SW2020 スペリオルウィッチーズ   作:グリーンベル

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気づけばもう10話でした
最近のアニメ的にとりあえず2クール分、24話ぐらいは続けたいと思います
クール刻みでいくか10話刻みでいくか迷っているところですが、制作の状況によって決めるつもりです


第10話 ブリーフィング

「いやー、暑くなったねぇ」

「これで夏は2回目だけど、本当にあれだけ雪が降ってた所と同じとは思えないね」

窓を開け放った部屋で、ジャニスと游隼が話す。微かに流れ込んでくるそよ風が、レースカーテンを揺らしていた。北海道は、暴力的なまでの自然が残した雪がすっかり溶け、木々が青さを取り戻す7月を迎えていた。

「今年は例年より気温が高くなってるみたいですけど、今日はそんなに暑くないですね」

「そうね。涼しくて過ごしやすいわ」

ほうじ茶と紅茶を飲みながら話す、レイとフラム。普段は調子の合わない二人だが、快適な環境では穏やかでいられるのだろう。

「こんなに涼しくて気持ちいいのに……スリャーノフ大尉は随分暑がりみたいね?」

「……うるさいな」

そんな4人を尻目に、窓際の椅子に腰掛け、ブックカバーの付いた本を読んでいたアナが、フラムの声に反応して怠そうに顔を上げた。春先まで着ていたコートは無く、その返事の声色も、普段漂っている余裕のないどこか棘のある返しになっていた。

「……話すのもだるい。部屋に戻ってる」

「おや、皆さんお揃いでしたか。良かった……どうしました、大尉?」

アナが苛立ちを隠さないで立ち上がったのと同時に、資料らしき紙束を抱えたカニンガムが部屋に入ってきた。その様子で何かを察したのか、溜息を吐きながら座るアナ。

「……なんでもない」

「そうですか。では、説明をさせていただきますね」

「そんなに一杯資料があるってことは、かなり重要なお話みたいですね。持ちましょうか?」

すたすたとカニンガムの所まで赴き、自然な手付きでその重量物を持ち上げるレイ。しかし持ち上げたのは紙束ではなく、

「栂井少尉、それは書類ではありません」

「ですよね〜」

……カニンガムの豊満な胸だった。

冷静極まりないカニンガムにぺこりと頭を下げ、元いたフラムの隣に座るレイ。

「それに、書類を持ってもらっても読みにくいだけですから」

「それもその通りですね。どうぞ、続けてください」

その一連のレイの行動を、まるでUFOかUMAを目の当たりにしたかのような、信じられないものを見る目でフラムが見ていた。

「今日は何も言わないんだ、お嬢様」

「多分、とんでもなく呆れてて何も言えないんだと思うよ……」

横からそれを見ていたジャニスと游隼が話して茶々を入れたところで、アナが痺れを切らしたように咳払いを一つし、4人がやっと静かになった。

「では手短に。……7月25日の午前10時、とある方々が東京を訪問されます。我々第201統合戦闘飛行隊は、その一団の護衛任務を命じられました。正確には、護衛任務の引き継ぎですが」

「25日っていうと、ちょうど一週間後ですね」

「訪問ってことは、その『とある方々』ってどっかの政府の高官サマ達とかだったりする?」

レイとジャニスの言葉に、ゆっくりと首肯を返すカニンガム。それを見て、4人の間にざわつきが広がった。

「流石の察しの良さですね。……来週東京を訪問されるのは、清の(ちょう)国家主席です」

「ふーん……え、それ本当!?嘘でしょ、マジ!?本当に!?」

游隼が椅子から勢いよく立ち上がり、興奮した様子でカニンガムに詰め寄る。むくれていたアナも、多少は驚いたようだった。

「本当です。我々が護衛をする事は少し前から決まっていましたが、趙主席から直々に皆さんに秘密にしておくように、というご命令が下されていたので、このタイミングで伝えたんですよ」

鼻息荒く詰め寄ってきた游隼を、少しも気に留めていないカニンガムの言葉に、ジャニスが口笛を鳴らす。

「そういう噂は何度か聞いてたけど、結構お茶目な人みたいだね」

「国家主席っていうと、リベリオンでいう大統領みたいなものですよね?そんな人の護衛かぁ……緊張しそうだなぁ」

「まあ、妥当なところかしら。わざわざ私を呼ぶくらいだもの、それくらいの大物じゃないと吊り合わないわ!」

何かしらの期待に目を輝かせているレイの横で、まるで選ばれたのが必然であったかのように言い放つフラム。それを聞き、ジャニスが「呼ばれたのは部隊全体だけどね」と小声で言った。

「続けます。趙国家主席の一行と取材班の方々は、政府専用機のB-747-400の2機に分かれて北京国際空港を出発し、扶桑海の中間付近のある地点まで清のウィッチ部隊の護衛を受けます。その地点を過ぎたところで清の部隊は離脱し、2機の護衛を目的地である羽田空港まで我々が引き継ぐという任務です」

「どっちに国家主席が乗ってるかっていうのは、流石に教えてくれるよね?」

「はい。2機は同時に出発しますが、針路変更の問題により前後に並んで飛行することになります。先を飛ぶのがA機、その後ろを着いていくのがB機として、趙氏の一行が乗っているのはA機です」

カニンガムの言葉を聞き、「護衛対象がどっちに乗ってるかわからないなんて、堪ったもんじゃないからね」と胸を撫で下ろすジャニス。

「また、我々も3日後に石川県の小松空軍基地に向かいます。事前準備と、小松基地の護衛戦闘機部隊との打ち合わせの為です」

「それもそっか。まさかここから飛んで行くって訳にもいかないし、何かあった時に向こうの戦闘機と息が合わなかったら大変なことになるよね」

カニンガムの話を聞いていて多少冷静になったのか、普段通りの口調で游隼が言った。

「じゃあ、こっちはどう分けるんですか?Aに3人、Bに2人がバランスいいと思いますけど」

「両機には清のウィッチが3人と小松のF-15が3機ずつ付くとのことですが、A機には栂井少尉と李大尉の2人が付いて貰うことが決定しています。護衛を引き継いだ後に万が一趙氏の身に危険があれば、国際問題沙汰でしょうし」

「『扶桑空軍は旅客機の1機や2機も守れないのか!』『何の為の統合戦闘飛行隊だ!』って感じのバッシングは飛んでくるだろうね。責任重大だよ〜?」

うりうり〜と隣に座る游隼を肘で突くジャニス。最悪の事態を想像してしまったようで、游隼の顔からさっと血の気が引いていく。

「そんな不安になるようなこと言っちゃダメですよ!やる前から失敗した時のこと考えてても、緊張して上手くいかなくなるだけです!」

「くぅ……レイは良い子だね……泣けてくるよ」

「えへへ……」

よしよしと游隼に頭を撫でられ、くすぐったそうに笑うレイ。それを無視するかのように、アナが口を開く。

「で、Aにはもう1人誰が付くの?」

「そんなのこの私がやるに決まってるじゃない!他に誰か適任がいるの?」

勢いよく机に手をついて立ち上がり、フラムが言う。普段であれば異論の一つでも飛んできそうなものだったが、周囲はシンとしていた。

「異議なーし」

「まあ、順当に行けばそうなるか。戦闘隊長だし」

「ではお嬢様、決定ということでよろしいですか?」

「えっ……え、ええ!任せなさい!ネウロイが来ても叩き落としてやるわ!」

やけにあっさりと決まったことに拍子抜けしたのか、一瞬フラムも戸惑ったようだったが、すぐに胸を張り、いつも通りの勝ち誇った表情に戻った。

「では、ボイド中尉とスリャーノフ大尉には、B機に付いて頂きます。最後になりますが、この護衛任務中、お互いの名前を呼ぶのは極力避けるようにして下さい」

「え?なんでですか?」

一本調子のカニンガムの言葉に、きょとんとした表情でレイが問う。

「……安全上の観点から、現状で伝えられる理由はこれだけです。申し訳ありませんが」

「そう、ですか……」

その問いに、相変わらず極めて冷静な声色で答えるカニンガム。レイもそれ以上の答えが返ってくることはないだろうと感じたのか、押し黙った。

「でも、それならどうやって呼び合うことにするの?私TACネームとか無いし、みんなもそうなんでしょ?」

カニンガムの言いたいこともわかるんだけどさ、と話すジャニス。5人がうなだれる。

「無いんだったら、今から付けるとか?」

ぽつりと零したアナの一言に、全員が同時に振り向く。その若干の異様さに、少したじろぐアナ。

「……一つの案として、だよ。あくまで」

「いや、いーじゃん!ナイスアイデアだよ!付けようよこれから!」

「そうですね。特段困ることでもありませんし」

だよね?とジャニスが4人に呼びかけ、賛同するカニンガム。真っ先に予想外の人物が賛同したことで、本気なのか……とアナが複雑な顔になる。

「ここにはレイ、私、フラム、カニンガム、アナ、ジャニスの順番で来たから、レイが一番先輩か。順番に付けてく?」

「そうしよう。私は最後だし、レイのだね……うーん、と、そうだ、『ヘムロック』ってどう?栂の木って意味だから、ピッタリじゃない?」

数秒ほど考え、ジャニスが言う。しかし、それを聞いた当の「ヘムロック」は、絶妙に苦い顔を浮かべる。

「うーん……なんか響きが格好悪くないですか?意味はいいと思うんですけど、もう少しビシッとしたのがいいなぁ」

「えー、そう?案外イイと思うんだけどな……」

レイの意見に、隣の游隼が横槍を入れる。

「むしろどんなのが『ビシッとしたの』なの?響きが大事なら、ゴクウとかは?」

「えーっと……ちょっと、それは遠慮しておきたいですかね……」

「まあ、確かに……響きとか以前に、ゴクウはちょっとどうかと思うよね」

「ヘムロック」にされた時よりも苦々しい笑いを浮かべるレイに、思案顔だったジャニスが同意を返す。

「え、待って待って!なんでゴクウがダメみたいな雰囲気!?西遊記の主人公だよ?バッチリだと思ったから勧めたのに!いいよ!私はゴクウで!」

「TACネーム『ゴクウ』ですね。記録しておきます」

游隼が若干ムキになって言い、カニンガムもすらすらと手元の紙にメモを取る。

「本当に決まっちゃった……うーん、ヘムロックは駄目だったかぁ……なら、『ジーク』とかどう?」

「あ、それはかっこいいですね。それで!」

「はやっ!」

パチパチと手を叩き、あっさりと自分のTACネームを歓迎するレイ。そのあまりの即断即決さに、ジャニスは困惑の表情を浮かべる。

「『ジーク』ですね」

「じゃあ、次はフラムのだね。どんなのがいい?」

「そうね……センスがあって、響きが良くて、ちゃんと意味があるやつにしなさい!」

「多いし、全体的にアバウトだよ……うーん」

フラムの無茶振りに、困り顔を浮かべる游隼。

(「『フレイム』とかだったら安直すぎるし、かといって適当な単語でも納得してくれないだろうし……」)

「ほら、早く決めなさい。こんな機会、今後二度とないわよ?」

「……じゃあ、『ヴァリアント』とかどうかな。あんまり派手にし過ぎて、隊長だってバレちゃうかもしれないのは不味いでしょ?」

「それは……一理あるわね。うん、それで良いことにしてあげる。ローランとかアーサーなんて言い出してたら承知しなかったけどね」

「はは……別に、主人公のだからゴクウにした訳じゃないけどね!?」

「『ヴァリアント』……勇敢、気高さ、ですか。お嬢様によく合っていらっしゃいますよ」

「そうかしら?」

ふふんと誇らしげに胸を張るフラムを見て、安堵の溜息をつく游隼。

「次は、カニンガムのね」

「私のですか?」

フラムの提案に、カニンガムが若干の驚きを含んだ声で聞き返す。

「そうよ。もし呼ぶべき時に無かったら、困るじゃない。そんな時に迷って、時間を無駄にしてられないわ」

「仰る通りでございます。では、お願いします」

「うーん……そうだ、『シーカー』よ!これなら、短いけどちゃんとカニンガ厶だってわかるでしょ?」

「まんまじゃん」と言うジャニスだったが、フラムがキッと睥睨したことで、すぐに口を閉じた。

「ええ。簡潔で明瞭、誰かすぐに判断ができる。TACネームに必要な要素を満たせていますね」

「そうでしょう?ほーら、どう?ボイド。カニンガムもこう言ってるわよ」

「ま、本人がオッケーなら構わないけどさ。本名じゃなきゃ大体なんでもいい訳だし」

自慢げに自分を見つめるフラムに、若干投げやり気味に返すジャニス。それを負け惜しみのように受け取ったのか、フラムは嬉しそうに笑った。

「カニンガム、次は私の」

「スリャーノフ大尉もですか?」

これまた意外という風に、カニンガムが聞き返す。一刻も早く部屋に行きたいのか、アナの声には焦りの色が浮かんでいるようだった。

「適当なやつでいいよ、凝ったのじゃなくても」

「そうですね……いささか安直な気もしますが、『アイシクル』でどうですか」

「それでいい。記録しておいて」

「了解です」

「さぁーて、最後は私だね!ワクワクする〜!アナ、思いついた?」

「今考え中」

今にも部屋の中を跳ね回りそうな様子のジャニスの言葉に、言われなくてもわかってるとでもいうように返すアナ。だが、良い単語選びに難航しているようで、珍しく眉根にしわを寄せていた。

「カッコ良さげなら、大体なんでもいいよ?神様の名前とか、一般名詞とかでもね!」

「……本当になんでもいい?」

「うん!響きだけとかでもいいよ!」

「よし、決めた」

何か閃いたようで、しかめ面が不敵な微笑みに変化する。アナにしては珍しくコロコロと表情が変わるため、ジャニスも含めた周囲の全員が固唾を飲んで命名を待っていた。

「……『マーヴェリック』、でいい?」

一瞬だけ、その名に驚いていたジャニスだったが、すぐに顔一杯にスマイルを浮かべ、しっかりと頷き、言った。

「もっちろん!」

右手のサムズアップ付きで。




はい、というわけでこの回を書いた時期がバレそうな終わり方です
次回、そしてその次はこれまでで最大の山場となるであろう話ですので、お楽しみにしていてください
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