と、その保護者を招待して、この基地と私達の仕事について理解を深めて貰うのが目的なの」
「なるほど、装備品展示に展示飛行、整備作業の見学と。確かに広報にはうってつけな内容だと思うけど……この、『質問コーナー』と『体験喫食』ってのは何?これも広報の一環ってこと?」
ジャニスが資料をパラパラと捲りながら言い、アナもそれを聞きたかったとでも言うように頷く。
「当たり前じゃない。まあ待ちなさい、今見せてあげるから」
そこで一旦言葉を切って机の横にずれ、4人の正面をあけるフラム。
「こちらの写真は去年の様子を撮影したものです」
証明が切られて薄暗くなった部屋で、カニンガムが小さなリモコンを操作し、フラムの背後にあったスクリーンに写真を投影する。
スライドショーは一般兵が活動をしている写真が大半を占めたが、中には椅子に並んで座る少女らの前でぎこちない笑顔を浮かべているフラムと游隼の写真や、展示品を見て回っている人々の列の先導をしているらしいカニンガムが映り、最後はピースサインをカメラに向け、笑顔で空を飛んでいるレイの写真で締めくくられた。
「……まあ、なんとなくだけど、内容は理解した」
「こっちも。けどさ、私とアナが増えてるわけだし、誰がどの仕事をするかっていうのは去年の通りにいかないよね」
「そこはもう決まってるわ。私とツガイは展示飛行、ボイドとスリャーノフ大尉は質問コーナー。あと、体験喫食には李大尉に行ってもらう予定よ」
それを聞いた游隼が安心したように息を吐きながら安堵の表情を浮かべたのを見て、横のアナがフラムに聞く。
「フラム、どんな理由でそのメンバーに決めたの。もしかして、私達が何も知らないからって貧乏くじを引かせようとしてないよね」
問い詰めるようなアナの口調に一瞬気圧されたフラムだったが、すぐに笑みを取り戻し、自信げに言う。
「このイベントの目的は広報だってさっきも言ったでしょ?去年は居なかった2人の存在を広く報せるために質問コーナーをやってもらうのは、そんなに不自然かしら」
「それは……その通りだけど」
渋々、といった風に押し黙るアナ。それを見かねてか、ジャニスも口を開く。
「でも、それならレイとカニンガムも去年やってないじゃん?広報が目的なら、AWACSの仕事について話すのもいいと思うけど。カニンガムにはさっき言ってた仕事は割り振られてないみたいだし」
「カニンガムは……案内役だから駄目よ。迷子が出たりしたらすぐに見つけなきゃいけないし、的確に案内してもらわないと色々と困るの。それともボイド、あなたが代わりにやってくれるのかしら?」
畳み掛けるようなフラムの弁舌に、多少圧されてしまうジャニス。
「そりゃ、出来る限りは」
「あとはツガイだけど、北海道じゃ流石に有名だからする必要が無いのよ。あまりウィッチに詳しくない人にも名前が通ってるし、千歳に住んでる人なら尚更ね」
えっへん、と胸を張るレイの横で、観念したというように両手を挙げるジャニス。それを見て満足げに笑みを浮かべたフラムが、再び机の後ろに立つ。
「さて、次はそれぞれの仕事の内容についての説明ね。まずは展示飛行から────」
「────ス、ジャニス。挨拶、ジャニスの番。立って」
拍手の音と背中を軽く叩かれたことにより、ジャニスの思考が現在に引き戻される。
「んっ、あー、あぁ。ごめん、ちょっとボーっとしてた」
座りながらマイクから口を外して小声で言うアナに、同じく小声で返しながら立ち上がるジャニス。司会が自分の方に手を向けたのに合わせ、マイクを持つ。
「では、お願いします!」
「はーい。えー、リベリオン空軍所属、ボストンから来ました。ジャニス・ボイド中尉です。今日はよろしくね!」
普段通りの快活さで言い切り、ついでに笑顔の一つも浮かべて座るジャニス。(物理的にも精神的にも)距離感が近いためか、砕けた口調はむしろ好評だったようで、アナのそれよりも大きめな拍手の音が格納庫に響いた。
「さて、それでは早速質問を」
司会がそう言うやいなや、集団の前半部からはいはいはいと威勢のいい声と共に手が10本ほど挙げられる。多くは小学生であろうが、積極的な中高生もちらほらと手を挙げているようだった。
「おお、やはりお2人とも大人気ですね……最初は前の方からにしましょうか。では、一番手を挙げるのが早かった、一番前の真ん中のあなた!」
「はい!」
いかにも元気いっぱいといった様子の少女が立ち上がり、司会から渡されたマイクを受け取る。
「じゃあ、質問をどうぞ」
「しゅみはなんですか?」
見た目どおりの子供らしい質問に、思わず頬を緩めるジャニス。私から?とアナに身振り手振りで聞いて頷きを返されたのを確認し、マイクのスイッチを入れる。
「うーん、趣味はねぇ……基地の人とか、仲間のみんなと話をすることかな。なんでもない話でもいいし、真面目な話でもいい。とにかく誰かと喋ってると楽しいんだよね。もちろん、今も楽しいよ!アナの趣味は?」
「読書とツーリング」
にこやかに、かつ付加情報も交えて答えたジャニスと対照的に、無表情でそう告げてマイクを置くアナ。そのあまりの簡潔さに、司会が思わず聞く。
「そ、それだけですか?」
こくり、と頷くアナ。
「……は、はい、ありがとうございました!では、次の方!」
もはやそれ以上のレスポンスが返って来ないであろうことを察したのか、司会が明るい表情で場を切り替える。一瞬会場も凍りついたように固まっていたが、再び手が幾本も挙げられた。
が、その後も。
「好きな食べ物は?」
「プリン!北海道のプリンは美味しいよね、やっぱり卵と牛乳が良いからかな?あとは、ジンギスカンも美味しいね!」
「サラート・ストリーチヌィとシャシリク」
「そ、それは一体?」
「……ポテトサラダと串焼き」
アナの態度は変わらず、
「特技はありますか」
「水泳かな。遠泳も、速く泳ぐのも得意だよ。前の基地にいた時に海軍の人と泳ぎの速さを競ったことがあったけど、結構いい勝負できたね」
「走ること」
「それは、どのくらいの速さなんでしょう?」
「……測ってない」
表情が崩れることもなかった。
「夢とか、目指してる目標はありますか」
「夢や目標かぁ……今のところは、北海道をネウロイから解放することかな。それが達成できたら、世界中のネウロイの巣を壊して、リベリオンでのんびり暮らしてたいね」
「目標は、北海道の解放。夢は……バイクで、世界旅行すること」
「「「おおー……」」」
「カッコいいねぇ」
ようやく返ってきたまともな返答に、司会と集団が感嘆の声を漏らす。その反応を受け、ジャニスがニヤニヤ顔でアナに言う。
「……」
多少気恥ずかしかったのか、赤くなった顔のアナがペットボトルの水を飲んだ。
「さてさて、次の質問に移りましょうか。では……真ん中の列の、右から2番目のあなた!はい、そうです。三つ編みの────」
一方その頃、一般兵が通常利用している大食堂の厨房では。
「チャーハン、3オーダーです!」
「麻婆豆腐定食2、
「スペシャル
最前線の戦場のように目まぐるしいやり取りが繰り広げられていた。
(「うぅ、やっぱり大変だ……でも、楽しい!」)
チンジャオロース用のピーマンと筍を炒めながら、游隼は考えていた。前回、つまり昨年の游隼は、質問コーナーの担当者だったため、体験喫食には関わっていなかった。資料によれば、基地の人気メニューであるカレーを招待者に振る舞い、その後の評判も上々だったらしい。
しかし何処から情報が漏れたのか、前回のイベントが終了した半年後、游隼のもとに10人ほどの一般兵が訪れてきた。
料理上手な游隼の噂を聞きつけて来た、という体験喫食の担当者らの話を聞くと、
「イベントの料理は、自分たちの満足のいく出来ではなかった」
「だが日々の研鑽だけでは自分たちは成長できない」
「新たな発見を得、次年度のものをより良くできるように力を借りたい」ということだった。
その姿勢に感銘を受けた……ことよりも、ただ単に質問コーナーが恥ずかしいので次もやりたくなかった游隼は、彼らの要望を聞き入れ、新たな体験喫食の形を共に考え始めた。
そして半月後、それまでの配給制からメニューを増やした注文制へと変更した案を、より本来の食事風景を体験してもらえるようなスタイルへの変更が決定されたのだ。
注文制に決定されてからの間、游隼は自分の技術を彼らと共有し、普段の一般兵の食事においても通用するかという実験も行い、成果は上々であった。そして、今日の日を迎えたのである。
「青椒肉絲、あがったよ!」
ご飯と卵スープが載ったお盆に、チンジャオロースの盛り付けられた皿を置き、受け取り口に差し出す游隼。コンロの熱気で灼熱のような暑さになっている厨房でこめかみに汗を光らせながら、游隼は生き生きと働いていた。
所変わって、格納庫の横の控室にて。
「そろそろ時間ね。行くわよ、ツガイ」
腕時計で時刻を確認したフラムが長椅子から立ち上がり、向かいの椅子に座っていたレイに声をかける。
「わかった。んー……よし、覚えた」
それまで読んでいた一連の段取りと飛行の手順が書かれた資料を机に置き、レイも立ち上がった。互いに腰を伸ばすような動作を数度繰り返した後、控室から出るレイとフラム。
「あ、あれって栂井少尉じゃね!?」
「ローズキャリー大尉もいるぞ!」
控室のすぐ近くにある、プラスチックのチェーンで区切られた滑走路までの道を歩き始めた次の瞬間、2人に気づいた者たちの声によって滑走路手前にいた人々が一斉に振り返り、途端に群衆が道の左右に押し寄せる。
「栂井少尉!展示飛行頑張ってねー!」
「ありがとうございます!頑張りますよー!」
ゆっくりと、滑走路に駐機してあるストライカーのもとに向かう2人。周囲の人々は2人の名を半ば叫ぶように呼び、それに反応して返事や笑顔が返って来ようものなら歓声をあげるという、花道を歩くアイドルとそのファンクラブのような図式になっていた。
「ローズキャリー大尉!ファンなんです!」
「あら、そうなの?ありがとう。楽しんでいってね」
「「「キャー!」」」
普段の様子などどこ吹く風といった様子で、屈託のない笑顔を振りまく2人。その度に周囲で歓声が上がり、それがまた新たな人を呼ぶという循環を生み出していた。
「ん?」
「どうしたの、ツガイ」
歩きながら笑顔で人々に手を振っていたレイが突然走り出し、滑走路直前の道のそばに立っていた夫婦らしき男女の前で止まった。眼鏡をかけた男性と、物腰の柔らかそうな女性がレイに気づき、小さく手を振る。
「……やっぱり来てたんだ!お父さん、お母さん!」
「元気そうだね、レイ」
「去年は行けなかったし、どうしても顔が見たくなっちゃって、急いで来たの。そちらの方は?」
お母さんと呼ばれた女性が、フラムに視線を送りながらレイに聞く。
「あ、そうそう。この人は私の部隊の隊長の、フラムちゃ……ごほん。フラムさん。すっごく強いんだよ!」
「初めまして。ご紹介に預かりました、フラム・ローズキャリー大尉です」
「娘がいつもお世話になっています、レイの母です」
「父です」
フラムの敬礼に、頭を下げ返す2人。品格が漂う笑顔のまま、フラムが口を開く。
「普段の栂井少尉の明るい雰囲気には隊全体が助けられていますし、私も以前、彼女の治癒魔法に助けられました。統合戦闘飛行隊という特異な環境で、彼女はよくやってくれていると思います」
「あら、そうでしたか……」
「隊長さんにそう言ってもらえたら、安心だね」
「えへへ。そういえば、お姉ちゃんは来てないの?」
恥ずかしげに頭を掻いたレイが、何気なく言う。その言葉に、穏やかな笑みを浮かべていたレイの両親の目が一瞬だけ宙を泳いだのを、フラムは見逃していなかった。
「ミキは、具合があまり良くないから連れて来なかったよ。風邪を引いちゃったみたいなんだ」
「とっても来たがってたんだけど、『無理して行ってひどくなったら、レイに心配させちゃうから』って」
「そうなんだ……わかった。じゃあ、ゆっくり休むように伝えておいてね」
両親の言葉に気落ちしたようではあるものの、一つ頷いてから自信気な表情を浮かべるレイ。その後ろで、滑走路に駐機してあったストライカーの付近にいた整備兵が走り寄ってくる。
「栂井少尉!ローズキャリー大尉!そろそろお時間です!」
「……いってらっしゃい、レイ。頑張ってね」
「お父さんたちはここでちゃんと見てるから、落ち着いてやるんだよ」
「うん!お父さんもお母さんも、まばたき厳禁だからねっ!」
「では、失礼します」
両親に手を振りながら小走りで去るレイの後を、一言言い残して追うフラム。数人の整備兵が待機している駐機台に着くと、ガガピー、という音と共に滑走路付近にマイクの音が響いた。
『只今より、展示飛行のスタートです!まずは当基地所属のF-15戦闘機2機が離陸を致します。滑走路右手にご注目──』
「……では、まことに残念ですが、次の質問で最後にしたいと思います!どなたかいらっしゃいませんか?」
少女たちの手があまり挙げられなくなったあたりで、司会がさも残念そうな声で切り出す。終了が近いことを感じ、ジャニスとアナは小さく息を吐いた。
「はい、では、ちょうど真ん中あたりのあなた!」
数秒間の沈黙の後、列の真ん中から手が挙げられた。おそらくは小学校低学年くらいの少女が立ち上がり、司会からマイクを受け取る。
「ジャニスさんとアナスタシアさんはどっちがつよいんですか」
少女の舌足らずな質問に、ジャニスが楽しそうな笑顔になる。元から無表情のアナは、なぜか少し口角が上がっていた。
「それは、どっちだろうね?」
「そういえば、まだやってなかったね」
フラムとの戦績で言えば、ジャニスは勝利し、アナは時間切れで引き分けになっているのだが、2人が直接対決したことは未だ無かった。
「うーん……多分、アナの方が強いかな。アナのストライカーのSu-35の方が最高速度は上回ってるし、ネウロイの撃墜数もアナの方が多いから」
「私はジャニスだと思う。ジャニスのF-35も運動性能は良いし、私が撃墜数で勝ってるのは私が先に来てたから」
「いやいやそんな」
「そっちこそ」
ニコニコと笑みを浮かべながら言うジャニスに、そこまでには及ばないものの、微笑を浮かべているアナ。会場にいた誰もが、その笑顔が本心によるものなのだろうと確信していた。それは、互いを引き立て合っている照れ隠しのために浮かべているのだろう、と。
「ふむふむ。対ネウロイ戦闘では、お互いにお互いを認めあっている訳ですね。では、もしお2人が空戦をした場合は、どちらに軍配が上がるのでしょう?」
おそらくやましい気持ちなど一切ない、純粋な疑問から放たれた司会の言葉に、2人の笑みが凍りつく。
「それは……」
「多分」
「「私」だね」
おお、と集団から声が上がる。もはや意味が変わってしまったであろう笑みを浮かべながら、立ち上がって向かい合う2人。
「F-35は、Su-35みたいに推力偏向ノズルに頼らなくても高出力のおかげで高い機動性を誇るし、接近戦でも負ける気はしないけどね」
「Su-35は推力偏向ノズルのおかげで抜群のポストストール機動ができるし、推力も上。接近戦ならこちらの方がもっと有利。ペイロードも多いし、もし戦闘が長引いても問題ない」
「そのポストストール機動を通常のエンジンで上回れるストライカーを私は履いてるんだし、事実フラムにも勝ってるからね」
「純粋にポストストール機動を上回れているわけではないし、それだけで勝負は決まらない。それに、私もフラムには負けてない。勝って傷つけないように逃げてあげただけで、勝とうと思えば勝てた」
「本当かな?大体、曲芸師みたいな動きができたって私に勝てるとは限らないし、帰ってくるたびにエンジンが壊れるようなストライカーなら本当にできるかわかんないよ」
「あれはストライカーのせいじゃない。一瞬だけいい動きができるストライカーを履いていても、勘で勝つような勝ち方じゃ私には勝てない」
バチバチと電撃を飛ばし合うようににらみ合う2人。その静かながらも凄まじい剣幕に、誰一人として喋らなくなり静寂に包まれた格納庫に、離陸するF-15Fの轟音が響く。
本来であれば、質問コーナーは展示飛行と時間がギリギリ被らないようなスケジュールで行われる予定だったのだが、最後の質問に予想外に時間がかかったため、このような事態が起きていた。
「……多分、引き分けかな」
落ち着くために一つ深呼吸をしたジャニスが、呆然と立っていた少女に言った次の瞬間。基地全体に甲高いサイレンが鳴り響いた。間髪を入れずに、2人の耳のインカムが作動する。
『ネウロイが出現しました。数は1、小型です』
「……さっき言ってたの、今度試してみる?」
「へぇ?別に、構わないけど?」
カニンガムの言葉を聞いた後、再び向かい合って視線をぶつけ合うアナとジャニス。
「皆さん、落ち着いてください!慌てずに、その場で待っていてください!」
突然の警報に騒然となった集団に、司会や案内役をしていた一般兵が呼びかける。
『皆様のストライカーは第三格納庫に駐機してあります。お嬢様と栂井少尉の武装は現在搬送中ですので、その場で待機していてください』
『「「了解」」』
『わかった!』
『了解です!』
ジャニスらが居たのは、3つある格納庫の中で一番第三格納庫に遠い第一格納庫だった。招待者の混雑回避のために、質問コーナーとストライカーの装備展示のエリアは離されていたのだ。
「正面から出よう!」
「わかった」
「お2人とも、ご武運を!」
「ありがとー!」
開き始めた格納庫の正面扉へと走る2人の背中に、一般兵たちの声がかけられる。それにジャニスは振り向いて叫び、アナは返事代わりに手を振った。
「悪いけど道開けてー!一番向こうの格納庫まで通してー!」
正面扉から出たジャニスが、走りながら警報で軽いパニックを起こしていた群衆に呼びかける。ウィッチの出現に驚きつつも、緊急事態だという事は理解できているらしく、ジャニスの声で絵画のように群衆の波が真っ二つに割れ、道が出来ていく。
「先に行く」
アナが短く言い残し、走る速度を上げる。人波が開けていくのとほぼ同速ながら、ぶつからないように走るアナの背中を追い、ジャニスも格納庫へと急いだ。
「まさか、こんな時にネウロイが来るなんて……」
「仕方ないわよ、ネウロイがこっちの事情なんて考えてくれるはずないんだから」
バイザーを額に固定し、位置を調整するフラム。レイもそれに効い、準備を進める。
「大尉!ミサイルの搭載、完了しました!」
「ありがとう」
「こっちも飛べますよ、少尉!」
「ありがとうございます!」
互いにストライカーの整備兵に感謝を述べ、ストライカーに脚を入れる2人。レイの頭と腰には赤毛のドーベルマンの耳と尾が、フラムの頭と腰には白いペルシャ猫の耳と尾が生える。
「それじゃあ、行くわよ」
「はーい!」
2人が顔を見合わせて言い、正面に伸びていく滑走路の方に向き直る。F-15の轟音には劣るものの、甲高いストライカーのエンジン音が徐々に高まり、給弾パックを背負った2人の足元に青く巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「フラム・ローズキャリー!」
DEFA791を持ったフラムと、
「栂井レイ!」
FM61M3を持ったレイが少し遅れて言い、
「「出撃!」」
同時に叫んだ。
群衆の歓声を浴びながら長い滑走路を滑るように進み、2人がふわりと浮く。そのまま上昇を続け、先に上空で待機していたジャニスたちと合流し、隊列を組む。
「みんな!ネウロイに、今日来たことを後悔させてやるわよ!」
先頭を飛んでいたフラムが振り向いて言い、全員が勢いよく返す。
「「「「了解!」」」」
その後の調査によって、この年の「千歳基地広報の日」イベントは、それはそれは好評だったということが判明した。
本来の千歳基地広報の日はもっと規模が小さいイベントのようなのですが、お祭りっぽくしたかったので半分航空祭みたいな雰囲気にしてしまいました
僕は札幌市民なので参加できないのが残念です